ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
故郷に錦を飾った友が密室で死んだ。まさか戌神様の祟り……!?
(新潮社公式HPより)
<感想>
麻耶雄嵩先生「おじさんシリーズ」の短編です。
シリーズとしては4作目ですね。
優斗周辺が何やらきな臭いような……。
真紀と明美との関係も気になるし。
まさか、これにも叔父さんが絡むのか……。
そもそもこれまでのすべての事件に叔父さんが絡んでいるしなぁ……。
同作者による『隻眼の少女』系のラストが控えていても不思議ではない気がしてきた。
枇杷家の近況も明かされましたね。
司は美大ではなく医大に進学か……。
そんな本作。
今回も叔父さんが暗躍。
何しろ、全部叔父さんからの一方的な証言しかないからね。
果たして、信用出来るテキストと言えるのか?
この叔父だけに優斗自身も信頼出来る語り手なのかが不安。
こうなると『最後の海』だけが、特別だったのかな。
それとも、あれも裏で叔父さんが動いていたのか。
霧ヶ町の影の支配者は叔父さんでも不思議ではない気がしてきた。
真由梨の彼氏の件も何処かで絡んで来るのかなぁ。
まさか、相手は叔父さんとかないよねぇ……。
いや、作中では否定しているけど優斗自身の可能性も捨て切れない。
これはシリーズが1冊にまとまったときに意外な展開が待っていそうな予感。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
俺(優斗):主人公の男子学生。
叔父:優斗の叔父。何でも屋を営む。
武嶋陽介:優斗の幼馴染。
美雲真紀:優斗のガールフレンド。
武嶋真由梨:陽介のいとこ。
明美:優斗の元彼女。両親の都合で都会に出ていたが『転校生と放火魔』で帰郷した。
枇杷司:『最後の海』に登場。次期病院院長の座と芸術家の道に悩むが……。
柳ヶ瀬伸司:株で大成功し帰郷した人物。叔父の友人。
柳ヶ瀬聡子:伸司の妻。
汐津:伸司と対立してたが……。
木之元:聡子の実弟。
俺の住む霧ヶ町に柳ヶ瀬伸司が戻って来た。
柳ヶ瀬家は町の名家である鴻嘉家の分家で元々は小さな家であった。
伸司は追われるように大阪へと出たのだが、株で大成功を収めたことで故郷に錦を飾るべく妻を伴い帰郷したのだ。
そして、新たに土地を取得し其処に豪華な屋敷を建てた。
だが、往々にしてこんな場合には周囲との軋轢を生む。
伸司自体にその気は無いようだが、結果として地元住民からは反発と羨望の極端な視線を浴びているのが現状だ。
例えば、俺の親友である武嶋陽介。奴は後者だ。
伸司と同じく成功者になってやると豪語している。
そして、俺のガールフレンドである美雲真紀。彼女は前者だ。
伸司の資産はあぶく銭であると断じて譲らない。
もっとも、これには最近になって都会から戻って来た俺の元彼女である明美と柳ヶ瀬家を重ねていることも影響しているのかもしれないが……。
それはともかく、俺としては成功した伸司が何故今更になって帰郷したのかが分からなかった……。
一方で、俺には何でも屋の叔父が居る。
俺の両親からは疎まれる叔父だが、気の優しい良い人である。
そんな叔父も帰郷組の1人である。
とはいえ、こちらは伸司のように成功はしていなかったが。
だが、叔父と伸司には意外な接点があった。
彼ら2人は親友だったのだ。
ある日、叔父を訪ねると其処に噂の柳ヶ瀬伸司が居た。
どうやら、叔父に依頼を申し込んで来たらしい。
なんでも、かねてから折合の悪かった汐津に命を狙わわれているらしく、警護して欲しいとのことであった。
聞けば、汐津は伸司にイルボラ様の祟りがあると繰り返し主張しているのだそうだ。
汐津によれば、イルボラ様とは犬洞(イヌボラ)が訛った物とのことで犬神信仰の一種らしい。
この祠を汐津家が祀っていたのだが、その土地を伸司に奪われたと恨んでいるのだ。
もともとの汐津宅は、今の柳ヶ瀬家の敷地に建っていたのである。
当初、伸司は汐津の虚言と取り合わなかったが、最近では対立がエスカレートし、遂に不審火まで起こったと言う。
おそらく、汐津が強硬手段に出たに違いない。
事此処に及んで、伸司は自警する必要性を感じたようであった。
ところが数日後、叔父さんが依頼を引き受け警護していたその日に。
伸司はもちろん、その妻・聡子、さらには当の汐津までもが死亡してしまう。
どうやら、強硬手段に出た汐津が伸司と聡子を殺害し自殺したと思われたが……。
ただ一点、不審な点があった。
伸司の警護を引き受けていたのは叔父さんだけではなく、聡子の実弟・木之元もその場に居た。
この木之元によれば、誰も伸司の部屋へ向かう人物を目撃しておらず完全な密室だったと言うのだ。
事実だとすれば、汐津にも犯行は不可能であった。
だが、後に伸司自身がうつらうつらしていたかもしれないと証言が曖昧になり見逃したのだろうと結論付けられたが……。
結局、汐津の犯行として結論された。
それからさらに数日後のこと。
俺は陽介に呼び出されある相談を受けた。
内容は陽介のいとこ・真由梨のこと。
なんでも、真由梨から日曜日のアリバイ証言を求められたらしい。
真由梨を実の妹……いや、娘のように可愛がる陽介としては変な虫がついたのではないかと気が気でない。
其処で、日曜日に真由梨を尾行するから同行して欲しいと言うのだ。
俺は面倒臭さから適当に断ってしまうのだが……。
その夜、叔父さんに会った俺はこの話を語った。
すると、叔父はポロポロと泣き出すなり「その友情を大切にしなさい」と諭すではないか。
叔父に何が起こったのか分からない俺に、叔父は友情の大切さについて語って聞かせる。
叔父もまた伸司から同様の相談を受けたが、これを適当にあしらったが為に伸司が落命することになったらしい。
叔父は事件の日に起こった真実を語り出した。
叔父が伸司に依頼された内容だが、実は警護だけでは無かった。
「汐津と話し合いで決着をつけるので、木之元にバレないように外に出して欲しい」との要望も含まれていたのである。
こうして、叔父さんがドアの陰から木之元に声をかけ気を惹いた隙に、ドアの陰に隠れた伸司を外へと送り出したのである。
ところが、伸司は初めから話し合いをするつもりは無かった。
汐津を殺害するつもりだったのだ。
何故なら、汐津は伸司への復讐として聡子と不倫関係にあった為である。
当然、伸司の憎悪は妻である聡子にも向かっていた。
其処でありもしない汐津の放火騒動を自作自演し、汐津の危険性を叔父と木之元に刷り込みアリバイ証人として仲間に組み込むこととした。
叔父の協力で抜け出した伸司は聡子を殺害。
その後、汐津をも殺害したのだ。
伸司のシナリオは「聡子殺害に成功したものの、伸司殺害に失敗した汐津が自殺した」とのものであった。
これを戻って来た伸司自身に打ち明けられた叔父さん。
伸司は親友である叔父さんを事後承諾の形で取り込もうとしたのだが……。
叔父さんはこれに反発し、自首を勧めて揉み合いになった。
結果、伸司は転倒した際に死亡してしまったのだ。
困った叔父さんは、今更ながら伸司の意を汲むことにした。
其処で木之元の隙をつき密室に仕立てたのだが、これが逆効果になり不可能殺人にまで発展しかけたのだ。
後に木之元が自身の供述を翻さなければ不可解な結末に終わるところであった。
叔父さんは涙ながらに語る。
それもこれも、以前にあった伸司からの相談を真面目に受けていれば止められたかもしれないのに……と。
これを聞いた俺は陽介の為に協力しようと決めるのであった―――エンド。
【おじさんシリーズ】
・『失くした御守』(麻耶雄嵩著、新潮社『Mystery Seller(ミステリーセラー)』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『転校性と放火魔』(麻耶雄嵩著、新潮社『小説新潮 2012年02月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『最後の海』(麻耶雄嵩著、新潮社刊『小説新潮』2013年02月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
◆関連過去記事
【メルカトル鮎シリーズ】
・「メルカトルかく語りき」(麻耶雄嵩著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「メフィスト 2010 VOL.1」より「メルカトルかく語りき 第二篇 九州旅行」(講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「メフィスト 2010 VOL.3」より「メルカトルかく語りき 最終篇 収束」(麻耶雄嵩著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『メルカトル鮎 悪人狩り「第1話 囁くもの(メフィスト2011 vol.3掲載)」』(麻耶雄嵩著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『氷山の一角』(麻耶雄嵩著、角川書店刊『赤に捧げる殺意』収録)ネタバレ書評(レビュー)
【木更津シリーズ】
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第1話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2012年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第2話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年1月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第3話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年4月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『弦楽器、打楽器とチェレスタのための殺人』第4話(麻耶雄嵩著、光文社刊『小説宝石』2013年9月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【おじさんシリーズ】
・『失くした御守』(麻耶雄嵩著、新潮社『Mystery Seller(ミステリーセラー)』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
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【その他】
・「貴族探偵」(集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「隻眼の少女」(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・話題の新作「TRICK×LOGIC(トリックロジック)」収録シナリオが明らかに!!
・オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)
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- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)