ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
・上巻
「これが私の現時点での最高到達点です」奥田英朗 超弩級の犯罪サスペンス
昭和39年夏、東京はアジア初のオリンピック開催を目前に控えて熱狂に包まれていた。そんな中、警部幹部宅と警察学校を狙った連続爆破事件が発生。前後して、五輪開催を妨害するとの脅迫状が届く。敗戦国から一等国に駆け上がろうとする国家の名誉と警察の威信をかけた大捜査が極秘のうちに進められ、わずかな手掛かりから捜査線上に一人の容疑者が浮かぶ。圧倒的スケールと緻密なディテールで描く犯罪サスペンス大作!
・下巻
高度経済成長の光と影のあわいで東大生の知略と国家の威信がぶつかる!吉川英治文学賞受賞作!
急死した兄の背中を追うようにオリンピック会場の建設現場へと身を投じた東大生・島崎は、労働者の過酷な現実を知る。そこには、日本が高度経済成長に突き進む陰でなお貧困のうちに取り残された者たちの叫びがあった。島崎は知略のすべてを傾けて犯行計画を練り、周到な準備を行なう。そしてオリンピック開会式当日、厳重な警備態勢が敷かれた国立競技場で運命の時を迎える! 吉川英治文学賞を受賞した、著者の代表作。
(角川書店公式HPより)
<感想>
国男という青年を通じて、当時の社会を描いた物語。
あるいは、「万民平等」との理想実現に挑んだ1人の学生の物語とも言えそうです。
彼の行いは壮挙か、暴挙か。
理想は正しかったが、実現する為の行動が間違っていた―――そう断言するのは簡単です。
しかし、国男はその誤りを知りつつ、他に方法がないと実行に移した。
これもまた若さゆえと切り捨てて良いのでしょうか。
国男は知っていました。
繁栄の影に多数の弱者が犠牲になったことを。
そして、それは過去ではなく現在進行形で続いていることを。
当然、それは平成の今も続いているのでしょう。
これも含めて、その答えは読者1人1人の胸のうちにあるのかもしれません。
もっとも印象的だったのは、学生たちの活動に対し「こいつらは戦争を知らない。だから友達を作る為に戦争をしている」との村田の台詞。
強い目的意識があってのものではなく、ファッションとしての主義主張であったことを示唆しています。
国男に比された彼らの姿も何を訴えているのでしょうか。
ちなみに本作「テレビ朝日さんによりスペシャルドラマ化」されるそうです。
・奥田英朗先生『オリンピックの身代金』(角川書店刊)が映像化されるとの噂が……
こちらも注目です!!
<ネタバレあらすじ>
島崎国男は東京大学の学生。
出身は東北地方の小作農であり、弱者のない世界を目指しプロレタリア主義を学んでいた。
国男は島崎家の期待の星だったのだ。
国男には8人の兄弟が居る。
その長男がオリンピック施設建設の労働者として働いていた。
ところが、酷使され続けた為に疲れ果て薬物に溺れて死亡してしまう。
これを知った国男は体制に疑問を抱いた。
ともかくも、現状を打破しなければならない。
自身が立身出世し、社会構造を変えるとの夢も見た。
だが、国男は一度歯車になってしまえばそれが叶わぬことも知っていた。
金が必要だ。
富の再分配が必要だ。
富める者から金を奪い、その金を配って歩く―――そう決断したのだ。
それこそが国男の革命であった。
こうして最短距離と言える道を模索した結果、国男は直接行動に移った。
まず、ダイナマイトを盗み出した。
そして、オリンピックを爆破で台無しにされたくなければ8000万円を用意しろと脅迫文を叩きつけた。
さらにダイナマイト1本を用い、宣戦布告の狼煙とした。
だが、新聞報道はされなかった。
もう2本ほど試してみたが、やはり報道はされなかった。
並行して建設現場で働き活動資金を作った。
労働者の米村などと親交を結び、兄が嵌ったように薬物も使用した。
だが、労働者に博打を持ち掛け利益を吸い上げる樋口と関わったことで思いもよらぬ殺人を犯すことになる。
国男は米村と共に樋口を殺害してしまったのだ。
米村を巻き込まないように国男は1人逃亡する。
想定外の出来事に慌てた国男はスリをしていた村田を頼る。
こうして村田が国男の仲間になった。
一方で、現場での目撃証言などから国男の名前は早くも捜査線上に浮上。
手配される身となっていた。
国男は自分が本気であることを示す為に、橋脚にダイナマイトを1本使用。
さらに、もう1本を開封後に爆破するような仕掛けを施し郵送さえすることに。
だが、その間にも樋口の件でその仲間からも追われるようになった。
当局の追及も激しさを増す。
窮した国男は学生運動グループに保護を求める。
だが、グループ自体は「オリンピックを攻撃対象」にすることに反発し国男と袂を分かつ。
これを傍から見ていた村田は彼らが「友達を作る為に、戦争をしている」と笑うのであった。
他のメンバーのやり方に疑問を抱くグループメンバーの1人・ユカから支援を受けつつ、時を待つ国男。
一度は披露宴の風呂敷包みを用いて、身代金受取まであと一歩のところまで迫るが失敗することに。
国男は村田を見捨てることが出来ず、彼を救う。
いつしか、国男と村田の間には強い絆が育まれていた。
そして、遂にオリンピック開催の当日がやって来た。
国男と村田は別々に目的地へと向かう。
国男はダイナマイトを所持、村田が金の受取役となりそれぞれの役割を果たそうとする。
国男は虚無僧とバス運転手に変装し会場への侵入を果たす。
だが、村田は金の受け取りに成功したものの、バスに隠れてたいたところを発見され逃走に失敗。
遂に逮捕されてしまう。
こうして、計画の失敗を悟った国男は一矢報いるべくダイナマイトを爆発させようとすることに。
しかし、これもまた先回りされた末に、銃で撃たれ阻止されるとの結末に終わるのであった。
国男は生きているのか、死んでいるのか。
この事件自体が闇に葬られ、その後の国男がどうなったか知る者は少ない。
そして時代は高度経済成長、バブルへと突き進むのである―――エンド。
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
- 『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)
- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
- 『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)
- 『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 F..
- 『コーイチは、高く飛んだ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)
- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
- 『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』(笠井潔著、講談社刊『メフィスト 2016v..
- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)