ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
■特集:2012ミステリ総ざらい。
2012年のミステリ作品について、東京創元社編集部の面々が語り尽くす座談会&青崎有吾・美輪和音インタビューで贈る年末特集
■第9回ミステリーズ!新人賞佳作2作品掲載。
事件の依頼人は何と弥勒菩薩!天野暁月「清然和尚と仏の領解」。
高校の図書館部員の騒動を描く、中村みしん「○の一途な追いかけかた」
■連載最終回 柚木麻子「ねじまき片想い」、西條奈加「いつもの幸福」
■追悼 石上三登志 ほか
(東京創元社公式HPより)
<感想>
「第9回ミステリーズ!新人賞」佳作です。
タイトルは受賞時と同じ。
ただし、天野先生は受賞時のペンネーム「天野泡吟」から「天野暁月」へと変更されていますね。
ちなみに「第9回ミステリーズ!新人賞」には他に次の2作がそれぞれ選ばれています。
受賞作:近田鳶迩先生『かんがえるひとになりかけ』
佳作:からくりみしん先生『○の一途な追いかけかた』
・『かんがえるひとになりかけ』(近田鳶迩著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.55 2012年10月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『○の一途な追いかけかた』(中村みしん著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.56 2012年12月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・「第9回ミステリーズ!新人賞」受賞作発表!!第10回も募集中!!
さて、本作『清然和尚と仏の領解』。
独自の世界観を持った作品です。
オープニングからその世界観がフルに発揮されており、こんな感じです。
「千年万年探偵事務所にもちこまれた和尚殺人事件。その依頼人は、菩薩様だった??」
というワケで、弥勒菩薩が現世を闊歩する世界観の作品です。
この世界観が単なる世界観のみに留まらず、作中の犯行に密接に結びついていることが素晴らしい。
テーマとしては「ホワイダニット」。
何故、犯行が行われたのか―――これが本作のキモ。
これを認められれば、十分に楽しめる作品と言えるでしょう。
管理人的にはアリだと思います。
それと、弥勒菩薩があの人に似ていたのは、事件が発生する以前からこうなることすべてを見通した上で清然和尚と福永に罰を与える為だったのかなとも思ったり。
冒頭のアレにより、あの人の行動を読者に予期させる点も上手く出来ていると思います。
他にも不思議な店子の存在が示唆されており、シリーズ続編も可能そうな点も好評価。
店子1人につき1篇をあて、連作短編集にすると面白そう。
<ネタバレあらすじ>
鶴木と丹町、2人の探偵が営む「千年万年探偵事務所」。
この探偵事務所がテナントとして入居しているビルには不思議な店子が多数所属している。
すべては大家の趣味なのだが、そのお1人に弥勒菩薩がいらっしゃった。
これは比喩表現ではない。
文字通り本物の弥勒菩薩がいらっしゃるのだ。
その弥勒菩薩が「千年万年探偵事務所」をご訪問された。
どうやら依頼がおありになるようだ。
応対した丹町は内心、困惑でいっぱいであった。
以前にも、依頼を受けたのだがその際は生死の淵を彷徨いかねないほどの一大冒険叙事詩となってしまったのだ。
この経験から断ろうとする丹町だが、好奇心旺盛な鶴木により引き受けることに。
依頼の内容は「清然和尚の殺害犯を突き止めて欲しい」とのものであった。
「そういえば最近、行きつけの饅頭屋に足を運んでいない。そろそろ行こうか」と呟かれる菩薩様を残し、早速、調査に出かける丹町たち。
清然和尚の弟子たちは「夢で菩薩よりお告げがあった」と調査に協力的。
結果、清然和尚が饅頭屋を営む福永の妻・夕子と不倫関係にあったことを突き止める。
夕子は弥勒菩薩に似た女性だったそうだ。
しかも、夕子は謎の自殺を遂げていた。
これを受けた鶴木は、夕子の自殺が清然和尚による他殺であると看破。
福永こそが清然和尚を殺害したと推理する。
動機は妻・夕子の復讐である。
ところが、この事実を突き付けられたにも関わらず福永は犯行を認めようとしない。
これに、真の動機を察した丹町。
「犯行を認めないんですね」と福永に念を押すや、真の動機について推理を語り始める。
福永の犯行は間違いない。
だが、清然和尚殺害の真の動機は「ある人物を意識野から排除すること」にあった。
その人物とは弥勒菩薩でいらっしゃった。
夕子は弥勒菩薩に似ていた。
当然、弥勒菩薩もまた夕子を髣髴とさせるのだ。
不倫した妻の面影に苦しんだ福永は「罪を犯せば菩薩が避けてくださるに違いない」と考えて、これを実行に移したのだ。
そして、今も罪を認めないのは「認めてしまえば、菩薩が福永をお許しになりその目の前に姿を現す」からであった。
これを丹町から聞かされた鶴木は「八百屋お七と逆の動機だ」と感想を述べる。
相手に会う為に犯行に手を染めた八百屋お七。
福永は逆に相手に会わないなように犯行に手を染めたのである。
だが、福永の覚悟は半端なものであった。
その証拠に、殺害対象は誰でも良かったにも関わらず、わざわざ殺人を犯した清然和尚を選び良心が咎めないようにしている。
この指摘を受けた福永は心が揺れる。
おそらく、福永は罪を認めることになるであろう。
何故なら、冒頭で弥勒菩薩が「近く饅頭屋を訪れるであろう」ことを呟かれていらっしゃったのだから―――エンド。
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【第7回以前のものはこちら】
・「第7回 ミステリーズ!新人賞」締切まで3ヶ月!!&「砂漠を渡る船の道」ネタバレ批評(レビュー)
・2008年度受賞作「砂漠を走る船の道」を収録した「叫びと祈り」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
「叫びと祈り」(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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