2012年06月29日

『罪人の選択』(貴志祐介著、文藝春秋社刊『別冊 文芸春秋 2012年7月号』)

『罪人の選択』(貴志祐介著、文藝春秋社刊『別冊 文芸春秋 2012年7月号』)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

焼酎瓶と缶詰。どちらかに毒が入っている。十八年の時を経て再びこの選択が
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

佐久間茂、浅井正太郎、磯部武雄の親世代と黒田、満子による子世代の物語が錯綜するストーリー。
置かれた状況はどちらも同じであり、1人の罪人が処刑人の前である選択を迫られると言うもの。
この選択が「缶詰か一升瓶かどちらかを選べ」。果たして、結末は―――。

二転三転する展開が見事、あの結末も圧巻です。
それに絡めて黒田への満子の想いが垣間見える点も素晴らしい。
満子は黒田を殺そうとしつつも、助けたい気持ちも残っていたことが分かります。
どこかで一度愛した男性を信じていたのでしょう。

磯部の結末、黒田の結末。
果たして「罪人の選択」の行方は!?
是非、読んで貰いたい短編です。

<ネタバレあらすじ>

とある防空壕にて、磯部武雄は窮地に陥っていた。
目の前には銃を構えた佐久間茂、その横には浅井正太郎がきっと自分を見据えている。
佐久間は帰還兵、浅井は愚連隊、共に幼馴染であった。
だが今、彼らは磯部を殺そうとしている。

理由は簡単だ。
脚が不自由ということで内地に残った磯部が、戦争に出向いた佐久間の留守中にその妻と密通した為だ。
佐久間は、磯部が生活に困った妻子を助けると称して関係を迫ったと思っていた。
事実はそうであったが、だからといって最初からまるきり善意が無かったワケでも無い。
磯部は必死に佐久間へ命乞いを行うことに。

これが功を奏したか、佐久間はある提案を磯部に行う。
ある選択を乗り越えたら生かしてやると言うのだ。
その選択とは「目の前に出された缶詰か一升瓶の酒かどちらかを選び、それを口にすること」。
このどちらかには毒が入っており、罪人は毒入りを選ぶことになるらしい。
佐久間はヒントとして「家族に食事を提供したことは恩だ。だが、俺を偽ったことは罪だ」と口にする。
事態の見届け人となった浅井は「こりゃ、簡単だな」と呟くのだが、磯部には皆目分からない。
食事を提供したことが恩ならば「缶詰」が助かる道で「一升瓶の酒」が毒なのだろうか……。

それから18年後、同じ防空壕で磯部と同じ選択を強いられている者がいた。
その男の名は黒田、浅井正太郎の息子である。
その目の前には、あの時の佐久間のようにその娘・満子が銃を手に立ちはだかっている。

黒田は一代で財を為した佐久間の資産に目がくらみ満子を口説きモノにした。
ところが、満子の異父妹・史子の美貌に惹かれ手を出してしまい、結果、自殺に追い込んでしまったのだ。
実は、満子は磯部の子供、史子は佐久間の子供であった。
佐久間は磯部亡き後に磯部の家族の面倒を見て、そのまま磯部の妻と出来てしまったのだ。
満子は血の繋がりの無い父や、異父妹を可愛がっており、自身を裏切っただけでなく大切な者を奪った黒田に復讐しているのであった。

そんな黒田の目の前にもあの時と同様に「缶詰」と「一升瓶の酒」が。
満子によれば、佐久間の使用したものと寸分違わぬものらしい。
黒田は生き延びる為に必死に頭を捻る。
そんな黒田に満子は「18年の歳月は憎しみを忘れさせる、代わりに新たな憎しみも生む」と謎のヒントを教えるのだった。

磯部は必死に考えていた。
缶詰は密閉されている、毒を注入する余地はない。
だが、一升瓶は蓋を開ければすぐにでも毒を入れられる。元に戻すことも容易だ。
毒は一升瓶の酒の筈だ。だが、佐久間の怒りはそんなに簡単な物なのだろうか?
おかしい、絶対におかしい。
そんな磯部の目が缶詰に書かれたある文字を捉える、そこには「フグ」と書かれていた。
この缶詰、実は佐久間一家による自家製であった。
つまり、処理方法は佐久間に委ねられていたのだ。
遂には、両方共が毒ではないかとまで疑い出す磯部。
磯部は佐久間から情報を引き出そうと語りかける―――。

一方、黒田も必死だった。
満子のヒントはワケが分からない。
だが、18年前の磯部には無く、黒田にはあるアドバンテージがあった。
黒田の視界の端には白骨化した磯部の死体があった。
磯部は選択を失敗したのだ。
つまり、黒田は磯部の選ばなかったと思われる方を選べば良いのだ。

一升瓶に注目する黒田。
中の酒はちょうどコップ一杯分が減っている。
そして、磯部の死体の傍には割れたコップと思われる破片があった。
磯部は酒を選んで死んだのだ。
黒田はこれらが満子の罠ではないと確信すると遂に結論を出した……。

磯部は佐久間との会話から「彼が致死量を把握していない」と考えた。
つまり、毒は投入されたものではなく、自然発生的に任せたモノに違いない。
遂に磯部は決断した。
彼が選んだのは一升瓶の酒であった。

コップに酒を注ぎ、飲み干す磯部。
と、その前では浅井が缶詰を頬張っていた。
呆気にとられる磯部に佐久間は語る。
「やっぱり、駄目だったか……恩と言えば食事なんだから缶詰だろうに」
そのまま磯部は死の眠りについた。

黒田は缶詰を選んだ。
「あなたはそれを選ばないと思ったのに……」満子は黒田の行動に驚きを隠せない。
そのまま黒田は缶詰を完食すると、防空壕の外へと走り出た。
身体に異常はない、黒田は勝ったのだ!!

1人、防空壕に残された満子。
「まだ未練があったのね……」
そう呟くと残った一升瓶の酒を飲み干した。

数十年が過ぎた現在、あの防空壕で死体が発見された。
担当刑事は死体が死後数十年を経過していることから時効と判断した。
そんな刑事に後輩が語りかける。
「中で採取された指紋ですが、黒田という男の物のようです。この男は既に死亡しています。なんでも奇妙な急死だったようですね」

再び、黒田。
あれから24時間が経過していた。
と、突然、黒田の身体を変調が襲う。
黒田はそのまま急死した。

同時刻、満子は生きていた。
満子は思う―――18年の歳月は憎しみを消し、新たな憎しみを生んだ、と。

18年の歳月により、一升瓶に投じられた毒は分解され無害化していた。
逆に、フグの缶詰内では菌が繁殖し、有毒化していたのである―――エンド。

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