ネタバレあります、注意!!
<ネタバレあらすじ>
・前回まではこちら。
『ネメシスの杖』第5話『夜への長いドライブ』(朱戸アオ作、講談社刊『月刊アフタヌーン』連載)ネタバレ批評(レビュー)
桶谷の妻は思い悩んでいた。
その手には阿里の名刺が握られていた……。
一方、江里口に論破された阿里は絶望の淵にあった。
無力感と正義の意味に苦しむ阿里は家に引き籠ってしまう。
そう……まるで過去の紐倉のように。
そんな阿里を連れ出す役目を担ったのは、当の紐倉であった。
阿里と連絡が取れなくなった紐倉は、阿里を心配し自宅を訪ねたのだ。
其処で、江里口が阿里に接触したことを知った紐倉は彼女を励まし事情を尋ねる。
「人が間違いを犯すことは止められず、それを改善するにはシステムを整備し抑制するしかない」とした阿里。
これに対し、「それは人を信頼しない冷たい行為である。人は自らを反省し謝罪することで改めることが出来る」と主張した江里口。
江里口から、喪われた彼の娘・慈帆の写真を手渡された阿里は心を折られてしまったのだ。
これを聞いた紐倉はどちらも相応に正しく、相応に誤っていると告げる。
故に、どちらが正しいとは言えないとも。
そして、だからこそ諦めずに正当性を競い合って欲しい―――と。
「赤の女王仮説」について語り出す紐倉。
それはルイス・キャロル作『鏡の国のアリス』にて赤の女王が口にした「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」との言葉がもととなった仮説。
生きる為には足掻かねばならない。
そして、進化し続ける為には常に競い合わなければならない。
生物にとって、諦めること、留まることは、すなわち死なのだ。
今、阿里が属する「システムによる抑制派」は死の危機に瀕している。
世の中は圧倒的に、江里口が属する「個人による反省と改善派」を支持し求め続けているのだ。
阿里は自身の属する集団を護る為に、江里口の属する集団と競い合わなければならない。
それは生物としての使命なのだ。
これを聞かされた阿里は再度、江里口に立ち向かうことを決意する。
そう……紐倉を助けた彼女自身の過去の行動が阿里を救ったのである。
再起した阿里が向かったのは桶谷の自宅。
その妻から阿里宛に連絡が入ったのだ。
桶谷の妻は思い詰めた表情で阿里にあるDVDを渡す。
その内容は桶谷が江里口に水をかけられながら尋問されるモノであった。
当然、水は普通のモノではない。
倉井が受けたシャーガス病の原因物質入りの水だ。
DVDに映る桶谷はそれを浴びながら「仕方なかったんだ」と言い訳を繰り返してた。
桶谷の妻によれば、夫から自身の死後は破棄するように言いつけられていた物だそうだ。
だが、阿里の呼びかけと夫の無念を想い提出することにしたらしい。
これは江里口の犯行の立派な証拠になる。
こうして、阿里と紐倉は集めた資料とDVDを用い有事対策の提案を行うことに。
だが、初動の遅れが影響し本部設置に時間がかかってしまう。
この間にも、江里口が復讐を完結してしまうかもしれない……焦る阿里たちは江里口宅を再訪する。
DVDの撮影場所を探す為だ。
人気の少ない住宅街にある江里口宅。
紐倉はわざわざ復讐の為に引越したに違いないと推測。
DVDの撮影場所はこの近くにあるに違いない。
見れば、江里口宅からは隣家へと続く人の行き来した足跡が残っていた。
そう、隣家こそが江里口の隠れ家だったのである。
早速、隣家へ潜入する阿里たち。
中はさながら実験施設の様相を示していた。
江里口は此処で復讐計画を練っていたのであろう。
阿里たちは其処で江里口が桶谷同様に尋問した人々の録画を発見する。
その中には倉井も含まれていた。
となると、江里口の最後の標的は別にいる。
そして、リストに残されていた人物の名は……。
数時間後、ヒノワ食品株式会社。
その会長室に向かう男の姿があった。
そう―――江里口だ。
桶谷食品の食害事件、その裏には販売元のヒノワも絡んでいたのだ。
江里口は清掃員として、社内に侵入すると会長を狙う。
これに気付き、ヒノワへやって来た阿里たち。
だが、警備員は彼らの話を信じようとしない。
時間が無い……困った紐倉は警備員を義手で取り押さえる。
「先に行け!!」紐倉の言葉に背中を押された阿里は会長室へひた走る。
「義手も役に立つじゃないか……」そんな阿里の背中を眺めつつ呟く紐倉。
一方、会長室ではヒノワを前に江里口が詰め寄っていた。
江里口の手には水鉄砲が握られている。
銃口は床に跪いたヒノワに向けられていた。
ヒノワは過去の行いを謝罪し土下座していたのだ。
江里口は主張していた―――「人は謝罪し反省することで改めることが出来る」と。
だが、こうしてヒノワの謝罪を受けた今も江里口の心は収まらなかった。
しかし、江里口自身の主張が正しいならば、彼はヒノワの更生を認めなければならない。
ジレンマに陥った江里口、銃口は宙を彷徨ったままだ。
そんな江里口にそっと声をかける人物があった。
駆け付けた阿里である。
阿里は江里口自身の主張を繰り返し「既に改めた人間を罰するのか」と問う。
そんな阿里に江里口は「心が納得できないんだ」と涙ながらに訴えるのであった。
そして「そんな自分を止めてくれ」とも。
これまで、江里口自身は阿里に語ったように自身の主張を大義であると信じていた。
だからこそ、復讐に踏み切った。
だが、いつしか個人的な感情に突き動かされての「復讐の為の復讐」に変質していたことに気付いたのだ。
阿里は江里口の意を汲み、彼を捕まえるのであった。
こうして、事件は終焉を迎えた。
阿里の異動は取り止めとなり、阿里は今後も残留することとなった。
そんな阿里に紐倉から連絡が入る。
紐倉によれば「ようやっと確認すべきモノにチャレンジすること」に決めたらしい。
その目の前にはダーウィンの墓があった。
紐倉は「ダーウィンはシャーガス病で死去した」ことを確認しようとしていたのだ。
もちろん、違法行為であることは間違いない。
だが、紐倉は彼なりの一歩を踏み出そうとしていた。
彼もまた前を進み始めたのである。
そして、阿里は今日も彼女の理想「システムによるヒューマンエラーの抑制」を実現すべく走り続ける―――「ネメシスの杖」了。
<感想>
新進気鋭の朱戸アオ先生による連載「ネメシスの杖」、その最終話「走るアリス」です。
これまで同様に勢いのある線で描かれたキャラに骨太な内容が展開されました。
そして、作品のテーマがもっとも強調された回となりました。
本作のテーマは「人は常に前向きに生きなければならない」だったんですね。
最終話のサブタイトルは「走るアリス」。
その意味は『鏡の国のアリス』にて赤い女王が語った「立ち止まるには進まなければならない」にありました。
進まずに立ち止まれば、すなわち後退か破滅が待っている。
つまり「生きることは前へ進むことであり、立ち止まることなく進むことこそが生きること」。
この紐蔵の言葉を受けて、阿里は復活します。
それまで、紐蔵を励ましていた阿里が、その紐蔵に励まされ再起する……うん、良いです。
そう言えば、阿里怜はアリスと読めないこともない。
こうして、『ネメシスの杖』のアリスこと阿里怜は再び走り出す。
阿里は、ドンキホーテにしてジャンヌダルク。
彼女の向かう先には組織という大きな機構が立ち塞がっている。
だが、彼女はきっと果たすのでしょう。
いや、果たせなくても彼女の姿は多くの人々を救うのです。
現に、紐蔵や上司や後輩、桶谷の妻らが励まされています。
そして、江里口さえも……。
果ては次元を超えた読者にさえ、影響を与えたのかもしれない。
阿里怜最大の武器は、その勇気であり正義感―――つまり信念でした。
ちなみに「赤の女王仮説」の内容を聞いて、「アキレスと亀」で知られるゼノンのパラドックスを思い出しました。
どこまでも2者間には同じ距離が永遠に続く。
それは追い付けないことを示す。
すなわち―――どこまでも理想郷は遠く彼方にあり、走れども走れども届かない。
でも、阿里は信念を伴い行くのだろう。
彼女の理想を果たすその日まで。
いや、果たしてなお、次なる理想を追い求めるのだ。
何故ならば、「赤の女王仮説」により留まった時点でそのシステムは腐敗してしまうのだから。
そんな阿里の活躍を再び目にすることが出来るよう、我々読者も阿里怜の帰還を待つことにしましょう。
阿里の信念は機構を変える―――それは理想を現実とする力。
当然、読者が望めば彼女は再登場してくれるに違いありません。
願わくば、その日が近からんことを!!
その第一歩として『ネメシスの杖』単行本全1巻が2013年9月に発売予定とのこと。
まずはこちらで阿里との再会を待ちましょう!!
タイトルである「ネメシス」はギリシア神話に登場する女神の名前。
「憤り」と「罰」を司り、「神罰の執行者」としての側面を持つとのこと。
ちなみに「シャーガス病」は実在の病気のようです。
『ネメシスの杖』はそれだけとってもかなり本格的な医療ミステリと言えそうですね。
それと、ネタバレあらすじはかなり改変されているので、オリジナルを読むことをオススメします!!
◆関連過去記事
・『ネメシスの杖』第1話『占い師の杖』(朱戸アオ作、講談社刊『月刊アフタヌーン』連載)ネタバレ批評(レビュー)
・『ネメシスの杖』第2話『オカピの群れ』(朱戸アオ作、講談社刊『月刊アフタヌーン』連載)ネタバレ批評(レビュー)
・『ネメシスの杖』第3話『阿里玲の長い一日 前編』(朱戸アオ作、講談社刊『月刊アフタヌーン』連載)ネタバレ批評(レビュー)
・『ネメシスの杖』第4話『阿里玲の長い一日 後編』(朱戸アオ作、講談社刊『月刊アフタヌーン』連載)ネタバレ批評(レビュー)
・『ネメシスの杖』第5話『夜への長いドライブ』(朱戸アオ作、講談社刊『月刊アフタヌーン』連載)ネタバレ批評(レビュー)
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