2012年11月14日

『夏服パースペクティヴ』(長沢樹著、角川書店刊)

『夏服パースペクティヴ』(長沢樹著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

本作の他に綾辻行人先生『霧越邸殺人事件』、藤ダリオ先生『ミステリー・ドラマ』のネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

現実(リアル)と虚構(フィクション)の隙間に潜む殺意と、驚愕のトリック。“かわいすぎる名探偵”樋口真由、再び!
私立都筑台高校2年生にして、弱小映研部長の遊佐渉は、新進気鋭の女性映像作家・真壁梓が、夏休みを利用して行うビデオクリップ制作のスタッフとして、撮影合宿に参加することに。そこには、美貌の1年生樋口真由の姿もあった。かくして、廃校となった中学校の校舎を改装して作られた山の中のスタジオでの撮影合宿が始まる。しかし、キャストとして参加していた女子生徒の一人が撮影中に突如倒れ込む……。なんとその生徒の胸には、クロスボウの矢が深々と突き刺さっていた!?真由は残された映像をもとに超絶推理を始めるが、合宿は凄惨な殺人劇へと変貌してゆく――。
(角川書店公式HPより)


<感想>

「第31回横溝正史ミステリ大賞」受賞作『消失グラデーション』シリーズ続編。
『消失グラデーション』にて探偵役を務めた樋口真由が今回も登場です。

『消失グラデーション』(長沢樹著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

前作を読んで期待していた方向性とはちょっと違っていたのですが、これはこれでアリですね。
もっとも、前作よりは小さくまとまった作品かもしれない。
前作と本作で比較すれば、前作『消失グラデーション』の方が単独の魅力では上でしょう。

なので、あくまで前作を既読でシリーズ新作を読みたい方にオススメ。
本作からシリーズを読み始めることは、オススメしかねる。
本作はあくまでシリーズの1作として楽しむべし。

内容面に触れると、容疑者の処理の仕方がメインかな。

綾辻行人先生『霧越邸殺人事件』の槍中さんと白須賀君のロジックに「容疑圏外に逃げる方法」として次の3つがありました。

「(容疑者の)網の中に初めから入らない」(容疑者として候補の中にそもそも居ない)
「網を絞る際に中から外へ逃げ出す」(アリバイ工作を用いて容疑から逃れる)
「網の中から出たことに乗じて犯行を犯す」(別の人物の犯行に便乗する)

本作はこのうち「(容疑者の)網の中に初めから入らない」を採用していたのが面白かった。
これを上手く活かしていた印象です。

それと、本作の物語全体の骨組みなど何処かで目にした気がしたのですが、藤ダリオ先生『ミステリー・ドラマ』(角川書店刊)に似ているんですね。
実は当初は殺人ではなく○○だったとか、ところが並行して思わぬ○○が起こっているとか。
上記「(容疑者の)網の中に初めから入らない」も、同じかな。
過去の事件を起点にしていたなどの点も似ているかな。

『ミステリー・ドラマ』が先駆なこともあり、個人的には本作と『ミステリー・ドラマ』を比較するならば完成度の高い『ミステリー・ドラマ』を推します。

『ミステリー・ドラマ』(藤ダリオ著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

なお、ネタバレあらすじはまとめやすいようにかなり改変しているので注意!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
遊佐渉:映研部長
樋口真由:名探偵
真壁梓:映像作家
永井美鈴:参加者
大迫:参加者
村岡:参加者

真壁梓の呼びかけで、とある撮影が行われることとなった。
これに参加した映研部長の遊佐渉。

ところが、其処で事件が発生。
クロスボウの矢で殺人事件が発生したのだ。

だが、これは真壁主導のお芝居であった。
真壁は参加者には秘密でリアルなミステリ映画を撮影していたのだ。

矢先、大雨により土砂崩れが起きてしまう。
真壁と永井美鈴は何故か狼狽える素振りを見せるが……。

ところが、今度は本当に被害者が出てしまう。
殺害されたのは真壁本人と永井美鈴。
一体、誰が犯人なのか?
この謎に樋口真由が挑む。

土砂崩れの際に真壁と永井が狼狽えていたこと。
そして、最初のクロスボウにも明確な犯人役が用意されていた筈だと考えた真由。

ここから、参加者には知らされていない人物が参加している可能性を指摘する。
その人物は地下室に潜んでおり、土砂崩れで生き埋めになった。
その為に、撮影を中止すべきかどうかで真壁たちは動揺していたのだ。

その人物の名は大迫。
真由は大迫こそが殺人犯であると指摘。
さらに生き埋めになった大迫には行動範囲が限られており、協力者が居るとも告げる。
その協力者は村岡であった。

何故、芝居の筈が本当の殺人にまで発展したのか?

実は、真壁にはミステリ映画撮影以外に真の目的があった。
真壁や大迫はとある監禁事件の被害者だった過去があり、この際の記憶を失っていた。
真壁はこの記憶を取り戻したがっており、関係者を異常状況に置くことで記憶が甦るのではと考えたのだ。

そして、それは図に当たった。
しかし、記憶が甦ったのは土砂崩れにより実際に死の危険が迫った大迫であった。
大迫は監禁されていた真壁が他の被害者を殺害し、監禁からの脱出に利用した事実を思い出したのだ。
大迫は既に生き埋めとなっており、ほぼ助からない。
だが、もしも、真壁がこの記憶を取り戻せば、他の監禁からの生還者を口封じしようと考えるに違いない。
そこで、強く真壁の殺害を願ったのだ。

ここに村岡が関与した。
村岡は永井美鈴と不適切な関係にあった。
土砂崩れ以降、真壁と永井の不自然な行動に注目した村岡は大迫の存在を知る。
永井から捨てられそうになっていた村岡は、大迫に「真壁を殺す代わりに永井の殺害を依頼」したのだ。
これに大迫は応じたのである。

ところが、事態はさらに意外な展開を迎えていた。
この交換殺人の契約に遡ること数十分前、真壁は既に殺害されていた。
他ならぬ永井美鈴の手によって。

生き埋めとなった大迫の処遇について意見が分かれた真壁と永井。
真壁は救出すべきと主張したが、永井は自分たちの為にも見捨てるべきと主張したのだ。
だが、真壁が自説を曲げなかった為に永井が殺したのであった。

この事実を村岡も確認していた。
村岡からこれを聞かされた大迫はなお永井殺害の決意を固める。

だが、大迫の手元にあるのはクロスボウのみである。
そこで、村岡が「地下から人の声を聞いた」と証言し、永井の行動を操った。
村岡は「他の人を呼んで来る」とその場を離れた。
残された永井は大迫が死亡しているかどうかを確認すべく、地下を覗き込み待ち構えていた大迫に射殺されたのであった。

これが事件の真相であった。
とはいえ、大迫には時間が残されていなかった。
罪を認めるとそのまま死亡してしまう。

こうして、事件は苦い結末を迎えた。

数日後、遊佐渉と真由は刑事である遊佐の父に協力し潜入捜査を行っていた。
その過程でキスする2人。
2人の関係がどうなるのかは誰にも分からない―――エンド。

◆関連過去記事
『消失グラデーション』(長沢樹著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

◆「横溝正史ミステリ大賞」関連過去記事

【ネタバレ書評】
・第28回テレビ東京賞受賞作
第28回横溝正史ミステリ大賞 テレビ東京賞受賞作「テネシー・ワルツ」(望月武著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

・第29回大賞&テレビ東京賞受賞作
「雪冤」(大門剛明著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

・第30回テレビ東京賞受賞作
『ボクら星屑のダンス』(佐倉淳一著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

【その他】
「第32回横溝正史ミステリ大賞」受賞作決定!!菅原蛹先生『さあ、地獄へ堕ちよう』、河合莞爾先生『DEAD MAN』に!!

第30回横溝正史ミステリ大賞発表!!受賞作は「お台場アイランドベイビー」に!!

【横溝正史大賞テレビ東京賞受賞作ドラマ化関連】
水曜シアター9 横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞受賞作「テネシーワルツ〜甦る昭和の名曲に隠された愛と憎しみの殺意!二つの戦争に翻弄された母と子の驚愕真実」(2月17日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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「夏服パースペクティヴ (樋口真由“消失”シリーズ)」です!!
夏服パースペクティヴ (樋口真由“消失”シリーズ)





「消失グラデーション(『リストカット/グラデーション』改題)」です!!
消失グラデーション





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