2013年08月01日

『氷山の一角』(麻耶雄嵩著、角川書店刊『赤に捧げる殺意』収録)

『氷山の一角』(麻耶雄嵩著、角川書店刊『赤に捧げる殺意』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

人気ミステリ作家8名が魅せる名探偵+極上の謎
赤がいろどる謎(ミステリ)の競演

火村英生&アリスコンビにメルカルト鮎、狩野俊介など国内の人気探偵を始め、極上のミステリ作品が集結。いわくつきの洋館で、呪われた密室から見つかった死体のからくりに、東京タワーのてっぺんに突き刺さって死んでいた特撮監督の謎。新本に交ざって売られていた一冊の古本が導く、書店店主の意外な死の真相……。気鋭の作家たちが生み出す緻密かつ精密な論理の迷宮。豪華執筆陣による超絶ミステリ・アンソロジー!
(角川書店公式HPより)


<感想>

論理の限界に挑むメルカトル、その解決法は意外なものでした。
犯人を罠にかけた探偵は古今に数居れど、仲間を罠に嵌めたのは銘探偵たるメルカトルの面目躍如でしょう。
まさに氷山の一角から全体像を眺めることは出来ない。
それゆえの非常にして非情の策でしたね。

精緻な論理も冴え渡っており、ファンは読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

有名バンドである「フォークルセイダーズ」、そのマネージャーが何者かに殺害された。
マネージャーは死の間際に「十」の字を4つ、ダイイングメッセージとして残すが……。

この事件の調査に乗り出したメルカトル。
ところが、この日のメルカトルは一味違った。

なんと、普段から彼に不満を抱く美袋に対しある提案を行ったのだ。
不満解消の為に立場を交代しようと持ちかけたのである。
つまり、美袋がメルカトルを演じ、メルカトルが美袋を演じようとのお遊びである。
美袋はメルカトルの能力に懐疑的であり、これを大喜び。

成功すればメルカトルに対し優位に立てる。
また、仮に失敗したとしてもメルカトルの評判が傷付くだけで美袋には痛みは無い。
どちらに転んでも、美袋にはメリットしかない……そう考えたのだ。

こうして、メルカトルを名乗った美袋は普段の彼の捜査手法を真似ようとする。
だが、付け焼刃が上手く行く筈がない。
行き詰る美袋に、メルカトルはさりげなく誘導を与え続けて行く。

自動販売機の下を覗き込んだ美袋は、其処でキーホルダーを入手する。
次いで、容疑者と思われる「フォークルセイダーズ」メンバーに対しての尋問である。
メンバーの1人・赤枝志津香は高圧的な美袋扮するメルカトルの質問に激しく敵愾心を抱く。

それから数十分後、自室で推理に頭を悩ませていた美袋は何者かの襲撃を受け昏倒してしまう。
そのまま入院することに。

幸い怪我も軽かった美袋だが……。
其処へメルカトルが犯人を逮捕したことを告げにやって来る。

犯人は「フォークルセイダーズ」のメンバー・赤枝志津香であった。
此処で初めて美袋は自身がメルカトルに嵌められていたことに気付く。
美袋とメルカトルが入替ったのは、犯人を炙り出す為の罠を張る際に危険を察したメルカトルが美袋に影武者を勤めさせる為だったのだ。

4つの「十」の字のダイイングメッセージ。
通常ならば「十」が4つで「フォークルセイダーズ」を指し示していると考える。
だが、メルカトルは名前に「十」が複数紛れ込んでいる「赤枝志津香」を疑っていた。
とはいえ、確たる証拠はない。
そもそも、ダイイングメッセージは恣意性が強く、解読者により如何様にでも都合がつけられてしまう。
それは「氷山の一角」に過ぎず、全体像はどうとでも判断できるのだ。

其処で、メルカトルは動かぬ証拠を押さえようと考えた。
すなわち、次なる犯行の現場である。

メルカトルは自販機近くから被害者のバイクのキーを見つけたように偽装することで、志津香のアリバイ工作が崩れかねないとの印象を相手に与えた。
不安がる志津香に美袋を通じて圧力をかけた。
志津香は疑心暗鬼に陥り、自身を追いこむ名探偵を殺害しようと企てた。
こうして美袋を襲撃し昏倒させるには成功したが、その現場をメルカトルに捕まったのだ。

メルカトルはこの展開をすべて見越した上で、美袋を囮にしたのだ。
美袋はこれに憤慨するが、メルカトルが相手ではどうしようもないのであった―――エンド。

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