ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
うちの学校にはモンスターがいるんだ。性善説に基づく閉鎖された空間に、一見好青年の貌をしたIQの高い殺人鬼が放たれていた。夏休みのある一日、文化祭準備のために2年4組だけが学校に集まる。それは戦慄の夜の始まりだった……。2010年のミステリー界に旋風を巻き起こした上下巻の超弩級エンターテインメントが、1冊のノベルスとなって再登場。本編の過去と未来にあたる、単行本未収録の掌編2篇も収録。著者の別の一面もお楽しみください。(SY)
(文藝春秋社公式HPより)
<感想>
2011年(2010年)度ミステリ書籍ランキングを席巻し、第1回山田風太郎賞を受賞した作品です。
・2011年ミステリ書籍ランキングまとめ!!
・第1回山田風太郎賞受賞作決まる!!栄冠は貴志祐介先生に
もう凄いです。
単行本版だと上巻1冊が登場人物についての解説に充てられ、蓮実の脅威についても語られます。
ここで読者がある程度、登場人物を理解したところで下巻の大量虐殺が始まります。
読んでて寒気がしました。
ともかく蓮実が淡々と作業のように人を殺して行きます。
しかも、自身の生徒をです。
「日本野鳥の会もかくや」というほどのカウンター回しも恐怖を煽る。
そして、ノベルス版に収録された短編のうち、後日談は脱力系のギャグというのがまた落差を……。
ネタバレあらすじについてはまとめ易いように改変(蓮実の両親や海外時代を省略など)しているので、是非、本作を読んでみては。
<ネタバレあらすじ>
生徒からの絶大な人気を誇り、職員室やPTAの間でも信頼の厚い教師・蓮実聖司。
だがそんな彼の正体は、決定的に他者への共感能力に欠けた反社会性人格障害(サイコパス)だった。
彼は過去にも自身の障害となる人物を文字通り抹殺してきた。
そんな蓮実は、今度こそ学園内に自身の王国を築こうと目論む。
体育教師・柴原から万引きをネタに脅迫され関係を迫られていた美彌。
そんな美彌を助けたことから、彼女の信頼を得た蓮実は関係を持つことに。
こうして、蓮実の王国はまた一歩完成に近付いた。
一方で、自身と学生の人気を2分する真田俊平を酒気帯び運転による事故に見せかけ免職に追い込む。
そんな折、校内に仕掛けた盗聴器から大規模カンニングについて情報を得た蓮実はこれを阻止する方向に動く。
だが、これが躓きの始まりであった。
大規模カンニングの首謀者・早水圭介に盗聴器の存在を気取られたのだ。
しかも、その仲間である片桐怜花と夏越雄一郎にもこの情報は共有された。
彼らは蓮実への不信感を募らせて行き、遂に蓮実の過去に行き当たる。
蓮実は前の学校で同じように彼の正体に行き当たった女子生徒・園部祥子たちを口封じに殺害していたのだ。
だが、蓮実の犯行である証拠はない。
しかも、数学教師・釣井正信にまで真実に迫られた為にこれを殺害する羽目に。
蓮実は自身の周囲に釣井以外の何者かが迫っていることを感じざるを得なかった。
警戒し始めた蓮実。
そんな蓮実に気付いた早水。
早水は蓮実の証拠を押さえて司法に突き出そうと考える。
ところが、早水が協力を仰いだ相手が悪かった。
保健室の田浦潤子である。
実は、田浦は早水と関係していたが、蓮実とも関係していたのだ。
つまり、情報は筒抜けであった。
蓮実の正体を知らない田浦は聞かれるままに早水の情報を流してしまう。
こうして、早水も蓮実の罠にかかり殺害されてしまう。
しかし、早水は最後まで怜花と雄一郎の関与を明かさなかった。
これが後ほど蓮実を追い込むこととなった。
早水の死体を山中に遺棄した蓮実。
幸い夏休み中であった。
あとはアリバイ作りにと早水の携帯電話を用い怜花にメールを送る。
ところが、この現場を美彌に目撃されてしまった。
その場は誤魔化す蓮実だが、もしも、早水が行方不明であることを美彌が知れば不審に思うに違いない。
困った蓮実はあっさりと美彌殺害を決意、実行に移す。
文化祭の準備で2年4組のみが登校している日を狙い美彌を屋上に呼び出すと、地面へと放り投げたのだ。
さて、これで大丈夫と一安心しかけた蓮実だったが、美彌と屋上に居たことをクラスの情報通である永井あゆみに目撃されてしまう。
このままではマズイ。
蓮実は咄嗟に彼女を殺害してしまう。
確かにその場は凌げた。
だが、冷静になれば今が如何にマズイ状況か蓮実に見えて来た。
死体が2つに増えたのだ。
さらに、状況確認で4組に仕掛けた盗聴器を使ったところ、クラス内に早水の失踪を疑問視し蓮実を疑う人間が居ることが分かった。
しかも、複数(怜花と雄一郎)である。
これでは、仮に死体を隠し果せたとしても、蓮実に不審の目が向くのは時間の問題であった。
いっそ、全員の口を塞いでしまえれば……。
遂に蓮実は常人では思いもよらないような解決法を選ぶ。
木を隠すには森の中、死体を隠すには死体の山の中である。
校内への侵入者による大量殺戮事件を演出し、その中に事件を紛れ込ませることにしたのだ。
同時に口封じも出来る、蓮実にとって一石二鳥の妙案であった。
こうして、2年4組の生徒たちは蓮実に狩られることとなった。
本性を露わにした蓮実は容赦が無い。
カウンターと銃を手に淡々と事務的に作業をこなしていく。
「モリタート」を口笛で吹きながら時に激しく、時に歓喜の中で生徒を殺害する蓮実。
ある者は蓮実を信じたまま、ある者は裏切られた絶望の中、生徒は1人、また1人と死亡していく。
屋上へと逃げた者も鍵のかかった扉を呪いつつ絶望し射殺された。
罠を仕掛けた者も、驚異的な蓮実の勘で回避され、殺害された。
仲間を助けようとAEDを持ち出しながらも、蓮実の裏切りを知らずに死んでいく生徒もあった。
囮になった者はもちろん、その隙に死体の中に紛れた田尻幸夫も発見され殺害された。
残された生徒たちは小さなグループに別れた。
秀才を自負する渡会健吾をリーダーとするグループは脱出路を求め階下へと逃れた。
怜花と雄一郎は下へ行けば蓮実の罠があると考え逆に屋上へ。
前島雅彦や高木翔たちはその場に居残った。
それぞれの選択結果はすぐに現れた。
生存競争に狡猾であった筈の渡会たちのグループは待ち構えていた蓮実の罠にかかり、全滅した。
屋上へと逃れた怜花たちは鍵がかかっている屋上への扉の前で多数の死体を発見する。
追い詰められた雄一郎は避難用シューターを使用することを考える。
難色を示す怜花だが、雄一郎には秘策があった。
何の気なく狩りを続ける蓮実はふとシューターが下りていることに気付く。
余りに大胆過ぎて見逃していたのだ。
慌てて駆け付けた蓮実は降下してきた怜花と雄一郎と思われる影に発砲。
確かに殺害したことを確認し、カウンターを動かす。
いよいよ、残るは教室に立て籠もる数人である。
そんな中、アーチェリー部の高木はヤラレル前にヤルべく弓を手に蓮実に挑みかかる。
だが、弓は一度外すと装填に時間がかかる弱点があった。
こうして、高木も蓮実の手にかかった。
ラストスパートにかかる蓮実。
ところが、相手を甘く見たのは誤算であった。
電器屋の息子・中村尚志が遺したエレキギターを利用した感電死の罠が張られていたのだ。
蓮実は感電してしまう。
ギターの罠は蓮実を殺したかに見えた。
しかし、蓮実は気絶しながらもまだ生きていた。
指紋を残さないように嵌めていた手袋が絶縁体となり感電死を免れたのだ。
此処で蓮実を殺害するべきだったが、止めを刺せなかった為に前島たち最後の生徒2人の命も絶たれた。
蓮実の手中のカウンターが音をたて、2年4組の生徒の数と同じ数を示した。
こうして、目的を達成した蓮実。
これからは、哀れな犠牲の羊の時間である。
そう、蓮実に代わり罪を被る人間が必要なのだ。
その贄に選ばれたのは、久米。
久米は愛する前島が蓮実に殺されたことを聞かされ気絶、そのまま殺害された。
前島と愛し合っていた久米が世を儚んで大量殺人の末に自殺したとのシナリオである。
生徒全員を抹殺し終えた蓮実は、警察の到来に合わせて拘束された哀れな被害者の偽装を自らの身に施す。
それは奏功するかに思われたが……。
蓮実の計画は思わぬところで齟齬を来す。
抹殺した筈の生徒に生存者が居たのだ。
片桐怜花と夏越雄一郎の2人である。
2人は避難用のシューターを利用しなかったのだ!!
蓮実の先回りを見越した2人は、服を着替えさせた死体を身代わりに落下させたのだ。
ところが、蓮実は相手の確認をせずに発砲し、死亡だけを確かめてカウンターを進めた。
この為に2人を見逃していた。
生き証人の登場に流石の蓮実もこれまでか、と思われたが……。
ところが、どんなに告発されようとも「(怜花たちが)精神的に混乱しているようだ」と言い逃れる。
具体的な物証に欠ける怜花たちの告発は此処に潰えたように見えた。
しかし、天は蓮実を許さなかった。
いや、蓮実に殺された生徒たちがと言うべきだろうか。
蓮実の被害に遭った生徒を救おうとAEDを使用していた者がいた。
AEDには使用時に周囲の音を記録する録音機能が備わっていたのである。
これに犯行の一部始終を録音されていた蓮実はその場で緊急逮捕される。
生き残った生徒は3人のみ……怜花と雄一郎以外に、美彌も助かっていたのだ。
だが、蓮実に裏切られた美彌の心の傷は深く誰とも関わろうとしなくなってしまった。
こうして、関係者の多くに傷を残しつつ悲劇の夜は終わりを迎えた……筈だった。
しかし、蓮実のゲームは終わっていなかった。
蓮実は心神喪失を訴えたのだ。
これに呼応し一大弁護団が結成、蓮実を護る。
蓮実は新たなステージでのゲームを開始した。
怜花たちはこのゲームの行方を固唾を飲んで見守っている。
もしも、蓮実がこのゲームに勝てばいつかどこかで彼に殺される……そんな予感を抱いていたからである。
そして、ゲームの去就は未だ定まっていない―――エンド。
【収録短編】
本作より数日後、とある開店前のデパートに1人の外国人男性が立っていた。
まさか、あの教師と同じような人間なのか……身構える警備員に彼は尋ねる。
「アクノ、キョウ、テン?(開くの、今日、十?)」―――エンド。
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