2013年09月11日

『淋しい狩人』(宮部みゆき著、新潮社刊)

『淋しい狩人』(宮部みゆき著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

本を愛する作家が贈る、本好きなあなたのための、本が主役の連作ミステリ。

本から始まる謎がある――。父親の遺品の中から出てきた数百冊の本。それだけなら、単なる本好きの遺品で済むのだが、すべてが同じ本だったとしたら……。東京下町にある、小さな古本屋「田辺書店」。店主のイワさんと孫の稔が二人で切り盛りする平凡な古本屋を舞台に、大小様々な事件が持ち上がる。本をテーマに描く、連作ミステリ。

六月は名ばかりの月
黙って逝った
詫びない年月
うそつき喇叭
歪んだ鏡
淋しい狩人
(新潮社公式HPより)


<感想>

宮部みゆき先生による連作短編集です。
収録作は『六月は名ばかりの月』『黙って逝った』『詫びない年月』『うそつき喇叭』『歪んだ鏡』『淋しい狩人』の6作。

「田辺書店」を舞台にイワさんこと岩永とその孫である稔が事件を解決していく物語です。
つまり、ある意味『ビブリア古書堂』の元祖と言っても過言ではない。

これに宮部先生独自の語り口が伴うのだから面白くない筈がない!!
グイグイと物語に惹き込まれることでしょう。
また、書籍の使い方も印象的で、特に『六月は名ばかりの月』ではB・S・バリンジャーの『歯と爪』が登場。
この使い方が、あの特徴を上手く利用したものだったのには驚いた。
あの特徴については、下記のネタバレ書評(レビュー)にも記載があるので興味のある方はどうぞ!!

『歯と爪』(ビル・S・バリンジャー著、大久保康雄訳、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

そして、もちろん本作でも『名もなき毒』などに見られる人の悪意などが描かれます。

これは表題作である『淋しい狩人』で顕著か。
同時に『淋しい狩人』が本連作短編集のタイトルとなったことで、現実と仮想とである意味の入れ子構造になっている点も注目。

ご存知の通り、安達氏による『淋しい狩人』なる書籍は実在しません。
ですが、宮部先生の書籍として『淋しい狩人』がこうして読者の手に渡り存在する限り、本来、仮想の存在でしかなかった筈の安達氏が書いた『淋しい狩人』も、同一タイトルとしてまた現実に存在することになる。
しかも、安達氏にとっては未完成の『淋しい狩人』も、安達氏自身の物語が掉尾を飾ることで漸くの完成を見た―――。

安達氏の失踪の原因は彼が『淋しい狩人』と言う作品を完成させられなかったから。
ですが、この安達氏の未完の作品は、宮部先生により彼自身の物語を加えることで完成した。
だから、安達氏はラストで家族と再会した。
管理人はこんな感じで捉えたのですが、如何でしょうか。

ちなみに、この後のネタバレあらすじはかなりまとめ易く改変を加えています。
本作はもっと深いです。
是非、本作を!!

さて、そんな本作ですが『淋しい狩人』としてフジテレビ系「金曜プレステージ」枠にてドラマ化されるとのこと。
そんなドラマ版『淋しい狩人』は2013年9月20日21時放送予定!!
キャストは岩永幸吉役に北大路欣也さん、安達明子役に加藤あいさん。
他に須賀健太さん、藤田朋子さん、窪田正孝さん、中田喜子さん、田辺誠一さんとのこと。期待大!!

宮部みゆき先生『淋しい狩人』が金曜プレステージにて2013年9月20日に放送予定!?

<ネタバレあらすじ>

感想でも触れたので、表題作『淋しい狩人』と『六月は名ばかりの月』をネタバレ書評(レビュー)。

◆『六月は名ばかりの月』

古書店「田辺書店」店主のイワさんこと岩永幸吉には孫の稔が居る。
2人は共に「田辺書店」を支えている。

そんなある日、鞠子という美女が「田辺書店」を訪れた。
鞠子によれば、少し前にストーカーに追われていたところを匿って貰ったお礼がしたいとのことだが……。
どうやら、岩永たちがそのストーカーの顔を覚えているかを確認したい様子。

確かに数ヶ月ほど前にそういった事実が存在していた。
岩永は協力を約束するが……。

数日後、当のストーカーが逮捕された。
ところが、その容疑は鞠子の姉殺害であった。
鞠子によれば、鞠子が結婚することを知ったストーカーが逆上し姉を殺害したそうだが……。
ストーカーは鞠子の結婚式の引き出物にも「歯と爪」などと悪戯していたそうだ。

岩永は鞠子が引き出物の悪戯以前に「歯と爪」について調べていたと知り、真実に辿り着く。
『歯と爪』とはB・S・バリンジャーの著作で袋綴じのミステリー小説。
袋綴じ部分を読まずに居られたら、返金保証と謳った作品であった。

この袋綴じに意味があったのだ。
実は鞠子は、当時の婚約者で今の夫と共に姉を殺害し、その資産を奪っていた。
姉の遺体を埋めた彼ら。
失踪届を出し、失踪宣告が出れば晴れて姉の資産は彼らの物であった。
さらに、姉には不動産以外に現金資産を金庫に隠しており、これも手に入れる筈であった。
ところが、鞠子たちは金庫の暗証番号を知らなかったのだ。

当初、姉を脅し聞き出す予定であったのだが、やり過ぎてしまい殺してしまった。
この際、姉が洩らしたのが「歯と爪」との謎の言葉であった。
そう、姉はバリンジャーの『歯と爪』の袋綴じ部分に暗証番号を隠していたのである。

だが、鞠子は『歯と爪』を知らなかった。
其処であちこちに聞き回り調べたのだ。
ところが、後で気付いたがこれは具合が悪い。
そうこうしているうちに、隠していた姉の遺体が発見されてしまった。
困った鞠子たちは一石二鳥を狙いすべてをストーカーの犯行に偽装しようと企んだのであった。
岩永たちに近付いたのは、彼らをストーカーの証人にしようとしていた為であった。

ストーカーは事実であるが、殺害犯ではない。
岩永の告発により、鞠子と夫は逮捕された。
彼らの盲点は岩永を巻き込んだことにあったのだ。

岩永は稔に語る。
「六月は名ばかりの月だ」と。
何故なら六月は水無月と呼ぶが実際は梅雨時で雨ばかりだからだ。
それと同じように今回の事件も表層と内実が異なっていたのである―――エンド。

◆『淋しい狩人』

古書店「田辺書店」店主のイワさんこと岩永幸吉には孫の稔が居る。
岩永と稔は、幾つかの事件を解決して来た。

そんな岩永が最近になって悩みを抱えていた。
岩永のもとに知人の明子からある相談が持ちかけられたのだ。

明子の父・安達和郎は作家であった。
だが、安達は彼にとって初の社会派ミステリで連続殺人がテーマである『淋しい狩人』の執筆中に消息不明になっていた。
安達は死亡したとされ、『淋しい狩人』はこうして未完の作品となった。

ところが、最近になって『淋しい狩人』を模倣した連続殺人事件が発生したのだ。
犯人は「『淋しい狩人』は傑作です。この作品の真の狙いを私は見抜きました。この作品の素晴らしさを証明するために内容を実現させてみせます」と声明を発表していた。
犯人曰く「この行動は崇高な目的の為」だそうだが……。

この対処について明子は岩永に相談するべく訪れたのだ。

しかし、この間も犯行は続く。
しかも、犯人は自身の犯行をアピールし続けた。
マスコミもこれに注目し、世間の話題は一色に。

そんな中、死亡したと思われていた安達が人々の前に姿を現した。
安達は『淋しい狩人』は行き当たりばったりで描いた結果、結末をつけることが出来なくなった失敗作であると明かす。
従って、犯人が語るような「真の狙い」なども存在しないのだ。

これにより、犯人の主張は嘘であることが明らかになった。
単なる目立ちたがり屋であり、崇高な目的など存在しなかったのだ。

以来、すっかり息を潜めた犯人。
あとは犯人が捕まるだけで、これも時間の問題かと思われたが……。

そんなある日、「田辺書店」に犯人が現れた。
犯人はひょろっとした若い男。
男は手に刃物を握ると、自分を虚仮にしたと喚きながら、岩永たちに襲い掛かる。
明らかな八つ当たりだ。
どうやら、安達の居所が分からなかったので明子と親しい岩永を狙ったらしい。

岩永が驚く中、稔が応戦。
負傷するものの、犯人を捕まえることに成功する。

死亡していたと思われた父と思わぬ再会を遂げることになった明子。
不安もあるものの、喜びが勝るのであった―――エンド。

金曜プレステージ「宮部みゆきドラマスペシャル 淋しい狩人 未完成小説の連続殺人事件が現実に蘇る!模倣殺人を止めて!古本屋店主イワさんと盲目の少女が事件の真相に挑む」(9月20日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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