ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
超美人だが県警の鉄の女の異名をとる京堂景子警部補は難事件を数々解決。だが実際は彼女の夫でイラストレーターの新太郎の名推理によるものだった。甘い夫婦があざやかに解く8つの怪事件。
(幻冬舎公式HPより)
<感想>
『もっとミステリなふたり 誰が疑問符をつけたか?』は京堂夫妻シリーズの1冊。
シリーズは短編からなっており、他に前作『ミステリなふたり』(幻冬舎刊)や、現在『Webミステリーズ!』(東京創元社)にて連載中の『ミステリなふたり à la carte』がある。
『ミステリなふたり à la carte』については第4話までHP上で掲載されているので本作のイメージを掴まれたい方は東京創元社さんの公式HPを見てみるのも良いかも。
京堂夫妻シリーズは「超美人だが“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補は数々の難事件を解決してきた。だが実は彼女の夫でイラストレーターの新太郎こそが立役者であることを誰も知らない」と言ったストーリー。
外では「鉄の女」だが、内では「甘えん坊の肉食系」という2面性を持つ景子。
ホスト風の外見だが、インドア派の草食系男子である新太郎。
この2人が織り成す物語です。
基本、景子が不可解な事件に遭遇し、それを自宅で新太郎に相談。
景子の話から、新太郎が犯人を指摘するとの流れ。
そんな本作『もっとミステリなふたり 誰が疑問符をつけたか?』の収録作は次の8篇。
『ヌイグルミはなぜ吊るされる?』『捌くのはだれか?』『なぜ庭師に頼まなかったのか?』『出勤当時の服装は?』『彼女は誰を殺したか?』『汚い部屋はいかに清掃されたか?』『熊犬はなにを見たか?』『京堂警部補に知らせますか?』。
お気付きでしょうか、各タイトルそれぞれが名作ミステリのタイトルのパロディとなっています。
なかなかの遊び心です。
『ヌイグルミはなぜ吊るされる?』:高木彬光『人形はなぜ殺される』
『捌くのはだれか?』:ビル・プロンジーニ『裁くのは誰か?』
『なぜ庭師に頼まなかったのか?』:アガサ・クリスティ『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』
『出勤当時の服装は?』:ヒラリー・ウォー『失踪当時の服装は』
『彼女は誰を殺したか?』:浜尾四郎『彼は誰を殺したか』
『汚い部屋はいかに清掃されたか?』:都築道夫『黄色い部屋はいかに改装されたか?』
『熊犬はなにを見たか?』:鮎川哲也『戌神はなにを見たか』
『京堂警部補に知らせますか?』:ジェフリー・アーチャー『大統領に知らせますか?』
ちなみに、これは分からなかったんだけど、本書のタイトルである『誰が疑問符を付けたか?』はイーデン・フィルポッツ『誰が駒鳥を殺したか?』のもじりらしい。
この中で『黄色い部屋〜〜〜』だけ評論なのには何か意味があるのかな?
そう言えば、アガサ・クリスティ『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』は『愚者のエンドロール』でもサブタイでパロディに使用されていましたね。
・『愚者のエンドロール』(米澤穂信著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
では、各短編の感想から(ネタバレあらすじが感想の後にあるので、注意)。
『ヌイグルミはなぜ吊るされる?』
「ヌイグルミが何故、吊るされたのか」ということで「ホワイダニット」もの。
前作にも同じ理由の作品があり、焼き直しの意味合いが強そう。
『捌くのはだれか?』
まさにタイトルが犯人を示している作品。
捌いた人間が犯人です。
『なぜ庭師に頼まなかったのか?』
これまた推理のポイントがタイトル。
頼まなかった理由が事件解決に直結する点が面白い。
『出勤当時の服装は?』
設定こそ異様ですが、その後の展開は堅実。
なかなか。
『彼女は誰を殺したか?』
本作で2番目に面白かった。
二転三転する真相に注目!!
『汚い部屋はいかに清掃されたか?』
木は森の中に隠せ、臭い物はさらに臭い物に隠せ。
『熊犬はなにを見たか?』
本作で3番目に面白かった。
何とも言えない結末ですよ。
『京堂警部補に知らせますか?』
本作の白眉はコレ。
景子はほぼ登場せず、新太郎が単独で事件解決するという変則的な作品。
「不在の在」ということで「出て来ない景子により、逆に景子の存在意義」が改めて感じられました。
本作ベストは先述した通り『京堂警部補に知らせますか?』。
次に『彼女は誰を殺したか?』、『熊犬はなにを見たか?』の順。
個人的には直球勝負だった前作『ミステリなふたり』よりもストーリーに捻りがあるし、キャラクターに脂が乗っていてこちらの方が好きです。
・『ミステリなふたり』(太田忠司著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)
<ネタバレあらすじ>
◆『ヌイグルミはなぜ吊るされる?』
“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今回、景子が挑むのは「死体と共に吊るされていたヌイグルミの謎」。
風呂場の物干し竿に被害者と大量のヌイグルミが吊るされていたのだ。
これを聞いた新太郎は謎を解く。
真犯人は、風呂場での作業に上せ鼻血を出していた。
それがヌイグルミに付着したので、洗濯し乾かしたのだった―――エンド。
◆『捌くのはだれか?』
“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今回、景子が挑むのは「被害者の遺体の上にハマチの刺身があった謎」。
誰かがハマチを捌き、被害者の身体に盛ったのだ。
被害者は異性関係が派手だったらしい。
容疑者と思われる人物は、魚を捌くことが出来なかったが……。
これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
真犯人はやはり容疑者本人であった。
しかし、共犯者が居たのだ。
その共犯者が、ハマチを捌くことで、容疑者の犯行ではないように偽装したのである―――エンド。
◆『なぜ庭師に頼まなかったのか?』
“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今回、景子が挑むのは「被害者が庭師に庭木の剪定を頼まなかった理由」。
これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
被害者は覗きをしていた。
その為に、目隠しとなる庭木を自身で剪定したのである。
しかし、犯人はわざと被害者に覗かせることで、その行動をコントロールしていた。
覗きに来た被害者を殺害したのである―――エンド。
◆『出勤当時の服装は?』
“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今回、景子が挑むのは「女装趣味のない被害者が女装して殺害された謎」。
風呂場の物干し竿に被害者と大量のヌイグルミが吊るされていたのだ。
これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
被害者は女装を強いられた後、人目を忍んで助けを求めるべく妹の家へ向かった。
ところが、妹の夫の不倫現場に遭遇。
女装していたこともあり、義理の兄を当の妹と勘違いしたその夫は焦った末に殺害するとの暴挙に出たのだった―――エンド。
◆『彼女は誰を殺したか?』
“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今回、景子が挑むのは「防犯スプレーで撃退した通り魔が橋から落下、ところが落下地点には2つの死体があった謎」。
何でも、容疑者とされる女性が暗闇の中から何者かに襲われた。
女性は相手に防犯スプレーを吹き付け撃退。
ところが、反撃を受けた当の相手が橋の下に落ちたらしい。
慌てて、助けに降りたところを巡回中の巡査に見咎められ事件になったそうだ。
と、此処までは良かった。
なんと、橋の下には死体が2つ転がっていたのである。
どちらが、彼女を襲撃し転落した人物なのか?
そして、何故、もう1つ死体が増えているのか?
調べたところ、1人は女性を追い回していたストーカー。
そのポケットには口紅型の防犯スプレーが入っていた。
もう1人は、地元で連続発生している不審者を捕まえると豪語している男性だった。
これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
ポイントはストーカーが所持していたとされる口紅型防犯スプレーである。
これは男性が所持する物とは考えにくい。
すなわち、襲撃者へ向け使用された防犯スプレーがこれだったのではないか?
では、何故、使用されたスプレーが死体のポケットに入っていたのか。
新太郎の推理はこうである。
ストーカーは女性を待ち構えていた。
もちろん、防犯スプレーのことも調べており、対策も万全だった。
そこへ、不審者を捕まえるべく見回っていたもう1人の男性被害者が現れた。
彼はストーカーを不審者と考え、捕まえようとした。
揉み合う内にストーカーは男性を橋から転落死させてしまう。
此処でストーカーは一計を案じた。
この罪を女性に着せてしまおうと考えたのだ。
其処で襲撃に失敗し、わざと橋から落下する振りをしながら、橋桁に捕まって隠れた。
ところが、相手は一枚上手だった。
女性はストーカーの意図を悟ると、橋桁に捕まり両手の塞がった男に向け、無防備になるようにした上でスプレーを浴びせかけた。
これでは堪らない。
ストーカーは転落死することに。
こうして、橋の下に2つの死体が生まれた。
女性は揉み合う内に2人が揃って転落死したとのシナリオを描き、それに沿うように工作すべく防犯スプレーを死体に持たせた。
しかし、折悪く現場から立ち去る前に発見されてしまい、嘘の供述をせざる得なくなったので奇妙な犯罪が出来上がってしまったのだった―――エンド。
◆『汚い部屋はいかに清掃されたか?』
“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今回、景子が挑むのは「ゴミ屋敷内のただ1箇所だけ掃除された部屋でゴミ撤去推進派住民が殺害された謎」。
アリバイの関係から犯行可能なのはただ1人と思われたが、当の容疑者が事故死してしまう。
結局、何故、殺したのか動機が分からないのだ。
なんでも、容疑者の妻は行方不明になっているらしいが……。
これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
容疑者はよくよく考えれば自身の犯行とあっさり露見するのにも関わらず、犯行を実行した短絡的な人物であった。
彼はその妻を殺害し、死体の処理に困った。
そこで思いついたのはゴミ屋敷。
木を隠すには森の中、死体の臭いを隠すにはさらに強烈な臭いの中だったのだ。
其処に死体を遺棄したので撤去されては困る。
そこで、少しでもバレないようにと現場保存されることを期待して殺人事件を起こしたのであった―――エンド。
◆『熊犬はなにを見たか?』
“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件が。
今回、景子が挑むのは「熊犬が殺害現場である家の前に座っていた謎」。
被害者の愛犬が、被害者の妻が帰宅する直前まで自宅玄関前に座っていたと言うのである。
果たして、熊犬は何を見たのか?
これを聞いた新太郎は真犯人を言い当てる。
実は真犯人は被害者の弟であった。
弟は義理の姉と関係があり、兄殺害を共謀した。
ところが、この弟は大の犬嫌い。
犬が居ては犯行が覚束ない。
そこで当日、姉は犬を外へやった。
その間に犯行を済ませた弟。
後は脱出するだけだったが、此処で犬が帰って来てしまう。
弟は家から出られなくなった。
まさに自ら作り出した密室。
結局、姉が帰って来るまで逃げられなかったのだ―――エンド。
◆『京堂警部補に知らせますか?』。
“鉄の女”の異名をとる京堂景子警部補のもとに新たなる事件の報が……届かなかった。
何故なら、新太郎が解決してしまったからである。
とある会員制スポーツジムに通う新太郎。
イケメンホスト風の新太郎は女性インストラクターの熱視線の的であった。
ところが、女性インストラクターから意外な情報が。
何でも、ジム内で盗難事件があったらしい。
盗まれたのは鉄アレイだそうだが……。
そんな中、ムキムキマッチョ風の会員を見かける新太郎。
彼は筋肉を嵩に来て、ひ弱な男性インストラクターをいたぶっていた。
内心、面白くない新太郎だが「部外者が関わることではないか」と様子を見ていた。
すると、男性インストラクターは鞄に入った何やら重い荷物をロッカー室へ運び込む。
そこへマッチョな会員を訪ねて刑事が現れる。
どうやら、ある女性が殺害されその容疑がマッチョ会員にかかっているらしい。
刑事はあちこちに聞き込みを行っている様子だが……。
そんな中、例の男性インストラクターが軽い足取りでロッカー室から戻って来る。
暫くして、当のマッチョ会員が新太郎に「ロッカーの鍵を知ってるだろ」と横柄に尋ねて来た。
どうやら、ロッカーの鍵が見つからないらしい。
これにふと閃いた新太郎は刑事に殺人事件の犯人が分かったと教えに向かうのだった。
新太郎の指示に従った刑事たち。
マッチョのロッカーを開けると其処から鉄アレイが。
しかも、鉄アレイは血塗れだった。
覚えがないと訴えるマッチョに、新太郎は真犯人は別にいると告げる。
そう、真犯人は男性インストラクターであった。
彼は普段からマッチョに苛められていた仕返しに鉄アレイを盗んだ。
鉄アレイはマッチョ愛用の品だったのである。
ところがその晩、男性インストラクターは意中の女性と一晩を共にする機会を得る。
しかし、女性が好きなのはマッチョであった。
女性に嘲り罵られた男性インストラクターはカッとなって彼女を鉄アレイで殺害してしまう。
そこで、マッチョに罪を着せるべく、ロッカーの鍵を盗むと鉄アレイを潜ませたのだ。
だが、新太郎が男性インストラクターの行動を目撃していた為に見破られてしまったのだった。
もちろん、事件解決の手柄は刑事たちのものとなった。
その夜、景子は部下が事件を解決したことを新太郎に語って聞かせる。
とはいえ、新太郎が景子に自身の関与を明かすことは無い。
今回ばかりは、景子もまた新太郎の活躍を知らないのである―――エンド。
◆関連過去記事
・『ミステリなふたり』(太田忠司著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)
・2012年7月24日放送予定「超再現!ミステリー」第10回にて超再現される作品が判明!!太田忠司先生『ミステリなふたり』(幻冬舎刊)とのこと。
ラベル:もっとミステリなふたり 誰が疑問符をつけたか? 太田忠司 幻冬舎 ヌイグルミはなぜ吊るされる? 捌くのはだれか? なぜ庭師に頼まなかったのか? 出勤当時の服装は? 彼女は誰を殺したか? 汚い部屋はいかに清掃されたか? 熊犬はなにを見たか? 京堂警部補に知らせますか?
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