2013年04月22日

『怪物』(福田和代著、集英社刊)

『怪物』(福田和代著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

怪物は死体を溶かす…緊迫のミステリー長編
物体を跡形も無く溶かせるという、最新鋭のゴミ処理施設の研究者・真崎。定年間近の刑事・香西は、真崎の部屋で強烈な「死の匂い」を感じる。頻発する失踪者たちと真崎との繋がりを探ろうとする香西だが…。
(集英社公式HPより)


<感想>

「怪物」とは「特別な何か」ではなく「誰もが心に抱いている闇」であることを示した本作。

確かに真崎は「怪物」である。
だが、その「怪物」に惹かれる時点で誰しもが「真崎」になる素養を抱いている。
だからこそ、あの結末に繋がるのだろう。

人は誰もが弱く、強い。
矛盾するようだが、心が弱いからこそ何処までも強かになれるのだ。

心が弱いからこそ、何かに怯える。
何かに怯えるからこそ、どこまでもエゴを押し通す事も出来る。
強ければ譲れることも、弱いから譲れない。
弱いから、他者を疑う。
弱いから、他者の責任にも出来る。

人は理解せずとも、本能的にこれを行っている。
それが人だ。
人は誰しもが怪物になれる。

だが同時に、人は弱いからこそ自身の闇に恐怖を抱く。
本能的に闇を恐れ、明かりを求めるように他者との触れ合いや温もりを求める。
それにより、己のうちの怪物を抑え込もうとする。
この実行機関の最小単位が家族であり、最大単位が人類と言う種だ。
だから、人は怪物であり、怪物ではない。
これは大きい。

だが、本作中の真崎はこの戒めから逃れた存在である。
彼には家族は無く、生きながらに死者となった彼に恐怖心は無い。
これは作中で真崎が語ることでもあり、ラストからも頷いて頂けるだろう。
真崎はまさに「怪物」である。
真崎の誘惑に抗するには、他者との繋がりをもってしか不可能なのかもしれない。

そして、里紗もまた幼児期に被害を受けた際に生きながらの死者となり、あの事件で決定打となった。
真崎の里紗についての発言は事実だろう。
里紗自体も幼児期の体験がトラウマになってたんだろうし。
まさに、生きながらに死者となっていた。
だからこそ、そのトラウマを乗り越える為に原因となった人物の排除を考えていた。
そして、その結果、彼女は怪物となった。

香西も家族を失った時点で半死人となっており、仕事という繋がりを喪失するに及んで生きながら死者となった。
そして、あの事件が彼を怪物に変えた。

里紗も香西も彼らを支える人々が居れば、結末は異なっていたのであろう。
作中で語られた「ミノタウロス」のように、孤独は人を容易に「怪物」にするのだ。
「怪物」が「怪物」であると理解するには客観視する相手が必要だ。
人と人との繋がり……それこそが唯一の対抗手段なのかもしれない。

<ネタバレあらすじ>

香西は定年間近の刑事。
だが、彼には他者にはない異能が備わっていた。
なんと、生物が死亡した場所に赴くことで「死の匂い」を嗅ぎ取ることが出来るのだ。
つまり、其処で殺人が行われたかどうかが判断できる。
これに匂いの強さを加えることで、死者の無念をも察することまで出来た。
これは刑事である香西にとって、大きな武器となった。

そんな香西の心残りは時効を迎えた「くるみちゃん誘拐殺人事件」。
くるみちゃんという幼女が何者かに誘拐され殺害、焼かれ遺骨として遺棄された事件である。
遺族の悲嘆は大きく、香西は義憤を抑えきれなかった。

何故なら、香西は「死の匂い」により犯人を知っていたからである。
その犯人の名は堂島明。
当時、学生。
今や選挙に出馬しようとする代議士であった。

香西の死の匂いは証拠にならない。
結局、堂島を逮捕することは出来なかった。
しかも、この捜査にかかりきりになった間に娘が病死。
これが原因で離婚となり、香西は家族も失った。

最近、香西はとみに思うのだ。
堂島をこのまま野放しでよいのか―――と。
だが、香西自身も定年を控え事件捜査に発言できる立場ではない。

香西の憤懣をある程度理解できるのは後輩の石川刑事くらいであっただろう。
とはいえ、その石川も「死の匂い」を理解できるとは思えない。
香西は孤独であった。

そんな中、香西は橋爪の失踪事件に興味を抱く。
橋爪が最後に立ち寄ったとされるゴミ処理施設を訪れた香西は其処で若き研究者・真崎亮に出会う。
と同時に最新鋭の骨まで溶かすゴミ処理機械から「死の匂い」を感じ取るのであった。

橋爪は真崎に殺害され、此処で処理された。
確信した香西は真崎の過去を調べ、意外な事実を突き止める。

実は、橋爪は過去の出資金詐欺の犯人であった。
真崎の両親もこれにかかり、苦にして埠頭から車ごと投身自殺してしまった。
真崎は唯一の生き残りだったのだ。
真崎には橋爪を殺害する動機があった。

だが、香西は何故かこれを明かすことなく沈黙を守ってしまう。
悪人を人知れず処分できる―――そんな機械が存在していることに背徳的な喜びを感じていたのだ。

数日後、そんな香西に「くるみちゃん殺害犯を知っている」との匿名電話が入る。
電話の主は自分もくるみちゃん同様に被害に遭っていたと述べ、犯人の特徴を当時伝えたが黙殺されたと告げる。

過去の記録を調べた香西は藤井寺里紗を突き止める。
当時の里紗は犯人と思われる人物が歩いているところを見たと証言、身長などを情報提供していた。
それは一目撃証言として処理されていたが、実は里紗自身が被害者であったのだ。
被害者であることを伏せる為にこのような形で情報を伝えたのであろう。

里紗を訪ねた香西は彼女の口から匿名の通報の主が彼女であり、選挙ポスターを見たことで堂島明の犯行に気付いたとの証言を得る。
里紗は自身を汚した堂島が今ものうのうと生きていることが許せないと主張。
正義の執行を香西に求める。
だが、法の守護者である香西は、時効が成立していることから里紗を押し留めることしか出来ないのであった。

しかし、納得がいかないのは香西も同じであった。
里紗に亡き娘の面影を見た香西は秘密裏にその証言の裏付けを集め、里紗に対しての犯行ならば倫理的な罪を問えるかもしれないとの結論に行き当たる。
里紗の協力を得た上で、知り合いの有能なジャーナリスト・三園に助力を求める。

こうして、考えられる限り万全な体勢を整えた香西は遂に行動に移す。
里紗に堂島へ接触させ揺さぶりをかけ、その様子を録音させることにしたのだ。
この録音を三園に報道させるのである。
もしも、堂島が強硬手段をとれば香西自身が助けに赴くつもりであった。

ところが、これが思わぬ事態を招く。
里紗は堂島を前に興奮したのか、必要以上に彼を刺激した。
結果、過去の罪を指摘された堂島は里紗に掴みかかったのだ。
堂島を止めるべく飛び込んだ香西の目の前で、堂島は里紗に押され転倒。
そのまま死亡してしまう……。

香西は自分の行動が里紗を殺人者にしてしまったと狼狽。
そのとき、真崎の顔を思い浮かべる。
あの機械ならば、堂島の死それ自体を隠蔽できるのではないか。

もともと堂島は悪人であった。
裁かれても仕方が無い。
ならば、里紗は救いたい。

こうして、香西は死体の処理を引き受けると里紗を逃がした。
真崎に連絡を取ると、橋爪の件で脅迫し堂島の死体処理に協力をさせることにしたのだ。

特に興味を持たない様子の真崎だったが、香西が「死の匂い」から橋爪の死の真相に気付いた点には興味を示す。
結局、香西の要望に応じることに。
こうして、堂島の死体は人知れず処理された。

数日後、堂島が今も幼女に悪戯していたことが判明。
被害者家族から訴えられかけていたことが分かり、それを怖れて失踪したとの結論が出た。
これで、すべては終わった筈だったが……。

香西は真崎の恐ろしさに気付き、これの逮捕を考え始めた。
少なくとも今後の犯行は止めさせなければならない。
こうして、香西は真崎を監視し始める。

矢先、里紗が香西を尾行し始めた。
堂島がどうなったのかを気にかけているようだ。
そして、里紗は香西を通じて真崎に辿り着いてしまう。

此処で思わぬ化学反応が起こった。
真崎と里紗が親しくなってしまったのだ。

真崎は怪物だ。
そんな怪物と里紗を一緒にはしておけない。
香西はなお真崎逮捕に執念を燃やすことに。

香西は定年退職を迎えた。
真崎の過去の罪を暴くことに決めた香西は失踪者リストから山本の存在に行き当たる。
山本の妻・典子が営む喫茶店に客として出入りするようになった香西は、山本もまた真崎により処理されたと結論付ける。

典子との距離をさらに縮めた香西はその自宅を訪れ、典子の息子の部屋から「死の匂い」と嗅ぐ。
山本は息子の成績に苛立ちを覚えており、揉み合いになった末に息子に殺されてしまったらしい。
死体の処理に困っていたところ、同じマンションに住んでいた真崎に助けられたようだ。

山本の遺体が真崎の車のトランクで運び出されたことを聞いた香西。
真崎の車のトランクを調べ、画面に罅の入った携帯電話を発見する。
典子によれば、山本の携帯で間違いないらしい。
ロックがかかっており中身までは確認できない。
とはいえ、香西は真崎を押さえる証拠を掴んだと喜ぶのだが……。

遂に真崎との決着をつけようと香西はこれと対峙する。
真崎と自身が2匹の「ウロボロスの蛇」のように互いの尻尾を呑む関係にあると語る香西。
山本の携帯という切り札を切り、里紗に関わらないように宣告するのだが……。

真崎はまったく動じない。
それどころか、山本の携帯を奪うと勝手に操作を始めるとロックを解除してしまう。
そこで香西は気付いた。
この携帯の持ち主が真崎であることに。

真崎は「これは窃盗ですよ」と香西に告げる。
典子は真崎と通じていたのだ。
すべては香西を嵌める為の罠だったのだ。

攻守が入れ替わるも、特に表情も変えない真崎。
携帯には、どうやら香西の「死の匂い」が事実かどうか試す意味もあったらしい。
「死の匂い」について感心する真崎。

さらに、真崎は香西が里紗にも利用されていたと口にする。
里紗は初めから堂島を逆上させ正当防衛で殺害する気であった。
テーブルの上に果物ナイフを用意していたらしい。
この証人に香西が用意されていたのだ、と。

香西は自身の記憶を探る。
真崎の言葉に疑うべき矛盾は存在しなかった。
信じていた物が根底から崩れていく音を聞く香西。

真崎は言葉を続ける。
橋爪を殺したのは両親の仇だったからではないと語る真崎。
橋爪は厚顔無恥にも、真崎が就職したことを見計らい接近してきたらしい。
真崎は橋爪を利用すると、以前から死体処理を行っていたのだ。
真崎によれば自殺志願者の為に用いていたようだ。
ところが、橋爪がこれで真崎を脅迫して来た。
其処で真崎が橋爪を殺害したのだ。

だが……真崎は本当に感情を抱かないロボットのように続ける。
特にどうでも良かった、と。
仮に香西がこの事実を明かし、逮捕されたところで真崎にとっては痛痒を感じないらしい。
香西にとって真崎のこの言葉は事実に思えた。

真崎は「ミノタウロス」の逸話について言及する。
迷宮に棲んでいたミノタウロス、彼は自身が怪物だと気付いていたのだろうか―――と。
怪物とはそんなものに過ぎないのだ。

香西は自身が一方的に真崎に呑まれる存在であることを知った。
それは圧倒的な無力感であった。
そして、「死の匂い」を初めて理解してくれた同志こそ彼が恐れた怪物・真崎である事実に震撼した。

以来、香西は生きながらにして屍となった。
信じるべきものはすべて奪われた。
香西はもはや刑事でもない。

其処へ、三園から電話が入る。
三園は堂島失踪事件を追っていた。
彼なりに調べた結果、その失踪にある女性が関わっていることを突き止めたらしい。
里紗のことだ。
香西から持ち掛けられていた話を思い出し協力を求めて来たのだ。

里紗だけは守りたい香西は、三園殺害を思いつく。
それはひどく甘美な思い付きであった。

真崎に連絡を入れる香西。
香西の決意を真崎は黙って聞いていた。
数十分後、香西の前に真崎が現れた。
その傍には里紗も居る。
彼らは揃って笑顔で香西を迎え入れた。

香西は思う。
もう行き着くところまで行こう、と。
そして、見るべき物を見よう、と。
ただ、心残りは後輩・石川と胸を張って会えなくなることであった―――エンド。

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