ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
立退料百万円払えだなんて。どうかお知恵を分けて下さい―――
日常の裂け目から悪意が滲み出す!
(講談社公式HPより)
<感想>
まさに作者の本領発揮か。
少しずつ糸が絡み合い始めた様子。
真梨先生と言えば、「イヤミス」の女王であり、連作短編の名手。
個別の独立した短編が繋ぎ合わされることで新たな側面を覗かせ、ラストで驚くべき結末に転じることには定評がある。
読み進めるうちに読者の認識を引っくり返す構成が凄い。
同時に、人の悪意が万遍なく示し出されている点が凄い。
この「人の負の感情」をバランスよく刺激する点も特徴。
明かされた事実により、最終的に180度変わる真相が面白くも恐ろしい―――そんな作風。
その著書『ふたり狂い』や『みんな邪魔』の切れ味は凄まじかった。
この『よろず相談室』シリーズも同様だろう。
そんな第2話は「人は人を嫌うが、同時に己もまた人に嫌われる」でしたね。
岡部を嫌う美穂。
ところが、美穂もまたある人物から嫌われていた。
これが今回のメインストーリー。
で・す・が。
一方で、根元の横領話に、樋口のマネーロンダリング、病気を理由に行方不明のアキナ、アキナに助言したらしいナオミ、名前だけだが人気作家・武蔵野寛治と、どうにも不審な人間関係が。
アキナは既に亡き者にされている可能性もありそうだし。
ここらが後々、関わるのはほぼ確実と思われる。
これに1話の剛のストーリーも関わって来るのだろうし。
特にアキナの名前を知っていた樋口は確実に伏線。
カノンが誰かに貢いでいるとの情報から、樋口とカノンが共謀しアキナ経由で根元を利用し金を搾り上げ、アキナ自身は謀殺されている可能性もある。
こうなると、回答者の正体が気にかかって来た。
意外な人物で糸を引いていたことになるのか。
あるいは……。
武蔵野寛治の可能性も……ある?
この作品もまた目が離せない作品となりそうです。
<ネタバレあらすじ>
第2話『しつこいお客に悩んでいます』登場人物一覧:
美穂:岡部の後輩。編集者。
岡部:美穂の先輩編集者。カノンに貢いでいる。
根元:アキナに貢いでいる客の1人。
樋口:美穂が担当する作家。
アキナ:岡部が通うキャバクラのナンバー1。
カノン:岡部が通うキャバクラのナンバー2。
ナオミ:アキナ、カノンの先輩。
メグミ:エステティシャン。
武蔵野寛治:人気作家。
クラウドスワン:今回の相談者。
「よろず相談室に投稿された記事:
自慢話ばかりする嫌味な客が居ます。
私とは生理的に合いません。
どうすれば良いかお教え下さい(相談者:クラウドスワン)」
出版社に勤める岡部はキャバクラに入り浸っていた。
お気に入りの娘が居たのだ。
その名はカノン。
店のナンバー2であるが、気さくな印象で話し易さが特徴であった。
岡部はいつも「人気作家・武蔵野寛治を育てたのは俺だ」と彼女に自慢していた。
そのカノンから岡部はある噂を聞いた。
ナンバー1のアキナに入れ揚げている根元という客が貢ぐ為に横領しているそうなのだ。
当のアキナは根元を避けて、病気と称して店を休んでいるようだ。
これはアキナたちの先輩・ナオミのアドバイスらしい。
ああはなりたくないなぁ……と思う岡部。
と、これ以上は延長で別料金をとられてしまう。
そうだ、こんなときは……岡部は後輩である美穂に電話をかけた。
その頃、美穂は担当作家の1人・樋口と打ち合わせしていた。
樋口はイマイチ芽が出ない作家。
美穂としては相手にしたくない人物の1人であったが……。
其処へ先輩である岡部から電話が。
美穂は露骨に顔を歪めた。
時刻から何が狙いか透けて見えたのだ。
そしたら案の定であった。
樋口を接待したいので連れて来いと言う。
嘘も嘘、大嘘だ。
本当は自分が楽しむ為に、接待費として会社の経費で落とすつもりなのだ。
だが、岡部の誘いを断れば痛い目に遭う。
仕方なく、渋る樋口を説得することに。
結局、途中まで連れ出したところで、岡部から再度連絡が入り中止になるのだが……。
その頃、岡部は興ざめしていた。
欲望を抱いていたカノンが誰かに貢いでいるようなのだ。
数日後、根元が横領罪で逮捕された。
噂は本当だった。
岡部は興奮気味に美穂に語る。
美穂はそんな岡部を心底、嫌っていた。
美穂は樋口と再度、打ち合わせをしていた。
今回の樋口の作品はなかなか面白いものになりそうだ。
根元の横領事件を例に、貢いだ側と貢がれた側とが共謀していたとのストーリーだ。
最終的に、話はマネーロンダリングにまで及ぶようだが……。
何故か、樋口がアキナの名を知っていたのだが……そのことに気付きながら特に注意しない美穂。
と、樋口が何やら周囲を気にかけ始めた。
どうやら、アレが臭うようだ。
美穂は鞄に収めたネギを取り出す。
突然、現れたネギに驚く樋口。
美穂はそんな樋口の様子に気付くこともなく、田舎から届いたのだがと勧めるのであった。
もちろん、困惑している樋口が受け取る筈もない。
美穂はお気に入りのエステティシャンにプレゼントしようと意気込むが……。
エステティシャンのメグミは苛立っていた。
この客だけは本当に嫌だ。
特に、この臭いはなんだ!!
ところが、そんなメグミの気も知らず客は滔々と「武蔵野寛治を育てたのは私よ」と自慢げに続けている。
しかも、ネギを土産にどうぞと来た。
何故、ネギなのだ?
メグミは美穂への憎悪を募らせていた。
だが、相手は客である。
仕事を続ける限り、どうしようもないのだ。
「よろず相談室からの回答:
客商売とはそういうものです。
退職しない限りは我慢するしかありません(回答者より)」―――エンド。
◆関連過去記事
・『<よろず相談室1>居候に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
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