2012年07月14日

『ミステリなふたり』(太田忠司著、幻冬舎刊)

『ミステリなふたり』(太田忠司著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

妻は二十九歳、美貌の敏腕刑事。家事の得意な夫は二十一歳、ハンサムかつ名推理で妻を支える気鋭のイラストレーター。恋人気分の二人を待ち受ける難事件の数々。軽妙洒脱な傑作ミステリー。
(幻冬舎公式HPより)


<感想>

『ミステリなふたり』は京堂夫妻シリーズの1冊。
シリーズは短編からなっており、他に続編『もっとミステリなふたり 誰が疑問符をつけたか?』(幻冬舎刊)や、現在『Webミステリーズ!』(東京創元社)にて連載中の『ミステリなふたり à la carte』がある。
『ミステリなふたり à la carte』については第4話までHP上で掲載されているので本作のイメージを掴まれたい方は東京創元社さんの公式HPを見てみるのも良いかも。

京堂夫妻シリーズは「超美人だが“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補は数々の難事件を解決してきた。だが実は彼女の夫でイラストレーターの新太郎こそが立役者であることを誰も知らない」と言ったストーリー。

外では「鉄の女」だが、内では「甘えん坊の肉食系」という2面性を持つ景子。
ホスト風の外見だが、インドア派の草食系男子である新太郎。
この2人が織り成す物語です。

基本、景子が不可解な事件に遭遇し、それを自宅で新太郎に相談。
景子の話から、新太郎が犯人を指摘するとの流れ。

そんな本作『ミステリなふたり』の収録作は次の10篇。
『ミステリなふたり』『じっくりコトコト殺人事件』『エプロン殺人事件』『お部屋ピカピカ殺人事件』『カタログ殺人事件』『ひとを呪わば殺人事件』『リモコン殺人事件』『トランク殺人事件』『虎の尾を踏む殺人事件』『ミステリなふたり happy lucky Mix』。

では、各短編の感想から(ネタバレあらすじが感想の後にあるので、注意)。

『ミステリなふたり』
設定の解説を兼ねた作品。
景子と新太郎のキャラ設定は此処からだったんですね。
ミステリ的には「密室の方法」なので「ハウダニット」が問われています。

『じっくりコトコト殺人事件』
「煮込んだ理由」ということで「ホワイダニット」が尋ねられる作品。
これだけに留まらず、ラストの意外な展開が一捻り。
果たして、アレは正しいのか?

『エプロン殺人事件』
これまた「エプロンを着用した理由」ということで「ホワイダニット」が問われています。
なかなか皮肉な展開か。

『お部屋ピカピカ殺人事件』
「何故、部屋を掃除したのか」ということで「ホワイダニット」ですね。
普通、これの処理方法だと「木を隠すには森の中」パターンが多い。
そんな中、これを出して来たのはなかなか。

『カタログ殺人事件』
「ダイイング・メッセージ」は何を指し示しているのか……がメインですが、その前に「何故、カタログを握っていたのか」となるので、これまた「ホワイダニット」か。
流石にこれは牽強付会のような気も……。
まぁ、「ダイイング・メッセージ」全般にこんなところはありますが。

『ひとを呪わば殺人事件』
「其処に居る筈のない人が其処で死亡した」ということで「ハウダニット」が問われる作品。
真相については、この謎だと割とこのパターンが多いので微妙かな。
被害者は後の『虎の尾を踏む殺人事件』にも登場。

『リモコン殺人事件』
「何故、リモコンは壊されたのか」ということで「ホワイダニット」。
これは続編『もっとミステリなふたり 誰が疑問符をつけたか?』で類似作があるのであまり評価出来ず。

『トランク殺人事件』
「どのようにして、被害者をトランクに詰めることが出来たのか」ということで「ハウダニット」もの。
謎自体はともかく、ストーリーの展開が快く面白かった。
『ミステリなふたり』の中でも、面白さが1、2を争う作品だと思う。

『虎の尾を踏む殺人事件』
「何故、犯人は連続して美女の顔を傷付けて殺害したのか」ということで「ホワイダニット」。
本作はタイトルからして他の作品と異なっていますね。
それだけにタイトルの意味に注目していたところ、アレですよ。
「虎の尾」が「誰の虎の尾」だったのか……がポイント。
かなり、良かった。
これが今回の白眉、1番面白かった。
ちなみに「虎の尾を踏んだ人間は殺害されてはいない」。

『ミステリなふたり happy lucky Mix』
これまでの短編を活かした作品。
物語自体をミスリードに用いているのですが、逆にこれをミスリードにするからにはあの人は犯人ではなくなり、犯人は絞られてしまう……。
トリックがストーリーの幅を狭めている気がするのが勿体ない。
なので、ちょっと微妙でした。

こうして全体を振り返ると「ホワイダニット」か「ハウダニット」に集中していますね。
そんな中でも、一番面白く感じられたのは『虎の尾を踏む殺人事件』。
これがベストでした。
次に『トランク殺人事件』かな。

本シリーズはどちらかと言えば、全体的にストーリーよりも、夫妻のキャラクターを楽しむ作品と言えるでしょう。

・続編はこちら。
『もっとミステリなふたり 誰が疑問符をつけたか?』(太田忠司著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)

<ネタバレあらすじ>

◆『ミステリなふたり』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たな事件が。
1人の女性が密室で死亡していたのだ。

庭に面した窓から覗き込み事態に気付いた第一発見者は、付近を巡回していた巡査に助けを求めた。
窓が施錠されていたことから巡査は玄関に回り込んだ。
ところが、巡査によれば玄関にも鍵がかかっており、これを破って中へ入って確認したところ被害者は死亡していたらしい。

捜査本部は第一発見者の犯行を疑うが……。
景子は自宅に持ち帰り、夫である新太郎に相談する。
これを聞いた新太郎は犯人をピタリと当てる。

捜査方法の手順を変えることが必要だったのだと語る新太郎。
景子は「事件発生→動機のある人物を列挙→その人物が犯行可能か検証」の順で捜査を行ったが、「事件発生→犯行可能な人物を列挙→その人物に動機があるか調べる」ことこそが正しかったと指摘したのだ。
つまり、他に犯行可能な人物が居ると言うのだ。

新太郎が指摘した犯人は巡査本人であった。
そもそも何故、玄関の扉に回り込んだのか?
窓から中を覗いて異変を確認したのなら、そのまま窓を割って中に入れば良かったのだ。
ところが、一旦、玄関へと向かっている。
これは密室であることを主張したいが為である。
つまり、巡査が主張したような事実は無かった。
玄関には鍵がかかっていなかったのに違いない。

新太郎の推理を聞いた景子は、彼の推理の正しさを認めると共に、夫婦の愛を深めるべく夜の営みを迫るのであった―――エンド。

◆『じっくりコトコト殺人事件』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに次なる事件が。
被害者は風呂場でコトコト煮込まれていた―――猟奇殺人事件である。
死因は刺殺によるものと思われたが……。

これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。

犯人は何故、死体を煮たのか?
其処には理由があった筈だ。
すべては死因を隠す為だった。
本当は毒殺だったが、刺殺に偽装するべく体内の毒物を調べられないよう煮込んだのだ。
つまり、毒殺だと判明すると困る人物―――それは持病の為にジギタリスを服用していた人物であった。

犯人によれば、殺意はなかったそうだ。
ところが、被害者が殺人の罪を着せるべくジギタリスを服用し自殺した為に偽装工作を強いられたのだった―――エンド。

◆『エプロン殺人事件』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
被害者は普段は料理をしないにも関わらず、エプロンを着用し殺害されていた。
このエプロン、犯行当日に近くのスーパーで販売後すぐ売り切れた人気の品らしい。
被害者は料理をしないのに、競争率の高いエプロンを購入し、着用後に殺害されたことになるが……。

だが、景子は結び目からエプロンが被害者ではなく犯人により着せられたものと見抜く。
これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。

真犯人は、被害者と同じマンションに住む男性と不倫していたスーパーの従業員であった。
彼女は売り物のエプロンを販売前にこっそりと盗み出すと犯行推定時刻よりも前に殺害に及んだ。
殺害時刻をエプロンの販売後と誤認させることでアリバイを作ったのである。
ところが、ここで大きなミスを犯してしまう。
不倫相手の妻を殺害しようとしていたが、階を間違え別人を殺害してしまったのだ。

こうして標的を誤った為に、不可解な状況が出来上がってしまったのだった―――エンド。

◆『お部屋ピカピカ殺人事件』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今度は「何故か一室だけ綺麗に掃除された部屋で殺害された被害者の謎」である。

これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
犯人は犯行後に眼鏡を着用している人物だった。
犯行の際にコンタクトを落とした犯人。
視力の矯正器具がなければコンタクトを捜すことは難しい。
そこで、部屋中に掃除機をかけコンタクトを回収していたのだった。
この為に部屋が綺麗に掃除されていたのだ―――エンド。

◆『カタログ殺人事件』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今度は「通販カタログを握ったまま死亡した被害者の謎」である。
カタログは左右を外側へ折り返されていた。

これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
カタログはダイイング・メッセージに違いない。
つまり、犯人を指し示しているのだ。

犯人はハート運送の社員だった。
何故なら、折り返されたカタログは上から見れば「ハート」の形に見えたのだ―――エンド。

◆『ひとを呪わば殺人事件』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今度は「東京に居た筈の女性が名古屋で殺害された謎」である。

これを聞いた新太郎は謎を解き明かす。
被害者は別の人間を殺害するべく、アリバイ工作していた。
ところが、その日に限って強盗に遭遇し殺害されてしまったのだ―――エンド。

◆『リモコン殺人事件』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今度は「殺害現場で破壊されたリモコンの謎」である。

これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
犯人は被害者と争った際に出血し、リモコンに血が付着した。
そこでリモコンを持ち去ったのだ。
だが、リモコンが無いことに気付かれると困る。
そこで代わりのリモコンを置いたが、それがバレることを恐れて破壊したのだった。

つまり、犯人はリモコンを取りに行けるほど近所に住む電気屋だったのである―――エンド。

◆『トランク殺人事件』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今度は「知らぬ間にトランクの中に死体が詰められていた謎」である。

被害者の妻が車を運転していたところ、交通事故に遭った。
車検に出したばかりなのに……と怒りながらトランクを開けたところ其処に夫の死体があったのだと言う。
ちなみにトランクの鍵は夫妻しか持っていなかったらしい。

さらに調べた結果、車の中にあった筈の名品の釣竿が消えていた。

これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
真犯人は車検先の釣り好きな社員だった。
犯人は車検に出された車に名品の釣竿を見つけ、欲しくなった。
そこで釣竿を盗もうとトランクの鍵を複製し犯行に及んだが、そこを夫に見咎められた為に殺害したのだった―――エンド。

◆『虎の尾を踏む殺人事件』

“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今度は「若く美しい女性が連続して顔を切り刻まれて殺害された謎」である。

調べたところ、被害者に共通項があることが分かる。
携帯ストラップが有名キャラクターのレアアイテムだったのだ。
このストラップは食品会社が景品として提供したものらしい。

しかも、各被害者が事前にアンケートを受けていたことも判明。

レストラップを餌にアンケートを取り、ターゲットの身辺調査を行っていたと考える新太郎。
そこから真犯人を絞り込むが……。

一方、景子はこれ以上の被害者を出さないように食品会社へ聞き込みを行っていた。
と、食品会社の女性幹部は景子に興味津々。
ひたすら、「あら、お美しい」と繰り返す。

その帰路、新太郎から真犯人が「若さと美しさに嫉妬している」と聞かされた景子は犯人に気付く。
そこへ襲撃をかける女性幹部。
周囲には手下が3人、合計4人である。

しかし……彼らは仕掛ける相手を間違えた。
「あんたたちは虎の尾を踏んだのよ」
この景子の言葉通り、数十分後に駆け付けた景子の部下は惨状を目にすることになる。
もちろん、景子は無事に新太郎と事件解決を祝ったのは言うまでもない―――エンド。

◆『ミステリなふたり happy lucky Mix』

「犯人はあなたね」
木元は京堂景子にそう告げられ、逃げられないと覚悟していた。
話は過去に遡る―――。

とある雪山にあるペンション。
ミステリ好きのオーナーが作ったこのペンションに何組かの来客があった。

木元や美和子など数人のグループ。
もう1組は、京堂景子警部補とその弟を名乗る男性の2人。
木元たちのグループでは、1人赤井という人物が遅れて合流するらしい。

と、その夜に美和子が何者かに殺害されてしまう。
殺害現場からは雪の積もった外へと続く足跡があった。
おそらく犯人のものであろう。
ところが、その足跡は途中で忽然と消えていたのだ……。

犯人は一体、何処へ消えたのか!?

外の足跡は外部犯に見せかける為のものではないか……。
外部犯では無く、内部の犯行が疑われ始める中、容疑は1人アリバイの無い木元に。

疑われた木元は他の人間も口裏を合わせた共犯ならば全員が犯行可能であると主張する。
だが、全員の疑惑は晴れない……。

このままでは犯人にされてしまう……必死になった木元が取った策とは!?

そんな中、京堂景子が関係者全員を呼び集め、事件の解決を始める。
彼女の指摘で足跡の消えた付近の雪を調べた面々。
その中から、凍死寸前の赤井を発見する。

犯人は赤井であった。
赤井は遅れてペンションに到着し、美和子と喧嘩し殺害してしまったのだ。
その逃走途中、足元の雪ごと滑落し埋まっていたのだ。
この為に雪の上の足跡が消えていたのである。

事件が解決したペンションでは、京堂景子と木元が2人きりになっていた。
「犯人はあなたね」
景子の指摘に逃げ切れないと悟った木元は素直に認める。
「やっぱり、あなたが私に教えたのね」

実は、景子に赤井の犯行を教えたのは木元であった……。
だが、直接伝えれば疑われていることもあり、言葉を聞いてくれない可能性があった。
そこで、木元は匿名のメモを用い景子に真相を伝えたのである。

どこか熱っぽい瞳の景子はそのまま木元に告白し、2人の交際が始まった。
京堂景子と木元新太郎、これが2人の馴れ初めである。

そして、現在。
今やラブラブ夫婦となった2人のもとに、ペンションオーナーからイベントの招待状が届いた。
「そういえば、本当に弟さんだったんだね……」
あの日のことを思い出した新太郎の言葉に景子が頷く。

あの日、ペンションに居たのは景子と本当にその弟であった。
弟は就職活動に失敗し、精神的に弱り果てており、それを励ます為の旅行だったそうだ。
ちなみに、美和子の死体を目撃したことで生きていることの喜びを知った弟は、今は海外へ渡航している―――エンド。

「超再現!ミステリー」第10回「痛快…犯人捜し2連発▽ツンデレ美人刑事の名推理…エプロンした美女死体に(秘)トリック 太田忠司著“ミステリなふたり”の謎解き」(7月24日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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『もっとミステリなふたり 誰が疑問符をつけたか?』(太田忠司著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)

2012年7月24日放送予定「超再現!ミステリー」第10回にて超再現される作品が判明!!太田忠司先生『ミステリなふたり』(幻冬舎刊)とのこと。

「ミステリなふたり (幻冬舎文庫)」です!!
ミステリなふたり (幻冬舎文庫)





続編「もっとミステリなふたり 誰が疑問符を付けたか? (幻冬舎文庫)」です!!
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