ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
小説が認められず苛立つ夫に、毎日の行動を執拗に追及される雑誌記者の妻。怯えからつい口にした嘘が、惨劇をひき起こす。「証明」「新開地の事件」「密宗律仙教」「留守宅の事件」収録。
(文藝春秋社公式HPより)
<感想>
短編です。
松本清張先生作品の多くにみられる「犯罪行為を用いた立身出世とそれに伴う破滅」を描いた作品の1つ。
尾山定海の成功と、それゆえに破滅するであろう様が丁寧な筆で描かれています。
とはいえ、この内容がかなり特徴的。
全体的にかなり個性的な作品となっており、作者の意外な一面も窺える作品の1つでしょう。
<ネタバレあらすじ>
印刷工として働いていた男は、このまま働いていたところで先はないと見切りをつけ宗教に注目する。
妻・ヤスに暫しの別れを告げると御山に入り、修行を重ねた彼は様々な出会いを経て、独自の教義に到達。
尾山定海を名乗り「密宗律仙教」を興す。
これは「立川流」を定海なりに翻案したもので「男女の和合により現世利益を得ることが出来る」とのものであった。
つまりは、男女間で睦み合うことで上手く行くと説いたのである。
だが、何事を為すにも金が要る。
「密宗律仙教」と雖も、それは同じ。
中小企業の経営者その妻たちを取り込み、彼女たちの中でも特に数人と定海自身が関係を結ぶことでパトロン兼幹部にした。
これから資金を供給して貰うことで、運営に充てたのだ。
教団の立ち上がりは上々であった。
だが、信者が200人を超えたあたりで成長がピタリと止まってしまった。
過激な教義が支持を得られなかったのが原因であろう。
なんらかで「現世利益」を形に示さなければならない。
定海が困り果てていたところに、幹部の夫が病に倒れたとの報が。
定海は特別な呪法で病から快復させようと、ヤスが保管していた豚の脂に注目する。
腐ったそれを注射すればどうだろうか。
どう考えても危険としか思えないが、定海はこれを実行に移す。
そして幹部の夫は血栓を起こし、死亡してしまう。
だが、解剖しても特に不審は発見されなかった。
幹部の夫には多額の保険金がかけられていた。
受取人は定海である。
これに味を占めた定海は同じことを繰り返し、教団を拡大して行く。
そろそろ、地元経済を牛耳る大手をバックにつけたいと定海が考え始めた頃。
待っていたように、条件を満たす社長が信徒になる。
社長にはある目論見があった。
彼は定海の力で病身の妻を殺害して欲しいと依頼する。
社長には愛人が居たのである。
定海は例の方法で殺害、今度は肺炎に偽装するのだが……。
解剖が行われることになった。
この最中に、主治医は奇妙な血栓の存在に気付く。
それと共に、最近の奇妙な死についても関連付けた。
定海が快癒祈祷を行っていたことにも注目した。
結果、これを警察に報告することに。
まだ定海の殺害法には辿り着いてはいない。
だが、それも時間の問題であろう―――エンド。
◆松本清張先生関連過去記事
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