ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
折木が、中学の卒業制作で手を抜いた理由は何なのか。わたし、伊原摩耶花が、その謎を解き明かすべく、過去を紐解いていくと――。<古典部>シリーズ最新作!
(角川書店公式HPより)
<感想>
「古典部シリーズ」のアニメ化作品である『氷菓』が好評放送中の米澤穂信先生。
その「古典部シリーズ」の最新短編です(2012年7月時点)。
今回の主人公は伊原摩耶花。
彼女が「古典部で活動したからこそ抱いた中学時代のある疑問」に挑みます。
この出発点がまず良かった。
シリーズ物の醍醐味でしょうね。
でもって、摩耶花が挑む謎がまた興味深い。
シリーズらしい謎の答えもイイ!!
折木奉太郎の過去も判明。
意外にも、省エネ主義を標榜する奉太郎が割と率先して関わっています。
『ふたりの距離の概算』後の千反田えるについても様子が伺えます。
どうやら、傷心からは立ち直りつつあるようです。
さらに、福部も……。
高校2年時の摩耶花視点から描かれる古典部メンバーもなかなかに興味をそそられるし、シリーズのファンには必読な作品と言えるでしょう。
<あらすじネタバレ>
高校2年生になった伊原摩耶花は悩んでいた。
何か理由があったのではないか……と。
事の発端はこうである。
漫画用の画材を購入しに出かけ、中学時代のクラスメート・池平にばったり出くわした摩耶花は、成り行きから「古典部」のことを話してしまった。
池平は「あの折木が居るんじゃ大変だね。早く追い出した方がいいよ」と折木への憎しみを露にする。
そんな池平に何も言い出せない摩耶花。
これには事情があった。
中学3年生の卒業制作が原因だったのだ。
その年、摩耶花の学年では全クラスが一丸となって「鏡のフレーム」を共同制作しようと決定した。
フレームはもちろんオリジナル。
其処でデザインは美術部の俊英と呼ばれた鷹栖亜美に委ねられた。
この人選は完成したデザインから正しかったと分かるのだが、問題は実際に取りかかってみて判明した。
各パーツを彫り出すこととなったが、ともかく難易度が高かったのだ。
とはいえ、グループごとに配分しそれぞれがそれぞれの責任をもって完成させることが出来た。
ところが、ただ1箇所だけ、複雑な蔓を描いたパーツ部分のみ、見ただけで手抜きと分かる酷い出来であった。
蔓の代わりに一本の線しか彫られていなかったのだ。
此処を担当していたのが、当時、摩耶花や池平とクラスメートであった折木。
組立後、完成したフレームを目にした鷹栖は「酷い……」と絶句するや号泣してしまう。
以後、学年全員からクラスが軽蔑されることとなり、その責任から折木はクラスメートに忌み嫌われるようになったのだ。
おそらくサボったのだろう……当時はそう思われた。
当の摩耶花もそう信じていたのだ、最近までは。
しかし、今の摩耶花にはそんな単純な理由で折木が責任放棄したとはどうしても思えなくなっていた。
まさか……何か意味があったのではないか?
気になった摩耶花は調査を始めることに。
直接、折木に尋ねるが、折木は真相を明かそうとせずはぐらかす。
だが、このことが逆に摩耶花に疑いを深めさせることとなった。
当時、折木と同じ班だった同級生に聞き込んだ結果、新たな情報を得ることに。
折木は「アサミ次第だな」と口にしていたそうなのだ。
その同級生によれば、「アサミ」とは「鳥羽麻美」のことらしい。
鳥羽麻美を訪ねて写真部を訪れた摩耶花は屋上へ。
今の麻美は摩耶花の知る数年前の麻美とは異なっていた。
以前は影が薄い印象だったが、今では他者を拒絶する強いオーラを醸し出していたのだ。
少し後悔する摩耶花だが、今更、後には退けない。
思い切って尋ねてみたところ、鳥羽は「もう遅い」と口にする。
それでも粘る摩耶花に「呪いを解いてくれたヒーローの片割れだ」と折木を評する鳥羽。
そして、最後に「卒業制作の鏡の前で逆立ちでもしない限り分からないだろう」と嘲笑われるのだった。
ここまで来れば真相が知りたい。
摩耶花は懐かしい母校へ足を運び、卒業制作の鏡の前へ。
そこで携帯を使って鏡を逆さに撮影してみたところ……。
翌日、古典部を訪れた摩耶花は折木に真実を確認する。
ふくちゃん(福部)も一緒である。
逆さにしたフレームには「We hate A ami T」という言葉が隠されていた。
直訳すれば「私たちは鷹栖アミが嫌い」となる。
だが、これは折木のパーツが機能していないからだ。
折木のパーツは「a」と「ami」の間である。
もしも、ここに「s」が加わっていればどうか。
そう、「We hate Asami T(私たちは鳥羽アサミが嫌い)」である。
すべては鷹栖の陰謀であった。
鷹栖は鳥羽を陰で苛めていたのだ。
そこで一計を案じ、ずっと残るであろう卒業制作に悪意を込めた。
「皆が鳥羽麻美を嫌っている」と。
これに折木は気付いた。
そして、卒業制作のとりまとめを行っていた福部も。
2人は「s」を削って文意を「アミ」にすり替えた。
これを見た鷹栖は驚いただろう。
鳥羽へと向けた矛先が見事に自分に返って来たのだから。
しかも、この隠されたメッセージの隣には製作者として鷹栖亜美の名前が堂々と記されていた。
見る者が見れば、その意味に気付くであろう。
だから、泣き出したのだ。
折木と福部は鳥羽麻美を2人で救った。
だから、「折木はヒーローの片割れ」なのだ。
摩耶花は遅ればせながら折木に誤解を謝罪する。
聞いているのかいないのか……まったくもって分からない折木だが、その頬はどこか紅潮しているように摩耶花には見えた―――エンド。
◆「米澤穂信先生」関連過去記事
・「インシテミル」(文藝春秋社)ネタバレ書評(レビュー)
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・「追想五断章」(集英社)ネタバレ書評(レビュー)
・「折れた竜骨」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)
・オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)
・「満願(Story Seller 3収録)」(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「万灯(小説新潮5月号 Story Seller 2011収録)」(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『913』(『小説すばる 2012年01月号』掲載、米澤穂信著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『Do you love me ?』(『不思議の足跡』収録、米澤穂信著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『一続きの音』(『小説新潮 2012年05月号 Story Seller 2012』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『下津山縁起』(米澤穂信著、文藝春秋社刊『別冊 文芸春秋 2012年7月号』)ネタバレ書評(レビュー)
・『死人宿(ザ・ベストミステリーズ2012収録)』(米澤穂信著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【リカーシブル】
・『リカーシブル リブート』(『Story Seller 2』収録、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『リカーシブル 5章(連載第3回)』(『小説新潮 2012年02月号』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『リカーシブル 6章(連載第4回)』(『小説新潮 2012年03月号』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『リカーシブル 7章(連載第5回)』(『小説新潮 2012年04月号』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『リカーシブル 8章(連載第6回)』(『小説新潮 2012年06月号』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『リカーシブル 9章(連載第7回)』(『小説新潮 2012年07月号』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【古典部シリーズ】
・「氷菓」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・「愚者のエンドロール」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・「クドリャフカの順番」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・「遠まわりする雛」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・「ふたりの距離の概算」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
【小市民シリーズ】
・「夏期限定トロピカルパフェ事件」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)
【S&Rシリーズ】
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【太刀洗シリーズ】
・『さよなら妖精』(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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(ナイフを失われた思い出の中に)
【その他】
・探偵Xからの挑戦状!「怪盗Xからの挑戦状」(米澤穂信著)本放送(5月5日放送)ネタバレ批評(レビュー)
『鏡には映らない』が掲載された「小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)」です!!
小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)
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この話を読むと、奉太郎が爪を隠していただけで神山高校入学以前にも能力を発揮していたことがわかります。
(千反田がいないので機会はあまりなかったでしょうが(笑))
また、納得のいく理由があることを知らない摩耶花が「氷菓」での初登場時に「ナメクジの方がまし」と言ったのも理解できます。
(摩耶花が一番迷惑を受けた訳ですから)
今回、千反田は完全にチョイ役でしたが、摩耶花が奉太郎との関係を気にしていることもあって存在感はあまり変わらなかった気がします(笑)。
(((^^;)
奉太郎が「頬を赤くした」ことなどを摩耶花が指摘してるのを見ると、奉太郎はいわゆる「信頼できない語り手」なんだなぁと実感しました。
今回の野性時代、特集は「男の官能、女の官能」(当然、この文字が一番大きい)、作家の名前で一番大きく書かれているのが「米澤穂信」なので、まるで米澤先生が官能小説家になったよう……。
( ̄▽ ̄;)
私はネットで買いました(笑)。
(確実に手に入れたいってのもありましたが)
こんばんわ(^O^)/!!
管理人の“俺”です!!
折木奉太郎の過去が分かるエピソードでしたね。
意外だったのは、今回の事件に省エネ主義にも関わらず割と率先して奉太郎が関わっていたことかな。
確かに存在感ありましたね千反田える。
奉太郎の件で摩耶花も物凄く気を遣ってたし。
そして、『ふたりの距離の概算』後の様子も伺えてなかなか良かったですね。
傷心からは立ち直りつつあるようです。
さらに、奉太郎が信頼できない語り手であること。
ここらも作品テーマ(青春期特有の万能感とその限界)に通じるところがありそう。
人は自分で思っているようには生きられないのでしょう。
確かに、あの表紙は購入しづらい(笑)。
古典部アニメ化で興味を持った高校生の方とかは手に入れにくいような……。
全国でトラウマものの悲劇が起こったかもしれません。
それと、ご指摘ありがとうございました。
どうにも粗忽者ぶりを発揮してしまったようです。
訂正については早速、こっそり反映させました(^O^)/。
こんばんわ(^O^)/!!
管理人の“俺”です!!
ご指摘、ありがとうございます(^O^)/!!
まさか、掲載誌名を間違えているとは……。
完全に気付いておらず、危ないところでした。
またも、こっそり訂正させて頂きます!!
僕もずっとマヤカがホータローに対して異常に冷たいのに違和感を覚えてました。たとえ生理的に受け付けない存在だったとして
9年間過ごした言わば幼馴染、まして同じ部活に籍を置いているホータローに対して一向に態度が変わらないのは流石に変ではないかと
これを読んで、僕の氷菓に対する評価がまたさらに大きくなりました。以前の僕なら☆5つ中☆5つと評価していたでしょうが、今は7つぐらい与えたい気分です
あと、もうなんていうか言わなくていいだろコレって感想なんですがホータローとマヤカが大好きになりました。
ホータローは以前から好きだったのですが 今回の男らしくも優しいこのホータローの行動には拍手をもって賞賛するしかありません
マヤカはホータローに対する冷たさが異常すぎてどちらかと言えば嫌いなほうのキャラだったのですが、
それはこの事件を経たあとであれば仕方なかったということ、また忌み嫌っていたはずのホータローに対し徐々に信用を取り戻し
「折木が理由もなしにそんなことをするのはおかしい」と素直な信頼を寄せたことを踏まえて 逆に大好きにならないのは失礼ではないかと思うぐらいです
これからも、こういったプチ感動劇みたいなのを米澤先生が繰り広げてくれることを願います
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
確かに本短編『鏡には映らない』は「古典部シリーズ」のビフォアーストーリーにして、最新作であるという2つの側面があり、同時に古典部シリーズの在り様を1つにまとめた素晴らしい作品だと思います。
シリーズを知らなくてもある程度は楽しめるし、知っていれば数倍楽しめる点も素晴らしい。
奉太郎と摩耶花のキャラクターにさらに深みと説得力を与えることにも成功しており、古典部シリーズファンならば間違いなく必見の作品でしょう。
早く次のシリーズ新作を目にしたいですね!!