ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
すべて新作読切りで、ミステリー傑作集が今年も登場。
一冊で短編集2冊分のおもしろさは保証します!
東野圭吾 湊かなえ 誉田哲也 東川篤哉 笹本稜平 東直己 藤田宜永
門井慶喜 小杉健治 長岡弘樹 深水黎一郎 深町秋生 曽根圭介 若竹七海
ベストセラー作家再び!
(光文社公式HPより)
<感想>
2011年の年末にも出版された『宝石 ザ ミステリー』が今年も発売されました。
其処に湊かなえ先生の短編が掲載されました。
その名は『蚤取り』。
紛う事無き「イヤミス」ですね。
まさに湊先生の本領発揮。
それだけに破壊力は抜群でした。
家庭内での呪縛からコンプレックスを抱えた主人公が、それゆえにとった行動は意外であり当然のものでした。
あれしか行き着くところなかったのでしょう。
辛うじて精神を保っていた大きな支え―――その支えを失ったことは余りにも厳し過ぎた。
主人公自身も支えに依存している状態を理解していたからこそ、あの行動に繋がっているとも言えそうです。
これはもう、ネタバレあらすじよりも、本作をきちんと読まれた方が絶対に良い。
読まなければ、この圧迫感や臨場感は伝わらない筈。
<ネタバレあらすじ>
妹の有紗が実家に帰って来た。
出来ちゃった婚をした有紗は、出産が近付くにあたり実家に戻って来たのだ。
私の胸中は激しく波立っていた。
何故なら、私は彼女に対し冷静で居られなかったから……。
母は私に男性との交際を禁じた。
だが、有紗には鷹揚であった。
私に同級生の男子から電話があれば、勝手に切られた。
だが、有紗への電話は喜んで取り次いだ。
私が男性と会話すると、変な噂が立つと厳しく叱責された。
有紗が男性と会話すると、母は「あれが良い」などと下世話な話で盛り上った。
いつしか、私は他者と話すことが苦手になった。
私は就職しても上手く行かず、男性とも交際せず、この年になってしまった。
そんな私を母と妹はせせら笑った。
一体、誰の所為でこうなったと思っているのか?
怒りはあるが、私はグッとこらえた。
それが出来るのも愛猫であるスカーレットが傍に居るからだ。
スカーレットは私の分身。
私はスカーレットを手許に置き、可愛がり続けた。
スカーレットを汚す者は許さない。
スカーレットの身体にまとわりつく蚤を潰してはその覚悟を強めていた。
そんなある夜、有紗がテレビで紹介されたスイーツが食べたいと騒ぎ出した。
妊婦を1人で夜中に外出させるワケにはいかない。
私も付き添うことに。
近道すべく材木置き場を抜けようとして、私はスカーレットを見つけ驚いた。
家に保護していた筈なのに……どうやら、有紗が逃がしたようだ。
有紗は「外へ出たがっていたから」と悪びれもせず口にする。
苛立ちはしたが仕方がないと思っていた。
アレを目撃するまでは。
有紗が指差した先にはスカーレットが居た。
ただし、別の雄猫に組み敷かれていた。
「大変、助けなきゃ!!」
角材を手にした私を有紗が止める。
「単なる交尾じゃないの。でも、お姉ちゃん先を越されちゃったね」
このとき、私の中で何かが弾けた。
蚤を殺さないと……私は手にした角材を其処に居た蚤に向けて叩きつけた。
この蚤は妊娠しているようだ―――許せない。
腹部を痛撃した後、今度は頭部に角材を振り下ろす。
止めを刺さなければならないのだ。
数日後、妹が殺害されたことで捜査が始まった。
当夜のアリバイを尋ねられた私は答える。
「蚤を潰していました」と。
事実、そうだから仕方がないのだ―――エンド。
◆関連過去記事
【ネタバレ書評(レビュー)】
・『告白』(湊かなえ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・コミック版「告白」(湊かなえ原作、木村まるみ画、双葉社刊)ネタバレ批評(レビュー)
・『贖罪』(湊かなえ著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『少女』(湊かなえ著、早川書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『境遇』(湊かなえ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『オール・スイリ2012』(文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
(湊かなえ先生『望郷、夢の国』についてネタバレ書評)
・『長井優介へ』(湊かなえ著、文藝春秋社刊『別冊 文芸春秋 2012年7月号』)ネタバレ書評(レビュー)
・『白ゆき姫殺人事件』(湊かなえ著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『夜行観覧車』(湊かなえ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【ドラマ】
・ドラマスペシャル 境遇「あの“告白”の湊かなえ初のドラマ書き下ろしミステリーすべては幼児誘拐から始まった!過去に翻弄された女達…35年前の殺人事件に驚愕の謎」(12月3日放送)ネタバレ批評(レビュー)
【その他情報】
・“本の雑誌”こと「ダ・ヴィンチ」にて湊かなえ先生特集が掲載、しかも古屋兎丸先生によるコミック版「贖罪」も!!
・2010年公開ミステリ系映画(「告白」、「悪人」、「インシテミル」)、DVD化続々
・湊かなえ先生『贖罪』がドラマ化!!
・湊かなえ先生原作『二十年後の宿題』(『往復書簡』収録)が映画化!!そこには意外なエピソードが……
・湊かなえ先生がドラマシナリオを!!フジテレビ系列土曜ドラマ「高校入試」に注目か!?
・【ドラマ情報】湊かなえ先生『夜行観覧車』(双葉社刊)がTBS系金曜23時枠にて連続ドラマ化決定!!
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