ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
童謡を歌いながら、アイツがやって来る!
ネット上に実名を晒された悪辣なレイプ犯や鬼畜な小学校教師が、次々に処刑されていく――。
「森のくまさん」を名乗るシリアル・キラーの正体は!?
編集部推薦作家デビュー!『このミス』大賞 2012隠し玉
童謡を歌いながら、アイツがやって来る!ネット上に実名を晒された悪辣なレイプ犯や鬼畜なキャバ嬢が、次々に処刑されていく――。掲示板に犯行声明を出す「森のくまさん」を名乗るシリアル・キラーの正体は!?第9回『このミステリーがすごい!』大賞最終候補作に、全面的に手を入れて生まれ変わった、編集部推薦の「隠し玉」です。
(宝島社公式HPより)
<感想>
第10回「このミステリーがすごい!」大賞隠し玉4作品の1つ。
応募時タイトルは『森のくまさん――The Bear――』。
・第10回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は「懲戒弁護士」に
隠し玉中、1番インパクトのあった作品はこれ。
全体的なイメージとしては『連続殺人鬼カエル男』に近いか。
表紙もそれを狙っている感じもあるし。
・『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
幾つか仕掛けられているトリックも面白い(アナグラムには驚いた)。
ラストの明日香(TOMORROW)と琴乃(KOTO)により、次なる悲劇を予想させる点もなかなか。
それとラストと言えば、話の流れから、てっきり正体を知られた本物の「森のくまさん」があの人を殺害し、罪を背負わせて逃れるみたいなラストを想像していたのですが、ストレートな決着となっており其処は良かった。
全体的に雰囲気の近い『連続殺人鬼カエル男』が良かった人はこちらもオススメですね。
ネタバレあらすじはかなり改変しており、きちんと本書を読まれた方が楽しめると思うので注意。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
若林健介:警察官、「森のくまさん」を追う。
九門正則:菜々美の恋人。
菜々美:健介の妹。正則と交際中。
ひより:健介の恋人。菜々美の親友。
佐藤:警察官で健介の先輩。拳銃を奪われてしまう。
明日香:「森のくまさん」の協力者。「くまさん」に愛情を抱いている。
琴乃:「森のくまさん」の協力者。同性ながら明日香を愛している。
ネット上で話題沸騰のシリアルキラー、その名も「森のくまさん」。
「森のくまさん」は正義を標榜し、ネット上で評判の悪い人物を次々と殺害していく。
その後、犯行声明を匿名掲示板に投稿するのだ。
そして、今日もまた援助交際をしながら料金の支払いを踏み倒した男が殺害された……。
ネット上では、「くまさん」の行動を巡り賛否両論。
一部には熱烈な支持者が出ていた……。
ある者は「くまさん」は必要悪だと語る。
ある者は単なる犯罪者に過ぎないと非難する。
ある者は無責任に「くまさん」を持ち上げる。
ある者は信仰心を抱く。
だが、少しずつではあるが「くまさん」を支持する者が増えて行くことは不気味であった。
こんな状況を、刑事である若林健介の妹・菜々美と、菜々美の親友であり健介の恋人・ひよりも苦々しく思っている。
彼らの大切な人である健介にとって「森のくまさん」は逮捕すべき敵であったからだ。
だが1人、菜々美の恋人でT大学の生徒・九門正則はこの話題に興味津々といった様子だ。
正則は自身が卒業したら、警察官僚になって逮捕してやると息巻いていた。
当の健介は連日連夜、帰宅が遅い状況が続いていた。
「森のくまさん」事件に加え、健介の先輩警官である佐藤が何者かに刺され拳銃を奪われるとの事件が発生していた為である。
恋人であるひよりとも碌に話が出来ない状態であった……。
明日香と琴乃は同じ学校の同級生であった。
明日香はイジメに遭っており、琴乃は同性である明日香に恋愛感情を抱き彼女を守っていた。
しかし、攻撃は日に日に激しくなるばかり。
そんなある日、あいつに出会った。
あいつは警察官を名乗り、2人を誘い「森のくまさん」を始めた。
あいつは自身を「若林健介」と呼んだ。
「森のくまさん」による犯行は続いた。
やがて社会現象とまでなった頃、模倣犯が現れた。
もはや、誰にも「森のくまさん」は止められないかと思われた。
その頃、菜々美は友達から九門正則がT大の生徒ではないと知らされる。
正則は菜々美に嘘を吐いていたのだ。
気になった菜々美が調べたところ、正則は大学生ではなくフリーターであったことが判明する。
彼が日頃語っていた警察官僚の夢もすべて嘘だった……。
一方、ひよりは健介を尾行していた。
健介の様子が不審だったからである。
そこで、健介が不良集団と接触している姿を目撃してしまう。
不審が疑念から確信へと近付いた直後、ひよりは健介の仲間らしき人物に捕まってしまう。
正則の嘘を知った菜々美は別れを切り出すべく彼のもとへ。
そこで何故か、警官姿の正則を見かける。
異常を察した菜々美は正則を尾行することに。
ひよりは自身を捕まえた相手から謝罪されていた。
健介の彼女と分かった途端に態度が変わったのだ。
此処に健介からも事情説明が行われた。
実は健介は佐藤を刺し拳銃を奪った犯人を独自の捜査で追っていた。
そこで、地元の不良グループに接触し、彼らの協力を募ったのである。
もともと、佐藤は不良の更生に力を尽くしており、彼らからも信頼されていた。
それに加え、連日連夜の健介の説得に不良グループも協力を約束したのだと言う。
だが、彼らは信用した健介以外には協力する気が無く、結果、健介に負担がかかっていたのである。
そんな中、目撃者の証言から佐藤を襲撃した人物が判明する。
同時にその犯人こそが「森のくまさん」だということも明らかに。
犯人は健介とひより共に顔見知りの人物であった。
正則を尾行した菜々美は目の前の光景に唖然としていた。
警察官の制服を身に着けた正則は、2人の女学生を従え、誰かに暴行を働いているのだ。
しかも、彼は「健介」と呼ばれている。
ワケも分からず飛び出した菜々美に、健介は自分が「森のくまさん」であることを明かす。
其処へ、健介から菜々美に電話が。
居場所を報せた菜々美だが、携帯電話は2人の女学生に没収され、拘束されてしまう。
明日香と琴乃は戸惑っていた。
ようやっと、明日香をイジメていた敵を抹殺しようとしていたら、見知らぬ女性が現れた。
その人物によれば、「健介」は「健介」ではなく、警察官でもないと言う。
正体は九門正則らしい。
騙されていたことを知った琴乃は正則を倒そうとするが、明日香に邪魔され返り討ちに遭ってしまう。
明日香は正則を愛していた。
正則が健介であろうがなかろうが「森のくまさん」である事実に変わりはないと考えたのだ。
だが、正則はそんな明日香をも殺そうとする。
それでも、明日香は正則に尽くそうと気絶した琴乃に執拗に攻撃を加える。
正則はといえば、明日香への興味を失った様子で菜々美を殺そうと銃を持ち出すのだった。
そう、佐藤から奪った銃である。
銃を突き付け、自分に従うよう菜々美に迫る正則。
だが、菜々美は屈しない。
苛立つ正則の前に、健介の連絡を受けた警官が到着する。
しかし、敢え無く正則に射殺されてしまう。
正則は「自分に敵う者はいない」と豪語するが……。
今度は銃を手にした健介が登場。
余裕の正則はこれと交戦する。
結果、勝敗が決した―――。
ネット上では「森のくまさん」逮捕の話題で盛り上がっていた。
信者は一様に落胆し、批判者は鬼の首を取ったように大喜びする。
正則は逮捕された。
銃のプロと素人の差が出たのだ。
健介の弾は正則の肩を貫き無力化した。
正則の弾は体勢を崩した健介に避けられてしまった。
こうして、正則は敗れたのである。
ひよりは通常の生活に戻った、健介とも上手く行っている。
菜々美は表面上は平静を装っているが、心に負った傷は深いだろう。
佐藤は回復の兆しを見せている。
一方、逮捕された後も正則は淡々としていた。
彼と話した健介は思う―――こいつは化け物だ、と。
健介自身も正義について迷う時がある。
本当に守るべき相手なのかどうか、考えてしまう時もあるのだ。
そんな時、自分はあちらとこちらの境界線で彷徨っている。
だが、こいつは初めからあちらの住人なのだ。
そんな健介の心を見抜いたように正則は不敵に微笑むのだった。
こうして、「くもんまさのり」こと「もりのくまさん」は判決を待っている。
「森のくまさん」は「九門正則」のアナグラムだったのだ。
そして、協力者であった明日香と琴乃は―――。
琴乃は明日香に受けた傷が原因で入院していた。
そんな琴乃のもとに明日香が現れる。
2人は未成年ということで罪に問われないこととなった。
琴乃は明日香に復讐は終わったと語るが、明日香はかぶりを振る。
いや、明日香は琴乃を蔑むような目で見つめた。
「あんたには分からないかもしれないけど、次に森のくまさんになるのは私だから」
明日香の言葉に驚く琴乃。其処には本性を現わした明日香が居た。
「反省なんてしてないっつーのにね、楽勝だったよ」
明日香はそれはそれは楽しそうに自身の優越を言葉にしていく。
彼女はあれだけ愛していた筈の正則を扱き下ろすと、自分が如何に優れているか語り続けた。
そして、琴乃を如何に嫌っていたかについて罵声を浴びせ続けた。
「気持ち悪いのよ、あんた。あんたの利用価値はもうないし、さよなら」
そう言い捨て病室を去る明日香。その背中に琴乃は呟く。
「待って……私、あなたを殺したくてたまらない」
「てめえに出来るワケねぇだろ、バカ。ぎゃはははははは」
高笑いを残して明日香は去った。1人残された琴乃の胸中は―――。
某日、とある掲示板。
「TOMORROW」を名乗る人物が「森のくまさん」復活を仄めかしていた。
だが、誰も相手にしようとしない。ただ、1人を除いては。
「私、あなたに会いに行くわ」
その人物は「KOTO」を名乗っていた―――エンド。
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