2013年07月29日

『ブラッドライン』(知念実希人著、新潮社刊)

『ブラッドライン』(知念実希人著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

この医学ミステリーはすごい!オペ中の異常な死から「血の連鎖」が始まった!

止まらない鮮血、鳴り響くアラーム、飛び交う怒号。手術室は悪夢の戦場と化した! 腹腔鏡手術を受けていた准教授がありえない死を遂げた。教授選をめぐる疑惑、連続するドクターの怪死、異様な血液の謎。「missキシ」「1/2ダンス」の言葉は何を暗示するのか。若き外科医がたどり着いた慟哭の完全犯罪とは。圧巻の四百頁!
(新潮社公式HPより)


<感想>

『誰がための刃 レゾンデートル』(講談社刊)にて「第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を受賞された知念実希人先生の新作長編です。

タイトル『ブラッドライン』とは「血脈」のこと。
ラストまで読み終えたとき、その真の意味に気付くでしょう。

果たして、その意味とは!?
父母から子へと受け継がれる想いとは!?
そして、同じくラストにて行われる裕也の選択とは!?

真也と裕也、親子の反目が語られた後のあの結末に震えるべし!!

「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように一部に改変を加えた上にかなり端折ってます。
本作を正確に味わうには、本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
冴木裕也:主人公。若き医師。
冴木真也:次期教授候補の1人で裕也の父、謎の術中死を遂げる。
冴木優子:裕也の母、元医師、入院中。
冴木真奈美:裕也の妹、岡崎と婚約中。
海老沢:退官を控えた教授。
馬淵:次期教授候補の1人。
川奈:次期教授候補の1人。
茜:川奈の妻。
増本:探偵。
岡崎:真奈美の婚約者。
岡崎の母:真奈美と岡崎との結婚に反対している。


医師である冴木裕也の父で准教授の真也が手術を受けて死亡してしまった。
施術を担当したのは、教授の海老沢。
当然、海老沢が責任を問われるかと思われたが……。

実は、海老沢は退官を控えており、その後継を巡り3人が教授選に出馬していた。
真也、馬淵、川奈の3人である。
このうち、馬淵は海老沢の子飼い、川奈は外様の立場となっている。
ところが、真也の死よりも前に馬淵は何者かに殺害されていたのである。
近く発生していた通り魔による連続殺人事件の被害者の1人と思われていた……。

それに続く、真也の死である。
マスメディアは教授選を巡る不審死として取り上げることに。
こうして、事件は複雑な様相を見せつつあった。

家庭内では、何故か家族と一定の距離を保っていた真也の死。
裕也とその妹・真奈美は真也に反発していたこともあり、動揺しつつも何処か冷めていた。

とはいえ、真奈美は現在妊娠しており少なからず母体への影響は大きかった。
これをお腹の子供の父親である婚約者の岡崎が支える。
岡崎と真奈美は近く結婚式を挙げる予定であった。

しかし、岡崎家では血筋を重んじる家風があり、真也が教授になると信じたからこそ結婚を許していた。
岡崎の母はこれ幸いと真奈美を責め立てる。
真奈美は苦境に立たされることに。

一方、死病により入院中の裕也の母・優子は夫の死にも元医師として気丈に振る舞う。

まるで何者かの意志が介在しているかのように、マスメディアの反応が日に日に大きくなっていった。
執刀医の海老沢の責任が問われ、海老沢は逃げるように優子と同じ病棟に緊急入院する。
ところが、この海老沢までもが急死してしまう。

相次ぐ医師の怪死。
何が起こっているのか?

裕也は父の死に纏わる謎を解き明かすべく調査を開始する。
すると、岡崎の母が雇っていた増本なる探偵の死に行き当たる。
増本は真也について調べており、「川奈 茜 missキシ」「真也 Hunt」なる謎の言葉を手帳に遺していた……。

川奈の妻が茜であることを突き止めた裕也。
「missキシ」にも意味があるのか?

さらに調べたところ、「missキシ」が「キシロカインによる医療ミス」を指していたことが分かる。
川奈は過去に医療ミスで患者を死なせていたが隠蔽していた。
ところが、増本からこれを脅迫されていたのだ。
この事実を裕也に知られたことを悟った川奈は、口封じすべく裕也を追い回すが事故に遭い落命する。
こうして、奇しくも教授候補は3人ともが死亡してしまった……。

川奈が脅迫されていたのならば、同じく手帳にあった真也もまた脅迫されていたに違いない。
「Hunt」の意味を追い求め、父・真也の過去を調べ始めた裕也は真也が捨てた故郷へ赴く。
其処は神主により支配された旧態依然の土地であった。
裕也は、真也の母が「狐憑き」になっていたことを聞かされる。
さらに、裕也は「汚れた血」として罵られることに。

「狐憑き」「Hunt」……裕也の脳裏にある名称が思い浮かぶ。
それは絶望的な名であった。
血液を調べた裕也は推測が事実であることを確信する。

優子を訪ねた裕也は問い詰める。
海老沢を殺害したのはあなたではないか。
馬淵、増本……さらに真也自身を殺害したのは真也だったのではないか。
そして、真也は「ハンチントン病」だったのではないか、と。

当初こそ否定するものの、遂にこれを認める優子。
真也は「ハンチントン病」であった。
すなわち、その子供である裕也も真奈美も「ハンチントン病」の遺伝子を引き継いでいることになるのだ。
裕也が調べたのはコレであった。
「ハンチントン病」は遺伝病。
発症すると、狐憑きのように情動障害の兆候が顕れる。
岡崎と真奈美の間に子供が出来ればその子供も引き継ぐことになるだろう。

これこそが動機だったのだ。

真也は教授選に興味は無かった。
だが、娘・真奈美の結婚の為に出馬する姿勢を見せた。
彼は表にこそ現さなかったが、家族を愛していたのだ。

ところが、対立候補であった馬淵に「ハンチントン病」の秘密を知られてしまった。
馬淵はこれを公開すると主張した。
もし、そうなれば真奈美の結婚は絶望的だ。
真也は真奈美の将来を守るべく、馬淵と争いこれを殺害してしまった。

困った真也は、既に発生していた通り魔による連続殺人事件の1つに紛れ込ませた。
続いて、探偵の増本が脅迫して来た。
其処で、これも殺害した。

ところが、海老沢が真也の「ハンチントン病」に気付いた。
しかし、海老沢は馬淵に継ぐ自身の子飼いの人間を後継にする為に時間が必要であった。
暫くの間、真也を泳がせておくことにしたのだ。

真也は焦った。
目立たないように海老沢を殺害しなければならない。
同時に、生きた証拠になりかねない自身も排除しなければならない。

其処で、術中死が発生するように仕組み死亡した。
自殺だったのだ。

一方で、優子に海老沢殺害を託した。
これに優子が応えたのだ。
こうして、海老沢も殺害された。

すべては冴木家に流れる血の為に行われたのだ。
真実を知った裕也だが、真奈美の将来を願い黙認することに。

真奈美は反対を押し切り岡崎と無事に結婚を果たした。
優子はすべてを見届けると、安心したかのように命を終えた。
すべての秘密を守るとの後事は裕也に託されたのである―――エンド。

◆関連過去記事
『誰がための刃 レゾンデートル』(知念実希人著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『泡 統括診断部の事件カルテ』(知念実希人著、新潮社刊『小説新潮 2013年6月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

知念実希人先生、新作刊行予定を明かす。タイトルは『50/50ダンス(仮)』とのこと。

知念実希人先生、新作長編はタイトル『ブラッドライン』!!2013年7月発売予定とのこと!!

知念実希人先生、受賞後第一作は短編『泡 -統括診断部の事件カルテ-』に!!『小説新潮 2013年6月号』に掲載予定とのこと!!

第4回「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作決まる!!

「ブラッドライン」です!!
ブラッドライン





『泡 -統括診断部の事件カルテ-』が掲載された「小説新潮 2013年 06月号 [雑誌]」です!!
小説新潮 2013年 06月号 [雑誌]





「誰がための刃 レゾンデートル」です!!
誰がための刃 レゾンデートル



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