2012年07月10日

『死人宿(ザ・ベストミステリーズ2012収録)』(米澤穂信著、講談社刊)

『死人宿(ザ・ベストミステリーズ2012収録)』(米澤穂信著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

2011年度短編ミステリー第1位、湊かなえ「望郷、海の星」を含むベスト13作品を収録!

2011年に国内で発表されたすべての短編ミステリから日本推理作家協会が選び抜いた珠玉の13作。
日本推理作家協会唯一の公式短編ミステリ選集!

「望郷、海の星」――湊かなえ
「三階に止まる」――石持浅海
「ダークルーム」――近藤史恵
「超越数トッカータ」――杉井光
「言うな地蔵」――大門剛明
「新陰流“月影”」――高井忍
「原罪SHOW」――長江俊和
「オンブタイ」――長岡弘樹
「現場の見取り図 大べし見警部の事件簿」――深水黎一郎
「足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)」――三上延
「この手500万」――両角長彦
「死人宿」――米澤穂信
「残響ばよえーん」――詠坂雄二

巻末に佳多山大地氏による『推理小説・二〇一一年』、さらに推理小説関係の受賞作を網羅した「受賞リスト」を掲載。
ミステリファン必読必携、完全保存版の一冊!
(講談社公式HPより)


<感想>

「古典部シリーズ」のアニメ化作品である『氷菓』が好評放送中の米澤穂信先生。
そんな先生の別の魅力が窺える短編です。

本作の主人公は「情よりも合理性を重視する人物」。
どちらかと言えば、「古典部シリーズ」の折木奉太郎がこれに近いか。
ある意味、大人になった折木が味わった苦痛の物語とも言えそう。

それにしても、本作はかなりブラック。
漸く主人公が情を解し始めた途端に、その鼻先に無力感を突き付けるが如くあの出来事が起こる。
これまでの彼ならば意にも介さないでしょうが、人間性の変わりつつあった彼にとってはこれは痛手だったでしょう。
ひょっとすると、ショックで元に戻ってしまうかもしれない。

さらに、意外と業務然とした態度をとる佐和子。
それに「死人宿」と呼ばれる旅館。
併せて考えると複雑な気持ちになりますね……。

<あらすじネタバレ>

私は過去に交際し別れた相手・佐和子を追って、山中の旅館を訪れた。
佐和子は叔父が経営する旅館の後継ぎとなっていたのだ。

佐和子に会った私は謝罪する。
過去の私は、合理性を追求するあまり自身以外への配慮を欠いていた。
そんな私の態度が佐和子を遠ざけたのは明らかであった。

私の謝罪を聞いた佐和子は本当に私が変わったのかどうか試して来る。
佐和子が後を継いだ旅館は地元で「死人宿」と呼ばれて有名であった。
自殺者が多発しており、それがまた評判を呼び、自殺志願者が訪れていたのだ。
彼らは「最後の晩餐」とばかりに大金を宿に落とす。
そして、迷惑料を支払う者も居た。
この収益が宿の大きな収入源となっているらしい。

そして、佐和子によればまたも自殺志願者がやって来ているそうだ。
何でも、公共スペースで遺書らしき物が発見されたのだ。
誰かが落としたものだろう。

これ以上の自殺者を出したくないと語る佐和子は、遺書の主と思われる人物を3人の客の中から見つけて欲しいと依頼する。
困惑しつつも、この依頼に挑むことに。

それぞれの客にそれとなく当たってみるが、誰もが怪しい。
結局、悪戯ではないかと考え始めた私はそのことを佐和子に伝える。
だが、佐和子からは「あなたはやっぱり変わらないのね」と呟かれてしまう。

これに奮起した私は残された唯一の手掛かり……遺書と思われる手紙に注目する。
書き手の意図を見抜くべく、文面から正体に迫る私。
其処に書かれた「2年」との言葉に「自殺でも保険金が下りるまで待っていた」と推理。
つまり、この遺書の主にとっては死亡する日付が重要な筈である。
にも関わらず、遺書には具体的な日付が記載されていない。
そこで、この遺書は全体の1枚に過ぎないと結論付ける。

其処からふと、風呂場での光景を思い出した私。
実は、風呂場にて手紙らしきものが流されていた現場を目撃していたのだ。
つまり、遺書の主はこの1枚を残し、遺書を破棄しようとしていたことになる。
おそらく書き損じたに違いない。

私はこの推理に行き当たると、書き損じと言えど署名が為されている筈と、風呂場から流れ出た残りを追う。
夜の闇の中を必死に駆け抜け、遂に回収したソレには「丸田」と記されていた。

佐和子に事情を伝えた私。
佐和子の説得で、3人の1人・丸田は決行を思い留まることとなった。

翌朝、私は佐和子から「あなたは変わったのね」と告げられる。
人を助けられたことに、胸を撫で下ろす私だったが、その後ろでタンカが運び込まれていた。
そして、聞こえて来る言葉。

「くそっ、また儲けやがってこの宿は!!」
救急隊員らしき人物のその罵りに驚く私に佐和子は寂しげに言葉を紡ぐ。

「そうなの、丸田さんは止められたんだけど……他にも居たみたい。気にしないで、出来ることには限りがあるわ」
諦めた様子で溜息を吐く彼女―――エンド。

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