ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
立退料百万円払えだなんて。どうかお知恵を分けて下さい―――
日常の裂け目から悪意が滲み出す!
(講談社公式HPより)
<感想>
まさに作者の本領発揮か。
さらに、少しずつ糸が絡み合い始めた様子。
真梨先生と言えば、「イヤミス」の女王であり、連作短編の名手。
個別の独立した短編が繋ぎ合わされることで新たな側面を覗かせ、ラストで驚くべき結末に転じることには定評がある。
読み進めるうちに読者の認識を引っくり返す構成が凄い。
同時に、人の悪意が万遍なく示し出されている点が凄い。
この「人の負の感情」をバランスよく刺激する点も特徴。
明かされた事実により、最終的に180度変わる真相が面白くも恐ろしい―――そんな作風。
その著書『ふたり狂い』や『みんな邪魔』の切れ味は凄まじかった。
この『よろず相談室』シリーズも同様だろう。
そんな第4話のテーマは「噂の恐ろしさ」や「風評被害」でしたね。
ただ、単なる噂と呼ぶには悪意が強過ぎて「作為」とでもまとめた方が相応しいかもしれません。
内容的には二転三転する真相に、実は……とのスタンダードな物。
とはいえ、短編に詰め込むには窮屈過ぎた印象あり。
ネタバレあらすじもかなり改変されています。
毎回「よろず相談室」の回答者が他人事のような回答をする点が登場人物に批判されているところをみると、ラストは回答者自身が思わぬトラブルに巻き込まれて被害に遭うのだろうか……。
いろいろと想像が膨らむなぁ……。
この作品もまた目が離せない作品となりそうです。
<ネタバレあらすじ>
4話『これってセクハラですか?』登場人物:
豊田:営業部第2課課長、女性からの人気も高い。
大崎:営業部第1課課長、女性からは嫌われている。
葛西:営業部の社員、大崎派に属する。
千佳:葛西の婚約者、婚活サイトで知り合った。
飯田博美:正義感が強く、潔癖症なOL。
純一:飯田博美と相談していた人物。
浅川:セクハラの被害者とされる女性。
北の王子:セクハラトラブルについて「よろず相談室」に相談していた。
「よろず相談室に投稿された記事:
現在、営業部にて課長をやっています。
そんな私に、最近になって部長への昇進話が浮上しました。
ところが、此処に来て頭を過るのは過去のセクハラ。
長時間の残業から解放された勢いで、近くに居た部下に関係を強要してしまったのです。
もしも、今になってこの事実が露見したら……どうすれば良いでしょうか。 北の王子」
純一は飯田博美に相談を持ちかけていた。
内容は「よろず相談室」の新聞記事、其処に出ている課長とは大崎に違いないのだ。
普段からデリカシーのない大崎は博美から蛇蝎の如く嫌われていた。
この情報を純一から得た博美は義憤に駆られた様子で告発することを約束した。
純一はこれにほくそ笑む……数日以内に大崎が失脚することが予想できたからだ。
葛西は大崎派の若頭を自他ともに認められている。
葛西にとって上司を選ぶことは重要である。
上司によって自身の出世に深く関わるからだ。
葛西は婚約者の千佳の肢体を思い浮かべた。
千佳とは婚活サイトで出会った。
婚活サイトの紹介に間違いないと考えた葛西はすぐに婚約した。
だが、最近になってその考えが正しかったか不安を覚え始めていた。
少なくとも結婚生活が始まる前に、上下関係をはっきりさせておくべきだろう……。
葛西は千佳をホテルに呼び出すと、彼女を抱いた。
そして、その声を密かに録音した……。
数日後、葛西は大崎の立場が危うくなってることを知った。
事の発端は「よろず相談室」に掲載された相談である。
部長への昇進話が噂されていたのは豊田であった。
当初、豊田の不行跡が露見したと思われていた。
「思わぬところで墓穴を掘った」と大崎自身も喜んでいた物である。
ところが、これが大崎の罠ではなかったかとの噂が立ったのだ。
そもそも、あんな相談話を本人が投稿する筈がない。
大崎が豊田に成り済まし投稿したのではないか……。
それどころか、相談内容から大崎自身の経験を語った物とされたのだ。
噂では辞めた浅川が大崎の被害者だとされたが……。
そんな折、営業部を当の浅川が訪ねて来た。
浅川の不審な態度に、葛西が応対を任されることに。
ところが、葛西は驚くべき事実を知ることに。
なんと、「よろず相談室」への投稿者は浅川だったそうなのだ。
過去、投稿内容と同じ行為を豊田から受けた浅川。
そんな浅川は豊田が昇進すると聞き、自らの境遇を顧みてこれを恨んだ。
其処で、見る者が見れば分かるような書き方で投稿したのだそうである。
つまり、投稿は豊田でも大崎でもなかったのだ。
しかも、投稿の内容を行ったのは大崎ではなく豊田であった。
だが、いずれにしてももう遅い。
大崎は、自らが喜んでいた記事により破滅するだろう。
だとすれば、このまま大崎派で居ることは危険でしかない。
葛西は豊田に鞍替えを決めた。
と、その前に千佳だ。
上下関係をはっきりさせるべく、葛西はあの時の声を添付ファイルにしたメールを送信した。
そのメールを目にし、純一は顔を歪めた。
(あいつは馬鹿か)
純一が目にしたメールには女性の喘ぎ声が添付されていたのである。
送信者は葛西、おそらく私用メールと社内メールを間違ったのだろう。
CCで送っている以上、部内全員に届いているに違いない。
見れば、露骨に嫌な顔をしている者もある。
その中には博美も居た。
博美は今にもこちらに向かい、葛西への批判を口にしそうである。
(これであいつも破滅だ)
純一……いや、豊田純一は微笑んだ。
実は部長昇進は豊田ではなく大崎の話であった。
ところが、思わぬ「よろず相談室」の記事をきっかけに大逆転劇が行われたのだ。
大崎に続き、葛西も博美の手により破滅へと向かうのだろう。
「よろず相談室からの回答:
それはセクハラではありません。犯罪です。 回答者より」―――エンド。
◆関連過去記事
・『<よろず相談室1>居候に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『<よろず相談室2>しつこいお客に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』連載)ネタバレ書評(レビュー)
・『<よろず相談室3>隣人に困っています』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』連載)ネタバレ書評(レビュー)
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