2013年08月19日

『奇談蒐集家』(太田忠司著、東京創元社刊)

『奇談蒐集家』(太田忠司著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

求む奇談、高額報酬進呈(ただし審査あり)。新聞の募集広告を目にして酒場に訪れる老若男女が、奇談蒐集家を名乗る恵美酒と助手の氷坂に怪奇に満ちた体験談を披露する。シャンソン歌手がパリで出会った、ひとの運命を予見できる本物の魔術師。少女の死体と入れ替わりに姿を消した魔人。数々の奇談に喜ぶ恵美酒だが、氷坂によって謎は見事なまでに解き明かされる! 安楽椅子探偵の推理が冴える連作短編集。解説=井上雅彦
(東京創元社公式HPより)


<感想>

連作短編集です。
太田先生版「百物語」とも言える作品でしょう。

全体として不思議な想い出は解明せずにそのままにしておいた方が良いとのスタンスかなぁ。

収録作は『自分の影に刺された男』『古道具屋の姫君』『不器用な魔術師』『水色の魔人』『冬薔薇(ふゆそうび)の館』『金眼銀眼邪眼』『すべては奇談のために』の7作。

それぞれの感想は次の通り。
何故だか、あまり感想が出ないんだよなぁ……。

・『自分の影に刺された男』

影に怯える―――身近な物に恐怖を抱く感情は理解できないでもない。
だけど、だからってあのオチはピンとこなかったかなぁ。

・『古道具屋の姫君』

物理的に可能な方法を追えば、あのオチなのは分かる。
ラストがゾクッと来た。

・『不器用な魔術師』

これもトリックはコレしかないものなぁ。

・『水色の魔人』

恐怖の正体が凄かった。

・『冬薔薇(ふゆそうび)の館』

幻想的な描写が良かった。

・『金眼銀眼邪眼』

これは……あんまりかなぁ。

・『すべては奇談のために』

諧謔的なオチが良し。

全体的に、ラストの『すべては奇談のために』があっての他作品との印象。
なので、各短編を独立して読むと楽しめないと思う。

ただ、『古道具屋の姫君』と『水色の魔人』は独立した短編としても秀逸だった。
いずれも、あのラストが諧謔的。
そのラストが『すべては奇談のために』を思わせるのも良かったかな。

ただ、全体的に読み手の好みが問われると思う。
合う合わないは激しい筈。

<ネタバレあらすじ>

・『自分の影に刺された男』

「求む奇談、高額報酬進呈(ただし審査あり)」の新聞広告を目にした仁藤は「ストロベリーヒル」という名のバーを訪れた。
仁藤には誰にも負けない自信の奇談があったのだ。
いやむしろ、それに悩まされていた……。

「ストロベリーヒル」で仁藤に相対したのは、奇談蒐集家を名乗る「恵美酒」と助手の「氷坂」。

仁藤は「自分が自分の影に刺された」エピソードを明かす。

昔から、影に怯え続けていた仁藤。
暫く恐怖は鳴りを潜めていたが、最近になってまたぶり返した。
職場の後輩にも相談したが、一向に良くなる見込みはない。

そんなある日、なるべく影の少ない道を選んで帰宅していたところ、何者かに刺されてしまう。
振り返れば影が走り去って行くところであった。
仁藤は影に刺された……と主張する。

これは珍しいと大喜びする恵美酒。
ところが、氷坂は珍しくも何ともないと否定する。

もともと影に襲われるとは仁藤の思い込みに過ぎなかったのだ。
刺されたのは、そんな仁藤の思い込みを利用した後輩の犯行であり、逃げて行く影は後輩の影だったのだろう。

こうして、仁藤の恐怖は一刀両断されてしまうのであった―――エンド。

・『古道具屋の姫君』

「求む奇談、高額報酬進呈(ただし審査あり)」の新聞広告を目にした矢来は「ストロベリーヒル」という名のバーを訪れた。
矢来には誰にも負けない自信の奇談があったのだ。
それは夫婦の絆であった。
彼には自慢の妻が居り、自宅での彼女との時間が楽しみで仕方が無かったのだ。

「ストロベリーヒル」で矢来に相対したのは、奇談蒐集家を名乗る「恵美酒」と助手の「氷坂」。

矢来は「この奇談でお小遣いを稼ぎ妻に贈り物をする」と意気込むが……。
彼が語ったのは「運命の人の生まれ変わり」エピソードであった。

矢来が学生時代のこと。
小道具屋の前である鏡を見かけた。
その中には美しい姫君が写り込んでいた。

矢来は小道具屋の店主に由来を尋ねた。
金貸しも行っているらしい店主によれば、鏡の中に姫君が閉じ込められているらしい。
姫君に一目惚れした矢来はこれを買い求めた。

だが、下宿で眺めてみたところで鏡の中に姫君は現れない。
騙されたか……と疑いだしたある晩。
うつらうつらしていると、あの姫君が枕元に立っているではないか!!
姫君は「生まれ変わってあなたと結ばれる」と言い残すと姿を消した……。

それから数日後、あの小道具屋は焼失し主人も焼死した。
姫君との出会いを与えてくれた恩人の死は矢来を悲しませた。

さらに数年後、矢来はあの姫君の成長した姿に再会したのだ。
だが、彼女は現代人であった。
約束通り姫君が生まれ変わったのだろう―――そう考えた矢来は何も知らない様子の彼女にプロポーズし結婚したのであった。
それが今の妻である。

これを聞いた恵美酒は「これこそ奇談だ」と大喜び。
だが、氷坂は「珍しくも何ともない」と否定する。

古道具屋の店主は金貸しを営んでいた。
おそらく、借金のかたに女性(姫君)を監禁していたのだろう。
姫の装束を着せたのは趣味に違いない。

矢来が古道具屋で見た鏡は何の変哲もない普通の鏡であった。
ただ単に、監禁された女性が写り込んだだけだったのだろう。

此の事情を知らない矢来が鏡に興味を持った。
店主はちょうどいいとばかりに、いわくありげな作り話を騙って売りつけた。

ところが、後になって女性自身から窘められた。
鏡に女性が写らなければ詐欺だと気付かれる。
そうなれば、こうして監禁していることも露見するかもしれない、と。

焦った店主に女性はある入れ知恵をする。
自分が姫君のふりをして矢来を殺すので協力しろと言ったのだ。

店主は女性に協力し、矢来に睡眠薬を飲ませてあの夜の姫君との約束を演出することに一役買った。

だが、店主は知らなかった。
矢来が女性に惹かれた様に、女性もまた矢来に惹かれていたことを。

女性は矢来を殺す気は最初から無かったのだ。
生まれ変わりの約束を取り付けた女性は、店主の隙を突きこれを焼き殺し逃げ出した。
自由の身になったのだ。

その上で数年を待ち、矢来との劇的な出会いを演出したのである。
つまり、何も知らないふりをしているが、矢来の妻こそが店主を殺害した女性本人なのだ。

これを聞かされた矢来は反発する。
ところが、氷坂の次の言葉に黙らざるを得なくなった。
「生まれ変わりなら、年齢が合わないでしょう」と。

矢来はその日から妻にどんな顔をしていいのか分からなくなった。
彼は帰宅することが苦痛に感じられるようになった―――エンド。

・『不器用な魔術師』

「求む奇談、高額報酬進呈(ただし審査あり)」の新聞広告を目にした女性シャンソン歌手は「ストロベリーヒル」という名のバーを訪れた。
彼女には不思議な想い出があったのだ。

「ストロベリーヒル」で彼女に相対したのは、奇談蒐集家を名乗る「恵美酒」と助手の「氷坂」。

彼女が語ったのは「人の運命を予見できる魔術師」についてのエピソードであった。

彼女がパリで生活していた時代のこと。
1人の男性と出会った。
男性は自身を「人の運命を予見できる本物の魔術師」であると名乗った。

最初は疑っていた彼女も男性が次々と予知を行うことで信用して行くように。
そしてある日、彼にアパルトメントから離れるよう促され、その通りに行動した彼女。
すると、アパルトメントが焼け落ちてしまう。

これを聞いた恵美酒は「これこそ奇談だ」と大喜び。
だが、氷坂は「珍しくも何ともない」と否定する。

すべて歌手が出会った男性の作為だったのだ。
だとすれば、不思議でもなんでもない。

シャンソン歌手にとっての良き想い出は見る影もなく褪せてしまうのであった―――エンド。

・『水色の魔人』

「求む奇談、高額報酬進呈(ただし審査あり)」の新聞広告を目にした男性が「ストロベリーヒル」という名のバーを訪れた。
男性は過去に「水色の魔人」を見ていたのだ。

「水色の魔人」は子供を殺害していた。
この魔人を捕まえるべく友人2人と挑んだのだが……目の前で魔人は消えてしまう。
後には少女の死体が残された……。

これに相対するは、奇談蒐集家を名乗る「恵美酒」と助手の「氷坂」。
これを聞いた恵美酒は「これこそ奇談だ」と大喜び。
だが、氷坂は「珍しくも何ともない」と否定する。

友人2人が「水色の魔人」と共謀していたのだ。
つまり、「水色の魔人」は友人の兄であった。

彼はこれを聞き驚愕する。
何故なら、友人の兄は今では彼の親族となっていたのだから。
彼の姉と再婚していたのだ。
そして、姉には連れ子が居た。
彼にとっての姪っ子が危ない……。

友情が成立していなかった上に、思わぬ身内の危機を知った男性は錯乱するのであった―――エンド。

・『冬薔薇(ふゆそうび)の館』

「求む奇談、高額報酬進呈(ただし審査あり)」の新聞広告を目にした主婦が「ストロベリーヒル」という名のバーを訪れた。
主婦は今の平凡な生活が正しかったのか悩んでいた。

「ストロベリーヒル」で彼女に相対したのは、奇談蒐集家を名乗る「恵美酒」と助手の「氷坂」。

彼女は過去に一年中咲き続ける薔薇園の主から一生を共にするよう求められたが、断った過去があったのだ。
もしも、あれに応じていれば……。
以来、今の自分が正しかったのか不安に悩まされ続けていたのである。

これを聞いた恵美酒は「これこそ奇談だ」と大喜び。
だが、氷坂は「珍しくも何ともない」と否定する。

薔薇園の主は主ではなかった。
主とされていた人物は影武者に過ぎなかったのである。
そして、一年中咲き誇る薔薇の正体は人間を肥料としていたからであった。
今頃、彼は肥料にされているのだろう……。

これを聞かされた主婦は怯えることなく、悠久の時を彼と過ごせるのならばと、選ばなかったもう1つの未来に想いを馳せるのであった―――エンド。

・『金眼銀眼邪眼』

「求む奇談、高額報酬進呈(ただし審査あり)」の新聞広告を目にした客は「ストロベリーヒル」という名のバーを訪れた。
「ストロベリーヒル」で客に相対したのは、奇談蒐集家を名乗る「恵美酒」と助手の「氷坂」。

客は「金眼銀眼」の想い出について語り出す。

これを聞いた恵美酒は「これこそ奇談だ」と大喜び。
だが、氷坂は「珍しくも何ともない」と否定する。

氷坂により不思議は解き明かされた。
しかも、仮に事実だとしても特に珍しくも無いらしい。
何故なら、氷坂自身もそうだったからである―――エンド。

・『すべては奇談のために』

奇談蒐集家を名乗る「恵美酒」と助手の「氷坂」の前に、ある人物が現れた。
男はジャーナリスト。
仁藤や矢来などを通じて、これまでの奇妙な現象を取材していたらしい。

時代を超え、場所を超え、ありとあらゆる場所に登場する「恵美酒」と「氷坂」。
彼は断言する―――「恵美酒」と「氷坂」の存在が不可解だ、と。

これに恵美酒は大喜び。
氷坂も「これは仕方が無い」と認めることに。
そう、奇談蒐集家を名乗る彼らの存在それ自体が奇談であると認められたのだ。
こうして、恵美酒は目的を達することが出来たのであった。

そして、ジャーナリストは語り部としての責務を背負わされたのであった―――エンド。

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