本作以外に『名探偵に薔薇を』についてもネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
「混じりけなし、高純度・高品質の密室パズラー集」綾辻行人氏、麻耶雄嵩氏のダブル推薦!
ゼロを代表する名作短編ミステリ「少年と少女の密室」をはじめ、
密室蒐集家シリーズを収録したはじめての作品集。
(原書房公式HPより)
<感想>
鬼才・大山誠一郎先生による名探偵「密室蒐集家」を主人公にした短編集。
収録作は次の5作。
『柳の園』:とある学園、教師が密室内で射殺される。
『少年と少女の密室』:刑事が見張りに立つ中、少年少女2人が殺害されてしまう。
『死者はなぜ落ちる』:婚約を控えた優子の目の前で上の階から人が転落、ところが部屋は施錠されていた。
『理由ありの密室』:被害者は鍵を飲んで殺害された。とはいえ部屋は施錠されており……。
『佳也子の屋根に雪ふりつむ』:目覚めたら隣には死体が!!雪で閉ざされた密室が示す犯人は……自分?
東野圭吾先生の天敵とも言える「密室」をテーマとした作品ですね。
東野先生がその著書『名探偵の掟』にて「トリックが違うからと言って同じマジックを延々見せられても困るように、手を変え品を変えても同じ密室なのは如何か」的な主張を冗談混じりにされたことがありました。
管理人はこの主張に基本賛成ですが、本作に関しては些か異なりますね。
いや、むしろ本作に関しては当て嵌まらないと言えるでしょう。
本作収録の5短編は、確かに同じ「密室」ネタなのですが、見せ方を工夫して居る為にどれもが面白く感じられました。
どちらかと言えば「密室」よりも「不可能犯罪」であることが重要視されていることも理由の1つかな。
切り口もそれぞれ異なりますし。
連続して読んだとしても十分、耐え得る力を秘めていますね。
では、此処からトリック分析と感想を。
『柳の園』:犯人の2人1役(意図せず)
『少年と少女の密室』:語り手の人物誤認、単なる誤認に留まらずトリックに繋がっている点が特筆。
『死者はなぜ落ちる』:被害者の入替り
『理由ありの密室』:「どうやって密室にしたか」ではなく「何故、密室にしたか」なのが良い。
『佳也子の屋根に雪ふりつむ』:犯行時刻誤認
特に『理由ありの密室』はイイですね。
密室講義もありますし、作中にてあの動機が取り沙汰されたときは、かなり驚きました。
てっきり、あの人が犯人になるのか……と思ってしまった。
管理人が驚いたのはこの作品と同じ動機ですね。
・『名探偵に薔薇を』(城平京著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
他にも魅力的な点は多々あります。
これは一度読んで貰うしか本作の魅力は伝えられないのではないだろうか。
本作は本格ミステリファンならば必読の作品と言えるでしょう。
<ネタバレあらすじ>
・『柳の園』
図書室で借りた本を学園に忘れた千鶴は夜にも関わらず学園へ。
その途中、音楽室で音楽教師が拳銃で撃たれる現場を目撃する。
慌てて宿直教師に報告する千鶴。
宿直教師、用務員と共に現場に駆けつけると音楽室は内側から鍵を架けられ密室になっていた。
鍵を開け、中を確認してみるも被害者である音楽教師以外は誰も居ない。
「死んでいる……」
生死を確認した宿直教師の指示で警察を呼ぶべくその場を離れる千鶴たち。
数十分後、現場に現れたのは千鶴の叔父であった。
被害者は胸に2発撃ち込まれ死亡していた。
叔父は被害者の腕に腕時計の日焼跡がありながら、腕時計自体がなかったことから其処に意味があると考えるが謎は解けない。
宿直の教師自身も、事件直前まで用務員と談笑していたことが判明。
千鶴の見た人物が犯人であれば、彼は犯人ではありえない。
そんな中、「密室蒐集家」を名乗る怪人物が訪ねて来る。
彼は「この密室事件を解明する」と豪語するが……。
「密室蒐集家」は「腕時計がないことに注目したことは正しかったが、理解が誤っていた」と指摘。
「被害者が当日も腕時計をしていたとは限らない」と論を進める。
では、被害者は腕時計ではなく何を用いて時間を計っていたのか?
そう―――懐中時計を所持していたのだ。
ところが、懐中時計は現場から消えていた。
だからこそ、刑事が腕時計の有無に拘ったのだから。
これが何を意味するか?
懐中時計は胸ポケットに収められていた筈である。
被害者が撃たれたのも胸である。
此処で「密室蒐集家」は大胆な推理を展開する。
犯人が放った弾丸は被害者の所持していた懐中時計に命中したのだ。
つまり、被害者は即死では無かった。
被害者は千鶴が目撃したように2発の弾丸をその身に受けた。
だが、まだ生きていた。
千鶴はそれに気付かず助けを呼びに動いた。
一方、被害者は混乱する中、追撃を避けるべく必死で鍵を架けた。
こうして、密室が成立したのだ。
ところが、宿直教師と千鶴たちにより鍵が開けられた。
その後、殺害されたのだ。
となれば、彼に止めを刺せたのはただ1人。
機会があったのは、警察を呼ぶべく千鶴たちが離れた中で1人残った宿直の教師のみである。
つまり、彼が犯人だ。
では、最初に2発発射した人物は誰か?
アリバイのある宿直教師ではない。
彼は犯人を庇ったのだ。
宿直教師が庇わなければならない人物……それは校長である。
校長が逮捕されれば、学園自体に閉鎖の危機が訪れる。
そうなれば、私学の教師としては再就職先を探さなければならなくなる。
この為に校長を庇ったのだ。
校長は被害者に脅迫されており、その為に完全防音の音楽室で犯行に及んでいた。
その後、逃走するところを宿直教師に目撃されこれも口封じしようとするが、取り押さえられてしまう。
困った校長は宿直教師に真相を明かし、助けを求めたのであった。
こうして事件は解決した。
ふと気づけば、「密室蒐集家」は姿を消しているのであった―――エンド。
・『少年と少女の密室』
刑事の柏木は愚連隊に絡まれた少年少女の2人を助ける。
タクシーで自宅まで送り届けることにした柏木。
彼らは少年が「鬼頭真澄」、少女が「篠山薫」と名乗った。
どうやら、鬼頭家の子供であることが絡まれた理由らしい。
数日後、柏木は煙草の闇取引に関連し取引場所を監視することとなった。
それは奇しくも篠山家の隣であった。
柏木が監視する中で、まず篠山薫が帰宅。
次いで、鬼頭真澄が来訪した。
ところが、それっきり誰も出て来ない。
確認してみたところ、この篠山家で殺人事件が発生していた。
鬼頭真澄と篠山薫が何者かに殺害されたのだ。
篠山家は柏木と相棒が監視していた。
相棒が監視を始めるまでは裏門については空白の時間もあった。
だが、その時間以降に篠山薫が電話で友人と「雨が降って来た」ことについて会話している。
つまり、殺害されたのは監視されている間となる筈だが……。
誰がどうやって殺害を成し遂げたのか?
ワケの分からない柏木の前に「密室蒐集家」が現れる。
「密室蒐集家」は柏木から事件概要を聞き出すと、タクシー運転手を捕まえる。
この運転手はあの日、鬼頭真澄と篠山薫を送り届けた運転手であった。
そして、この運転手こそが犯人だったのである。
何故、タクシー運転手が犯人なのか?
「密室蒐集家」の推理が開陳される。
まず、柏木が大きな思い違いをしていたことを指摘する「密室蒐集家」。
柏木は鬼頭真澄を男性、篠山薫を女性と思っていた。
ところが、逆だったのだ。
実際は篠山薫が男性、鬼頭真澄が女性だったのだ。
愚連隊に鬼頭の子供として絡まれた真澄を救うべく、中性的な名前であることを利用した薫が身代わりを買って出たのである。
そして、それを柏木の前でも通したのだ。
これにより、状況は大いに変わる。
事件が不可能犯罪となったのは、電話まで生きていた篠山薫と鬼頭真澄が同時に殺害されたと思われていたからであった。
ところが、これを取り違えていたとなると……。
先に篠山家に居たのは鬼頭真澄。
彼女は篠山家から闇取引の現場を目撃してしまう。
実はタクシー運転手も闇取引に関与していた。
目撃された運転手はまだ柏木の相棒が監視して居なかった裏口から篠山家へ侵入。
真澄を殺害した。
この後、運転手は逃げ出す。
真澄の悲劇を知らない薫は友人と電話で会話。
雨が降り出したので、タクシーで帰宅することに。
このとき、拾ったタクシーが犯人のものであったことが薫の運命を決定づけた。
薫はタクシーの中で真澄殺害の凶器を見つけてしまう。
そこで、そのまま刺されてしまった。
薫は逃走。
真澄と駆け落ちする予定であった薫は助けも呼べず、必死に帰宅する。
これを柏木が目撃したのだ。
ところが、帰宅したところ真澄が既に殺害されていた。
ショックを受けた薫はそのまま死亡してしまったのだ。
これが事件の全貌であった。
事件は解決した。
「密室蒐集家」はまたも姿を消すのであった―――エンド。
・『死者はなぜ落ちる』
画家を目指す優子は仲間と自室に居たところ、上から地面へ落下する人影を目撃する。
顔面蒼白のまま、上の階の住人だと呟く優子は仲間を帰宅させると警察を呼ぶ。
到着した警察により、転落死している遺体は上の階の住人であると確認された。
おそらく何者かによる殺人であろう、突き落とされたのだ。
ところが、現場となったと思われる部屋には鍵がかかっていた―――密室である。
ここで「密室蒐集家」が登場し、犯人を指摘する。
犯人は優子であった。
実は優子たちが目撃した転落死の現場は別人のものであった。
優子の上階の住人は別の人間を殺す罠を仕掛けており、それにかかった人物が死亡したのだ。
ところが、これを仕掛けた住人は、既に水漏れのトラブルで優子に殺害されていた。
そこで、優子は転落現場を仲間と共に目撃したアリバイがあることを利用することを思いつく。
殺害した上階の住人と転落死体とを入れ替えたのだ。
転落死体は既に別の場所に遺棄していた。
こうして事件は解決。
またも「密室蒐集家」は消えるのであった―――エンド。
・『理由ありの密室』
匿名の通報を受け警察が向かった現場には鍵がかかっていた。
そして、中へ突入してみると死体が。
死体の胃の中からは鍵が発見され、被害者を殺す動機を持つ人物が3人浮かび上がる。
さらに密室トリックの正体がワープロを利用した比較的、簡単なトリックと判明。
ところが、此処に何故か「密室蒐集家」が現れる。
既に密室トリックの謎は暴かれているにも関わらず、だ。
「密室蒐集家」は「密室トリックそのものではなく、そのトリックを用いざるを得なかった理由が大事である」と主張。
密室を作る必要性について「密室講義」を始める。
最終的に「ある犯人にとってのデメリットを隠すために密室が作成された」との結論が導き出されるが……。
これに異を唱える人物が居た。
年を重ね孫まで出来た『柳の園』の登場人物・千鶴である。
千鶴は「『密室蒐集家』に会いたがった誰かが、彼を誘き出す為に密室を作ったのでは」との仮説を提示する。
暗に自分のことを示しているのである。
ところが、「密室蒐集家」はこれを「残念ながら」と一蹴。
そもそも、「密室蒐集家」を誘き出すには密室トリックそれ自体がチャチ過ぎたらしい。
今回、彼が現れたのはあくまで「密室が作られた理由」によるものであった。
そして、「密室蒐集家」が語る密室の理由とは。
それは被害者が鍵を飲み込み「ダイイング・メッセージ」を遺してしまったことにあった。
これから捜査の目を背けさせる為に、犯人は密室の演出を行わざるを得なくなったのだ。
さて、問題の犯人の名は、胃の中に鍵を入れれば分かる。
「胃」の中なので「田」と「月」の間に「鍵」を入れると……「タカギツキ」。
そう、高木月こそが犯人だったのである。
被害者の服装が銭湯に赴こうとしていたものであったことから、計算されたアリバイからもこの事実は補強されるのであった。
そして、またも「密室蒐集家」は消えるのであった―――エンド。
・『佳也子の屋根に雪ふりつむ』
佳也子は両親の過去を恋人の両親に知られたことで、結婚を反対され別れさせられてしまった。
自殺を思い立った佳也子は親友・秋穂にこれを告げると、自殺を決行する。
ところが、それを女医である香坂典子に救われる。
今日は3日だと語る典子。
典子は佳也子の為に牛乳を購入するなど献身的な看護を示す。
秋穂に無事を伝える連絡をとった佳也子は安心したのか深い眠りにつくが……。
人気のない病院で1晩過ごした佳也子。
ところが、佳也子が4日に目覚めると典子が殺害されていた。
周囲には雪が積もっており、典子が牛乳購入の為に往復した足跡だけが残されていた。
こうして佳也子は典子殺害容疑で逮捕された。
其処へ、この雪密室の謎を解くべく「密室蒐集家」が参上する。
さらに、佳也子逮捕の報を伝え聞いた秋穂も現れる。
此処で「密室蒐集家」が上げた犯人の名は!!
なんと、秋穂であった。
何が何やら分からない佳也子たちに「密室蒐集家」は真相を明かす。
雪に残されていた典子と思われる病院から街へと続く往復の靴跡。
だが、あれは犯人による街から病院へと続く往復の靴跡だったのだ。
典子は牛乳を事前に用意しており、病院から外出した事実など存在しなかったのである。
すべては典子とその共犯者・秋穂による殺人計画に端を発していた。
典子は資金に困り、資産家であるが孤独な叔父・香坂実殺害を目論んでいた。
其処で自身が元家庭教師であった縁で秋穂に相談した。
矢先、秋穂は佳也子の自殺について覚悟を聞き、これを利用することを思いつく。
佳也子を尾行した秋穂は、典子に佳也子を救わせたのだ。
その上で典子を介し、実際は2日であるにも関わらず、3日であると佳也子に吹き込んだ。
さらに、食事に睡眠薬を混ぜ、佳也子を4日まで眠らせた。
佳也子は1晩寝ただけだと考えていたが、実は2晩経過していたのだ。
こうして、丸1日を稼ぎ出した典子は3日に実を殺害する。
3日時点では雪は降り続いており、この際の足跡は残らない。
これで佳也子が目を覚ませば、佳也子が3日(実際は2日)を共に過ごしたと思い込んでいる限り、典子のアリバイは成立したのだが……。
此処で秋穂が真の計画を実行に移す。
秋穂は雪が止む中、典子を殺害し佳也子にその罪を着せた。
秋穂は佳也子を憎んでいた。
佳也子の恋人を愛していたのである。
恋人の両親に佳也子の秘密を暴露したのも秋穂であった。
すべては彼を奪う為だったのである。
だが、彼は未だに佳也子を想い続けている。
ここで、佳也子に自殺されてしまえば、なおさら記憶に残ってしまうだろう。
そこで、佳也子を殺人者とすることで忌まわしい記憶に転化しようと企んだのだ。
親友だと信じていた秋穂に裏切られていたことを知った佳也子は絶句するのであった。
佳也子を逮捕してしまった刑事は彼女に必死に謝罪。
その姿に佳也子の心は少しだけ癒されるのであった。
一方、「密室蒐集家」はまたも姿を消した。
佳也子は思う、彼は密室の精霊なのではないか、と―――エンド。
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