2013年06月05日

『名もなき毒』(宮部みゆき著、文芸春秋社刊)

『名もなき毒』(宮部みゆき著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

世界は毒に満ちている。かくも無力な私たちの中にさえ

新しいアルバイトの女はトラブルメーカーだった。杉村三郎は解雇された彼女の連絡窓口になる。折しも街に無差別連続毒殺事件が……

今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田(げんだ)いずみは、質(たち)の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも街では無差別と思しき連続毒殺事件が注目を集めていた。人の心の陥穽を圧倒的な筆致で描く吉川英治文学賞受賞作。解説・杉江松恋
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

宮部みゆき先生による「杉村三郎シリーズ」の1作です。

杉村三郎シリーズは主人公のサラリーマン・杉村三郎を通じて描かれる人間の悪意がテーマの作品。
2013年5月31日現在のところ『誰か Somebody』、『名もなき毒』、岐阜新聞にて連載された『ペテロの葬列』の3作が存在しています。
このうち、『誰か』と『名もなき毒』は文庫化されていますね。
『ペテロの葬列』連載開始については過去に記事にもしています。

『誰か Somebody』(宮部みゆき著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『ペテロの葬列』(宮部みゆき著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)

宮部みゆき先生新作「ペテロの葬列」が岐阜新聞で6月21日より連載開始!!

本作『名もなき毒』は「世の中に蔓延る毒(人の悪意)」について描かれた作品。

毒の持ち主は特別ではありません。
何処にでも居る誰かなのでしょう。

作中のある人物がいずみを評して「自分に正直なだけ」と口にするシーンがあります。
「性悪説」に立つならば、人は誰しもがいずみになれるのかもしれません。
ただ、成長していくうちに、人として社会との協調性を学び、また「善」の意味をも学ぶ。
そうして、人はいずみを脱するのかも。

いや、本当に脱し切れているのでしょうか。
外立のように、人は常にそれを抱えつつ、気付かずに生きている。
それがふとした拍子に、耐え切れず表に出てしまうのかも……。

信じたくはありませんが、そんな気分になってしまう作品です。
「性善説」を信じたいけどなぁ……。

ちなみに、この後のネタバレあらすじはかなりまとめ易く改変を加えています。
本作はもっと深いです。
是非、本作を!!
そして、本作にて投げかけられた杉村が探偵になるのかにも注目!!

さて、そんな本作ですが『名もなき毒』としてTBS系「月曜ミステリー」枠にてドラマ化されることが明らかになりました。
ドラマ化されるのはこの『誰か』と『名もなき毒』の2作とのことです。
そんなドラマ版『名もなき毒』2013年7月8日20時よりスタート!!

宮部みゆき先生原作、杉村三郎シリーズが『名もなき毒』のタイトルでドラマ化!!

<ネタバレあらすじ>

杉村三郎は今多コンツェルン広報室に勤務している。
杉村の妻は、会長の娘・菜穂子。
彼ら夫婦の間には可愛い盛りの娘・桃子が居る。
お嬢様育ちの菜穂子は世間の毒(悪意)を極度に警戒していた……。
時に菜穂子の警戒は心配し過ぎであるように杉村には見えた。

古屋明俊老人が毒殺された。
愛犬・シロと散歩に出かけたその帰路のことであった。
死因はコンビニで購入したウーロン茶に仕込まれていた毒。
これまでにも連続毒殺事件が発生しており、その4件目の被害者と思われたが……。

一方、今多コンツェルン広報室にアルバイトとして雇われた原田いずみはとんでもない人物であった。
職務怠慢や経歴詐称は当たり前、注意したり叱れば、イジメやセクハラ、ストーカーと騒ぎ立てるのだ。
結局、いずみは仕事を辞めさせられることとなったのだが……。

辞めたら辞めたで、不当解雇であると騒ぎ立てたのだ。
これに対し杉村が窓口として対応することとなった。
彼女を調べるにつれ、理解できない不可思議な行動に頭を悩まされる杉村。
しかも、過去にも似たような行動ばかりを繰り返すトラブルメーカーだと判明したのだ。
さらに、自身の為ならば相手をどれだけ傷付けようとも平気な様子である。
何とか穏便に済まそうと説得する杉村だったが……。

だが、杉村は知らなかったのだ。
相手が常識や情を理解するとは限らないことに。
何故なら、いずみは自分の理解したいことだけを理解し、他を全く排除していたのだから。

いずみは父母や兄など家族に愛されていた。
彼女自身のトラブルメーカーぶりや虚言癖は変わらなかったが、家族はそれでも彼女を愛したのだ。
だが、いずみはそんな家族を最悪の形で裏切った。

兄の結婚式当日、妹としてスピーチした際に「兄に弄ばれていた」と告白したのだ。
もちろん、嘘である。
だが、皮肉なことに効果は絶大であった。
此の点、いずみは人を陥れることに長けていたと言えるだろう。

結果、兄の妻となる人はその日のうちに自殺した。
兄を信じるがゆえに、周囲からの奇異の目に耐えられらなかったのだ。

それでも、いずみは平然としていた。
自身の言動がどんな影響を及ぼしたかすら、念頭にないらしい。
それどころか、批難されること自体が誤りだと激怒したのだ。

そう……いずみは自身の実兄すら卑劣な虚言で陥れる女性であった。

家族に苛められていた?
NO!!

苦労して育った?
NO!!

人格形成に何らかの悪影響があった?
NO!!

彼女の性格に何らの理由も原因も存在していない。
彼女は生まれながらに彼女であった。
まさに、根っからの悪女である。

そんないずみに言葉を尽くして反省するよう説得した杉村。
結果、いずみに憎まれることとなってしまう。

その頃、連続毒殺魔と見られる人物が謎の自殺を遂げた。
だが、古屋の殺害だけは合点がいかなかった。
いずみの過去を調べるにあたり、古屋の孫娘と知り合った杉村はこちらの事件にも関わって行くことに。

古屋の孫娘に謝罪の書き込みを行った人物を追った杉村は、コンビニ店員・外立に行き着く。
外立は我慢強く正義を志す青年であったが、祖母と二人きりで困窮する生活に疲れ果て、自身の置かれた状況に思い悩むあまり、攻撃的になり衝動的に毒殺事件に便乗してしまったのである。
その行動がどんな結果に至るか、思い浮かべる余裕も残されてはいなかったのだろうか。

とはいえ、許される行為ではない。
こうして、古屋殺害の真犯人が判明した。

すべては、目に見えない毒によるものだ……杉村はそれを体感した。
だが、事はそれで終わらなかったのである。

なんと、杉村を逆恨みしたいずみが桃子を人質に杉村家に立て籠もったのだ!!
「あんたたちの存在自体が許せない!!」
杉村たちに理屈も何もない罵詈雑言を浴びせるいずみ。
桃子を人質にされている限り、杉村たちにはどうしようもない。

其処へ外立が立ち塞がった。
彼は自身が殺人者であることを明かし、涙ながらに反省の弁を述べ、同じようになるなと説得する。
だが、いずみにその言葉は伝わらない。
嘘吐き呼ばわりすると外立をヒーロー気取りとせせら笑う。
外立の後悔の言葉すら届かないのだ。

だが、いずみの注意が逸れ隙が出来た。
この隙に桃子は救出され、いずみは取り押さえられることに。
この期に及んでも、呪詛の言葉を吐き続けるいずみをその毒に侵された杉村が殴りつける……。

結局、いずみも逮捕されることとなった。
だが、彼女はお気に入りの取調官を見つけて幸せなのだそうである。
何処までも理解できない杉村。

対照的に、外立は逮捕後も自身の罪の重さに苦しみ続けているそうである。

この2人の差異は何処から生まれたのだろうか?

あの日以来、菜穂子は精神的にショックを受け桃子が視界にいないと不安がるようになった。
以前よりも、心配性になったようだ。

杉村は世の中に蔓延る名もない毒(人の悪意)に恐れ戦くのであった―――エンド。

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