ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
UFO×変死体=?
天才 御手洗潔の推理は飛躍する!
鎌倉の自宅で、異様な姿で死んでいる男が発見された。白いシーツを体にぐるぐる巻き、ヘルメットとゴム手袋という重装備。同じ頃、御手洗潔は、この男の近所に住むラク婆さんの家の前を、UFOが行き交うことを聞き及ぶ。果たして御手洗の推理はいかに!? 「遠隔推理」が冴える、中編「傘を折る女」も収録。
(講談社公式HPより)
<感想>
中編2作の詰め合わせです。
収録作は表題作である中編『UFO大通り』と同じく中編『傘を折る女』。
では、各中編の感想を。
まずは『UFO大通り』。
これはあの真相を許せるかどうかが楽しめるかどうかを分ける。
割と脱力系の部類かもしれないなぁ……。
ちなみに、小寺の婚約者の死体ですが、あれは「重ねる」より「皮ごと剥ぐ」あるいは「焼く」の方が猟奇的かつ思いつき易いように思うのですがどうでしょう。
そっちの方がよりそれっぽく見えると思うんだけど。
次に『傘を折る女』。
前半が『九マイルは遠すぎる』、後半が倒叙モノと豪華な作り。
前半部分については本家同様に些か恣意的な面(結論ありき)もありますが、面白かった。
必見!!
・『九マイルは遠すぎる』(ハリイ・ケメルマン著、永井淳訳、深町眞理子訳、早川書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
そして、後半からは一転し倒叙物に。
これがまた謎が謎を呼ぶ展開で、面白い。
まさに剛腕!!
グイグイ引っ張られた、アリです。
ちなみに『傘を折る女』については、原点火先生により『週刊モーニング』(講談社刊)誌上でコミカライズ決定。
・『糸ノコとジグザグ』に続く御手洗潔伝説、再び!!『傘を折る女』(講談社刊『UFO大通り』収録)が『週刊モーニング』誌上でコミカライズ決定!!
情報によれば、39号(2012年8月23日発売号)から4号連続掲載とのこと。
しかも、初回巻頭カラーでの登場とのことで見逃すなかれ!!
<ネタバレあらすじ>
◆『UFO大通り』
小寺という男性が異様な姿で死亡した。
白いシーツを体にぐるぐる巻き、ヘルメットとゴム手袋という重装備である。
しかも、完全なる密室であった。
窓という窓は塞がれ、扉も閉まっており、人っ子一人入れない状態だったのだ。
これは如何なる不可思議の仕業なのだろうか?
矢先、小寺家の近所に住む老女が「宇宙戦争」を目撃したと主張し始める。
小寺が死亡した数日後の早朝、異様な姿の宇宙人が光線銃を手に円盤から降り立つと戦争を始めたそうだ。
だが、実際その現場には何の痕跡も残されておらず、地面に大きな穴があったのみであった。
御手洗と石岡はこの謎に挑む。
さらに数日後、今度は小寺宅の庭で小寺の婚約者がカラースプレーを吹き付けられた状態で死亡してしまう。
これまた宇宙人の仕業なのだろうか?
これを知った御手洗は、保健所の課長・羽山の家へ赴く。
暗闇の中、羽山は首吊り自殺を図ろうとしていた。
間一髪、それを止める御手洗たち。
すべての鍵は羽山が握っていた。
実は、小寺の変死は蜂毒によるアナフィラキシーショックだった。
小寺の異様な姿は蜂を恐れての物であった。
しかし、人にとっては密室でも蜂にとっては意味が無く小寺は死亡してしまう。
小寺は蜂の巣が自宅付近にあることを恐れ、何度となく保健所に処理を依頼に訪れていた。
だが、羽山は動かなかった。
結果、小寺は蜂により死亡してしまった。
羽山はすぐに小寺の変死の原因が蜂にあると察した。
このままでは小寺の死の責任を追及されかねない。
慌てた羽山は証拠を隠滅すべく蜂を処分した。
老女が目撃した「宇宙戦争」の正体はこれであった。
円盤は清掃車、光線銃は噴射機、異様な姿は防護服だったのだ。
そして、現場にあった大きな穴は蜂のコロニーを処分したものだった。
こうして、証拠を隠滅したかに思われた羽山。
しかし、彼は知らなかった。
小寺の婚約者は小寺と結婚出来なくなったことに絶望し、羽山を恨んだ。
そこで、羽山を殺害しようと襲ったのだ。
羽山は必死に抵抗、結果、小寺の婚約者は電車に轢かれて死亡してしまう。
電車の運転手は気付かずに過ぎ去ってしまった。
残されたのは小寺の婚約者の死体。
その顔には電車のインクがプリントされていた。
洗い落とそうにもすぐには落ちそうにない。
そこで、上から色を塗ることで隠そうとしたのだ。
これが事件の真相だったのである―――エンド。
◆『傘を折る女』
ラジオを聞いていた石岡の耳に意外な謎が飛び込んで来た。
雨の中、傘を持ちながらささずに立っていた女性が居た。
彼女は急に傘を道路に置くと車に轢かせたのだと言う。
そして、目的を達すると折れた傘を手に元来た道を引き返したらしい。
これを目撃し疑問に思ったリスナーがDJに相談したという次第。
しかし、DJもこの謎を持て余した様子。
最終的に、他のリスナーから解答を募集するに留まった。
それにしても気になる……石岡は自身の興味と普段の意趣返しも兼ねて御手洗にこの謎を持ち込むことに。
ところが、これを聞いた御手洗は大して興味も持っていない様子。
自明の理だと言う。
納得できない石岡は御手洗に説明を求める。
御手洗は「傘を折ったからには、雨に濡れたかったのだ」と断言。
雨に濡れることのメリットについて考えるよう促す。
「何かを洗う?」と答えた石岡に「惜しい」と御手洗。
御手洗が指摘したかったメリットは「雨で洗い流すこと」ではなく「雨に濡れることで洗い流した痕跡を隠すこと」であった。
つまり、傘を折った女性は服を洗ったことを隠したかったのだ。
しかも、洗った直後の服を着ていることになる。
御手洗は大量の血痕を浴びた為に服を洗う必要が生じたと指摘。
傘を折った人物が人を殺していると断言する。
さらに、血痕を浴びたのは洗濯機のある個人宅で、殺害されたのはその家の住人であると推理。
しかも、住人の衣類を奪わず、わざわざ服を洗っていることから住人とは体格が違うだろうとも予測する。
『九マイルは遠すぎる』ばりのこの推理、果たして当たるのか?
石岡は翌朝の報道をチェックし感嘆する、御手洗の指摘通りの殺人事件が実際に起こって居たのである。
だが、御手洗でさえも予測し切れていないことが1つだけあった。
死体の数が2つあったのだ!!
雪子は憤りを隠せなかった。
事の発端は、あるバスジャック事件にあった。
少年がナイフを手にバスをジャックしたこの事件、最終的に犯人の少年は強行突入により逮捕されたが、人質となった乗客に1人の死亡者が出ていた。
この死亡者こそが雪子の母であった。
雪子の母が殺害されたのには理由があった。
とある女の犠牲になったのである。
その女の名は宣子。
宣子もまたバスジャック事件の被害者の1人である。
ただし、同時に加害者でもあった。
宣子はバスジャック犯の少年に、外のトイレへ行かせてくれと要求。
受け容れられないと悟るや、譲歩を引き出せるよう必死に懇願したのだ。
根負けした少年は近くに居た雪子の母を条件に出した。
もしも、宣子がそのまま逃げ出せば雪子の母を殺すと脅したのだ。
これを了承した宣子だったが、外に出るや帰って来ることは無かった。
結果、雪子の母は見せしめもかねて殺害されたのである。
この事実を知った雪子は怒り狂った末に一言文句をつけてやらねば気が済まないと決心した。
そこで、とある新聞記者に宣子のとった行動を教える代わりに、住所を聞き出すことに成功したのだ。
早速、宣子を訪ねた雪子。
しかし、雪子はまだ宣子を知らなかったのだ。
母の件に謝罪を要求する雪子だが、宣子はしれっとシラを切る。
あくまで知らぬ存ぜぬを決め込む宣子。
尚更、怒りを覚えた雪子は宣子を責める。
そのうちに、宣子が逆上。
あの場の恐怖を教えてやると包丁を持ち出し、振り回し始めた。
明らかに宣子は普通の状態ではない。
このままでは殺されると思った雪子は、怒りもあり、逆に宣子を殺してしまう。
ふと気づけば、血塗れの雪子。
慌てて洗濯機で服を洗ったのだ。
其処へ雨が降り始めた。
これならば多少、濡れていても構わないとそのまま逃亡することに。
しかし、傘をささずに歩くと怪しまれかねない。
宣子宅から傘を失敬したのだが……この傘が派手過ぎた。
人目を引くことを恐れた雪子。
だが、傘は手放せない。
そこで、折れた傘ならばささずとも、持っているだけでも大丈夫ではないかと考えるように。
この為に車に傘を轢かせていたのである。
一方、御手洗は2体目の死体の謎に興味津々であった。
担当刑事から情報を聞き出すことに。
刑事によれば、宣子と共に死亡してたのは詩子という主婦。
宣子を殺したと思われる凶器の包丁からも詩子の指紋が検出され、彼女が犯人で間違いないと判断されたらしい。
だが、詩子の死因迄は、解剖が終わっておらず分からないとのことだが……。
さらに、犯行現場付近では傘を持った女による襲撃事件が頻発していた。
子連れの主婦たちが傘を持った女により怪我を負わされていたのである。
詩子がこの被害に遭っていたことも判明する。
事情を聞いた御手洗は詩子の指先を確認するよう指示。
指先に傷があることを確認した御手洗は「謎が解けた」と口にする。
雪子はあの夜のことを思い出していた。
宣子宅から傘を手に逃げ出した雪子。
咄嗟の機転で傘を折ることまでは上手く行った。
ところが、折れた傘を手に歩いていたところ、何者かにいきなり襲撃されたのである。
相手は必死の形相で手にした傘を雪子に叩きつけて来る。
雪子は揉み合いになった挙句、相手を突き倒してしまう。
それきり、ピクリとも動かなくなった。
しかし、この騒動で雪子の服は汚れてしまった。
困り果てた雪子は、迷惑料代わりに体格の似た襲撃者と服を交換することを思い立つ。
そうして、やっと自宅まで帰って来たのだが……極度のストレスと雨に打たれたことから体調を崩してしまう。
さらに、翌朝になって、宣子の部屋であの襲撃者の死体が見つかったと知り倒れてしまう。
一方、御手洗は事件の真相を語り始める。
この事件には全部で3人の人物が関わっていた。
被害者である宣子、謎の死を遂げた詩子、そして宣子を殺害した犯人。
むしろ、詩子は無関係の人物らしい。
宣子を殺害した犯人は、御手洗の推理通り逃走した。
しかし、其処で思わぬアクシデントが起こったのである。
詩子に傘で襲われたのだ。
以前、傘で襲撃された詩子は雨の中、傘もささずに歩く犯人を見て自分を襲った人物と誤認した。
そこで、復讐しようとしたのである。
この後、どうなったのかは分からない。
おそらく、詩子は一時的に気絶させられたものと思われる。
結果、犯人により服を交換させられてしまう。
そのまま犯人はその場を逃亡、この際、傘と包丁を現場に忘れてしまった。
意識を取り戻した詩子は、傘に書かれた住所から宣子宅を突き止め、拾った包丁を持って押しかける。
もちろん、犯人が宣子だと思ってのことだ。
ところが、此処で思わぬことが起きた。
暗闇の中、宣子の飼っていたハムスターに指先を噛まれたのだ。
指先の傷はこれであった。
実は詩子はハムスターアレルギーだった。
宣子の死体を発見したショックも重なり、詩子は死亡してしまう。
こうして、2つの死体が完成してしまったのだった。
御手洗はこの事件の真犯人として宣子に恨みを持ち、服が交換出来たことから詩子と体格の似た人物を捜すよう助言するのだった。
一方、意識の混濁から覚めた雪子。
其処は警察病院であった。
御手洗の助言により、雪子は身柄を拘束されたのである。
事件発生から僅か3日後、スピード解決であった。
もはや逃れられないと察した雪子は担当刑事に詩子は殺害していないと伝えようとする。
しかし、その事実は既に明らかになっていた。
とりあえず、それが分かっているのならばいいと胸を撫で下ろす雪子。
宣子については正当防衛も主張できるだろう。
今はただ、久しぶりに落ち着いた気分で眠りたかった―――エンド。
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・『糸ノコとジグザグ』(島田荘司原作、原点火画、講談社刊『週刊モーニング』3号連続掲載)ネタバレ批評(レビュー)
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