2012年12月10日

『シンデレラ王妃の幸福な人生』(星新一著、新潮社刊『未来いそっぷ』収録)

『シンデレラ王妃の幸福な人生』(星新一著、新潮社刊『未来いそっぷ』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

時代が変れば、話も変る! 語りつがれてきた寓話も、星新一の手にかかるとこんなお話に……。楽しい笑いで別世界へ案内する33編。
(アマゾンドットコムさんより)


<感想>

「野生時代」の特集に触発されて、星新一熱が再燃した管理人です。
やっぱり、星先生の作品はいいですね。
短い中に濃いエッセンスがグッと凝縮されていて、読むとハッとさせられます。

本作『シンデレラ王妃の幸福な人生』は新潮社刊『未来いそっぷ』収録の一篇。
短編です。

童話に設定を借りつつ、「人が生きる為には純粋ではいられない」ことを伝えています。
同時に「成功にはそれに見合う努力が必要である」ことの大切さについても触れられていますね。

「湖を優雅に泳ぐ白鳥も湖面の下では足をもがかせている」と言います。
一見、優雅に見えるあの人も「見えないところで多大な努力をしている」に違いありません。

<ネタバレあらすじ>

継母とその連れ子である義姉たちに苛められ続けるシンデレラ。
だが、魔法使いの力を借りてお城の舞踏会に参加したことがきっかけで王子に見初められその妻となった。

シンデレラは自分が容姿のみで王子に選ばれたことを理解しており、身を守ることに汲々としていた。

本来ならば、憎い継母たちを追放して欲しい。
だが、それを言い出せば心根の醜い奴だと王子に嫌われてしまうだろう。
そこで、シンデレラは近くから自身の繁栄を眺めさせてやることで復讐に代えると自身を納得させることに。

だが、問題は山積していた。

シンデレラが成り上がり者ということで、周囲の羨望と嫉妬が凄まじいのだ。
もともと、宮中での礼儀作法に詳しいワケでもない。
事あるごとに侮蔑される。

悩んでいたシンデレラ。
その様子を見かねた王子は心配から声をかける。
さりとて、本当のことを明かすワケにはいかない。
王子が助けてくれるとは限らないし、助けてくれたところで周囲の口を塞ぐことなど物理的に不可能だ。

咄嗟にシンデレラは「隣国の王がこの国を侵略しようと野心を抱いている」との嘘を吐いてしまう。
これを真に受けた王子は「ヤラレル前にヤレ」とばかりに侵略戦争を仕掛けることに。
本来ならば、交渉が先になる筈なのだが……。
王子はシンデレラを妻としたことでも分かるように、どこまでもまっすぐだが、裏を返せば愚直であった。

ところが、これが奏功した。
実際に隣国の王は侵攻準備を整えつつあったのだ。
奇しくも奇襲となったことで王子は勢いに乗り、敵を打ち破った。
結果、シンデレラの先見の明が評価されることとなった。
王子はシンデレラをより信頼した。

さらに、若さゆえか領土を広げる喜びを覚えた王子は外征に力を入れるように。
常に戦時下となれば、口さがない者たちもシンデレラの悪口を並べる暇がない。
また、礼儀作法どころの騒ぎでもない。
しかも、庶民派であるシンデレラは炊き出しなどを行い国民の支持を集めた。
こうして、シンデレラの地位はある程度固まりつつあった。

矢先、国王は王子に位を譲ることとなった。
ここにシンデレラは王妃となったのだ。
いつしか、居た堪れなくなった継母たちは国外へと逃亡していた。

ところが、問題はまだ残っていた。
もともと、シンデレラとの結婚でも分かるように元王子は容姿で女性を選ぶ。
そう……美人の噂を聞きつけては浮気を繰り返し始めたのだ。

これにはシンデレラも困り果てた。
自分自身がそんな王の奔放な行動の結果で王妃となったのだ。
「ヤメロ」とも言えない。
かといって、手を拱いていればいつ「第2のシンデレラ」に座を追われるか分かったものではないのだ。

しかし、天はシンデレラを見捨てなかった。
シンデレラが懐妊したのだ。
そして、出産……生まれたのは王子であった。
こうして、跡取りを生んだシンデレラの地位は盤石のものとなった。

以降、シンデレラは我が子の為に競争相手となりそうな王の子供を密かに国外追放し続けた。
王の浮気癖は相変わらず続いたが、これは仕方がないと諦めた。

そして、シンデレラの子供が成長し……また問題が起こった。
王子は父親にそっくりだったのだ。
シンデレラのときと同様に庶民の娘を物色しては恋愛を楽しんでいたのである。

これはマズい……危機感を募らせたシンデレラは、王子に師と呼べる人物をつけた。
さらに早々に結婚させることに決めた。
相手はそれなりの家格の娘でなければならない。
条件を満たす娘を探し出すと結婚させることとした。

こうして一息ついたシンデレラ。
ふと、鏡を見ると其処には継母そっくりの女性が……もちろん、自分である。

「なんで、こうなってしまったのだろう」こぼすシンデレラに鏡は応える。

「これで良いのですよ、シンデレラ。あなたは出来うる限りの努力をされた。だからこそ、今の地位を保てているのです。もしも、昔のままのあなただったなら、此処には居ないでしょう」

そして、鏡は続ける。

「後世の人はこう語り伝える筈です。シンデレラは王子と結婚し幸せに暮らしました……とね」―――エンド。

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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 星新一作品レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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