ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
立退料百万円払えだなんて。どうかお知恵を分けて下さい―――
日常の裂け目から悪意が滲み出す!
(講談社公式HPより)
<感想>
いよいよ驚愕のカタストロフへと突っ走り始めた様子。
まさに作者の本領発揮か。
真梨先生と言えば、「イヤミス」の女王であり、連作短編の名手。
個別の独立した短編が繋ぎ合わされることで新たな側面を覗かせ、ラストで驚くべき結末に転じることには定評がある。
読み進めるうちに読者の認識を引っくり返す構成が凄い。
同時に、人の悪意が万遍なく示し出されている点が凄い。
この「人の負の感情」をバランスよく刺激する点も特徴。
明かされた事実により、最終的に180度変わる真相が面白くも恐ろしい―――そんな作風。
その著書『ふたり狂い』や『みんな邪魔』の切れ味は凄まじかった。
この『よろず相談室』シリーズも同様だろう。
そんな第5話のテーマは……「1億円」と「武蔵野寛治」。
和子からの投書で1億円に興味を示した寿々子。
これを追った結果、消えたものと思われる。
そして、そんな寿々子を追う武蔵野。
これは何か起こるよね……。
1億円と言えば『第2話 しつおいお客に悩んでいます』にて同様の金額が問題になっていたような気も……。
他のエピソードも絡んできそうな予感。
第6話からもまた目が離せない作品となりそうです。
<ネタバレあらすじ>
5話『私は、どうしたらいいのでしょうか?』登場人物一覧:
川口寿々子:大洋新聞社の文化部記者。
武蔵野寛治:人気作家。
和子:1億円を拾得したことで「よろず相談室」に相談していた。
ダメママ:娘を手にかけようとしたことについて「よろず相談室」に相談していた。
「よろず相談室に投稿された記事:
先日、ゴミ捨て場に不審なゴミがあり、中身を確認したところ1億円を発見しました。
雨が降り出したので濡らしてはいけないと思い、無意識のうちに持ち帰ってしまいました。
今更、届出するのも恐ろしく、かといってこのまま放置するのも恐ろしい。
同様のゴミは他にもあり(中身は同じものと思われる)ましたが、後に確認したところ無くなっていました。
果たして、どうすれば良いでしょうか? 和子」
大洋新聞社の文化部にて「よろず相談室」を担当している川口寿々子は困り果てていた。
この「和子」からの投書にどう対応すべきか判断出来なかったのだ。
担当している仕事の性質上、寿々子のもとには同じような投書が多い。
大半はデマである。
だが、この投書には妙なリアリティがあった。
住所を確認したところ、寿々子の自宅の近所のようだ。
一度、訪ねてみようか……寿々子はそう考えながら保留の箱に投書を入れた。
寿々子は彼女が講師を担当した文化講座で出会った作家志望の男性に指導を施している。
その修行の一環として「よろず相談室」の回答者役をやらせてみた。
だが、イマイチ成果が上がらない。
彼はどこか第3者的な目線でしか物事が見られていないようなのだ。
だから、その文章にもリアリティがない。
一方、当の男性側も寿々子に対し苦手意識を抱いてた。
何度、原稿を渡しても没にされるからだ。
どうすればいいのか……迷う男に寿々子は次なる投書を手渡す。
これが最後のチャンスらしい。
そして、リアリティを知る為に殺人事件の裁判を傍聴することを奨める。
投書の内容は「娘を虐待し殺意すら抱いてしまったことに罪の意識を抱いた母親」からのものであった。
男自身、過去に母との間に同じような出来事がありトラウマとなっていた。
これを呼び起こされた男は悩み苦しむ。
また、裁判の傍聴に赴いた男は其処で簡単な理由でも殺人が起こることを知った。
この経験は男を成長させた。
男は母と自身の想い出を原稿にした。
これが大ヒットした。
男は念願の小説家となった。
寿々子に礼を伝えようとしたが、当の寿々子は行方不明になってしまった。
そして数十年後―――人気作家・武蔵野寛治は記者会見の席で当時を振り返り、自身のルーツが寿々子の指導にあることを語った。
当時の投書がもととなった作品も多い。
だが、寿々子は消えてしまった。
武蔵野は消えた寿々子について次回作のテーマに決めたことを発表するのであった―――エンド。
◆関連過去記事
・『<よろず相談室1>居候に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『<よろず相談室2>しつこいお客に悩んでいます』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』連載)ネタバレ書評(レビュー)
・『<よろず相談室3>隣人に困っています』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』連載)ネタバレ書評(レビュー)
・『<よろず相談室4> これってセクハラですか?』(真梨幸子著、講談社刊『小説現代』連載)ネタバレ書評(レビュー)
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
- 『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)
- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
- 『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)
- 『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 F..
- 『コーイチは、高く飛んだ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)
- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
- 『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』(笠井潔著、講談社刊『メフィスト 2016v..
- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)