本作以外に東野圭吾著『ゲームの名は誘拐』についてのネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
偉才・歌野が放つ、誘拐ミステリーの大傑作!!
「私を誘拐してください」借金だらけの便利屋を訪れた美しい人妻。報酬は百万円、夫の愛を確かめるための狂言誘拐。シナリオ通りに仕事は成功するが、身を隠していた女が殺されているのを見つけて…。傑作ミステリ!
(角川書店公式HPより)
<感想>
『密室殺人ゲーム』シリーズで知られる歌野晶午先生の作品です。
講談社版と角川書店版が出版されており、今回は角川書店版を読みました。
前半が誘拐ミステリ、後半が便利屋によるハードボイルドものの構成。
これが上手く結合されてはおらず、ちょっとミスマッチかな。
全体的に2本の中編を繋ぎ合わせた印象。
それと、些かトリックに無理があるような気がする。
本作のトリックでは、事前に依頼人と顔を合わせているので、死体を確認されることで黒子など身体上の差異に気付かれ露見する危険性が高いような……。
これならば「隆幸が佐緒里を騙し、演技させた上で殺害した」とかの方がしっくり来たかな。
ちょっと、モヤッとしました。
加えて、隆幸の姉と弟のキャラが良かっただけにあれだけしか触れられなかったのは勿体なかった。
特に弟のキャラは探偵役にもってこいで、いっそのこと彼視点で物語を進めても良かったのではないか。
ただ、着眼点である「○○が本作スタート時点で既に○○されている」との発想は面白かった。
それだけに、処理の仕方が余計に勿体なく感じる。
個人的に「本作はトリックに優れているものの、その処理(見せ方)に難あり」との印象。
角川書店版には法月綸太郎先生による解説が付属。
それによれば、歌野先生の作品と東野圭吾先生の作品は奇しくもテーマ的にリンクしているものが多いとのこと。
この説を借りれば、本作『さらわれたい女』は東野先生の『ゲームの名は誘拐』とリンクしているということになるのだろうか。
確かに、物語のアウトラインや設定、トリック(此処は大きい!!)などに類似性を感じますね。
この比較で言えば、前述の問題点を解消しており『ゲームの名は誘拐』の方が良く出来ていたように思います。
『さらわれたい女』は1992年、『ゲームの名は誘拐』は2002年(2000年から連載開始)の作品です。
・『ゲームの名は誘拐』(東野圭吾著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
ちなみに本作『さらわれたい女』は「カオス」とのタイトルで映画化もされています。
便利屋には黒田との名前が与えられた他、登場人物名も原作とは些か違ってたりする。
監督は中田秀夫監督。便利屋役は萩原聖人さん、佐緒里役は中谷美紀さん、隆幸役は光石研さん、浜口刑事役は國村隼さんが演じている。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
便利屋:狂言誘拐を依頼された男。
小宮山隆幸:佐緒里の夫。
小宮山佐緒里:便利屋に狂言誘拐を依頼した。
津島さと子:???
栗原維:???
浜口:担当刑事
便利屋はある女性から誘拐を依頼され、実行に移すことに。
小宮山隆幸のもとに妻である佐緒里を誘拐したとの電話がかかって来る。
誘拐犯は佐緒里の身代金を要求。
驚き慌てる隆幸だったが要求に応じることに。
しかし、隆幸の裏をかくように、犯人は隆幸の姉を脅迫。
「義理の妹を殺したくなければ、身代金を払え」と告げた。
息子も誘拐したと聞かされた隆幸の姉は混乱し確認もせずに身代金を支払ってしまう。
実は、誘拐されていたのは佐緒里だけであった。
こうして、身代金入手に成功した犯人。
その正体は佐緒里から狂言誘拐を依頼された便利屋その人である。
佐緒里はマザコン気味の夫の愛情を確かめたいとの理由で狂言誘拐を目論んだのだ。
大金を手に、ほくほく顔で佐緒里の潜伏先を訪れた便利屋は凍りつく。
そこには佐緒里が死んでいた!!
ワケが分からないものの、面倒事に巻き込まれるのは御免である。
便利屋は逃げ出すことに。
ところが、数日後に便利屋自身に脅迫電話がかかって来る。
相手は便利屋の狂言誘拐を指摘、佐緒里の死体を始末するよう要求。
便利屋はこれに屈することに。
解体し遺棄した便利屋だったが、天網恢恢疎にして漏らさずとは言ったもので、あっさり死体が発見されてしまう。
こうして、被害者の身元不明の状態で殺人事件として捜査が開始されてしまう。
便利屋へ捜査の手が届くのもそう遠くはない。
それまでに佐緒里殺害の真犯人を捕まえなければ!!
追い詰められた便利屋は犯人捜しを開始する。
まず、佐緒里の潜伏先に注目。
此処の持ち主が栗原維であると知り、便利屋は驚く。
それもその筈、栗原は隆幸の姉の夫であった。
現在は家業の関係で単身田舎に戻っているらしいが……。
もしや、潜伏先は栗原の愛人宅だったのではないかと考え始めた便利屋。
栗原の周囲を調べ始め、自身に狂言誘拐を依頼した佐緒里―――いや、佐緒里を名乗った女を発見する。
その正体は津島さと子であった。
便利屋は此処で何もかもに気付く―――自分は初めから騙されていたのだ。
実は隆幸とさと子は愛人関係にあった。
義理の兄である栗原とは大学時代からの親友だった隆幸は彼から会社が所持する不動産の管理を依頼されていた。
そこで、さと子を囲っていたのである。
ところが、これが佐緒里にバレた。
佐緒里は隆幸とさと子の情事の現場を抑えたのだ。
争いになった彼らは佐緒里を殺害してしまう。
此処で、佐緒里と容姿が似通っていたさと子がとんでもないことを提案する。
さと子が佐緒里を演じ、佐緒里が消えても不自然でないよう狂言誘拐を仕組み、その共犯とした人物に死体を処理させようと考えたのである。
これならば、まず事件にもなりにくい。
仮になったとしても、共犯者に殺人の罪を追わせればそれで済む。
一石二鳥の筈であった。
ところが、共犯となった便利屋はこれに気付いた。
便利屋は生前を知らないものの、佐緒里の仇を討つと決意。
隆幸たちに連絡をとる。
一方、さと子は便利屋の口封じを目論み、睡眠薬を飲ませ殺害を狙う。
隆幸とさと子は便利屋を訪ね、一服盛ることに成功。
余裕を持って事の真相すべてを明かす。
と、其処へ担当刑事である浜口たちが踏み込んで来る。
実は、便利屋は佐緒里の敵討ちとして隆幸たちを告発することを選び、囮捜査を実行し会話を盗聴させていた。
こうして、隆幸とさと子は逮捕されるのだった。
もちろん、便利屋もただでは済まないが、もとより覚悟の上であった―――エンド。
・「超再現!ミステリー」最終回(第13回)「“夏休み推理クイズ”私を誘拐して下さい…便利屋に依頼した女が死んだ…衝撃トリック(歌野晶午著“さらわれたい女”の謎解き)」(8月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)
◆歌野晶午先生関連過去記事
・『密室殺人ゲーム王手飛車取り』(歌野晶午著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『密室殺人ゲーム2.0』(歌野晶午著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『密室殺人ゲーム・マニアックス(前編)』(歌野晶午著、講談社刊、メフィスト2010 vol3収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『密室殺人ゲーム・マニアックス(後編)』(歌野晶午著、講談社刊、メフィスト2011 vol1収録)ネタバレ書評(レビュー)
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