ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
深夜、東京の閑静な住宅街に一台のトラックが突っ込んだ。やがて起きる二つの殺人事件。事故と事件をつなぐ奇妙な鍵を炙り出す表題作。併録は人気ドラマの原作。上流家庭を気取る一家に家政婦として入った信子。どんなに表向きは幸せそうな家庭にも必ず不幸はあり、それを発見するのが信子の秘かな愉悦だった。
(アマゾンドットコムさんより)
<感想>
『事故―別冊黒い画集1』に収録され、表題作ともなった中編の1つです。
同作品には名作ドラマ「家政婦は見た」の原作となった『熱い空気』が併録されています。
『熱い空気』は過去にネタバレ書評(レビュー)していますね。
・『熱い空気』(松本清張著、文芸春秋社刊『事故―別冊黒い画集1』収録)ネタバレ書評(レビュー)
さて、本作『事故』ですが……。
犯人の仕組んだ完全犯罪―――それが、思わぬ一穴から崩壊することこそ松本清張作品の醍醐味であると思う管理人ですが、本作はまさにソレです。
後ろめたいところがあったからこそ行ったアレが巡り巡って自身の首を絞める。
因果応報ですね。
是非、一読頂きたい作品です!!
<ネタバレあらすじ>
運送会社「協成貨物」の事故処理担当者・高田京太郎。
「協成貨物」のドライバーが起こした事故の後処理をするのが彼の仕事だ。
仕事柄、彼の朝は新聞の事故欄を確認することから始まる。
ある日の朝、高田が朝刊に目を通していたところ、自社の運転手が事故を起こしたとの報が飛び込んで来る。
高田も知る若手ドライバー・宮下がトラックの運転中に居眠りし民家の門に突っ込んだらしい。
此処こそが腕の見せ所!!
勇躍した高田は事故の被害者である山西宅へ。
応対に現れたのは妻の山西勝子。
勝子によれば夫は出勤しており留守だそうだ。
特に責めるでもなく、それどころか「お仕事、大変ですね」と声をかけられる始末。
てっきり、罵声を浴びせられるものと思っていた高田。
これは仕事がやり易くなったとほくそ笑む。
問題は家の主である山西省三だ、何処かの重役らしいが……。
省三の帰宅を見計らい自宅へ参上する高田。
ところが、当の省三も特に事を荒立てる気は無い様子。
相場で見て、10万はかかりそうな修理代を2万で良いと納得するほどであった。
あまりに事が上手く行き過ぎたことに首を傾げる高田。
それと、事故当夜に省三が大阪へ出張しており家を留守にしていたことが気にかかった。
あの日、勝子は省三が出勤したと語っていた。
出勤ということは朝に自宅から会社へ向かったということ。
つまり、事故当夜には省三も家にいた筈なのだが……。
結局、2万円の修理費で事故は解決。
高田は社内での面目を大いに施した。
それから数日後、宮下が配送先の山梨で何者かに殺害されてしまう。
容疑は当時同乗していたドライバー・佐々に向けられるが、アリバイが判明し捜査は暗礁に乗り上げた。
ちょうど同じ頃、同じ山梨県内で浜口久子という女性の遺体が発見された。
やはり、何者かに殺害されたようだ。
こうして、こちらも捜査が開始された。
久子は探偵社の社員。
社長の田中によれば、「光輪土木」の専務の浮気調査を行っていたそうだ。
浮気がばれた専務が久子を手にかけたのか?
色めき立つ捜査本部だったが、専務にはアリバイが。
しかも、確かに専務は浮気をしていたが、久子の報告書とは内容に差異があった。
逢瀬の為に出掛けた先が事実と異なっていたのである。
田中によれば、専務の浮気の追跡調査は久子に専従させていたとのこと。
一方、経理担当者からは久子は真面目な性格で到底、そのようなことをする筈がないとの証言を得る。
結局、これらの謎は解決されることもなく捜査本部は解散となった。
宮下の事件も同様である。
これを見て、内心で快哉を叫ぶ男が居た。
久子の雇用主・田中である。
久子と宮下を殺害したのは田中であった。
事の発端は半年ほど前に遡る。
その日、田中のもとへ1件の浮気調査の依頼が持ち込まれた。
依頼主は山西勝子、調査対象は山西省三である。
勝子に心惹かれた田中は自ら調査を引き受ける。
調査の結果により、省三がクロと判明。
浮気の事実を勝子に告げると、勝子は狼狽する。
これをチャンスと看てとった田中は勝子の心の隙を突き、強引に自分のモノにしてしまう。
以来、勝子と田中は不倫を続けた。
それから数カ月後、田中のもとへ省三がやって来た。
まさか、バレたのか……焦る田中だが省三は依頼を持ち込む。
なんと、勝子の浮気調査であった。
その当の浮気相手が目の前に居るにも関わらず、省三は全く気付いていないのだ。
余所に持ち込まれるよりは、自分がコントロールした方が得だと考えた田中はこれを引き受ける。
さらに、日頃から真面目さだけが取り柄だと評価していた久子にこの調査を担当させる。
ところが、これが間違いだった。
当初、久子は田中から教え込まれた技術のすべてを用い、調査を行った。
しかし、すべて浮気相手に裏をかかれてしまった。
当たり前である、教えた当の田中が浮気相手なのだから。
真面目な久子は思い詰め、ある手段を採用することに決める。
久子の様子に不穏なモノを感じた田中は、併行して「光輪土木」の専務の浮気調査を担当させ目を逸らさせようとする。
さらに、勝子との逢瀬の場所を山西家の自宅に限ることとした。
これで安泰な筈であった。
その日も、田中は省三の出張を狙い山西家へ。
勝子とひとしきり楽しんでいたが……其処へ強烈な衝撃音が!!
表へ出てみれば、トラックが門扉に突っ込んでいたのだ。
近隣の住人が音を聞きつけたこともあって、慌てて中へ逃げ戻る田中。
そのまま、裏から逃げ出した。
しかし、何事かと表へ飛び出したのはまずかった。
田中は、この行動を後悔することとなる。
翌日、久子が山西の依頼から降りさせてくれと伝えて来た。
明らかに様子がおかしい。
田中を見る目も昨日までと違う。
それと知られぬようにその場をしのいだ田中。
秘密裏に調べてみると意外な事実が分かった。
久子とトラック運転手の宮下は知り合いだったのだ。
此処で田中の脳裏に仮説が浮かぶ……勝子の浮気相手を突き止める為に久子が宮下を使い事故を演出したとしたら。
知られたからには漏れる可能性がある。
もはや、一刻の猶予もならなかった。
そんな中、勝子から示談金について相談があった。
事故の修理費について揉めることは注目を浴びかねないので、安くてもいいから早く決着をつけるよう言い含めた。
一方、田中の推論を裏付けるように、久子は退職を申し出て来る。
だが、真面目な性格から専務の浮気調査だけは最後まで果たすと約束した。
田中はこれを利用することにした。
勝子から宮下に秘密裏に荷物を運んで欲しいと依頼させ行動を把握した。
一方で、久子には偽の情報を与え、田中と共に山梨へ向かうよう仕向けた。
こうした上で、同日の夜に久子、宮下の順に殺害したのだ。
だが、もはやこの真相を突き止める者も居ない筈だったのだが……。
高田にとって、山西家の示談交渉は画期的なものであった。
以来、交渉のたびに「山西さんのお宅ではもっとひどい状態でしたが2万円でご納得頂きました。それに比べれば……」まるで常套句のように用いた。
こう切り出すと上手く行ったのだ。
さらに「お疑いならご確認下さい」と止めを刺すことも効いた。
高田は事あるごとにこれを多用した。
さて、高田のこの殺し文句を疑う者があった。
彼は自宅の裏に住む刑事に相談した。
刑事は好奇心から調査することにした。
そこで、山西家を訪ねた。
省三は高田の言葉に嘘が無いことを認めた。
なんでも、早く決着させて欲しいと勝子から強く申し出があったそうだ。
「では、奥様にもお話を」と切り出す刑事だが、省三の顔は苦痛に歪んでいる。
ワケを聞くと「妻とは別れた」との返事。
刑事は勝子の行方を追った。
勝子はとある人物の紹介で旅館で働いていた。
此処で意外な人物の名前が挙がる。
紹介者―――それは田中だったのだ。
こうして、久子殺害と宮下殺害が結びついた。
この刑事の報告により、捜査は再開。
やがて、田中と勝子のもとへそれぞれ捜査員が向かうこととなった―――エンド。
・水曜ミステリー9「松本清張没後20年特別企画 事故〜黒い画集〜 疑惑の事故が招く連続殺人!不倫密会の代償点と線を結ぶ捜査が暴く死体移動トリック」(12月12日放送)ネタバレ批評(レビュー)
◆松本清張先生関連過去記事
【小説】
・「霧の旗」(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「書道教授」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「球形の荒野」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『寒流』(松本清張著、新潮社刊『黒い画集』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『市長死す』(松本清張著、光文社刊『青春の彷徨』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『熱い空気』(松本清張著、文芸春秋社刊『事故―別冊黒い画集1』収録)ネタバレ書評(レビュー)
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・『危険な斜面』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『疑惑』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ批評(レビュー)
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【ドラマ】
・月曜ゴールデン特別企画 松本清張生誕100年スペシャル「中央流沙」(12月14日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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