2013年02月09日

『明智小五郎対金田一耕助』(芦辺拓著、東京創元社刊)

『明智小五郎対金田一耕助』(芦辺拓著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

昭和12年の冬、薬問屋の娘の依頼を受けて、商都大阪を訪れた若き日の金田一耕助。老舗二軒の本家争いに端を発する騒動は、金田一の到着とともに異様な事件に発展する。一方、時を同じくして同地に立ち寄った明智小五郎は……。目眩くどんでん返しが連続する表題作ほか、雷鳴轟く古城で起きる不可能犯罪「フレンチ警部と雷鳴の城」など、古今東西の名探偵が大活躍の7編を収録。解説=唐沢俊一

目次
「明智小五郎対金田一耕助」
「フレンチ警部と雷鳴の城」
「ブラウン神父の日本趣味」
「そしてオリエント急行から誰もいなくなった」
「Qの悲劇 または二人の黒覆面の冒険」
「探偵映画の夜」
「少年は怪人を夢見る」
(東京創元社公式HPより)


<感想>

まさに「お祭り作品」とでも言った雰囲気の短編です。
日本を代表する名探偵、明智小五郎と金田一耕助の競演となれば、垂涎ものでしょう。
しかも、冒頭とラストには名前こそ明かされませんがあの人もゲストで登場。
もう、ニヤニヤが止まりません。

時間軸的には金田一が『本陣殺人事件』の前。
明智が『怪人二十面相』の最中ということになるのかな。

内容的には、先輩である明智に軍配が上がるワケですが、そんな中で金田一が過去に行われたもう1つの犯行にいち早く気付く点も良かったですね。
これは両者の性質の違いを上手く作中に反映したものと思われます。

金田一と言えば映像作品で有名な「しまったぁぁぁぁぁぁ」の台詞通り、事件が終息した後に犯人を指摘することが多い探偵。
その分、過去の因縁など動機に拘りを見せます。

一方、明智は犯人の行動を予測し、自爆装置(火薬)に水を入れておくなど先回りすることで事件を阻止することが多い探偵。

こういった「後手に回りがちも、本質に拘る金田一」と「事件の発生自体を阻止する明智」のキャラクター性の違いが上手く取り入れられているのでしょう。
キャラクター性に関しては「文句なし」でした。

ただ、その分だけトリック面と動機面に皺寄せが及んだ感は拭えない。
正直、あの動機でこの犯行はかなり厳しい気も。
トリック自体もかなり無茶がある。
犯人にとっては、普通に喜一郎の際と同じ方法を採用すればよいだけだからだ。

だが、この2大探偵が挑むにあたってトリックが生半可なものでは駄目だろう。
その点で、これだけ大きな舞台装置が用意される必要があったとも言えるかもしれない。
つまり、今回の動機はトリックの為に用意され、そのトリックはこの2大探偵の為に用意されたものだ。

まさに、この2大探偵は活躍の舞台を自ら選ぶことの出来る探偵なのである。
そして、現実に影響を及ぼし、作者である芦辺先生にこの作品を提供為さしめたのであろう。
そうとしか思えない。

明智小五郎、金田一耕助、いずれかのファンならば読むべし。

ちなみに「ネタバレあらすじ」中の「ある1点」だけを意図的に変更しました。
変更点についてですが、大筋に反する箇所ではありません。
なので、ネタバレあらすじ自体は原作をまとめたものになっています。
あくまで、前後の繋がりに配慮したのと原作を読んで比較して欲しいとの気持ちがあった為に設けてます。
この点は注意!!

2013年2月8日追記

遂にドラマ化の正式な発表が為されました。

遂に制作発表された「KvsA」!!「金田一耕助VS明智小五郎」そのストーリーとは!?

金田一耕助役に山下智久さん、明智小五郎役に伊藤英明さんだそうです。
お2人に当て嵌めて本作を楽しむのもアリかも。

追記終わり


<ネタバレあらすじ>

明智小五郎は久しぶりの日本に感慨を深めていた。
政府の依頼で大陸へ渡り、ある事件を解決したばかりである。

明智には1つの悩みがあった。
知らぬ者が無いほど高名となった探偵・明智小五郎。
だが、最近では彼の心を躍らせるような事件は少なくなりつつあった。
黒蜥蜴、蜘蛛男……かの怪人たちと推理を戦わせた日々は遠い。
代わりに、高度に政治的な駆け引きを伴う事件の解決に奔走するようになっていた。
このままで良いのだろうか……明智は自身の進む道に疑念を抱きつつあったのだ。
「事と次第によっては引退すら視野に入れて良いのではないか」とすら最近では考えていた。

そんな彼の前には大量に積まれた新聞の束があった。
普段から懇意にしている宝石商の書生から新聞を受け取っていたのである。
明智は新聞記事からも事件を解決することが出来る。
日本を離れている間に起こった事件に目を通すことで、何かの役に立てるだろうとの狙いであった。
特に明智の力が必要とも思えぬ事件が並ぶ中、ある事件の記事に目が留まるのであった。
それは若き探偵が関わる事件についてである。

当の若き探偵・金田一耕助は困っていた。
思わぬ事件の展開に驚かされていたからである。

事の発端は金田一が大阪で有名な薬種問屋「鴇屋蛟龍堂」に招かれたことにあった。
依頼人である初恵によれば、「鴇屋」では「本家」と「元祖」で争いが起こっているらしい。

初恵の兄・善池喜一郎を当主とする「本家・鴇屋」。
三代目である丸部長彦を当主とする「元祖・鴇屋」。

もともと「鴇屋蛟龍堂」は1つの店であった。
時の当主が番頭であった善池と丸部の功に報い、2人に暖簾分けを行ったのだ。
この際、平等にすべく、向かい合った敷地に鏡に映ったかのように全く同じ店構えの2軒を用意した。
さらに「血統が途絶えた方が、続く店に従うように」との取り決めが為された。
以来、もともと仲の悪かった善池家と丸部家は向かい合ったまま「本家」と「元祖」として熾烈な争いを繰り広げたのだ。

ところが、数年前に敵同士とも言えるこの両家に思わぬことが起きた。
初恵が長彦と恋仲になったのである。
これに、喜一郎は激怒。
「元祖」に乗り込むと、長彦に硫酸を浴びせ二目と見られぬ顔にしてしまう。
そのまま喜一郎は何処かへ消えてしまった。
今も、消息は判明していないそうである。
長彦はと言えば、以降は黒い覆面で顔を隠すようになり、初恵との恋も終わってしまった。

それが最近になって、どうも不審な人物が両家の付近に現れるようになったのだそうである。
初恵は喜一郎が戻って来たのではないか、またも良からぬことを企んでいるのではないかと心配していた。
其処で金田一が招かれたのだ。

若き金田一にとっては大仕事である。
こうして、金田一は「本家・鴇屋」の2階に滞在することに。
薬種問屋だけあって奇怪な人体標本などに驚きつつも、夜となった。

ふと、金田一が向かいの2階を眺めると、見知らぬ2人組により黒覆面の人物が連れ出されているではないか!!
黒覆面の人物からは大量の出血も見受けられ、通常の状態でないことは容易に想像できた。
慌てた金田一は「本家」を飛び出すと「元祖」へと駆け込む。

ところが2階の扉は堅く閉じられており、開きそうにもない。
そこで、その場を初恵に任せ、警察に駆け込むことに。
警官隊を引き連れて戻ってみると、2階は血塗れ、明らかに殺人事件が行われた形跡が!!
しかも、「元祖」の人々は蔵に閉じ込められていた。

長彦が殺害されたと思しき時刻、「本家」の人々は「本家」に居り、「元祖」の人々は蔵に監禁されていた。
当然、誰も長彦に危害を加えられない。
アリバイが存在するのだ。

さらに数日後、川原で黒焦げの長彦と思われる焼死体が発見される。
果たして、この怪事件の真相とは!?

戸惑う金田一に事件について根掘り葉掘りと尋ねる人物があった。
特徴的な眼鏡に髭をたくわえた新聞記者である。
金田一は何故か、この記者に親近感を覚え、事件の情報すべてを教えてしまうのであった。

その夜、新聞記者に情報を教えたことで整理が出来たのか、金田一はある推理に辿り着く。
早速、電話があった警部にすべてを伝えることに。

金田一の推理は次のようなものであった。

消えた喜一郎の存在に注目した金田一。
もしや、長彦は喜一郎により殺害されており、黒覆面は喜一郎だったのではと考えたのだ。
例の「血統が途絶えたら」の文言がある限り、長彦が死んでしまうと「元祖」の人々は「本家」に従うしかなくなる。
だが、喜一郎が居なくなったところで「本家」には初恵が居るのだ。
そこで、「元祖」の人々は喜一郎を長彦として監禁した。
しかし、隙を見て喜一郎は外に連絡を取り始めた。
このままでは、逃げられてしまうかもしれない。
悩んだ「元祖」の人々は「逃げられるよりは」と、自らの手で殺害したに違いない。
例の金田一が目撃した光景は「鏡を利用した別の部屋の情景」だったのだ。
これならば、アリバイも崩れる。

こうして事件を解決したと考えた金田一は大阪を離れるのであった。
さて、これで本当に事件は解決したのであろうか?

数日後、金田一は身に覚えのない活躍で自身の名を新聞に見出し驚くこととなる。
なんと、そこには長彦殺害犯として「元祖」ではなく初恵が捕まったとされていたのである。
しかも、この推理を金田一が行ったことになっていた。

記事の内容によれば、長彦とされた死体はやはり長彦であった。
実は、今回の事件のすべてが「本家」と「元祖」の共謀だったのである。
これを裏で操っていたのが初恵だった。
初恵は「鴇屋」の秘伝を秘密裏に製薬会社に売ろうとしていた。
そう、店の付近で目撃された不審な人物の正体は製薬会社の関係者だったのだ。
だが、これが分かれば「本家」も「元祖」も死活問題である以上黙ってはいないだろう。
そこで、長彦を介して事を進めた。

そして案の定、長彦の行動が店の人間に露見した。
そこで初恵は「本家」と「元祖」の不安を煽りつつ、長彦を捕まえてでも阻止するように扇動した。
一方で、長彦に対しても絶対に主張を曲げないように言い含めた。
こうして、両者は衝突。
争う最中に、初恵が毒で長彦を殺害したのである。

困ったのは「本家」と「元祖」の人々だ。
どうしようと途方に暮れているところに、初恵がアイデアを出す。
それが「本家」と「元祖」の交換である。
建物はそのままに、「本家」を「元祖」、「元祖」を「本家」に仕立て従業員も移動させたのである。

つまり、金田一が泊まった「本家」は実は「元祖」であった。
金田一の隣の部屋こそが、長彦殺害の現場だったのである。

その上で、「本家(本当は元祖)」から人をやり「元祖(本当は本家)」であの芝居を行って見せたのだ。
「元祖」の人間は蔵の中でアリバイを作り、「本家」の人間も互いに口裏を合わせアリバイを作った。

これこそ、事件の真相であった。
記事によれば、初恵は長彦亡きあとに製薬会社の人間と取引しようとしていたところを金田一に捕まったそうだが……もちろん、金田一はそのときには大阪には居なかった。
狐につままれたような気分の金田一だが、直感的に喜一郎も初恵が殺害したのだと悟る。
あの奇怪な人体標本こそ、消えた喜一郎の遺体だったのだ。
ぞっとする金田一。
そんな彼に次なる事件「本陣殺人事件」が待ち構えているのだが、まだ知らない。

一方、東京へと向かう汽車には明智の姿があった。
そう賢明なる読者諸氏はお気付きの事と思うが、金田一を名乗り初恵を捕まえた人物の正体は彼であった。
実は金田一に近付いた記者の正体も彼。

あの日、明智もまた金田一と同様に「鏡のトリック」に行き着いた。
其処で可愛い後輩へのアドバイスとして電話を入れたところ、警部と間違われて同じ推理を聞かされた。
ところが、聞いている内にどうも実行不可能ではないかとの想いが湧いて来た。
そして真相に辿り着いたのである。
金田一の名を用い事件を解決したのは彼なりの後輩への謝罪であった。

息を吐く明智の目に、ある新聞記事が止まる。
宝石商の書生が監禁されていたとの報道だ。
彼こそ、あの新聞を明智に渡した人物であった。
だが、報道が事実ならば渡したその日には既に賊に捕まっていたことになるが……。

不思議がる明智だが、すぐに謎は解けた。
東京駅にて明智を出迎える小林少年。
その隣に佇む人物に解を見出したのだ。

その人物は自らを外務省の職員であると名乗った。
宝石商の書生から外務省へ職を代えたのかい―――思わずそう問いかけたくなる衝動を抑える明智。
どうやら、大阪への足止めにあの事件を利用したのだな……相手の目的を察した明智はそのまま策略に乗った振りを続ける。
一方で、小林少年には指示を与える。

これは面白くなりそうだ―――心の中で呟く明智。
以降、明智とこの怪人物とは幾度となく干戈を交えることになる。
そう、まさに宿命のライバルとの出会いであった。
こうして、明智の悩みは解消され、彼は探偵を続けることになるのだがそれはまた別の物語―――エンド。

捕捉:ラストのシーンですが、お分かりですね。
怪人物とは「怪人二十面相(後に四十面相など)」のこと。
つまり、此処から『怪人二十面相』のエピソードに連結しているワケです。

2013年4月6日追記

東京創元社版に続き角川書店版である『金田一耕助VS明智小五郎』(芦辺拓著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)を追加しました。

『金田一耕助VS明智小五郎』(芦辺拓著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

2013年9月23日追記

2013年9月21日、シリーズ新作が発表されました。

『明智小五郎対金田一耕助ふたたび(前篇)』(芦辺拓著、角川書店刊『小説野性時代』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

そして、ドラマ版が放送。

「金田一耕助VS明智小五郎 犬神家の一族八つ墓村の金田一が名探偵明智と世紀の推理対決!切断された頭部 黒頭巾の男、黒焦げの焼死体…老舗薬問屋で続発する奇怪な連続殺人!予想を全て裏切る謎につぐ謎!驚愕の真相とは!?」(9月23日放送)ネタバレ批評(レビュー)

追記終わり


【ドラマ化情報】
【至急報】謎の推理ドラマ情報が!!果たして「KvsA」とは!?

「KvsA」の正体判明!!土曜プレミアムSPドラマ「金田一耕助vs明智小五郎」だった!!

◆関連過去記事
【森江春策シリーズ関連】
・森江春策シリーズ第1作にして初々しい学生・森江青年が初登場する作品はこちら。
「殺人喜劇の13人」」(芦辺拓著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「綺想宮殺人事件」(芦辺拓著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・土曜ワイド劇場版「森江春策」シリーズ第1作となった「弁護士・森江春策の裁判員法廷 殺人レシピのさしすせそ」のネタバレ批評(レビュー)も含んでます。
「裁判員法廷」(芦辺拓著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・「探偵Xからの挑戦状!」にあなたも挑戦!?「森江春策の災難」ネタバレ批評(レビュー)です。
「森江春策の災難」(芦辺拓著)ネタバレ批評(レビュー)

【ドラマ版】
土曜ワイド劇場「弁護士森江春策の事件 殺人同窓会・すり替った友人の死体〜君は一体誰!!密閉空間の移動トリックで法廷が踊る!?」(8月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)

土曜ワイド劇場「弁護士・森江春策の事件 透明人間の完全犯罪!!偽装結婚で殺された病院長!?死のカプセルが相続人を狙う」(10月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「明智小五郎対金田一耕助 (創元推理文庫)」です!!
明智小五郎対金田一耕助 (創元推理文庫)





「ルパン対ホームズ (新潮文庫―ルパン傑作集)」です!!
ルパン対ホームズ (新潮文庫―ルパン傑作集)





「真説ルパン対ホームズ―名探偵博覧会〈1〉 (創元推理文庫)」です!!
真説ルパン対ホームズ―名探偵博覧会〈1〉 (創元推理文庫)



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