2013年02月01日

「空が灰色だから」最終話(58話)「歩み」(2013年1月31日掲載)ネタバレ批評(レビュー)

5巻での完結が噂されていた阿部共実先生「空が灰色だから」(秋田書店刊「週刊少年チャンピオン」連載)が、今週号(2013年1月31日号)の「週刊少年チャンピオン」にて唐突な、まさに唐突としか表現できない勢いで最終回を迎えました。

ウソ?ホント?「空が灰色だから」コミックス5巻にて完結の噂が……

上記過去記事にある通り「今週号にて何らかの発表がある筈」とは言われていましたが、いきなり最終回とは思いもよりませんでした……いや、これこそが「空が灰色だから」の味か。

それにしても驚いた。
第4巻も発売されて、『ダ・ヴィンチ 2013年2月号』で特集も組まれてたのに。

『空が灰色だから』が『ダ・ヴィンチ 2013年2月号』にて取り上げられる。

これだけの勢いがありながらの最終話。
「作品のクオリティを維持出来るうちに、終わらせる方が良い」とは分かっていても、普通はなかなか出来ないのではないでしょうか。
その点、人間性を表現したその作品内容同様に、阿部先生自身が「引き際について1つの手本を見せた」とも言えそうです。

実際、読んでみると不思議な魅力を持つ本作。
面白いものを読んだら語らずにはいられない管理人にとって、十分に語るべき対象となる作品でありました。

では、2013年1月31日に掲載された最終話(58話)「歩み」のあらすじをまとめておきます。
ちなみに、要点は同じながら、並びやエピソードを意図的に改変してます。
あらすじにするにあたり、効果的であることを優先したものです。
とはいえ、オリジナルの魅力には到底及びませんでしたが……。

これを読んで興味を持たれた方は、是非「週刊少年チャンピオン」本誌連載……は終わってしまったのでコミックスにチャレンジして貰えればオススメした甲斐があるかもしれません。
直に本作を目にして貰えればその不思議な魅力をご理解頂けるかと思います。

では、本作の魅力を出来る限りお伝えするべくネタバレ批評(レビュー)です。

◆2013年1月31日「週刊少年チャンピオン」掲載 最終話(58話)「歩み」

唐井桂は女子中学生。
そんな彼女は、同級生の川江と鈴田に「一発ギャグ」を強要されていた。
面白くなければ強制罰ゲームが待っている。

仕方なく、両手を頭の上で斜めに突き合わせ屋根を表現すると「金閣寺、金閣寺」と連呼する唐井。
だが、川江と鈴田はシラケ顔。
ギャグを全否定すると、罰ゲームとして「クラスで孤立している水戸歩に先のギャグを見せた上で友人になる」よう唐井に強要するのであった。

得体のしれない水戸に緊張しながら近付く唐井。
「金閣寺、金閣寺」と例のギャグを見せつけることに……川江と鈴田のような結末になるかと思いきや。

「ははははははははは」
水戸は大爆笑し始める。
どうやら、ツボに嵌ったようだ。

そのまま打ち解ける2人。
こうして、唐井と水戸は友達になった。

水戸は思ったより善良な少女であった。
やっと友達が出来たと無邪気に喜ぶ水戸に心を痛める唐井。

互いに互いの趣味を語り合い、唐井は「趣味が将棋である」ことも打ち明ける。

これを聞いた水戸は「自分が将棋のルールを知らない」ことを告げ、自身の名が“歩”であることから「将棋の“歩”のように一番下っ端だ」と忸怩たる思いを明かす。
それを言うならと唐井は、自身の名が“桂”であることを教える。
つまり、桂馬の“桂”だ。
水戸はお互いの名前が将棋に関連していることを喜び、「唐井さんの友達として、将棋が出来るようになるよ」と言い出す。

水戸は友達が出来たなら、一緒にしたかったことを唐井と体験して行く。
ショッピングに出かけた2人。
そこで水戸は『将棋の入門書』を購入しようとする。
だが、お金が足りない。
これを見た唐井は自分もお金を出し合い、2人で購入することに。
『将棋の入門書』は2人の想い出の品となった。

いつしか水戸は唐井を「唐井さん」ではなく「桂ちゃん」と呼ぶようになっていた。
唐井にとって、水戸との将棋の約束は大きなものとなっていた。

そして、1週間後。
そんな唐井に川江と鈴田が声をかけて来た。
「あんたへの罰ゲームを終わりにしてやるよ」そう告げる川江たち。
つまり、水戸にすべてをバラして、その関係をご破算にしてこいとの命令だ。

このまま水戸と友達で居たい―――でも、そうすると自分もクラスから孤立するだろう。
悩む唐井。

そこへ水戸が「聞いて、聞いて。凄い物を手に入れたんだよ!!」と笑いかけて来る。
そんな水戸に唐井は、これまでのことが罰ゲームで友達だとは思っていなかったと伝えるのであった。
凍り付く水戸、だが、笑顔は絶やさない。
「だよね、前々からそうだと思ってたよ〜〜〜唐井さん」
「桂ちゃん」から再び「唐井さん」へ、唐井の胸がズキンと痛む。
水戸はそのまま背を向けると、以前と同じように自分の席に戻り俯いてしまった。

この様子を陰から眺めていた川江と鈴田。
「サイコォ〜〜〜」
「傑作ぅぅぅぅぅ、あの顔見たぁ?」
などと口々に述べる。

俯いていた水戸は顔を上げた。
その目からは涙が溢れている。
水戸の見詰める先には『将棋入門』が。
水戸は何かから逃げるように、楽しかった思い出に縋るように一心不乱にそれに目を通す。

そんな水戸の姿を凝視する唐井。
ごめん、本当にごめん。
どう想ってくれても構わないからね。
それだけのことをしてしまったんだから。
心の中でそう思いつつ―――エンド。

<感想>

2013年1月31日掲載の最終話(58話)「歩み」です。
先述した通りに「あらすじ」にはかなりの改変を加えてます、本作の真価を楽しむ為には連載を読むべし。

遂に「空が灰色だから」が最終話になってしまいました。
潔い、あまりに潔いその姿勢は多くの読者の心に残る物と思います。
そんな最終話のタイトルは「歩み」。

これは水戸の名前であると同時に、唐井と水戸が互いの心に傷を負い、一歩人間として成長したことを示しています。

水戸さん、「手に入れた凄い物」とは「将棋盤」ですかね。
それだけ、水戸さんにとって唐井さんは「特別な人」となっていたんでしょうね。切ない。
「歩」は確かに「捨て駒」とされますが「前しか向かず、前にしか進まない」。
水戸さんには胸を張って前へ向かって欲しい。
そして、「歩」は敵陣に辿り着くと「金」に出世するのです。
今は、ただ前へ向かって突き進むべき。

そして、唐井さん。
「桂馬」と「歩」が奇しくも示したように、互いの在り方は異なるところにありました。
進み方も同じく異なります。
但し、いずれ辿り着く目的地は同じかもしれない。
これまた、「桂馬」も「歩」同様に前しか進めないので。
さらに、「桂馬」もまた「金」になれる駒だったりする。

唐井と水戸の悲劇、唐井の選択が生じさせたものですが、すべては学級内ヒエラルキーによるもの。
これは、まるで将棋の駒のように上下の階級が固定している。
唐井はどうしても、自身の階級を捨てられなかったのでしょう。

だが、「桂馬」も「歩」も場合によっては「金」になれる。
友情を優先することで得られる何かがあったのかもしれません。
ただし、失うものも大きかっただろうこともまた事実でしょう。

そんなサブタイトル「歩み」。
「空が灰色だから」それ自体の歩みを示しているともとれる。

水戸が「空が灰色だから」自体。
唐井が掲載誌である「週刊少年チャンピオン」。
川江たちが読者。

読者たち(川江たち)に「さらに面白い作品」を求められた「週刊少年チャンピオン」(唐井)は、その命じるままに面白そうな「空が灰色だから」(水戸)の連載を決める。
「週刊少年チャンピオン(唐井)」に「空が灰色だから(水戸)」が順調に連載され続けた。
その間、読者たち(川江たち)は大いに喜んだ。
そして、読者の期待はどんどん大きくなっていく。
今までは、これに応じてこられた。
だが、これが長きに渡る以上、いずれ読者の期待に応えられなければ信頼関係に傷が……。
其処で読者の期待に応えつつ、「空が灰色だから(水戸)」が「惜しまれているうちに去る」と決断し身を退いた。
「週刊少年チャンピオン(唐井)」と「空が灰色だから(水戸)」が、また一歩大きく成長する為に。

これは、流石に牽強付会かなぁ……。
とはいえ、これだけのことを想像する余地があるのも本作の魅力。
それだけに潔いとは言え、惜しい。

阿部共実先生、連載お疲れ様でした。
2011年10月から連載スタートということで、実に1年3ヶ月(「ブラックギャラクシー6 外伝」の期間含む)に渡り、質の高い作品を楽しませて頂きました。
これだけのクオリティを維持し続けることは、才能は当然として類稀なる努力も必要だと思います。
本当に素晴らしい作品をありがとうございました。
出来れば「空が灰色だから」の続編を希望したいところですが、別の新作にも期待しています(^O^)/!!

ちなみに完結となる5巻は2013年3月8日発売予定。
またタイトルは未定なものの、3月18日に発売される『もっと!vol.2(秋田書店)』で新作を発表されるとのこと。
こちらも注目!!

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