2012年10月14日

『疑惑』(松本清張著、文藝春秋社刊)

『疑惑』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

二十五も年上の夫に多額の保険をかけ、車ごと海に沈めたのは稀代の悪女“鬼クマ”と断定する地方紙記者。非難の渦中で国選弁護人が一人奮闘する推理サスペンス。「不運な名前」併録。
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

今回、初読の作品です。
映像化版を視聴したことはあったのですが、原作との違いに驚きました。

特に白河福太郎の死の真相とは外れたところで、新たな因縁が生まれることになろうとは……。
そして、結果がアレだとは……。
あの後の出来事に思いを馳せると……ゾッとします。
佐原はどうなってしまうのでしょうか。

映画版『疑惑』では佐原と球磨子が中心でしたが、原作では秋谷が中心なのもポイントです。
その意味で、原作タイトル『疑惑』は「球磨子の福太郎殺害疑惑」ではなく、「秋谷が抱いた疑心暗鬼(疑惑の塊)」を指しているとも考えられそうです。

<ネタバレあらすじ>

白河福太郎が死亡した。
自動車ごと海に突っ込んだのだ。
車には妻である白河球磨子も同乗しており、福太郎に多額の保険金がかけられていたことから彼女に疑惑が集中した。
福太郎の靴は脱げており、何故かスパナが車内に転がっていたが……。

記者である秋谷茂一はこれを球磨子による保険金狙いの殺人であると大々的に報道する。
普段から球磨子の素行は悪く、誰もがこの報道を信じた。

車を運転していたのは球磨子だったとの目撃証言も飛び出し、球磨子の有罪が確定したかに思われた。
中でも当の秋谷はそれを願わずにはいられなかった。
もしも、球磨子が無実となれば、彼女を批判した秋谷が報復の嵐にさらされるのは明らかであった。
球磨子は闇社会の人間とも深い繋がりがあったのだ。

お礼参りと称して現れる球磨子とその仲間。
破壊される自宅、泣き叫ぶ秋谷の妻子……球磨子が釈放されれば秋谷にはそんな未来しか待っていないのである。

秋谷は固唾を飲んで状況を見守っていた。

球磨子の弁護人・原山は体調を崩しこれを退いた。
さらに、やり手で知られる岡村も周囲の反対で弁護を降りた。
結果、誰もその弁護を引き受けようとしない。

秋谷は内心、快哉を叫んでいたが……。

そんな中、ただ1人だけ球磨子の弁護を引き受けた者がいた。
佐原弁護士である。

一見、大人しく見える佐原だが内には情熱を秘めていた。

目撃者が電話で通話中だったことから、見間違いの可能性を考慮し証言の信憑性を奪った。
次に、靴とスパナから福太郎がブレーキを踏めないように工作していたと推理する。
「ブレーキの裏に靴とスパナを挟み込み、ブレーキを踏み込めないようにした」との論理である。

つまり、福太郎は死の恐怖でブレーキを踏んでも車が止まらないように細工したのである―――自殺だったのだ。
「球磨子の本性(自身にかけた保険金を狙っている)」に気付き、復讐の為に無理心中を図ったのである。

佐原はこの推理を秋谷にぶつける。
もっとも事件を良く知る秋谷に確認する為だ。

これを聞かされた秋谷は蒼白となる。
佐原の推理は理に適っていた。
もしも、これを実際の法廷で述べられれば球磨子の無実は揺らがないであろう。
だが、そうなれば秋谷の身の安全はどうなるのか?
秋谷の脳裏をあの悪夢が駆け巡る。

以来、秋谷は日に日に追い詰められて行った。
そして、秋谷は決意したのである。

その夜、佐原は法廷を控え事務所にて戦術を練っていた。
其処へ足音が階下から近付いて行く。

足音の主は秋谷である。
その手には鉄パイプが握りしめられており、彼の表情は殺意に満ちていた。

そんな事とは露知らず、佐原は如何にして球磨子を弁護するか考え続けていた―――エンド。

・『疑惑』が金曜プレステージにてドラマ化されました、こちら。
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