2013年01月11日

「空が灰色だから」55話「お兄ちゃんが」(2013年1月10日掲載)ネタバレ批評(レビュー)

第4巻も発売された阿部共実先生「空が灰色だから」(秋田書店)。
もはや、その勢いは留まる所を知らず『ダ・ヴィンチ 2013年2月号』では、特集「『普通』と戦うマンガ主人公たち」にて大きく取り上げられています。

『空が灰色だから』が『ダ・ヴィンチ 2013年2月号』にて取り上げられる。

実際、読んでみると不思議な魅力を持つ本作。
面白いものを読んだら語らずにはいられない管理人にとって、十分に語るべき対象となる作品であります。

というわけで、2013年1月10日に掲載された55話「お兄ちゃんが」のあらすじをまとめておきます。

これを読んで興味を持たれた方は、是非「週刊少年チャンピオン」本誌連載とコミックスにもチャレンジして貰えればオススメした甲斐があるかもしれません。
直に本作を目にして貰えればその不思議な魅力をご理解頂けるかと思います。
ちなみに、1巻が赤色、2巻が黄色、3巻が青色ということで「虹の7色」をイメージしているのでしょうか。
とはいえ、是非とも7巻以上続いて欲しい作品です。

では、本作の魅力を出来る限りお伝えするべくネタバレ批評(レビュー)です。

◆2013年1月10日「週刊少年チャンピオン」掲載 55話「お兄ちゃんが」

16歳のフブキ(女性)は母からお使いを頼まれた。
目的地は、陽子おばさんの家である。
だが、フブキには気乗りしない理由があった。

陽子おばさんには直樹という1人息子が居る。
フブキと直樹は小学生時代に遊んだ仲で、フブキは直樹を「お兄ちゃん」と慕っていた。
だが、ある事件がきっかけで疎遠になっていたのだ。

期待半分、不安半分ながら出向くことにしたフブキはなんとかお使いを果たす。
ところが、陽子おばさんの自宅を出た所で、片目にカラーコンタクトを嵌めた奇妙な男性に呼び止められる。

「お前は何者だぁ〜〜〜。だが、この目があればぁ〜〜〜」
明らかに奇妙なテンションで話しかけて来る男。
どう考えても普通ではない。
だが、その面影に直樹を見るフブキ。

おそるおそる確認してみれば、やはり直樹であった。
嬉しさ半分、自分の知る直樹からあまりに様変わりしてしまった彼の姿に驚き半分である。

だが、そんなフブキの気も知らず直樹は一方的に話しかけて来る。
直樹と分かり、一生懸命に応答するフブキ。

「おまえ、いくつだ?」
「16歳だよ」
「じゃ、秘密基地行こうか?」
「えっ」
「アルプス一万尺やろう」
「へっ」

だが、あまりに話が噛み合わない。
そうこうする内に、秘密基地へと連れられるフブキ。
だが、其処はフブキの想い出にある秘密基地ではなかった。
人気のない家屋に連れ込まれたフブキの顔が恐怖に凍る。

しかし……。

「おまえいくつだ?」
「さっき、答えたよ」
「アルプス一万尺やろう」
「……」

壊れたラジオのように同じことを繰り返す直樹。
さらに、意味不明の言葉を織り交ぜて来る。

(本当にこの人はお兄ちゃんなんだろうか?偽物なんじゃ……)

恐怖に駆られたフブキはその場から逃げ出す。

「アルプス一億尺やろうぜ〜〜〜」
叫びながら追いかけて来る直樹らしい男。
フブキは必死に逃げ出して……段差から転倒してしまう。

其処へ咄嗟に身を以てフブキを庇う直樹。

ふと、フブキの脳裏に過去の事件がフラッシュバックする。
あのときも同じようなことがあった。
転倒したフブキを庇った直樹はそのまま頭を打ち、大量に出血する大怪我を負ったのだ。
以来、恐怖と申し訳ない気持ちで疎遠になっていたのである。

(やっぱり、お兄ちゃんだ!!)
助けられたことで、相手を直樹だと確信したフブキだったが……。

むっくりと起き上がった直樹は……。
「おまえ、いくつだっけ?あれ、これ聞いたか?」
少ししてまた。
「あれ、おまえ、いくつだっけ?」
繰り返している。

フブキは声も無く泣いた―――エンド。

<感想>

2013年1月10日掲載の55話「お兄ちゃんが」です。
かなり改変加えてます、本作の真価を楽しむ為には連載を読むべし。

サブタイトル「お兄ちゃんが」の後に省略されているのは「壊れた」でしょうね。
そして、お兄ちゃんを壊したのは他ならぬフブキ自身。
あの怪我こそが直樹を壊したのでしょう。
だから、もう戻ってこない直樹にフブキは泣いたのか……。

「なに、コレ?物凄く胸が痛いんですけど」な物語でした。

そう言えば、今週のマーニーは「ニセモノ」がテーマでしたが本作もそうですね。
フブキが知る直樹ではない直樹。
果たして、それは「ホンモノ」か「ニセモノ」か。
直樹としては「ホンモノ」だが、フブキの知る(求める)直樹としては「ニセモノ」であるワケで。

やっぱり「胸が痛い」物語だ。

そう言えば、最近になって星新一先生の作品ともテーマ選択的な面で近い点もあるなと発見。
人の本質は時代を経ても変わらぬモノ。
これを描く点で同じ道を行く両者が近い視点に立つのは必然なのかもしれません。
ただ、其処からの味付けが両者とも卓越しているからこそ読者の心を動かすのでしょう。

さて、「空が灰色だから」ですが、4巻が発売。
さらに「大好きが虫はタダシくんの 阿部共実短編集」も発売中。
もうタイトルからしてやる気満々です。

確実に言えることは短編集には「大好きが虫はタダシくんの」が収録されるってこと。
これに前回の「あつい冬」もついてくる。
うわあぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

そんな「空が灰色だから」は「週刊少年チャンピオン」に連載中の漫画。
読むと心がざわついて何処となく落ち着かなくなる作風。

この間から何となく感じていたのですが、本作は星新一先生の作品以外に、過去に「週刊少年チャンピオン」にて連載されていた倉島圭先生「24のひとみ」にテイストが似ていますね。
従来の枠に囚われない世界観は両者の特徴と言えるでしょう。
その味は、古典部シリーズ『氷菓』のアニメ化で話題の米澤穂信先生の著作『儚い羊たちの祝宴』にも通じるモノがありそうです。

『儚い羊たちの祝宴』(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ批評(レビュー)

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