2012年12月24日

『○の一途な追いかけかた』(中村みしん著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.56 2012年12月号』掲載)

『○の一途な追いかけかた』(中村みしん著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.56 2012年12月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

■特集:2012ミステリ総ざらい。
2012年のミステリ作品について、東京創元社編集部の面々が語り尽くす座談会&青崎有吾・美輪和音インタビューで贈る年末特集
■第9回ミステリーズ!新人賞佳作2作品掲載。
事件の依頼人は何と弥勒菩薩!天野暁月「清然和尚と仏の領解」。
高校の図書館部員の騒動を描く、中村みしん「○の一途な追いかけかた」
■連載最終回 柚木麻子「ねじまき片想い」、西條奈加「いつもの幸福」
■追悼 石上三登志 ほか
(東京創元社公式HPより)


<感想>

「第9回ミステリーズ!新人賞」佳作です。
タイトルは受賞時と同じ。
ただし、中村先生は受賞時のペンネーム「からくりみしん」から「中村みしん」へと変更されていますね。

ちなみに「第9回ミステリーズ!新人賞」には他に次の2作がそれぞれ選ばれています。

受賞作:近田鳶迩先生『かんがえるひとになりかけ』
佳作:天野泡吟(あまのほうぎん)先生『清然和尚と仏の領解』 

『かんがえるひとになりかけ』(近田鳶迩著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.55 2012年10月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『清然和尚と仏の領解』(天野暁月著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.56 2012年12月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

「第9回ミステリーズ!新人賞」受賞作発表!!第10回も募集中!!

さて、本作『○の一途な追いかけかた』。
○の部分が意味深ですね。
読んでみると分かるのですが、この○にはある人物の名前が入ります。
その人物が誰かで内容が変わって来るので、こういったタイトルになっているんですね。

全体のイメージ的には米澤穂信先生「古典部シリーズ」に近いので、「古典部シリーズ」をお好きな方にオススメです!!

<ネタバレあらすじ>

夏樹(女性)は図書館部の1年生部員である。
図書館部とは「なんとな〜〜〜く読書をする部」のこと。
特に他意は無い。

そんな図書館部には夏樹以外に2人の先輩が居る。
1人は図書館部部長の伊織(男性)。
もう1人が一条(女性)だ。

今日も今日とて、図書館を訪れた夏樹。
そんな夏樹に伊織が声をかける。
手にしているのは週報だ。

案の定、伊織が話題に持ち出したのは「週報」に掲載された「ミス新入生(新ミス)」についての話題。
これに夏樹が得票数10票で名を連ねたのだ。
ちなみに、去年では一条も9票でランクインしている。

一条が負けず嫌いであることを思い出した夏樹。
一条に聞かれたりするとマズイ。
その話題は早々に切り上げたところに、一条が現れる。
だが、どうやら一条の耳にも入っていた様子、どことなく機嫌が悪い。

伊織が席を外し、気まずい2人。
夏樹はふと自分が気付いたある謎について口にする。

それはある人物の貸出履歴であった。
1人は伊織、もう1人は夏樹と同学年の橘(男性)である。
夏樹は、2人の借りた本の間にある法則を見出したのだ。

なんと、橘は伊織が借りた本を必ず借りているのである。
しかも、決まったサイクルで。

この法則に気付いたきっかけは夏樹が伊織に薦められた本であった。
夏樹にとってその本は「流石、部長が薦めるだけのことはある本」であり、すぐにお気に入りの一冊となった。
数日後、そんな夏樹の前で橘がこの本を借りたのだ。
橘が他にどんな本を読んでいるのだろうかと興味を持った夏樹は貸出履歴をこっそり覗いてみて驚いた。
橘は伊織が読んだ本を必ず借りていたのだ。

夏樹は橘が伊織に恋心を抱いていると推理する。
つまり、同性愛だ。

問題は「どうやって、橘が伊織の読んだ本を知ったのか」だが、これにも解があった。
伊織は週報に書評欄を持っている。
其処で取り上げられた本がちょうど貸し出された本だったのである。
これで、サイクルが一定であることに理由も説明がつく。
週報の発行速度がそのままサイクルになっていたのだ。

この夏樹の推理を聞いた一条は大爆笑。
伊織にまで告げてしまう。
伊織は笑いこそしなかったが、夏樹の推理に大きな誤りがあると伝える。
こうしてもう少し考えることになった夏樹だったが……。

数日後、伊織と一条は橘を呼び出していた。
伊織は夏樹の推理について教えると、橘の目的が「伊織ではなく夏樹にあったこと」を指摘する。
夏樹は自身を過小評価し過ぎていたのだ。
そして、大きな勘違いがあった。

もともと、夏樹がこの謎に気付くきっかけは何だったか?

伊織から薦められた本である。
このとき、橘が傍に居たのだ。
そして、この本が週報に取り上げられた。
週報の書評欄の著者が伊織であることを知らない橘は夏樹が著者だと思い込んでしまった。
そこで、なんとか夏樹とお近づきになるべく週報で紹介された本を借り続けたのだ。

橘は夏樹が好きだったのだ。

見知らぬ先輩2人に心中を見透かされた橘は赤面。
ところが、そんな橘をさらに追い詰める発言が一条から飛び出す。

「夏樹は気付いているわよ。ただ、言わないだけで」
もともと鋭いタイプである夏樹、自説を伊織に否定されたことを足掛かりにして、真相に辿り着いているに違いないらしい。

これを聞いた橘は頭を抱えてしまう。
其処へ一条の甘い囁きが……。

「でもね、この状態からあなたを救う方法があるわ」
一条の口にした方法とは、橘が図書館部に入部することであった。
伊織のオススメ本に感銘を受けたことにして入部すれば、事態を誤魔化せる上に夏樹に近付くことも出来る。
まさに一石二鳥である。

これに一も二もなく飛びつく橘。
こうして、図書館部は新入部員を1人手に入れた。

さて、橘が立ち去って。

「これで目的は達成出来たのか?」伊織が口を開く。
「ええ……」と頷く一条。

「すべてお前が仕組んだことだったんだろう?最初から橘を入部させることが目的だったな」
伊織は矢継ぎ早に一条を責め立てる。
それをすべて肯定する一条。

「だが、1つ分からないことがある。お前が新入部員確保の為に動くほど部活愛に溢れた人間とは思えない。橘を入部させることに一体、何のメリットがあったんだ?」

「分からない?う〜〜〜ん、私の人を見る目もまだまだね。あなたなら分かると思ったんだけど」
そう呟く一条。

「あのね……新ミスよ」
これを聞いた伊織は理由に思い当たり絶句する。

夏樹は10票、一条は9票であった。
これに関連して、一条が橘を入部させる必要があったとすれば。

つまり、夏樹に投じられた10票のうち1票は橘のものであったのだ。
その橘が部員となれば身内票となり、無効も同然。
夏樹の得票数は一条と並び9票となるのだ―――エンド。

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