2013年04月30日

『<よろず相談室1>居候に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』掲載)

『<よろず相談室1>居候に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です!!

ネタバレあります!!注意!!

<あらすじ>

立退料百万円払えだなんて。どうかお知恵を分けて下さい―――
日常の裂け目から悪意が滲み出す!
(講談社公式HPより)


<感想>

短編ながら読み進めるうちに読者の認識を引っくり返す構成が凄い。
同時に、人の悪意が万遍なく示し出されている点が凄い。
この「人の負の感情」をバランスよく刺激する点こそが本作の特徴。
明かされた事実により、最終的に180度変わる真相が面白くも恐ろしい。

内容的には「庇を貸して母屋を取られる」。
これが無意識化で行われていたこと、罪の意識を欠片も抱いていなかったことが怖い。

そして、真梨先生と言えば「イヤミス」の女王であり、連作短編の名手。
個別の独立した短編が繋ぎ合わされることで新たな側面を覗かせ、ラストで驚くべき結末に転じることには定評がある。
その著書『ふたり狂い』や『みんな邪魔』の切れ味は凄まじかった。
この『よろず相談室』シリーズも同様なのだろうか。
だとすれば、バーの従業員たちが結末に大きく関わって居そうな気がするが……。

この作品もまた目が離せない作品となりそうです。

<ネタバレあらすじ>

第1話『居候に悩んでいます』登場人物一覧:
剛:1話の主人公。彼自身が知らないある秘密が……。
ケン:剛たちと同居していた一家の息子。
姉:剛の姉。
原田和子:???

家主の娘:同居人一家に悩む相談者。


「よろず相談室に投稿された記事:
祖母が同情し、同居を許した他人がいつの間にか我が者顔で部屋を占拠しています。
弟はいつも肩身の狭い思いばかり。
思い詰めた母が立退くよう要求すると、立退料として百万円を要求されました。
どうすればよいでしょうか?(家主の娘より)」

幼い剛は苛立ちと不満を募らせていた。
本当なら自分の物である筈の玩具も単なる居候の筈のケンに盗られっぱなしだ。
悔しくて仕方がない。

母や姉たちもケンとその家族の傍若無人な振る舞いに危機感を募らせているようだ。
剛は誕生日会を開くこともケンに遠慮して出来なくなってしまった。
剛たちの食事もケンたちの食事に比べると質素なものだ。

そんなある夜、ケンの一家が何を思ったのか剛の一家と食事をともにした。
ところが、ここでケンへの不満が爆発した剛は暴言を吐いてしまう。
これにより、剛一家とケン一家の亀裂は深刻化。
追い詰められた剛たち家族はケンたちの殺害計画を練り始める。

数十年後、大人になった剛がバーの従業員相手にこの物語を語って聞かせていた。
最後の締めに彼は必ず付け加える。
そして、この殺害計画を実行に移したのさ……と。
これにより、剛は女の子たちから注目を浴びることが出来るのだ。
本当は気付いたらケンの一家が消えていたのだが、そこはそれである。

だが、最近はこの手段も効果が薄くなってた。
困った剛はプレゼント攻勢に転じようと決める。
その為には金が必要だ。

母は既にない、大金を手に入れる為に実家を売ることにした剛は不動産業者に連絡をとることにした。
ところが、不動産御者は意外な言葉を口にする。
この物件は売れないと告げたのだ。
何故なら、土地建物ともに「原田和子」という人物の名義になっているらしい。

慌てて姉に確認をとる剛だが、姉の歯切れは悪い。
それどころか、剛の行為が信じられないと言った様子だ。

ここで剛は思い出した。
原田という苗字がケンたち一家のものであることに。

剛の様子を窺っていた不動産業者の社員はおそるおそる真実を口にする。
「どうも、お客さんたちの方が居候だったみたいだねぇ」

では、居候はケンたちではなく、自分たちだったのか……。
愕然とする剛は不動産業者を引き取らせると、開かずの間となっている物置へ向かう。

鍵を開けると、すえた臭いが充満していた。
床に見覚えのないスーツケースを見つける剛。
中身が何かはもう分かっていた。

だが、どうして殺したのだろうか……疑問が胸のうちを渦巻く。
剛はふと、落ちていた切り抜き記事を手にした。
中身を読み上げた剛は無言で物置を出ると鍵を架けた。
明日にはもっと頑丈な鍵を用意しなければならないだろう。
そして、誰も出入り出来ないようにしなければならない―――剛は決意した。

「よろず相談室からの回答:
相談者様は相手を見下しているのではありませんか。
家主の娘とのペンネームがそれを物語っています。
もっと謙虚に生きましょう。
とりあえず、相手ともっと話し合われることをオススメします(回答者より)」―――エンド。

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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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