2012年12月19日

『蚤取り』(湊かなえ著、光文社刊『宝石 ザ ミステリー2』掲載)

『蚤取り』(湊かなえ著、光文社刊『宝石 ザ ミステリー2』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

すべて新作読切りで、ミステリー傑作集が今年も登場。
一冊で短編集2冊分のおもしろさは保証します!

東野圭吾 湊かなえ 誉田哲也 東川篤哉 笹本稜平 東直己 藤田宜永 
門井慶喜 小杉健治 長岡弘樹 深水黎一郎 深町秋生 曽根圭介 若竹七海 

ベストセラー作家再び!
(光文社公式HPより)


<感想>

2011年の年末にも出版された『宝石 ザ ミステリー』が今年も発売されました。
其処に湊かなえ先生の短編が掲載されました。

その名は『蚤取り』。

紛う事無き「イヤミス」ですね。
まさに湊先生の本領発揮。
それだけに破壊力は抜群でした。

家庭内での呪縛からコンプレックスを抱えた主人公が、それゆえにとった行動は意外であり当然のものでした。
あれしか行き着くところなかったのでしょう。
辛うじて精神を保っていた大きな支え―――その支えを失ったことは余りにも厳し過ぎた。
主人公自身も支えに依存している状態を理解していたからこそ、あの行動に繋がっているとも言えそうです。

これはもう、ネタバレあらすじよりも、本作をきちんと読まれた方が絶対に良い。
読まなければ、この圧迫感や臨場感は伝わらない筈。

<ネタバレあらすじ>

妹の有紗が実家に帰って来た。
出来ちゃった婚をした有紗は、出産が近付くにあたり実家に戻って来たのだ。
私の胸中は激しく波立っていた。
何故なら、私は彼女に対し冷静で居られなかったから……。

母は私に男性との交際を禁じた。
だが、有紗には鷹揚であった。

私に同級生の男子から電話があれば、勝手に切られた。
だが、有紗への電話は喜んで取り次いだ。

私が男性と会話すると、変な噂が立つと厳しく叱責された。
有紗が男性と会話すると、母は「あれが良い」などと下世話な話で盛り上った。

いつしか、私は他者と話すことが苦手になった。
私は就職しても上手く行かず、男性とも交際せず、この年になってしまった。

そんな私を母と妹はせせら笑った。
一体、誰の所為でこうなったと思っているのか?
怒りはあるが、私はグッとこらえた。

それが出来るのも愛猫であるスカーレットが傍に居るからだ。
スカーレットは私の分身。
私はスカーレットを手許に置き、可愛がり続けた。
スカーレットを汚す者は許さない。
スカーレットの身体にまとわりつく蚤を潰してはその覚悟を強めていた。

そんなある夜、有紗がテレビで紹介されたスイーツが食べたいと騒ぎ出した。
妊婦を1人で夜中に外出させるワケにはいかない。
私も付き添うことに。

近道すべく材木置き場を抜けようとして、私はスカーレットを見つけ驚いた。
家に保護していた筈なのに……どうやら、有紗が逃がしたようだ。
有紗は「外へ出たがっていたから」と悪びれもせず口にする。

苛立ちはしたが仕方がないと思っていた。
アレを目撃するまでは。

有紗が指差した先にはスカーレットが居た。
ただし、別の雄猫に組み敷かれていた。

「大変、助けなきゃ!!」
角材を手にした私を有紗が止める。
「単なる交尾じゃないの。でも、お姉ちゃん先を越されちゃったね」

このとき、私の中で何かが弾けた。
蚤を殺さないと……私は手にした角材を其処に居た蚤に向けて叩きつけた。
この蚤は妊娠しているようだ―――許せない。
腹部を痛撃した後、今度は頭部に角材を振り下ろす。
止めを刺さなければならないのだ。

数日後、妹が殺害されたことで捜査が始まった。
当夜のアリバイを尋ねられた私は答える。
「蚤を潰していました」と。
事実、そうだから仕方がないのだ―――エンド。

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【その他情報】
“本の雑誌”こと「ダ・ヴィンチ」にて湊かなえ先生特集が掲載、しかも古屋兎丸先生によるコミック版「贖罪」も!!

2010年公開ミステリ系映画(「告白」、「悪人」、「インシテミル」)、DVD化続々

湊かなえ先生『贖罪』がドラマ化!!

湊かなえ先生原作『二十年後の宿題』(『往復書簡』収録)が映画化!!そこには意外なエピソードが……

湊かなえ先生がドラマシナリオを!!フジテレビ系列土曜ドラマ「高校入試」に注目か!?

【ドラマ情報】湊かなえ先生『夜行観覧車』(双葉社刊)がTBS系金曜23時枠にて連続ドラマ化決定!!

『蚤取り』が掲載された「宝石 ザ ミステリー2」です!!
宝石 ザ ミステリー2





ドラマ化される「夜行観覧車」です!!
夜行観覧車





『高校入試』が連載開始された「小説 野性時代 第108号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐11」です!!
小説 野性時代 第108号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐11





映画原作となった「往復書簡 (幻冬舎文庫)」です!!
往復書簡 (幻冬舎文庫)





「白ゆき姫殺人事件」です!!
白ゆき姫殺人事件



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