ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
立退料百万円払えだなんて。どうかお知恵を分けて下さい―――
日常の裂け目から悪意が滲み出す!
(講談社公式HPより)
<感想>
まさに作者の本領発揮か。
さらに、少しずつ糸が絡み合い始めた様子。
真梨先生と言えば、「イヤミス」の女王であり、連作短編の名手。
個別の独立した短編が繋ぎ合わされることで新たな側面を覗かせ、ラストで驚くべき結末に転じることには定評がある。
読み進めるうちに読者の認識を引っくり返す構成が凄い。
同時に、人の悪意が万遍なく示し出されている点が凄い。
この「人の負の感情」をバランスよく刺激する点も特徴。
明かされた事実により、最終的に180度変わる真相が面白くも恐ろしい―――そんな作風。
その著書『ふたり狂い』や『みんな邪魔』の切れ味は凄まじかった。
この『よろず相談室』シリーズも同様だろう。
そんな第3話は「人がある限り、何処にでもトラブルは起こり得る」でしたね。
美里の母や占い師の言葉から、美里は「隣人により、○○○てしまった」のでしょうね。
ただ、此処で一捻りあったのが真梨先生の作品らしいところ。
ホラーテイストからも、てっきり、あの人が犯人だと思うもんなぁ……。
都会も田舎も、昔も今も関係ない。
其処に人という種が2人以上で生活する限り、摩擦は生じる。
これは真理なのでしょうか……。
そして、ネギアレルギーで死者が出たとの描写がありましたが、あれは2話のことだよね。
誰か、死亡したのか……。
さらに、ゴミ屋敷についてですが、あれは1話の「剛」の家のことっぽい。
死体の臭いを隠す為に、ゴミを用意したのか。
どうにも、それぞれがリンクして来たな。
ピアノの音が原因の殺人事件も伏線なのか気になるな。
そう言えば、他は苗字なのに郁子だけ苗字が明かされていないのも気にかかる。
郁子がミッシングリンクになるのか?
さらに、何だか毎回「よろず相談室」の回答者が他人事のような回答をする点が登場人物に批判されているところをみると、ラストは回答者自身が思わぬトラブルに巻き込まれて被害に遭うのだろうか……。
いろいろと想像が膨らむなぁ……。
この作品もまた目が離せない作品となりそうです。
<ネタバレあらすじ>
3話『隣人に困っています』登場人物:
米田美里:都会に憧れ上京した。マンションコンシェルジュの仕事に就く。
原山:美里の仕事の先輩。
郁子:美里の仕事の先輩。
西野:美里のマンションの隣人。
美里の母:美里が故郷の実家に残した母。
茶っきり娘:隣人トラブルについて「よろず相談室」に相談した。
「よろず相談室に投稿された記事:
隣人が私の生活音がうるさいと難癖をつけてきます。
その剣幕が明らかに異常です。
最近では、怖くて怖くて……引っ越しすら考えています。
何か良い方法はありませんか? 茶っきり娘」
地方に生活していた米田美里は都会に憧れ、上京した。
マンションコンシェルジュの仕事に就いた彼女。
だが、彼女にはある悩みがあった……。
マンションコンシェルジュの先輩・原山や郁子と共に昼食を共にしていた美里。
話題は「ネギアレルギーで出た死者について」と「隣人トラブルについて」である。
特に「隣人トラブル」については盛り上がり、原山によれば「近所にゴミ屋敷があり、対処に困っている」と言う。
これを聞いた美里は顔を曇らせた。
何故なら、美里もまた隣人トラブルに覚えがあったからである。
美里の場合はマンションの隣室の住人・西野がその原因であった。
西野は中年の女性。
だが、年齢と体型にそぐわぬボディコンに身を包み街を闊歩していた。
これだけならば個人の趣味嗜好の範疇である。
特に害はない……筈であった。
ところが、美里が引っ越しして早々に西野が奇妙な手紙を寄越した。
其処には「監視するな!!」と書かれていた。
気持ちが悪くなった美里はそれを放置した。
すると、数日後には「電波を飛ばすな!!」に発展し、遂には「音を立てるな!!」となった。
美里が頭を抱えていると、西野が怒鳴り込んで来た。
西野は「美里が飛ばす電波により被害を被っている」と主張。
しかも、それにより四六時中監視されていると言うのだ。
さらには、美里が立てる音により、多大な精神的被害をも被っていると捲し立てた。
何が何やら分からない美里は管理会社に相談。
ところが、これを境に西野の攻撃は激しさを増した。
おそらく、管理会社の対応が慎重さを欠いたのであろうことは想像に難くなかった。
以来、美里が自宅で水道の蛇口を捻れば、「ドン!!」と壁を叩きつける音がする。
シャワーを浴びようとすると、隣室から口汚く美里を罵る喚き声が聞こえる。
洗濯機を動かそうものならば、玄関が数時間に渡りノックされ続けるほどだ。
遂には、美里はノイローゼに陥り、洗濯物はコインランドリーに頼らざるを得なくなった。
最近では、帰宅自体が苦痛である。
引っ越しも考慮したが、都会の引っ越しは何かと費用がかかることが判明。
気に入ったマンションに引っ越すには、初期費用だけで30万円もかかるのだ。
到底、諦めざるを得なかった。
美里は極力、自宅を避けることで対処しようとしていたが……。
仕事を終え、帰宅者の波に飲まれる美里。
ふと、その視界に見知った人物を捉えた―――西野である。
そんな、まさか……と思う間もなく、西野はツカツカと美里へと歩み寄ると持っていたハンドバッグで一撃を喰らわせた。
混乱する美里に西野は叫ぶ。
「よくも、私の事を相談したわね!!おかげで皆に恥をかいたじゃないの!!」
西野の手には新聞の「よろず相談室」が握られていた。
それは私じゃない―――美里は弁明する余地もなく、西野に暴行を加えられ続け昏倒した……。
数日後、原山と郁子は美里について愚痴り合っていた。
美里が急に仕事を辞めてしまったのだ。
なんでも、田舎に帰ることになったらしい。
最近の若い人は仕事をなんと思っているのか―――原山たちは美里を批難する。
そんな原山たちのもとへ占い師が訪れた。
占い師によれば、美里には死相が出ており気にかけていたとのことだが……。
その頃、当の美里は久しぶりに大声を上げて寛いでいた。
場所は故郷の実家である。
あの後、西野に暴行された美里は気絶してしまい入院した。
事態を聞きつけた美里の母は上京し「こんなことになるなら、実家に帰って来てちょうだい」と娘に泣いて縋った。
傷心の美里はこれに応じたのだ。
そして、美里は解放感から鼻歌まじりに入浴している。
母は美里を歓待する為に、買い物に出かけていた。
やっぱり、田舎はのんびりしていていいなぁ……。
美里は鼻歌のボリュームを一際上げた。
すると、何やら風呂場の外に人の気配が……。
もう帰って来たのかな……母かと思う美里だが。
突然、風呂場の扉がこじ開けられた。
其処には見知らぬ人物が立っていた。
「うるさいって言ってるだろうが!!」
ソイツは叫びながら、美里に近付いた―――。
美里の母は自転車を必死に漕いでいた。
目的地は美里が居る自宅である。
美里の母は、娘が戻って来た喜びの余り美里に伝え忘れていたことがあったのだ。
音を立ててはいけない……このことを伝えていなかった。
最近になって、隣家と騒音トラブルが生じていたのである。
とはいえ、大した音は立ててはいない。
生活上、必要な音に過ぎなかったのだが、隣人の批判は執拗であった。
新聞の「よろず相談室」にも相談したが所詮他人事であった。
「昔はそんなことはありませんでした。近所付き合いが減ったからだ」などとぬかしやがった。
だが、そんなことはない。
いつだったか、かなり前にピアノの音が原因で殺人事件にまで発展したではないか!!
そして、隣人のあれは常軌を逸している……美里の母は思う。
既に一度ならず、隣人からは殺意を向けられていた。
もし今、大きな音を立ててしまえば……。
「よろず相談室からの回答:
昔は騒音トラブルなど皆無でした。この種のトラブルは互いの行き違いが原因となりがちです。
最近では、近所付き合いも減り、隣人の顔を知らない人も増えたとのことです。
とても、嘆かわしい風潮ですね。
とりあえず、もっと互いに話し合ってみてはどうでしょうか。 回答者より」―――エンド。
◆関連過去記事
・『<よろず相談室1>居候に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『<よろず相談室2>しつこいお客に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』連載)ネタバレ書評(レビュー)
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