ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
赤城下ろしがふきすさぶ、寒い2月。父親の危篤の報を受けた斎木亮は、前橋駅に降り立った。そこで初恋の女性の妹・川村千里と偶然に出会う。彼女の口から初めて聞かされる、姉・麗子の死。睡眠薬を飲んで浴室で事故死、という警察の見解に納得のいかない、亮と千里は独自に調査を開始する。最近まで麗子と付き合いのあった中学時代の同級生を、訪ねるが――。著者の地元、前橋を舞台に、一途な若者たちを描いた青春ミステリの傑作。約20年ぶりの大幅改稿で贈る決定版。著者あとがき=樋口有介/解説=法月綸太郎
(東京創元社公式HPより)
<感想>
樋口有介先生の長編第2作にして、第103回直木賞候補に選ばれた作品。
テーマは「失われた青春時代への哀惜」かな。
最終的に「失われた筈の青春を(別な形で)取り戻す」構成なのが良かった。
もっとも、主人公自身が未だ大学生であり、青春を惜しむには些か早過ぎる気もしますが。
普通だとこういった感情は、卒業後10年しての同窓会などで語られるものかなとも思う。
それだけ、主人公が現状に不満を抱いており、過去にしがみついてたことの表れともとれるけど。
語り口も柔らかいので読み易いのも良かったかな。
一応、下にネタバレあらすじありますが、端折っている点も多いので、原作を読まれた方が良いと思います。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
斎木亮:元不良、現在は故郷を離れ東京の大学生。
川村千里:麗子の妹、女子高生。
川村麗子:斎木の想い人、謎の死を遂げる。
氏家孝一:医者を目指すも挫折。現在はスナック『青猫』を開業。
竹内常司:東京の大学生。
桑原智世:氏家の彼女、看護師。
野代亜矢子:女子大生。
斎木亮は父の危篤を聞き、東京の大学から故郷の群馬へと久しぶりに戻って来た。
前橋駅に降り立った亮は、女性に声をかけられる。
相手は川村千里、亮が高校時代に淡い想いを寄せていた麗子の妹であった。
そして、亮は驚くべきニュースを聞かされる。
千里によれば、麗子が死亡したと言うのだ。
しかも、風呂場で全裸の上、頭から浴槽に突っ込みお尻を突き出すという恥ずかしい姿勢での溺死らしい。
麗子からはベンゾジアゼピン系誘導体の睡眠薬が検出されており、結果は睡眠薬を服用しての事故死とされていた。
だが、千里はどうしても信じられないと語る。
麗子は薬品に強い拒否感を抱いており、睡眠薬を飲んだとは思えない。
さらに、そんな恥ずかしい姿勢で麗子が死ぬとは思えなかったのだ。
これに同意した亮は、千里と共に事件の真相を追うべく高校時代の同級生を訪ねて歩くことに。
高校時代に学級委員をやっていたエリート、氏家孝一。
その他に、竹内常司、桑原智世、野代亜矢子たち。
懐かしい面々を訪ね歩く亮だが、全員があの頃とは変わってしまっていた。
氏家は東京大学進学を目指すも挫折し、現在ではスナック「青猫」を開業していた。
竹内は無気力な東京の大学生に。
桑原は氏家の彼女で看護師に。氏家には浮気癖があり、気苦労が絶えないらしい。
野代は女子大生に。麗子の死については、彼女の恥ずかしい死に方を知っており、頭部に傷があったことまで触れる。これについては智世に聞いたそうだ。
矢先、竹内が「麗子を殺害したのは自分である」と遺書を残し自殺してしまう。
遺書によれば、竹内は麗子と交際しており、捨てられたので殺したそうだ。
こうして、事件は終わったかに思われたが……。
亮は麗子が飲んだとされる睡眠薬がベンゾジアゼピン系誘導体であり、医者から麗子に処方されたものもそれと同じベンゾジアゼピン系誘導体、さらに1錠だけ処方箋が減っていると知り、あることに気付く。
桑原智世を訪ねた亮は彼女こそが麗子を殺害した犯人だと詰め寄る。
麗子を殺したのは竹内ではなかったのか?
いや、違ったのだ。
竹内は麗子を愛していたが、一方的な物で相手にもされていなかった。
そこへ麗子の死、さらにその死に他殺の疑惑があると聞き、ある恐ろしい考えに行きつく。
「このまま生きていても自分は無意味である」と考えた竹内は、いっそのこと自殺することで自身に存在意義を見出そうとしたのだ。
そう、「麗子と交際していた」との「偽の事実」にて、自分の人生を彩ろうとして自殺したのである。
そして、1錠減っていた睡眠薬。
亮は減った1錠こそ、麗子が服用したものと考えていた。
だが、あの減った1錠こそ、警察が現場から分析の為に回収したものだったのだ。
警察は麗子に睡眠薬の常用癖があると考え、特に残数を重視していなかった。
つまり、処方された睡眠薬は1錠たりとも減ってはいないことになる。
麗子は1錠たりとも処方箋を口にしていなかったのだ。
では、死亡した麗子は何処で睡眠薬を服用したのか?
しかも、処方されたものと同じベンゾジアゼピン系誘導体の睡眠薬で。
此処から導き出される結論は1つ。
麗子が処方された薬について知識があり、それと同じ物を入手できる立場にあった人物。
そして、処方された薬について麗子から聞き出すことが出来たほど身近な人物。
それは、現役看護師の桑原智世しかいない。
何より、智世は公表されていなかった麗子の頭の傷についても亜矢子に伝えていた。
おそらく、麗子の名誉を貶めるべくその死の無様な詳細を教えたのだろう。
それが仇になったのだ。
―――いや、その危険性を知って尚、どうしても貶めたかったのかもしれない。
何故なら、智世の動機は「麗子が智世の愛する氏家を手酷く振ったこと」だったから。
智世の恋人・氏家がまったく相手にされず麗子に振られたことで、智世まで軽んじられたように感じたのだ。
智世にとって、あんなに愛している氏家が、麗子にとってはなんの価値もない。
これは智世の自尊心を傷付けるには充分であった……。
こうして、麗子を貶める為だけにその殺害が実行されたのだ。
竹内が余計なことをした為に真相が分かりにくくなっただけなのである。
しかし、亮の追及には具体的な物証がない。
状況証拠ばかりである。
智世は最後まで罪を認めようとしないのだった……。
亮が東京へ戻る日がやって来た。
何も伝えていなかったが、其処へ千里がやって来る。
亮は「麗子の死についてはこれ以上追及しない」と終結宣言する。
千里も亮の判断を支持した上で、実は麗子が亮に興味を持っていたことを明かす。
さらに、千里は亮へ「昔から亮を好きだった」と告げる。
これに対し、亮は「少し考える時間が欲しい」と言いつつ、それを受け入れるのだった―――エンド。
・「超再現!ミステリー」第11回「夏休みSP…イケメン&女子高生が事件解決裏切る女友達の本音…裸で死んだ美女に嫉妬(樋口有介著の青春ミステリー“風少女” ある女性が風呂場ででき死した!!そこには同級生同士の絡み合った人間関係が)」(7月31日放送)ネタバレ批評(レビュー)
◆関連過去記事
・『ともだち』(樋口有介著、中央公論新社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「超再現!ミステリー」第6回「“話題作…ともだち”空手チョップでド派手女子高生を襲う不思議犯人…出生に超秘密が(“ともだち”謎の犯人空手チョップでド派手女子高生を襲う…少女出生の秘密に犯人の影)」(5月22日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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