ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
・実業之日本社版あらすじ
オペレータールームに配属された新入社員・梶本大介。社内では奇妙な事件が次々起こる。書類が紛失し、保険外交員が墜死、マルチ商法勧誘社員が台頭し、女性派遣社員は突然倒れる。ロッカールームに泥棒が入り、部長のぬいぐるみは切り裂かれ、トイレが黒い液体で汚された――。オフィスを騒がす様々な日常の謎を新入社員大介と女性清掃作業員・キリコがたちまちクリーンにする、本格ミステリー。
・文藝春秋社版あらすじ
オフィス清掃にこんなオシャレな女の子が?
オフィスに起こる奇妙な事件。日常に潜む悪意のありかを、ビル清掃の女の子がぴたりと当てる。読後感爽快なキリコシリーズ第1巻
深く刺さった、小さな棘(とげ)のような悪意が、平和なオフィスに8つの事件をひきおこす。社会人一年生の大介にはさっぱり犯人の見当がつかないのだが――「歩いたあとには、1ミクロンの塵も落ちていない」という掃除の天才、そして、とても掃除スタッフには見えないほどお洒落な女の子・キリコが鋭い洞察力で真相をぴたりと当てる。
(実業之日本社、文藝春秋社公式HPより)
<感想>
『天使はモップを持って』はあらすじにもある通り「キリコシリーズ」の記念すべき第1作。
シリーズ自体はこの『天使はモップを持って』に、第2弾『モップの精は深夜に現れる』第3弾『モップの魔女は呪文を知ってる』第4弾『モップの精と二匹のアルマジロ』の3作を加えた4作(2013年5月時点)となっています。
ちなみに本シリーズは文庫版の出版社が1、2作目と3、4作目とで異なっており、
シリーズ第1作と2作が文芸春秋社、以降は実業之日本社となっています。
そんな『天使はモップを持って』ですが、「人と人との関係性を描いた作品」と言えるでしょう。
当然、シビアかつヘヴィなストーリーが展開される……と思いきや著者の語り口やキリコの人柄もあって全体的に朗らかな作品となっています。
読んでて勇気づけられることは必定の作品。
ちなみに『天使はモップを持って』の収録作品は「オペレータールームの怪」、「ピクルスが見ていた」、「心のしまい場所」、「ダイエット狂想曲」、「ロッカールームのひよこ」、「桃色のパンダ」、「シンデレラ」、「史上最悪のヒーロー」の8作品。
「日常の謎」かと思いつつ、時に殺人事件までテーマになりドキッとさせられます。
「あらすじ」については後ほど「ネタバレあらすじ」をご覧頂くとして、それぞれの感想は次の通り。
・「オペレータールームの怪」
大介とキリコの出会いが描かれる作品。
此処からシリーズが始まったのかと思うと、感慨深い。
テーマは「男社会の中で奮闘する女性」か。
「フーダニット」と「ハウダニット」ですね。
・「ピクルスが見ていた」
『天使はモップを持って』中で唯一、殺人事件を取り扱った作品。
シリーズ自体として殺人事件を扱うのは、他に『鍵のない扉』と『コーヒーを一杯』の2作がありますね。
ただ、それらと違って本作はラストの展開もあって何処か「2時間サスペンス」テイストです。
・「心のしまい場所」
人は必ず大なれ小なれ思い悩むもの。
そんな悩みもキリコにお任せと言ったところでしょうか。
テーマは「気配りが出来るからこそ、配慮し続けなければならない矛盾」ですね。
・「ダイエット狂想曲」
「過ぎたるは及ばざるが如し」ですね。
何事もほどほどが1番なのでしょう。
・「ロッカールームのひよこ」
人による価値観の違いを描いた作品。
単なる被害者ではなく、望んでその状況にあったとの結末が背筋を凍り付かせます。
・「桃色のパンダ」
「桃色のパンダ」という可愛らしいモチーフとは異なり、現実的な結末です。
「フーダニット」から「ハウダニット」に転じる瞬間が驚嘆です。
・「シンデレラ」
これまた人と人との価値観の違いですね。
傷付けられるキリコですが……。
・「史上最悪のヒーロー」
消えたキリコ……結婚した大介……2人はどうなってしまうのか!!
意外な結末にほっこりします。
きっと続編が読みたくなる筈です。
ちなみに『天使はモップを持って』が連続ドラマ化されるそうです。
ドラマ版は、NHKBSプレミアムさんにて2013年5月4日スタート。
毎週土曜23時15分から全4回で、原作の『オペレータルームの怪』『ピクルスは見ていた』『桃色のパンダ』『シンデレラ』がドラマ化されるようです。
こちらも要注目!!
<ネタバレあらすじ>
・「オペレータールームの怪」
梶本大介は新入社員。
配属先はオペレータールームである。
直属の上司にあたる女性主任・富永や、先輩オペレーターである植田、鴨川、二宮らに指導されつつ、新社会人生活を頑張っていた。
だが、富永は同じ女性として植田たちからはどうも煙たがられているようだ……。
ある日、大介が出社したところ、明らかに場にそぐわない清掃作業員の女の子を見かける。
はっきりと周囲から浮いていたのだ。
コギャル然としたその女の子の名は嶺川キリコ。
大介は不思議と彼女を忘れられなかった……。
キリコは人気者であった。
どうやら、服装はともかく仕事は出来るらしい。
富永や植田たちからも好感を持って迎えられているようだ。
矢先、事件が起こった。
書類が紛失してしまったのだ。
だが、大介自身に憶えは無い。
確かに机の上に置いておいたはずなのだが……まさか、イジメだろうか?
不安に駆られる大介だったが、その日は富永の許可を得てもう一度書類を作り直すこととなった。
其処へキリコが掃除にやって来る。
キリコは何やら大介の作成している書類をまじまじと眺めていたが……。
さらに数日後、またも書類が無くなってしまった。
流石に連続してでは富永にも見放されてしまうに違いない。
焦りと困惑に囚われた大介は、落ち着くべく外へ。
ところが其処へキリコがやって来る。
手には紛失した筈の書類が握られていた。
キリコによれば、外のゴミ箱に捨てられていた物だと言う。
外には滅多に書類が捨てられることはないので、目についたのだそうだ。
1回目は廃棄してしまったが、あの後に大介が同じ物を作っていた姿を目撃しもしやと思ったらしい。
驚く一方で、誰かに恨まれていたのか……と肩を落とす大介。
とはいえ、書類は戻って来たと喜ぶが……。
キリコは書類は返せないと告げられる。
もしも、返せば今度はもっと遠くに捨てられてしまう恐れがあるからだ。
キリコは犯人を突き止めるよう大介に提案。
2人は犯人捜しを始めることに。
オペレータールームにシュレッダーがあることに気付いたキリコは犯人を指摘。
ある方法で、2度と同じような嫌がらせを起こらなくすることが出来ると主張する。
一も二もなく、これを受けた大介。
その翌日、そわそわと席を離れた富永を大介は追ってしまう。
富永は大介の姿に気付くと激怒してしまう。
一体、何が行われていたのか?
実は大介の書類を盗んだ犯人は富永であった。
犯人は何故、外に書類を捨てたのか―――シュレッダーがあったのにも関わらずである。
それはシュレッダーの管理者だったからであった。
そして、管理者は富永だったのである。
キリコの提案は、大介がやられたように富永の書類を捨てること。
富永が犯人ならば、自身が捨てた場所を探そうとするだろう。
結果、書類が見つかれば大介への嫌がらせへの抑止力になると考えたのだ。
だが、気になった大介は富永を追い目撃されてしまった。
これでは、大介が報復したのと同じである。
富永の動機は「大介に頼られたい」が為であった。
男社会の中で、他の女性社員に敬遠されながら奮闘してきた富永。
その努力をせめて若手男性社員には認めて欲しい。
そこで、大介が選ばれた。
書類を盗むことで自身を頼らざるを得ない状況を作ったのだ。
それにしても……大介は思う。
明日から、どんな顔をして富永先輩に顔を合せればよいのだろう、と。
そんな大介にキリコは助言する。
人間関係は掃除と同じ、どんな汚れも必ず除くことが出来る。
しかも、早ければ早いほど良くとれる。
これを聞いた大介。
その翌日、富永と2人きりになる機会を待って告げた。
あんなことをしなくても先輩の事を尊敬しています―――と。
富永は肩の力を抜くと「ごめんなさい」と泣きながら謝罪するのであった―――エンド。
・「ピクルスが見ていた」
大介は家賃入りの財布を落としてしまった。
このままでは家賃が払えない。
困った大介はキリコの仕事を手伝うことでアルバイト料を貰うことに。
大介と打ち解けているキリコは彼にワックスがけの手伝いを頼む。
大介が手を動かしていたところ、面白い話を始めるキリコ。
巷で流行のキャラクター・ピクルス。
キリコはこのピクルスが掃除中に移動すると言う。
なんでも、コピー機の上に置き目を離すと、次には窓から星空を眺めているらしい。
決まって水曜日未明の出来事らしいが……。
そして……その夜もキリコと大介が目を離した隙に、ピクルスは窓枠にちょこんと座り込んでいたのである。
翌日、保険外交員の女性・橋爪が転落死体で発見された。
橋爪は大介たちにも保険の営業をかけており、星占いを配ることで有名な人物であった。
どうやら、何者かに突き落とされたらしい。
橋爪と女子社員の1人・神代が何やら揉めていた事が判明。
橋爪は近く久保課長との結婚を控えていた。
容疑は橋爪にかかるが……。
キリコは橋爪が配っていた星占いに注目。
古いそれを回収し、内容を確認することであることに気付く。
水曜日の天秤座の運勢だけがよく書かれていなかったのである。
キリコは久保課長が天秤座であることから、この星占いが神代の依頼で刷られたものであると推理。
実は久保課長はサッカー賭博にのめり込んでいた。
婚約者である神代は久保にコレを止めさせたい。
そこで、縁起を担ぐ久保の性格を利用するべく橋爪の占いを使ったのだ。
橋爪は神代の要望を叶える代わりに、印刷を手伝うように求めた。
だから、水曜日未明だけはコピー機のピクルスが窓際に移動させられていたのである。
窓の外を眺めていたのは、神代なりの茶目っ気だったのだろう。
ところが、橋爪も神代も想像していない要素があった。
星占いを真剣に受け止めていた人物にとって、この出来レースは許されざることであった。
だから、橋爪は殺害されたのだろう……結論付けるキリコ。
納得した大介はキリコと別れて……ふと考えた。
あの日、大介たちが居る場所で橋爪は転落死したのである。
もしや、先程の推理を聞かれていたとしたら……。
キリコが心配になった大介は元居た場所へ駆け戻る。
と、案の定、キリコが倒れていた。
そして、大介に襲い来る衝撃。
犯人はストッキングで顔を隠しているが、女子社員だ。
抵抗虚しく大介は昏倒させられかけて……女子社員が不意に崩れ落ちた。
その背後にはキリコの姿。
どうやら、キリコが犯人を気絶させたらしい。
キリコは襲撃をやり過ごして反撃の機会を伺っていたのだ。
こうして、犯人は逮捕された。
数日後、大介とキリコは事件について語り合っていた。
犯人はやはり女子社員であった。
水曜日と言えば不動産会社の定休日。
その不動産会社に勤務する彼氏を持つ女子社員が占い結果に戦々恐々としていたのである。
最近になって彼氏と上手く行かなくなりつつあった彼女は、これが占いの所為だと考えた。
其処で橋爪に詰め寄り転落死させてしまったのであった。
ピクルスが守ってくれたと無邪気に喜ぶキリコ。
犯人に襲われたキリコは脇の下にピクルスを挟み込むことで、死亡したふりをしたらしい。
だからこそ、反撃できたのである。
何処か誇らしげなピクルスの表情。
大介にはそれが眩しく見えた―――エンド。
・「心のしまい場所」
大介は同期である原西と共に、同じく同期の天満の結婚式に参加していた。
ところが、其処で騒動が持ち上がる。
なんと、デパートに発注していた引き出物が勝手にキャンセルされていたのだ。
困り果てる天満たちに、中川が「これはいいものよ」と何処からか用意した引き出物を譲る。
だが、これに天満は憤りを隠せない。
それもその筈、中川こそがキャンセルした当の本人であった。
中川は「ホットライフ」というマルチ商法の団体に所属しており、その団体の品を引き出物として使わせる為に仕組んだのだ。
常軌を逸したやり口に大介も困惑。
だが、原西は何故か感銘を受けた様子で……。
数日後、原西は中川を通じ「ホットライフ」の会員になってしまった。
大介はキリコに相談し、彼女を止めようとするが原西は聞かない。
普段、優等生として知られる原西の豹変に大介は動揺する。
矢先、キリコまでもが「ホットライフ」の集会に参加したいと言い出す。
慌てた大介も参加し、キリコを止めようとするが……。
「ホットライフ」の中でも明らかな論客らしき人物に言い包められてしまう。
断りきれない状況に追い込まれつつあった大介。
そんな大介を救ったのは、キリコと原西であった。
キリコは大介を連れ出し、原西を待つ。
急いでやって来た原西は「ホットライフ」への入会を思い止まるよう説得するのであった。
それを聞いたキリコは逆に原西を諭す。
実は原西は優等生として生きることに疲れていた。
其処で傍若無人な中川を目にし、彼女の世間を見ない=目隠しした生き方に憧れを抱いた。
そして、マルチ商法であると知りながら「ホットライフ」に参加しようとしていたのだ。
それは自棄であると指摘するキリコ。
知らなければ目隠しもできるだろう。
だが、原西は周囲を見る術を知っている。
もっと別な方法で「心のリフレッシュ」を計るよう提案するのであった。
数週間後、其処には真っ黒く日焼けした原西の姿があった。
貯金を崩し海外へ旅行に出ていたのである。
原西は笑う。
今までにないほど自然な顔で―――エンド。
・「ダイエット狂想曲」
健康診断の結果から、オペレータールームには時ならぬダイエットブームが訪れていた。
その矢先、小太りの体型で知られる日比野―――と対照的な痩身の妹と、小太りな大崎の2人が派遣としてオペレータールームにやって来た。
新しい仲間を加え、オペレータールームはダイエットに向けて一丸となる……筈だった。
日比野の妹がこれを拒否したのだ。
顰蹙を買う日比野の妹だったが……。
一方、キリコによれば日比野の妹には闇があると言う。
不安を抱く大介だが、予感は的中。
日比野妹が給湯室で何者かに襲われ、怪我をしてしまう……。
だが、何故か日比野妹は自分が転んだと主張する。
日比野姉は妹がオペレータールームでイジメに遭っていたと批難。
結果、まとめ役である富永が窮地に立たされる。
見かねた大介はキリコに相談。
キリコは日比野姉を呼び出すと事件の真相を明かす。
実は日比野妹は拒食症であった。
ダイエットへの過度の依存から、食べ物を口に入れても吐くようになっていたのである。
だが、意図的に同居していた姉を太らせることで、相対的に体型に自信を抱きバランスを取っていたのだ。
ところが、オペレータールームに配属されたことでこのバランスが崩れた。
其処は時ならぬダイエットブームだったからである。
ダイエットへの脅迫観念を抱くこととなった日比野妹は、拒食症が悪化していた。
苦しさから周囲に反感を募らせた彼女は、給湯室で大崎のお茶に砂糖をぶち込むとの暴挙に出た。
これを大崎本人に見咎められ問い詰められた為に怪我をしたのである。
大崎自身もダイエットのイライラが募っていたのかもしれない。
こうして、真相が判明した。
だが、これは明かされることはなく……日比野妹は本人の主張通り、転倒による怪我とされた。
そして、日比野妹は病気を理由に退社した。
大介は彼女が強く生きてくれることを祈るのであった―――エンド。
・「ロッカールームのひよこ」
キリコが清掃に来なくなった。
何かあったのだろうか?
それとも何も言わず辞めてしまったのだろうか?
大介が様々な憶測を巡らせ、不安に駆られる中でその事件が起こった。
女子社員の更衣室から物が盗まれたのだ。
さらに、徳田課長による須飼という女子社員へのセクハラの噂も浮上して……。
とはいえ、大介に何かが出来るワケではない。
気を揉みつつ日々を過ごすのであった……。
そして、数日後。
大介は清掃業務に携わるいつものキリコを発見する。
キリコによれば彼女の飼い猫「にいやん(鳴き声が「にいやん」だから)」が熱を出したのでその世話をしていたらしい。
辞めたワケではないと知り、ほっと胸を撫で下ろす大介。
早速、事件について相談するが……。
ところが、その最中に「にいやん」が更衣室からヒヨコを見つけて来る。
しかも、数十羽も。
保護するキリコたちだったが、ヒヨコは衰弱しており死んでしまった……。
生き物の命を粗末にする遣り口に憤りを隠せないキリコ。
大介から聞いた噂をもとに徳田課長に興味を抱く。
矢先、当の徳田課長に遭遇。
徳田課長はキリコをイヤらしい目線で汚すと、猫を連れていることが規則違反だと脅迫する。
黙って欲しければ、休日に自宅に来いと言うのだ。
大介はキリコが断ることを期待するが……キリコは了承してしまう。
かといって、キリコ1人を行かせるのは危険である。
ナイトとなった大介はキリコに同行することとした。
案の定、徳田課長は大介の同行を露骨に嫌がった。
だが、キリコに押し切られ渋々認めることに。
徳田課長の自宅には様々なペットが飼われていた。
キリコはそれとなくヒヨコが餌としされていることを聞き出す。
キリコの狙いに気付いた大介。
では、ロッカーのヒヨコ事件は徳田課長の仕業だったのか。
だが、キリコによれば違うと言う。
キリコが指摘した犯人は須飼であった。
須飼は犯行を認める。
それは彼女なりのSOSらしい。
須飼は徳田課長にセクハラされ続けていた。
しかも、自宅にも何度となく訪問させられていたのである。
何が行われたかは想像に難くない。
そんなある日、須飼は徳田課長が女子更衣室の鍵を持っていることを知った。
其処で更衣室で騒ぎを起こせば徳田課長に目が向くと考えたらしい。
その為に、盗難事件とヒヨコ事件を仕掛けたのだ。
同情する大介だったが、キリコは須飼を批難。
「あなたはヒヨコでなく、自身で助けを呼べる鶏なのに命を粗末にした」と激怒する。
「何もそんなに言わなくても……」と、大介はキリコに小さな反発を抱くが……。
数日後、大介は見た。
仕事上のミスで徳田課長に怒鳴られる須飼の姿を。
だが、通常ならばネチネチと真綿で首を絞めるような説教も、須飼の謝罪ひとつで切り上げられてしまった。
そして、須飼はニヤリと微笑んだのである。
このとき、大介は気付いたのだ。
ペットはペットでも徳田課長にとって須飼はお気に入りのペットであり、須飼は彼に保護されているのだと―――エンド。
・「桃色のパンダ」
キリコが誕生日を迎えた。
プレゼントをねだられ、女心に疎い大介は困ってしまう。
そんなとき、新人社員研修でお世話になった永井からキリコと同じ女性としてアドバイスを貰うことが出来た。
結果、キリコはプレゼントに大喜びすることになったのだが……。
その数日後、吉田部長が娘への誕生日プレゼントして用意していた桃色のパンダの縫いぐるみがバラバラ死体で発見されてしまう。
吉田部長は特に気に留めた様子もないが、不穏な空気が蔓延するのは防げなかった。
大介とキリコは吉田部長の不倫相手がバラバラにしたのではと考え、彼女を問い詰めるが……。
彼女は犯行を否定する。
では、一体誰が……悩む大介だったが、キリコは桃色のパンダの製造元を調べ犯人を突き止める。
吉田部長は知らなかったが、パンダの製造元はある社員のお手製の品であった。
その社員こそ、永井だったのだ。
永井は過去に吉田部長と不倫の関係にあった。
それ自体は特に後悔していないそうだが、吉田が家族を持ちながら他の若手社員と不倫を繰り返すことが許せなかった……その戒めだったと動機を述べる。
どうやら、吉田部長は様々な若手女性社員と不倫を繰り返していたらしい。
吉田はともかく、永井の情念に動揺する大介。
その目の前から、永井は無言で逃げ去ってしまう……。
だが、キリコは永井の真の動機を見抜いていた。
パンダの縫いぐるみ、その中には時限爆弾が仕掛けられていたのだ。
とはいえ、字義通りのモノでは無い。
パンダの中には、仲睦まじかりし日の吉田と永井の姿を撮影した写真が封印されていたのだ。
おそらく永井にとっては吉田との決別の意味を込めたものだったに違いない。
ところが、そのパンダが吉田の娘の手に渡ると知り、永井は動揺した。
もしかすると、何かの拍子に写真が見つかるかもしれない。
そうすれば、吉田の家庭は大変なことになる……。
自身の行動を後悔した永井は、パンダを分解し写真を破棄したのである。
「あんた、時限爆弾にならなくて済んだのよ」
桃色のパンダを手にキリコは呟く―――エンド。
・「シンデレラ」
キリコは困惑していた。
最近になって、トイレに何者かが墨汁をばら撒くようになったのだ。
折角、掃除したのにこれでは掃除が終わらない。
悩むキリコに大介は力になりたいと望む。
敵の狙いは明らかにキリコなのだが……。
調べたところ、キリコに代わり他社の清掃業者から業務委託を受けたいと苛烈なアプローチが行われていることが判明。
まさか、他社がわざわざキリコを追いこむ為にやった陰謀なのか!?
しかし、そこまでするだろうか……。
キリコに恨みを抱く人物を調べ始めた大介。
結果、キリコへ営業部の松岡がアプローチしていることが判明。
松岡の彼女ならば動機があることが分かる。
だが、松岡の彼女は既に彼と別れたあとであった。
なんでも、部屋を汚していたところを見られたのが原因らしい。
松岡の彼女は「彼は騎士のような人。彼が悪いんじゃない」と繰り返しているそうだが……。
これを聞いた大介は犯人とその動機に思い当たってしまう。
そして、激しく自己嫌悪した。
後日、犯人を呼びだした大介。
犯人は松岡であった。
松岡は悪びれることも無く、犯行を認める。
彼の動機は「キリコさんのような美しい人が清掃業をする必要は無い」とのものであった。
キリコの仕事を辞めさせ、自身の彼女にする為に妨害していたのである。
松岡はそれがキリコの為だと思っている。
そして、これを本気で信じている。
キリコが自身の仕事に誇りを持っていることなど露ほども思っていないのだ。
それを疑おうともしていない。
そんな松岡の思考を大介も追えてしまった。
もしかすると、大介の中にも何処か同じ気持ちがあるのかもしれない。
だが、大介はキリコが仕事に誇りを持っていることを知っている。
大介は、松岡に対しキリコの誇りを汚したと詰め寄る。
しかし、松岡は意味が分からない様子で大介を侮り続ける。
そのとき、頭上から水が降って来た。
不意討ちを受けた松岡は水浸しに。
水を浴びせたのは―――キリコであった。
この会話をキリコも耳にしていたのだ。
ショックの重さに耐えられず、走り去るキリコ。
そんなキリコを必死に追う大介。
大介はキリコに「仕事の楽しかった思い出」を思い出すよう語るのだが―――エンド。
・「史上最悪のヒーロー」
大介が営業部へと異動した矢先、キリコが会社から消えてしまった……。
大介自身も会社でのキリコの想い出を振り切るように、結婚に踏み切る。
富永たちは大介の結婚を祝福しつつ、キリコの身の上を案じていた。
果たして、キリコは何処に消えてしまったのであろうか。
もうあの掃除姿を見ることが出来ないのだ……キリコを想うが為に暗い心を抱えた大介にとって、新妻との生活は楽しくも辛いものとなっていた。
そんな折、取引先に出向いた大介は其処で仕事に従事するキリコを見かける。
ところが、キリコは大介を目にするや脱兎の如く逃げ出してしまうのであった。
大きなショックを受ける大介。
それから数日、妻と顔を合わせることもなくメモでのみの遣り取りを続けた大介は、この心のモヤモヤのすべてに決着をつけようとキリコを追う。
遂にキリコを捕まえた大介にキリコは……勝手に仕事をしていたことを謝罪するのであった。
何故、謝罪する必要があるのか。
それもその筈、大介の新妻はキリコだったのだ。
大介とキリコはそれぞれの親族以外の周囲に黙って結婚していた。
大介には母が居た。
だが、祖母の介護が負担となったのか、急死してしまった。
そこで、新たな介護の担い手が必要となった。
そんなとき、大介の脳裏に浮かんだのがキリコであった。
大介は思い切って結婚を申し込んだ。
普通に考えればとんでもない理由である。
ところが、キリコはこれを受け入れた。
キリコも大介に惹かれていたのである。
大介自身も今では介護についてはきっかけに過ぎなかったと思っている。
やはり、キリコを愛していたのだ。
だが、祖母の介護を担当することでキリコは仕事を続けられなくなった。
其処で仕事を辞めた筈だったが……どうしても我慢できず、隙を見て大介に見つからないように仕事をしていたらしい。
これを知った大介はそんなキリコだからこそ好きになったのだと、キリコの意志を尊重することに。
こうして、キリコは介護を続けながら仕事も行うこととなった。
これで、ひとまず事件は解決である。
だが、問題が1つある。
キリコの希望で大介の新妻がキリコであることは富永たちに伏せられているのだが、これを明かすタイミングが難しいのだ。
数週間後に結婚式で新妻をお目見えする予定はあるのだが、富永たちにどう説明するべきか―――エンド。
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