ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
ハワイに降り立った少女が見た古い日記の謎を、気鋭が情緒豊かに描く読切短編。
(東京創元社公式HPより)
<感想>
デビュー作にして傑作『叫びと祈り』で一躍注目を浴びた梓崎優先生。
『スプリング・ハズ・カム』以降の新作が待たれており、『リバーサイド・チルドレン(仮)』がそれに当たるかと思われていましたが、先に短編が『ミステリーズ!2012年8月号』誌上にて発表されました。
それが、本作『美しい雪の物語』であります。
読んでみましたが、期待通りの良作です。
登場人物は殆ど「少女」に「少年」、「叔父」など匿名だけ。
そこが物語に深みを与えると共に、幻想的な雰囲気の醸造に一役買っています。
そして、ラストに繋がる!!
さらに、ラストにてあの名前が出たことで、少女の願いが叶えられるであろうことも読者に匂わせています(名前の解釈についてはネタバレあらすじ後の捕捉を参照されたし)。
これがイイ!!
読者の想像力を適度に刺激しつつ、最適解に導いている―――まさに、見事としか言えない作品です。
管理人の感想を読むより、本作を読むべき……いや、読め!!
<ネタバレあらすじ>
ハワイにて、少女は叔父と2人で街に出て来ていた。
少女は日本人の母とハワイ生まれの父のハーフ。
母は少女が幼くして死亡しており、父も今はハワイを離れている。
父の都合により引っ越してきた少女を叔父は気遣う。
ハワイに詳しくない少女に、叔父はハワイでもっとも美しいものはコナ・スノーだと語る。
途中、土産物屋に立ち寄った少女はそこで奇妙な字を書く少年と出会う。
少年は、店の包装紙に「G」と繰り返し書いていた。
興味を持った少女は少年にその意味を問いかける。
少年によればそれは「G」ではなく、釣り針らしい。
幸運の御守りなのだそうだ。
少年は土産屋の子供で、買い物客に対し手製の御守りを渡していたのだ。
だが、少年はこれは秘密だと言う。
御守りの意味を知ってしまえば、願掛けになってしまうのだそうだ。
この場合、釣り針の絵が御守りであることを知れば、効果を失くすと言うのだ。
分かったような分からないような理屈に少女は面喰う。
祖母が日本人でクォーターであると語る少年との再会を約し、少女は別れた。
叔父の家に戻った少女。
其処は曽祖父の代から続いている家。
そこで少女は1つの日記を見つける。
フランク・シナトラなど、日記には少女の良く分からない固有名詞が並べられていた。
どうやら、かなり古い物のようだ。
そこにはシナトラの音楽をきっかけに出会ったとある1組の男女が描かれていた。
女性はシナトラの歌詞が良く分からなかったが、男性と意気投合したようだ。
最終的に、男性が戦争に赴くことで、2人は別れを告げて終わっていたが……。
彼らは最後に、再会したらハワイでもっとも美しいものを2人で見ようと約していた。
少女は遠い異国の地にある父の身を案じ、いつしかこの男女と自身を重ね合わせるようになる。
この男女がもしも再会出来ていれば、父と自分も再会出来るのではないか?
少女は悩んだ末に例の土産屋へ足を運ぶ。
土産屋には少年は居なかった。
代わりに少年の祖父が居た。
少年の祖父と話すうちについ日記のことを打ち明けた少女。
少年の祖父は、ハワイでもっとも美しいものとはコナ・スノーであり再会を意味していること。
だが、男性は第2次大戦に出征したのであり、女性は英語の歌詞が良く分からないとあれば日本人であろうと推測。
だとすれば、当時の敵国同士の恋愛となる。
おそらく悲恋に終わったのだろうと告げる。
これにショックを受ける少女。
1人肩を落とす少女に、戻って来た少年が声をかける。
少年は祖父の言葉はあてにならないからと少女を励ます。
少年によれば、男女の願いは叶うだろうと語る。
何故なら、彼らにとってコナ・スノーは願掛けではなく御守りだったから。
もしも、彼らがコナ・スノーが再会の意味を持つと知っていれば願いは叶わないだろう。
だが、彼らはコナ・スノーの写真すら交わさなかったように、互いにその意味を理解していなかった。
つまり、意味を知らない以上は御守りとして効果がある。
だから、彼らは再会できたに違いない。
良く分かったような分からないような少女。
ただ、なんとなく少女は意味を理解しつつあった。
少女は学校で聞いた虹の話を思い出した。
虹の根元はどこかに繋がっている。
つまり、何処かの誰かは虹に囲まれているのだ。
しかし、本人はそれを知らない。
周囲だけがそれを理解することが出来る。
少女はとても悲しいことだと思った。
だが、クラスメートや先生たちは素敵なことだと語っていた。
少女は恵まれている人間は自身がそれであるとは気付かないのだとさらに悲しくなった。
その頃、少女の叔父は少女が見つけたものと同じ日記を発見していた。
顔を綻ばせる叔父。
何故なら、それは少女の父と母が出会った記録だったから。
父は湾岸戦争に赴く為に母と別れ、また再会したのだ。
「早く帰って来ないと娘にバラしちまうぞ、兄貴」叔父は呟く。
少女の父は今はアフガンに軍医として出征しているのだ。
当の少女は、未だ少年と語り合っていた。
「そう言えば名前を聞いてなかった」と少年。
少女は意味は良く分からないんだけどと、ハニカミながら自身の名前を語る。
「ミユキ」と。
少女の名前には父母の願いが込められていることを、少女自身は知らない―――エンド。
捕捉:少女の名前は「ミユキ」。タイトルから考えて「美雪」であると思われる。
両親は「美しい雪」として再会を意味する(また、自身の想い出となっている)「コナ・スノー」から名付けたのだろう。
だが、少女自身はこの意味を知らない。
従って、少年の言う御守りの効果が見込まれる。
さらに、少女自身が虹について感想を抱いたように、少女自身もそれに気付いていないことも分かる。
これらから、少女と父親との再会を匂わせている。
◆関連過去記事
【梓崎優先生著作ネタバレ書評(レビュー)】
・「叫びと祈り」(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ批評(レビュー)
・「スプリング・ハズ・カム(放課後探偵団収録)」(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・梓崎優先生、最新作は「リバーサイド・チルドレン(仮)」!!舞台はカンボジアとのこと
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