2012年08月18日

『限定販売特性濃厚プレミアムシュークリーム事件』(倉知淳著、講談社メフィスト掲載)

『限定販売特性濃厚プレミアムシュークリーム事件』(倉知淳著、講談社メフィスト掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

超豪華執筆陣の「超」最新作!
(アマゾンドットコムさんより)


<感想>

やっぱり、倉知先生はイイ!!
シリアスからコメディまで、千変万化の作家さんです。
惜しむらくは寡作な事か……。

そんな倉知先生の新作短編が『メフィスト』に掲載されました。

メタボ気味の人々が集まる場所で起こった「○○消失事件」。
その犯人は一体、誰か?
ロジックで導き出される犯人とラストのアレに脱力しつつ驚嘆せよ!!
そして、笑え!!

「QED」の箇所も良かった。
ちょうど、次ページに跨る端に書かれているので、ページを捲らないと続きがあることに気付かないと言う。
あれで本当に終わりかと思った。
それだけにその後の展開に身悶えしてしまうほど。

短編としての切れ味も鋭く、是非読んで頂きたい作品です。
こうなると、猫丸先輩の新作も読みたいぞ!!

<ネタバレあらすじ>

其処にはメタボ気味の男たちが集まっていた。

煙草がトレードマークの一木。
システムエンジニアの二ノ瀬。
アイスクリーム大好き三条。
メタボ界のシャーロック・ホームズを自称する四谷。
以上の4人である。

彼らの前にはコーチを名乗る十津川が仁王立ちしている。
「痩せる為には努力が必要なんです!!」
訓示を続ける十津川に、げんなりした様子の4人。

ここはメタボ解消の為の2泊3日ダイエット合宿の現場。
人里離れた山の中、ペンションを貸し切って行われていた。
主催者は先のコーチである十津川だ。

普段やりなれないトレーニングを強制される4人。
共通の敵は連帯意識を高める。
十津川憎しの想いから4人には仲間意識が芽生えつつあった。

世間では夕食時となった。
だが、彼らはダイエット中の身、食事は出ない。
そんな中、十津川の姿が消えてしまう。

彼らは気付く、十津川は人里へ食事を摂りに出かけたのだ―――と。

そして、二ノ瀬と四谷は冷蔵庫を調べ、あることに気付いた。
十津川はご丁寧にテープで帯封まで施していたのだ。
十津川の笑顔を思い出し軽く殺意を覚えた二ノ瀬と四谷は殺人事件を未然に防ぐべく他の2人には伏せておこうと語り合う。

それから数十分後、ペンションには憤慨する4人の姿があった。
彼らは十津川をとっちめてやろうと心に誓う。

其処へ十津川が戻って来た。
さぁ、吊し上げの時間だ!!
空腹の恨みをぶつけようとした矢先、当の十津川が素っ頓狂な声を上げる。
「無いっ!!俺の限定販売特性濃厚プレミアムシュークリームが無い!!誰が食べやがった、この泥棒がぁぁぁぁぁぁ!!」
4人は勢いを削がれ互いの顔を見合わせるしかなかった。

十津川によれば、食事を終えた自身のデザートとして合宿所の冷蔵庫にプレミアムシュークリームを収納していたらしい。
夕食を終え、楽しみにしていたソレ。
ところが、帰って来てみれば消えていたのだそうだ。
十津川は4人の中に犯人が居ると騒ぎ立てる。

もはや、夕食を摂っていたことを隠す気の無い様子の十津川に閉口する面々。
とはいえ、あまりの剣幕に犯人捜しが始まることに。

まずは現場百辺、冷蔵庫の部屋へ。
十津川によれば、シュークリームは出かける前には確かにあったと言う。
本当なら鍵を掛けたいところだったが、グッと堪えてテープで帯封を施していたらしい。
その帯封が今では無惨に破られている。
「本当に鍵を掛ければ良かった」
信頼が裏切られたと愚痴る十津川、それはこっちの台詞だとの言葉をグッと呑み込む四谷。
そして、冷蔵庫の近くでは椅子が動かされた形跡があった。
だが、誰も動かした覚えはない。

これを確認した四谷はメタボ界のシャーロック・ホームズ(自称)としてとして事件解決に動く。

容疑者は4人。一木、二ノ瀬、三条、四谷自身である。

まず、四谷は椅子が動いているにも関わらず、誰も動かしたと名乗り出ないことに注目。
犯人によるものと推理する。
此処から、一木は犯人ではないと断定。
何故か?

犯人は夕食時の暗い中、部屋へと足を踏み入れた。
そこで、見えなかった為に椅子にぶつかったと考えたのだ。
だが、一木は煙草を吸う。
当然、ライターを持っている。
灯りには事欠かない。
一木は除外。

次に、犯人は帯封を知らなかったと推理。
知っていれば騒ぎになるのは必定で、この状態でわざわざ盗み食いはしないと考えたのだ。
二ノ瀬と四谷は帯封について会話していた。
よって、除外。

最後に、冷蔵庫の封印は破られていたが、冷凍庫の封印が破られていないことに注目。
犯人は冷凍庫に興味が無いと断定。
アイスクリーム好きな三条も除外された。

4人の容疑者はこうして消えてしまった。
では、犯人は誰か?
四谷は被害者を名乗る十津川を犯人と指摘する。

十津川はシュークリームを口実に荷物捜しを正当化することが目的だったとの推理である。
さらに、その真の狙いは貴金属ではなく、二ノ瀬の社員証データだと断言する。
システムエンジニアである二ノ瀬の社の企業情報を盗むつもりだったのだ。
もともと、2泊3日でダイエットなど不可能。
企画意図がおかしい、真の狙いがあるに違いないのだ。

「素晴らしい!!」
喝采を挙げる一木たち。

これでQED(証明終了)……の筈だった。
ところが……。

詰め寄る四谷に、十津川は突然笑い出す。

「いやいやいや、身元がはっきりしている僕がそんなことしたらすぐバレるでしょう?」
十津川は余裕だ。
しかも、部屋の合鍵があるので、わざわざ騒ぎを起こさなくとも任意に部屋へ出入りできるのだ。

「そんな馬鹿な」
絶句する四谷に、二ノ瀬が「盗み食いした犯人は私です」と名乗り出る。
空腹のあまり、封印など関係なく冷蔵庫を漁ったらしい。

「そんな、きちんと論理的な行動をとって貰わないと困る」怒る四谷。
「いや、そう言われてもお腹が減ったし……」と二ノ瀬。
「お前だけ狡いぞ」と他の2人。
「このあと、緑支健宝茶(十津川考案のダイエット茶)を売りつけて、その売り上げで利益を上げるつもりだったのに。どうしてくれるんだ」怒る十津川。
これを聞いた他の面々が怒り出す。
「そもそも、シュークリームを食べちゃダイエットにならないし」
さらに続ける十津川。

もう、何が何だかぐちゃぐちゃである。
こうして、すべてがシュークリームのクリームのようにぐちゃぐちゃに終わったのであった―――エンド。

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(収録作『Aカップの男たち』について)

【その他】
倉知淳さんの「猫丸先輩」が舞台化!!

倉知淳先生の作品集「なぎなた」&「こめぐら」は東京創元社さんより9月30日発売!!

『限定販売特性濃厚プレミアムシュークリーム事件』が掲載された「メフィスト 2012 VOL.2 (講談社ノベルス)」です!!
メフィスト 2012 VOL.2 (講談社ノベルス)



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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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