『福家警部補の再訪』（大倉崇裕著、東京創元社刊）

『福家警部補の再訪』（大倉崇裕著、東京創元社刊）ネタバレ書評（レビュー）です。

ネタバレあります、注意！！

＜あらすじ＞

しがない探偵から転身し上昇気流に乗った警備会社社長、一世一代の大芝居を自作自演する脚本家、天才肌の相棒と袂を分かち再出発を目論む漫才師、フィギュア造型力がもたらす禍福に翻弄される玩具企画会社社長??犯人側から語られる犯行の経緯と実際。対するは、善意の第三者をして「あんなんに狙われたら、犯人もたまらんで」と言わしめる福家警部補。百戦不殆のシリーズ第二集。解説＝神命明

（東京創元社さん公式HPより）

＜感想＞

『福家警部補』シリーズ（東京創元社刊）第2弾。
シリーズには他に第1弾『福家警部補の挨拶』と第3弾『福家警部補の報告』がある。

・『福家警部補の挨拶』（大倉崇裕著、東京創元社刊）ネタバレ書評（レビュー）

過去には、永作博美さん主演で2009年にNHKでシリーズの1作『オッカムの剃刀』がドラマ化されている。

まさに「倒叙物のお手本」とでも言うべき完成度の高さ。
そして、倒叙物のお約束を過不足なく盛り込んでいる点も素晴らしい。

倒叙物といえば、犯人と探偵役の一騎打ちが魅力。
互いにプライドを賭けて、知力の限りを尽くした攻防が見所なのだ。
犯人たちはいずれもその職業のプロ、そしてプロゆえに自身の仕事に誇りを抱き、これを守ろうと犯罪を犯す。
そして、福家もまた捜査のプロとしてこれに抗する。

まさにプロとプロの対決。
それだけに、犯人たちはある一点を突かれることで潔く負けを認めるのである。

この一点が本シリーズでは動機に基づく場合が多い。
本作の犯人たちも『プロジェクトブルー』や『相棒』では、自身のプライドに従い罪を認めることになる。
この運びこそが醍醐味なのである。
本作は見事にこれを遂げている。

だから、福家は犯人の動機を攻める。
そう、福家は自身の実力を知り、相手（容疑者）の心境を知り、その犯行を立証し下す。
まさに「彼を知り己を知れば百戦危うからず」であり、「心を攻めるを上とする」の実践だ。
そんな福家の活躍が読めるのは本シリーズだけ、読むべし！！

他にも、福家が多くの人から情報を引き出して行く過程も見逃せない。
その中で、他者から見た福家像などが読者に伝えられて行くのだが、これがまた面白い。
さらに、冒頭で描写された犯人の行動に、複数の証言者から得られた情報をもとに迫るのも魅力。
まさに、情報が情報を生みパズルのピースが埋まる……あの感覚なのだ。
これも注目すべし！！

そんな本作の収録作品は『マックス号事件』『失われた灯』『相棒』『プロジェクトブルー』の4作。

ネタバレあらすじの前に、各中編の感想は次の通り。

・『マックス号事件』
犯人の行動から犯行の証拠が露見する。
この伏線回収が見事。

・『失われた灯』
思わぬアクシデントから犯行が露見するのは倒叙物の定番。
教科書のような美しいロジックを見よ！！

・『相棒』
情に訴え揺さぶりをかける福家の面目躍如。
「彼を知り、己を知れば」こそのこの結末。

・『プロジェクトブルー』
自身の誇りゆえに、証拠品を隠滅できないラストが印象的。
まさにプロゆえの犯行であり、プロゆえの破滅。

ちなみに本シリーズは2014年1月から毎週火曜日21時枠にてフジテレビ系列で連続ドラマ化されます。
福家警部補役は檀れいさん。
注目せよ！！

・「福家警部補シリーズ」が再度ドラマ化！！しかも、今度は連続ドラマ！？「福家警部補の挨拶」に注目せよ！！

＜ネタバレあらすじ＞

ネタバレあらすじはかなり簡略化しています。
本作は意外な伏線の回収も魅力の1つ。
是非、本作自体を読むべし！！

・『マックス号事件』

今をときめくハラダ警備保障の社長・原田明博は旧悪により川上直巳に脅迫されていた。
過去、売れない探偵業を営んでいた原田は直巳と組んで業務上知り得た情報を利用し金を儲けていたのである。
社会的に地位を得た原田にとって、直巳の存在は邪魔者以外の何者でもない。
原田は豪華客船マックス号内にて直巳を殺害してしまう。

ところが、マックス号には福家が乗り合わせていた。
こうして、原田は福家と対決することに。
タイムリミットはマックス号が目的地に到着し、原田が下船するまで。
原田は下船直後に国外逃亡を目論んでいた。

証拠は無い筈であった。
しかし、原田は隙を突き現場を焼いてまで隠滅を図る。

だが、原田の誤算はやはり福家の存在。
福家は直巳が使用していたマニキュアの瓶に原田の指紋が残されていたことを皮切りに原田の犯行を立証するのであった―――エンド。

・『失われた灯』

人気脚本家の藤堂は骨董商の辻に脅迫されていた。
辻の殺害を目論んだ藤堂は、三室を利用することに。

三室と共謀し狂言誘拐を演出すると、その間に辻を殺害。
最後に口封じすべく三室をも殺害したのだ。
こうして、藤堂は誘拐事件の被害者として鉄壁のアリバイを得た。
三室に関しても正当防衛で揺らがない。
藤堂は計画の成功を確信するが……。

此処に福家が立ち塞がる。
福家は藤堂が燭台を勘違いしていたことから彼の犯行を立証するのであった―――エンド。

・「福家警部補の挨拶」第1話「失われた灯　奇妙な女刑事×人気脚本家！完璧な犯罪は存在しないのです」（1月14日放送）ネタバレ批評（レビュー）

・『相棒』

コンビのお笑い芸人の1人が死亡した。
福家は相方の犯行を疑う。

実は独立に関して揉めていたのだ。
福家はそんな犯人の心情を見抜き、ボイスレコーダーから被害者が何故コンビ解消に消極的であったかを解き明かす。
その意味を知った犯人は泣き崩れるのであった―――エンド。

・『プロジェクトブルー』

造型師の新井は闇社会と繋がりの深い造型師西村に脅迫されていた。
新井は今でこそ有名な造型師だが、若かりし日に贋作づくりに勤しんでいたことがあるのだ。
それは本物と寸分違わぬミリバール人形であった。
追い詰められた新井は西村を殺害してしまう。

この捜査に福家が出馬。
福家に対し、新井は当日に発表された新ブルーマンのフィギュアを造っていたと主張する。

福家は事前に候補の情報が盗み出されていたことを知る。
新ブルーマンの候補は5体、事前に5体を用意しておけばアリバイ確保も可能なのだ。
さらに、動機がミリバールに基づくものであることも突き止めた。

だが、新井の犯行とは証明出来ない……かと思われた。
しかし、天網恢恢疎にして洩らさず。

新井が犯行現場で自分用の塗料と西村用の塗料を取り違えたことから、新ブルーマンのフィギュアの塗装がメタリックゴールドとウルトラマリンで色が異なってしまう。
取り違えた塗料が、もともと西村が試験用に預かっていたものであり世界に数本しか無い物であったことから新井の犯行が立証された。

とはいえ、唯一の証拠は新井が造った新ブルーマンのフィギュア。
それさえ破棄すれば逃げ切れるのだが……新井は自身の作品を破棄できない。
罪を認めるのであった―――エンド。

◆関連過去記事
・『福家警部補の挨拶』（大倉崇裕著、東京創元社刊）ネタバレ書評（レビュー）

・「福家警部補の挨拶」第1話「失われた灯　奇妙な女刑事×人気脚本家！完璧な犯罪は存在しないのです」（1月14日放送）ネタバレ批評（レビュー）

◆『白戸修シリーズ』はこちら。
・『白戸修の事件簿』（大倉崇裕著、双葉社刊）ネタバレ書評（レビュー）

・『白戸修の狼狽』（大倉崇裕著、双葉社刊）ネタバレ書評（レビュー）

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