ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
山本周五郎賞候補作『検事の本懐』で話題沸騰の佐方シリーズ。
かつて父親が弁護した殺人事件の“真実”とは!?
柚月裕子 業をおろす
(宝島社公式HPより)
<感想>
佐方シリーズ最新作の短編(2012年8月現在)です。
佐方シリーズには他に『最後の証人』、『検事の本懐』と未収録短編『心を掬う』がある。
すべて、過去にネタバレ書評(レビュー)していますね。
興味のある方は過去記事をどうぞ!!
『業をおろす』は『検事の本懐』で触れられた佐方の父・陽世の真実について語られた一篇。
『検事の本懐』収録の『本懐を知る』とは姉妹編の関係。
正直、『本懐を知る』の焼き直し的な色合いも強いのでどうかなぁ……。
本作単独で判断すれば、人情物に特化しようとし過ぎたあまりそれに溺れた感じがして、正直、シリーズ中で一番納得が出来ない。
もしも、この路線で続けられるのならば、個人的に肌に合わないかなぁ……。
まず、陽世が贖罪の意味を履き違えている気もする。
あれでは、実際の被害者は救われないだろう。
結局、陽世の行為は「被害者はあなただけじゃないんです、だから我慢してください」というもので、犯人は罰せられることもなく、誰も救われない虚しいもの。
下手をすると独り善がりである、気持ちは分かるが……。
あれだったら、自分を罰する前に、まず被害者に何らかの助力をするべきではないだろうか。
そんな陽世の独り善がりとも取れることを英心をはじめ皆(被害者遺族含む)が支持するのも納得いかないなぁ……。
被害者遺族が望むのは陽世の贖罪じゃなくて、犯人の贖罪だと思うのだが。
こういうと、人の心はそんなに単純じゃないって批判されそうだけど、納得いかない。
そもそも、事の発端である依頼自体を陽世が断るとの選択肢はなかったのだろうか。
この辺りがリアルではあるが、かなりモヤモヤした。
ファンタジーと言われそうだが、猫弁の方が好きだなぁ。
百瀬なら、弁護しつつ、犯行を認めさせる方策に全力を尽くした気もするし。
・『猫弁と透明人間』(大山淳子著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
そんなこんなで、本作はどちらかといえば、内容よりも登場キャラクターの1人で住職である英心のお披露目的な意味合いが強いように感じられました。
その分、英心は濃いです。
陽世はおろか、佐方さえも喰っています。
このキャラを見る為だけでも読む価値はあるかもしれない。
それと、時系列的に佐方の検事時代の物語です。
シリーズのファンはチェック!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
佐方:主人公。本作時点では検事。後に弁護士に転身する。
陽世:佐方の父、横領事件の犯人とされた。故人。
英心:陽世の友人。住職。
佐方の父・陽世の法要を、その友人である住職・英心の呼びかけで行うこととなった。
集められたのは佐方やその祖父など、陽世に近しい者が大半。
そんな中に、1人よく知らない女性が混ざっていた。
英心はこの席で、不当に横領の罪を着せられた陽世の名誉回復を図る。
『本懐を知る』で明かされた真実を、公のものとしたのだ。
さらに、陽世が何故、全く抵抗することなく横領犯の汚名を着たかも打ち明けられた。
当時、弁護士の陽世はある殺人事件の弁護を引き受けていた。
陽世は依頼人が犯人であると分かっていた。
だが、無実を訴える依頼人の求めに応じ、彼を無実にしてしまったのだ。
弁護士としては正しいが、人としてはどうだろうか。
悩んだ陽世は、身に覚えの無い横領犯となることで、この罪を償ったのだ。
陽世の真意を知り、彼の想いを支持する一同。
その中には例の見知らぬ女性も混ざっていた。
彼女は「陽世の行為に心が救われた」と泣き崩れる。
実は彼女は、陽世が弁護した殺人事件の被害者遺族であった。
こうした陽世の志もまた、佐方に受け継がれているのだ―――エンド。
◆関連過去記事
・『臨床真理』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『最後の証人』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『検事の本懐』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『心を掬う』(柚月裕子著、宝島社刊『しあわせなミステリー』収録)ネタバレ書評(レビュー)
【関連する記事】
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