2013年01月04日

『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第2話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年1月号掲載)

『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第2話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年1月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

名探偵・木更津悠也がバラバラ死体の謎に挑む!
待望の新連載スタート!!
(光文社公式HPより)


<感想>

木更津モノの最新作『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』連載2回目です。
掲載誌は『小説宝石』さん。

大学生・福住がバラバラ遺体で発見され、この犯人に木更津が挑みます。

木更津は「コンビニで福住の腕が発見されたこと」が「犯人の作為」であると断定。
そこからアリバイトリックの存在を推理し、コンビニから死体遺棄現場までの時間を計算した上で「映画鑑賞会に参加しアリバイを確保した人物の中に犯人が居る=学生寮の関係者が犯人である」としました。

其処で「アリバイである映画鑑賞会以降にバラバラ遺体を遺棄した」と発展させ「映画鑑賞会以降にアリバイの無い人物」こそが犯人であるとします。

しかし、どうもこれが怪しい。

では、今回も管理人がこの謎に挑みたく思います。
ここからは仮説を述べる為にネタバレのオンパレードとなります。
仮説が正しいか正しくないかは不明ですが、本作未読の方は注意すること!!

管理人が気にかかっている点は次の通り。

・木更津は福住のバラバラ死体が映画鑑賞会以降に遺棄されたと断定しているが、正しいのか?
・福住がバラバラに解体された理由は何か?

前回も触れていますがこの2つを重視した結果、次の推理に辿り着いた。

犯人が福住を殺害する。
福住の死体をバラバラにする。同時に腕を除く偽物のバラバラ遺体を用意する。
事前に死体遺棄現場へ移動。
此処でバラバラ遺体を遺棄。ただし、この際に腕のみは回収しておく。
その後、本物の腕と偽物のバラバラ遺体を持ってコンビニ前へ移動。
わざとばら撒くと、本物の腕のみを残し姿を消す。
偽のバラバラ遺体を処分(隠蔽?)し、映画鑑賞会に参加。

こうしておけば映画鑑賞会時点ですべてが終わっており、映画鑑賞会以降にもアリバイが成立する人物こそが犯人となる。
つまり、2話で映画鑑賞会以降のアリバイが成立した村雲こそが犯人となる……。

「バラバラにした理由」についても、遺棄現場と遺棄時間を交錯させることでアリバイトリックを成立させることが出来る為と言えるだろう。

だが、麻耶雄嵩先生の作品がこんなに素直であろうか?
いや、ない!!

『木製の王子』を見よ、『蛍』を見よ。
あの作者である限り、もっと何かがある筈だ。

そこで次の推理。

「コンビニで腕が発見された時点ですべてが終わっていた」可能性について既に述べた。
これにより、前回述べた西町恵犯人説、あるいは岡野犯人説の可能性も依然として残る。
コンビニでの出来事は偶然に過ぎず、それを利用してアリバイを確保した可能性である。

だが、これは意外性に欠ける。
そこで次の推理。

福住が「コンビニでの腕発見以前に殺害された」と囚われすぎてはいないか。
確かに、「コンビニで腕が発見された時点で腕の持ち主である福住が殺害されていた」と考えることが自然である。
だが、逆に「コンビニ時点でも福住が生きていた」と考えればどうであろうか。
腕を切断したとしても、死亡したとは限らない。
生きていれば動くことも出来る。

ここで管理人は大胆な仮説を1つ提案したい。
実は前回も述べている「コンビニ前で腕を落としたのは福住自身ではないか」との説である。

つまり、福住自身が犯人の為のアリバイを作ってやり、その後に自殺。
映画鑑賞会後に犯人が福住を解体し、死体遺棄現場に運び込んだ可能性である。

2話で福住が香月作品のフリークだったことも明かされたし、ひょっとして香月ファンとして身体を張った?
……いや、これはないか。

う〜〜〜ん、結局「村雲」説に落ち着くなぁ。
タイトル『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』にも意味がある筈だが……。
これは第3話も目が離せそうにない。
如何なる結末が待つのか、期待大!!

<ネタバレあらすじ>

〜〜〜前回までのあらすじ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

先輩・西町恵とコンビニのバイトをしていた岡野は切断された手首を発見する。
バラバラ殺人であった。

被害者は大学生・福住。
容疑者はその恋人・朝霞。

この事件に挑むのは木更津と香月。
依頼人・村雲の娘である朝霞の無実を証明することが出来るか?
それとも……。

・前回のあらすじはこちら。
『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第1話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2012年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

事件から10日が過ぎた。
香月はあれ以来、木更津の事務所を訪れることはなく、創作にかかりきりであった。
その甲斐あってか、天啓の如くトリックのアイデアが思い浮かび、我ながら自信作と思えるものを完成させることが出来た。
これでなんとか作家業を続けることが出来そうである。

自身の安泰は確保できた。
こうなると気になるのは木更津が担当する事件の顛末だ。
ところが、意外なことに木更津をもってしても事件は未だ解決を果たせていなかったのである。

香月は好奇心を押し隠そうともせず、木更津の事務所を訪ねる。
木更津は憔悴していた。

前回の推理で「被害者・福住と同じ学生寮の住人こそが犯人である」と導き出した木更津。

「コンビニに手首を残した」ことがトリックであるとすれば、そのメリットはアリバイトリックとしか考えられない。
さらにこのトリックには「学生寮での映画観賞会以降に実際の死体遺棄現場にバラバラ遺体を遺棄する時間」が必要になる。

つまり「腕の発見されたコンビニから予想される死体遺棄時刻21時前後に映画鑑賞会に参加しアリバイがあり、それ以降から深夜にかけてアリバイがない」人物こそが犯人である。
しかし、映画鑑賞会中にアリバイを持つ人物の中で、映画鑑賞会以降から深夜にかけてのアリバイが村雲以外に成立しなかったのだ。
もちろん、朝霞も同様の状況である。

誰もがトリックを実行可能であり容疑者が多過ぎた。
トリックからのアプローチに限界を感じた木更津は自然、1人1人当たって行かざるを得なくなる。
ゆえに、木更津は腐心していた。

唯一、木更津が救われている点があるとすれば、報道がこの事件に注目していないことにあった。
大物代議士と売れっ子アイドルの不倫が明らかにされ、そちらにかかりきりなのだ。

おざなりに慰めの言葉をかける香月。
木更津はそんな香月の暇潰しに、福住の学生寮へと同行することを提案する。
一も二もなく同意する香月。

ギリシア調の玄関を抜け、屋内へと入る木更津たち。
彼らを学生寮の住人の1人・日置が歓迎する。

木更津を「さん」、香月を「先生」と呼ぶ日置。
普段ならば「木更津先生、香月さん」と呼ばれるだけに、香月は大喜び。

日置によれば「この学生寮の住人は皆、香月のファン」らしい。
日置が香月作品を皆に布教したのだそうだ。
死亡した福住も、熱心な香月信者だったそうだ。

日置は「敬愛する香月」を目の当たりにし、仲間を呼び集めるとサインを求める。
時ならぬサイン会に戸惑う香月。
だが、やはり悪い気はしない。
香月は丁寧にサインに応じて行くのであった―――3話に続く。

【前回までのあらすじはこちら】
『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第1話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2012年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)

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