ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
夏休みも中盤に突入し、向坂香織たち風ヶ丘高校新聞部の面々は、「風ヶ丘タイムズ」の取材で市内の穴場水族館である、丸美水族館に繰り出した。館内を館長の案内で取材していると、サメの巨大水槽の前で、驚愕のシーンを目撃。な、なんとサメが飼育員に喰ついている! 駆けつけた神奈川県警の仙堂と袴田が関係者に事情聴取していくと、容疑者11人に強固なアリバイが……。仙堂と袴田は、仕方なく柚乃へと連絡を取った。あのアニメオタクの駄目人間・裏染天馬を呼び出してもらうために。平成のエラリー・クイーンが贈る、長編本格推理。好評〈裏染シリーズ〉最新作。
(東京創元社公式HPより)
<感想>
第22回鮎川哲也賞受賞作『体育館の殺人』に続く「裏染シリーズ」第2弾。
・『体育館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『針宮理恵子のサードインパクト』(青崎有吾著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.60』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・「第22回鮎川哲也賞」決定!!栄冠は青崎有吾先生『体育館の殺人』に!!
「体育館」に続き「水族館」が舞台です。
これは次作は「博物館」とか「図書館」とか「記念館」とかが舞台になっても不思議ではないな。
というワケで早速、読んでみました。
舞台設定を活かした内容で、納得の出来ですね。
ただ、些か理に傾きすぎて情への訴えかけが弱いかも。
それと、理であるロジック面に強引さがあったことも否めない気がする。
でも、それらを上回る展開の面白さはあったとは思う。
特に犯人の意外な動機は良かった。
シリーズ第2弾としては上々の滑り出しではなかろうか。
さらに、シリーズ全体の謎として「天馬が何故、学校にて生活しているのか」との点が強調されていたのも本作のポイント。
この点でも、シリーズ化に成功しているのではないでしょうか。
『体育館の殺人』をお気に召された方はこちらもアリだと思います。
<ネタバレあらすじ>
ここからネタバレあらすじになります。
本作は論理的な伏線が多い為、あらすじにするにあたりかなり端折っています。
注意!!
サメやイルカのルフィンで有名な丸美水族館で殺人事件が発生。
被害者は飼育員、首筋を斬られた後に水槽内に突き落とされサメに喰われるとの無惨な状況であった。
後日、サメは解剖されることとなるのだが……。
取材の為に訪れていた向坂香織たち風ヶ丘高校新聞部の面々がこの事件を目撃してしまう。
この事件を担当したのが、前作『体育館の殺人』でも登場した仙堂と袴田兄。
容疑者全員に屈強なアリバイがあることを知った袴田兄は妹・柚乃に連絡を取る。
裏染天馬に出馬を促す為である。
こうして、バイト代に釣られた我らが天馬が事件解決に乗り出した。
ワトソン役として、柚乃を伴って。
さまざまな情報を求め、仮説を巡らせる天馬。
彼が行きついた結論とは―――。
天馬が注目したのは、犯人が使用したと思われる血に塗れたモップとバケツ。
ロジックにより、バケツの中にトイレットペーパーが隠されていたと突き止めた天馬。
犯人は被害者を殺害後にトイレットペーパーを死体に結び付け、水槽への落下を調節。
その間にアリバイを構築したと断定する。
さらに、犯人が被害者殺害前にこれを気絶させるべくモップで殴打したと看破。
これから、犯人は清掃中の飼育員として被害者に近付いたことを証明。
しかも、犯人はタオルを腰に吊るしていたことも証明する。
これに加えて、防水か否かを突き止めたことにより、被害者使用の電子時計が殺害前後ですり替えられていたことを見抜く。
ベルトの長さが異なっていたことも併せて、犯人の腕が細いとの条件を導き出す。
これらから、犯人は飼育員であること。
さらに、腕が細く非力であることなどが判明した。
この条件を満たす人物は1人であった。
犯人は飼育員―――芝浦徳郎だったのだ。
芝浦はあっさりと罪を認める。
こうして事件は解決するのだが……。
柚乃は天馬の妹・鏡華と出会う。
鏡華によれば、天馬は父から勘当を言い渡されているらしい。
ところが、これを天馬の幼馴染の香織に確認したところ、血相を変えられてしまう。
どうやら、未だ明らかに出来ない秘密が天馬にはあるようだが……。
一方、連行される芝浦に近付く影が。
その正体は天馬その人であった。
天馬は、敢えて皆の前で明かさなかった芝浦が殺害を行った動機を突き付ける。
その動機は、サメの排除にあった。
サメにより、イルカのルフィンが水族館内での地位を低下させられていた。
館長らはルフィンの価値を重要視せず、ショーに酷使しようとしていた。
もし、ショーに出ることになればルフィンは短命に終わりかねない。
芝浦はこれを阻止しようとしていたのだ。
その為にサメの水槽で殺人を犯し、死体を食べたサメが解剖されるように仕組んだ。
では、芝浦にはルフィンへの愛情があったのか?
答えは―――否!!
実は、飼育下四世であるルフィンは大変珍しい存在であった。
もしも、これに子供が生まれれば芝浦は飼育下五世の飼育員として歴史に名前を残すことが出来る。
その為に、サメを排除するべくサメに死体を喰わせることが目的だったのだ。
芝浦は自身の名誉の為だけに殺人を犯したのであった―――エンド。
◆関連過去記事
・『体育館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『針宮理恵子のサードインパクト』(青崎有吾著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.60』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・「第22回鮎川哲也賞」決定!!栄冠は青崎有吾先生『体育館の殺人』に!!
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