2013年05月08日

『数字錠』(島田荘司著、講談社刊『御手洗潔の挨拶』収録)

『数字錠』(島田荘司著、講談社刊『御手洗潔の挨拶』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

嵐の夜、マンションの11階から姿を消した男が、13分後、走る電車に飛びこんで死ぬ。しかし全力疾走しても辿りつけない距離で、その首には絞殺の痕もついていた。男は殺されるために謎の移動をしたのか?奇想天外とみえるトリックを秘めた4つの事件に名探偵御手洗潔が挑む名作。
(講談社公式HPより)


<感想>

管理人が『御手洗潔のダンス』と間違えて購入したことで2冊になった『御手洗潔の挨拶』の冒頭に収録されたことで、管理人の中で記憶に残る短編です。

……というのは冗談として(いや、2冊になったのは本当ですが)。

本作の特徴は、なんといってもエキセントリックかつ唯我独尊とも捉えられかねない御手洗の情の深さ、弱者への愛情、潔癖振りが窺える1篇であることでしょう。
御手洗による作中犯人への優しさは、なかなかに印象的なものがあります。

そして、タイトルでもある「数字錠」の意外な脆弱性に触れられている点。
さらには、御手洗がコーヒーを飲まなくなった理由がこの短編にて分かることなども魅力の1つ。

特に、御手洗の葛藤や苦悩が短編内で見事に表現されている点は必読。
加えて、短編として読み易いこともあり、シリーズビギナーにもオススメの作品と言えるでしょう。

ちなみに本作ですが、『島田荘司very BEST10』(講談社刊)にて読者投票短編ベスト1位となっており、ファンからの評価も高いことが証明されています。

そんな本作ですが、今週発売の『週刊モーニング』(23号)より、『ミタライ ―探偵御手洗潔の事件記録―』にてコミカライズされ3号に渡って短期連載されるとのことです。
コミカライズ版、如何なる形で生まれ変わるのか……注目です!!

『ミタライ ―探偵御手洗潔の事件記録―』次回作品は傑作との呼び声高い『数字錠』に!!次号(23号)の『週刊モーニング』より3号連続掲載とのこと!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
御手洗潔:言わずと知れた名探偵。彼はこの事件以来コーヒーを飲まなくなった。
石岡:御手洗の助手にしてベストパートナー。
竹越刑事:『占星術殺人事件』にも登場した刑事。御手洗を信用している。

吹田久朗:吹田電飾の社長。
北川幸男:吹田電飾の社員。看板描きが出来る。
石原:吹田に株で騙され、憎んでいた。
馬場:吹田に株で騙され、憎んでいた。
秋田:吹田電飾の若手社員の1人。
大久保:吹田電飾の若手社員の1人。
土屋:吹田電飾の若手社員の1人。
宮田誠:吹田電飾の若手社員の1人。少年。
吹田靖子:吹田の姪。寮で若手社員の世話を焼いている。

御手洗と石岡のもとを『占星術殺人事件』で知り合いになった竹越刑事が訪れた。
ある事件について御手洗の助力を得たいらしい。

事件の概要はこうだ。
吹田電飾社長・吹田久朗が殺害された。
死体の第一発見者は吹田電飾の若手社員4人。
彼らは会社から用意された寮に住んでおり、毎朝、青梅街道を軽トラックを使い通勤している。
その日も出社したところ、吹田の死体を発見したのである。

だが、吹田を殺害するには表のシャッターを開けるか、裏の数字錠つきの戸を開けるかの2択しかない。
しかし、シャッターには開けられた形跡が無く、数字錠つきの扉の暗証番号は被害者しか知らないとのものであった。
いわゆる密室になっていたのだ。

竹越によれば容疑者は2人。
石原と馬場である。
吹田に株で騙され、恨んでいたらしい。

竹越はこのいずれかが犯人として、どうやって密室殺人を達成しえたのかを知りたがっているのである。

多少、興味を持った御手洗。
竹越は念の為として、吹田電飾について詳細を語り出す。

吹田電飾には社長の吹田を除き社員が5人在籍している。
先の若手社員4人に、ベテランの北川幸男である。
北川は吹田を除けば、唯一、1人で仕事が出来る社員。
他の4人は、若手の中では最年長でシャッターの鍵を預かっていた秋田。
それに大久保、土屋、最年少の宮田誠少年である。
北川にはアリバイがなく、若手社員4人には吹田殺害時に青梅街道に居たとのアリバイがあった。

ちなみに、殺害された吹田の遺体近くにあった現金に手が付けられていなかったことから、外部の物盗りの線は消えたらしい。

御手洗に解決を求める竹越。
だが、御手洗は数字錠が難題であると譲らない。
3桁の数字からなるソレ。
1桁ごとに0から9の数字がある為に、仮に犯人が数字錠つきの扉からこれを解錠して侵入したとしても、その組み合わせをすべて試す為には84日必要であると御手洗が主張したのだである。

取り敢えず調査に乗り出すと告げる御手洗に、仕方なくその場を去る竹越。

竹越が去った後、御手洗は石岡を連れ活き活きと調査を開始する。
まず、御手洗が向かったのは何故か犯行現場ではなく、若手社員たちが生活する寮であった。

寮で彼らの世話をしていると言う吹田の姪・靖子から若手社員たちについて話を聞く御手洗。
靖子によれば、毎朝、通勤時の軽トラを見送るのが日課になっているらしい。
なんでも、秋田、大久保、土屋が運転席と助手席を埋め、最年少の宮田誠少年が荷台に座るのが定位置だそうだ。

これを聞いた御手洗の目が光る。
一方、靖子はそんな御手洗に惹かれた様子。
御手洗もまた普段の彼とは似つかわしくなく、靖子に付き合っていた。

次に御手洗が訪れたのは宮田誠少年の部屋であった。
御手洗は特に事件について尋ねるでもなく、宮田少年の趣味について興味を示す。
宮田少年は田舎から家出同然で都会へと出て来たらしく、フランス料理を食べるのが夢らしい。

こうして、その日は辞去した御手洗。
だが、何を思ったのか翌日以降も御手洗は寮へと通い詰めたのである。
石岡は御手洗が靖子に気があるのでは……と考える。

そんなある日、竹越刑事が再度来訪して来た。
これ以上は待てないので、数字錠の謎は置いといて石原と馬場を別件で逮捕して取り調べるつもりのようだ。

これを聞いた御手洗の表情が苦渋に塗れたのを石岡は見逃さなかった。
さらに、御手洗は竹越が自分に助けを求めに来たのかどうかを確認し、その意志があると知るや悲嘆に暮れ出す。
何か途轍もない事情を抱えているようだ。

暫し悩んだ様子の御手洗であったが、遂に思い切ると数時間後を約束し竹越刑事と別れることに。
そして、御手洗が向かったのは宮田誠少年のもとであった。

御手洗は遊びに行こうと彼を誘うと、まずはフランス料理店へ向かう。
其処で、宮田少年にご馳走する御手洗。
引き続き、東京タワーに案内し、最後には喫茶店へ連れて行く。

宮田少年はこの御手洗との一連の行動を無邪気に喜んでいた。
特に、彼は珈琲が好きらしく、これには感動したものであった。

ところが、その喫茶店に竹越刑事が息を切らせて現れた。
なんと、北川が吹田殺害の罪を認めたと言うのである。
竹越によれば、飲み屋で吹田に馬鹿にされたことを恨みに思っての犯行だそうだが……。

これを聞いた宮田少年の態度が豹変。
彼は泣き出すや「北川さんはやっていない。やったのは自分だ」と告白し始める。

毎朝、青梅街道を通勤する宮田少年。
彼は荷台の影に座っており、他の3人からは見えない位置に居る。
それを利用して、渋滞中に荷台から降りて地下鉄を利用し犯行現場へ赴くと吹田を殺害。
その後、もと来た道を途中まで戻ると、信号で停止していた軽トラックの荷台に乗り込んだのであった。

宮田少年は動機について語り出す。
田舎から飛び出して来た宮田少年は、生活にあてもなく困り果てていた。
そんなとき、吹田電飾の広告を目にし、寮生活が可能と知るやこれに応募した。
だが、吹田は経験者ではない宮田少年の雇用に難色を示した。
そんな吹田を説得してくれたのが北川だったのである。
以後、北川は宮田少年の世話を何くれとなくみていた。

宮田少年はあれほど優しい人を見たのは、御手洗と北川以外に知らないそうだ。

そんな北川が飲み屋で吹田に侮辱された。
原因は宮田少年である。

吹田は酒癖が悪く、未成年の宮田少年に酒を強要しようとした挙句に芸を求めたのだ。
これには周囲も流石に気を遣い、特に北川が執成そうとしたのだが……。
吹田はそんな北川に矛先を向けた。

「若い者の前でええかっこしいする奴はクビだ」と繰り返した上に、北川にも芸を強要したのである。
北川は笑いながら、応じたのだが……吹田は芸を見せた北川のズボンを無理矢理脱がし重ねて辱めた。
北川本人はそれでも笑顔を崩さなかったが、宮田少年は自分の所為で恩人が侮辱されたと憤慨したのだった。

そこであの朝、吹田に抗議しようと向かった先で、激情のままに殺害してしまったのである。

最後に楽しい想い出が出来たと御手洗に感謝しながら連行されて行く宮田少年。
そんな宮田少年に「感謝されるような人間じゃないんだ」と自身を卑下する御手洗。

その理由を石岡と竹越は後日知ることになる。
事件についての推理をなかなか明かさなかった御手洗が遂に重い口を開いたのだ。

御手洗は初めから若手社員4人を疑っていた。
石原と馬場が犯人ならば、現金が手付かずなのは説明がつかないと思われたからである。
そして、同時にこれは信念の犯罪だと感じ取った。

御手洗は若手社員の中で荷台に座っていた1人が犯人だと考えた。
そこで、その犯人に近付き人となりを知ろうとした。
この時点では単なる好奇心であった。

此処で御手洗は時間を稼ぐべく、数字錠を利用し幻想の壁を設けた。
84日かかると言った数字錠の総当たりだが、3桁それぞれが10個の数字からなるので、実際は10×10×10の千通りでしかない。
総当たりで試すにも33分程度で事足りるのだ。
さらに、上2桁をテープで固定しリングを逆さまに引いた状態で下1桁をグルグルと回してやれば、当たりになれば自動で錠が外れるのでもっと早くなるだろう。
数字錠自体は壁でもなんでもなかったのだ。

あくまで、犯人を知る間の時間稼ぎに過ぎなかった。
だが、それが間違いだったらしい。

触れ合ってみた宮田少年は善良な人物であった。
御手洗は宮田少年を告発することに抵抗を覚えるようになった。
さらに、騙していることに耐えられなくなった。

そこでせめてもと宮田少年の願いを叶えることにしたのだ。
その上で、竹越刑事の依頼にも応えられるように「北川が逮捕された」との芝居をうたせたのである。
もちろん、宮田少年がそれを聞けば自首することを見越していたことは言うまでもない。
だからこそ、「感謝されるような人間ではないんだ」と告げたのである。

「この罪が消えるまで、珈琲は口にしない」
御手洗はそう誓うのであった。

ちなみに、御手洗が靖子に近付いたのは宮田少年のことを知る為であり、他意はなかった。
その証拠に、御手洗は二度と彼女のことを口にしなかったのである―――エンド。

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