ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
男は絶えず急な斜面に立っている……。傑作短篇集
10年ぶりに会った女は、男の会社の会長の妾だった。表題作「危険な斜面」ほか、刑事の張り込みを描いた「失敗」など全6篇を収録
男というものは絶えず急な斜面に立っている。爪を立てて上に登って行くか、下に転落するかだ――。十年ぶりに会った女は、男の会社の実力派会長の妾だった。彼女を利用して昇進に成功した男はやがて彼女の存在が邪魔になり……。表題作の他、強盗殺人犯の妻と張り込みの刑事を描く「失敗」など全六篇の短篇を収録。解説・永瀬隼介
(文藝春秋社公式HPより)
<感想>
野心家である秋場の栄光と転落を描いた作品です。
秋場は利江と出会うことで野心に火を点けました。
そして、その利江の為に失脚することになるのです。
その姿はまさに斜面に立つが如し。
ある意味、利江は秋場を支配することに成功しました。
その代償に自らの命を必要としましたが……。
そして、利江に必要とされなかった沼田こそが利江の仇を討つという皮肉。
秋場、利江、沼田、三者三様の思惑が入り混じる本作。
ラストは必見です!!
<ネタバレあらすじ>
パッとしない会社員・秋場文作は、ひょんなことから過去の恋人・野関利江と再会した。
実は利江は秋場の会社の会長・西島卓平の愛人であった。
野心を燻らせていた秋場はこれを出世の好機と考えた。
会長に近い利江の持つ情報は価値がある。
利江にとっても不安定な愛人ではなく、揺るぎない地位が欲しかった。
そして、秋葉の愛が欲しかった。
こうして互いに急接近した2人は昔ながらの関係を再開することに。
秋場は利江から情報を得ると、出世に役立てて行く。
利江は無邪気に喜んだ。
だが、2人の関係には決定的な齟齬があった。
秋場にとっては利江は利用価値のある人間の1人に過ぎなかった。
利江にとっては秋場は唯一の男となりつつあったのだ。
既婚者である秋場にとって利江は重荷になりつつあった。
やがて、利江という存在のデメリットがメリットを上回ったとき、秋場はこの関係を清算することに決める。
その方法は利恵を殺害することであった
こうして、秋場はアリバイを作ると利江を殺害し、その遺体を埋めた。
利江には西島や秋場以外にもう1人、若い恋人が居た。
その名は沼田仁一。
利江は秋場との再会以降、沼田と距離を置き始めた。
沼田はこの状態に不満を抱いていた。
誰が自分に代わり利江の心を射止めたのか……沼田は嫉妬の炎を燃やした。
矢先、利江が姿を消した。
そして、嵐の後に埋められた利江の遺体が発見された。
沼田は、利江に距離を置かれる寸前、「ヨシノさん」と口にしていたことを思い出す。
そう言えば、利江は何処か「ヨシノさん」について隠そうとしていた。
もしかして、「ヨシノ」こそが利江殺害の犯人ではないか……。
「ヨシノ」という名前を手掛かりに、調査を続ける沼田。
だが、利江の周囲からは同様の名前は出て来ない。
「ヨシノ」は姓なのか名なのか、それすら分からない中、沼田はふと「ヨシノ」が旧姓である可能性に思い立つ。
秋場の旧姓は吉野。
こうして、秋場の存在が沼田の眼前に現れた。
沼田は秋場こそが利江を殺した犯人だと確信。
飛行機を使った彼のアリバイトリックまでをも看破し、肉薄する。
だが、実際には証拠が無い。
そこで沼田が取った手段とは―――。
沼田は秋場に利江殺害を匂わせる手紙を送り続けた。
お前が犯人だと俺は知っている―――そのアピールである。
そして、止めに脅迫状を送り付けた。
その内容はこうだ。
秋場が利用した飛行機には新進女優の春野雪子も搭乗していた。
当然、空港ロビーには1目彼女を見ようとメディアとファンが押し掛けた。
そして、彼らは女優に向けてカメラのシャッターを切ったのだ。
その数は数え切れない。
人目につくことを避けた秋場だが、数限りないカメラから逃れることは出来なかった。
1つに秋場が撮影されていた。
このネガを自分が入手している。
20万円と引き換えにネガを渡そうではないか―――沼田はそう取引を持ちかけたのである。
秋場はこの取引に応じた。
沼田は何も入っていない封筒と引き換えに20万円を受け取った。
そのとき、沼田の両脇から2人の男が躍り出た。
沼田は叫ぶ。
「ほら、この男は取引に応じました。これこそ、この男が犯人である証拠です!!」
沼田の両脇から現れた2人の男は刑事であった―――エンド。
・松本清張没後20年特別企画「危険な斜面 偶然再会した元恋人によって、眠っていた“出世欲”に目覚めてしまった男…しかし芽生えたのは殺意だった!普通の男から悪魔へ…このまま男は昇りつめるか転落するか?」(9月30日放送)ネタバレ批評(レビュー)
◆松本清張先生関連過去記事
【小説】
・「霧の旗」(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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・松本清張没後20年特別企画『市長死す 死体になるまでの5日間に市長が見たものは何か?日記に隠された市長の意外な一面が驚くべき真実を浮かび上がらせる!たった一行の文章に秘められた誰も知らない12年前の出来事…53年ぶりに隠れた名作を映像化!』(4月3日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・松本清張没後20年特別企画「ドラマスペシャル 波の塔 汚職官僚連続殺人!!捜査検事に仕掛けられた女の罠!?“点と線”に続く大ベストセラーを完全映像化!東京〜京都〜富士、証言者を追う1000キロの旅衝撃の結末」(6月23日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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