2013年01月20日

『生存者ゼロ』(安生正著、宝島社刊)

『生存者ゼロ』(安生正著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

2013年 第11回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作

北海道沖に浮かぶ石油掘削基地を襲ったのは、テロ攻撃か、謎の病原菌か、それとも……。
未知の恐怖が日本に襲いかかる!

第11回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作は、壮大なスケールで「未知の恐怖」との闘いを描くパニック・スリラーです。北海道根室半島沖に浮かぶ石油掘削基地で、職員全員が無残な死体となって発見された。陸上自衛官三等陸佐と感染症学者は、政府から被害拡大を阻止するよう命じられるが……。
(宝島社公式HPより)


<感想>

第11回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作『下弦の刻印』を改題したもの。
同回の優秀賞には、新藤卓広先生『秘密結社にご注意を(仮)(『或る秘密結社の話』改題)』、深津十一先生『童石をめぐる奇妙な物語(仮)』(『石の来歴』改題)がある。

第11回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『生存者ゼロ(仮)』に!!

本作はあらすじにもある通り「謎の大量死の原因を陸上自衛官三等陸佐と感染症学者が追う」もの。
この過程で「人類破滅のシナリオ」が浮かび上がる。
いわゆるパニックサスペンスもので、かなり大風呂敷を広げた作品となっています。

内容的には「救われた様に思えるものの、ラストにて破滅の方法が変わっただけであることが示唆されている」点が特徴的。
おそらくあの意味は「キャリア」なんでしょうね……。

つまり、廻田が「運び屋」となって「アレ」を世界中に運ぶことになるのか。
結局、タイトル通り「生存者ゼロ」になるようです。

ちなみに、元のタイトル「下弦の刻印」。
この意味は、ある生命体にとっての「衰退期」を示しているのでしょう。
「下弦の月」という言葉に示されるように月には周期があります。
「新月」「上弦」「満月」「下弦」「新月」の順で満ち欠けを繰り返すワケですが、「下弦」は次の「新月」に向ける終盤を意味します。

これまで幾度も繰り返されて来た地球上の生命活動。
その中では恐竜に代表されるように繁栄と滅びを繰り返しています。
これに照らし合わせると「下弦の刻印」とは「地球上を跋扈していた前の主役(生命体)が滅び、次の主役(生命体)の準備期に入る様子」を表現しているのかもしれません。
次の主役候補が前の主役を脅かし、これを駆逐したモノこそが次の生命体として選ばれることになるのだとしたら……。
だとすれば、作中で人類を脅かしたあの2つこそが次の主役候補であり、最終的には「アレ」になったのかも……。

本作はダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』や『天使と悪魔』が好きな人にはオススメかも。
興味のある方はチャレンジを!!

ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
興味をお持ちの方はオリジナルをお読みになることをオススメします。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
廻田:陸上自衛官三等陸佐。選ばれし者の1人。
富樫:感染症学者。選ばれし者の1人。
弓削:昆虫学者。
大河原:時の総理。破滅に対し如何に対処するのか?

北海道にある石油採掘基地で職員が全滅するという大量死事件が発生。
何らかの病原菌が原因かと思われたが……。

その理由を探るべく、時の総理であった大河原の指示で特別調査チームが派遣される。
其処には陸上自衛官の廻田三等陸佐、感染症学者の富樫が居た。
彼らはこれ以上の被害を防ぐべく奮闘するが、原因が分からない。

そのうちに、大河原を巡り権力闘争が勃発。
大河原は保身に走り、廻田も富樫も追い詰められて行くように。
やがて、2人はともに「選ばれし者」として奇妙な声を聴くようになる。

富樫は過去、研究先にて伝染病で妻子を失っていた。
奇妙な声に誘われた富樫は人類の滅亡が迫っていると考え、それを推し進めるように。

一方、廻田も奇妙な声に少しずつ惹かれて行く。

矢先、大量死の原因が昆虫学者・弓削により判明。
それは病原菌ではなく、突然変異したシロアリによるものであった。
突然変異により凶暴化したシロアリが人を襲っていたのだ。

理由は分かった。
だが、このままでは本州にもその脅威が迫ってしまう。
大河原は富樫の誘導に乗り、札幌を爆弾により焼き払うことで脅威を排除しようと決定してしまう。
だが、それこそは富樫が奇妙な声より聞かされた破滅のシナリオであった。

前門のシロアリ、後門の大量破壊兵器。

時間がない、悲劇は其処まで迫っている……廻田もまた内なる声に導かれるように移動する。
シロアリによりとあるスーパーに追い詰められた廻田と富樫、弓削に一般市民たち。

弓削は周囲を観察し、シロアリに2つの派閥があることに気付く。
増殖し過ぎたシロアリは、一部がハネアリへと進化していたのだ。
シロアリとハネアリは互いにテリトリーを巡り争いを続けていた。
この習性を利用することで互いに互いを牽制させ、絶滅へ追い込むことが出来るかも……。

それは一縷の希望であった。
廻田はこれを報告し、爆撃を止めさせる。

だが、富樫はこれを批難する。
富樫は「自分が用意した方法を受け入れないのならば、別の方法を示せ」と廻田に迫る。

そこへシロアリの群れが!!
隙を突かれた廻田たちは屋上から脱出することに。

だが、途中にて富樫が赤ん坊を庇い死亡してしまう。
富樫は失った妻子を想い、子供を助けたのだ。
最期まで、別の方法を示すように訴えたまま息絶える富樫。

それから数ヶ月が経過した。
弓削の提案は成功し、シロアリの脅威は封じられた。

そして、廻田は富樫の遺灰をその想い出の地へと連れて来ていた。
つまり、富樫が妻子を失い葬った土地である。

最近、廻田は富樫の言葉の意味を考えていた。
「別の方法を提示しろ……」それは「富樫が提示したシロアリによる滅び」ではなく「別の人類の滅びの道」を示せとのことであった。
そして、廻田が訪れた此処では正体不明の伝染病が蔓延っている……治療法はまだ見つかっていない。
もしも、廻田が此処へやって来ること自体に意味があったとしたら―――エンド。

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『弁護士探偵物語 天使の分け前』(法坂一広著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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