2013年09月16日

『リバーサイド・チルドレン』(梓崎優著、東京創元社刊)

『リバーサイド・チルドレン』(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

ストリートチルドレンを襲う動機不明の連続殺人。安息を奪われた少年が辿り着いた結末とは? 激賞を浴びた『叫びと祈り』から三年、カンボジアを舞台に贈る鎮魂と再生の書。
(東京創元社公式HPより)


<感想>

そのタイトルが2011年1月に判明して以来、実に2年と半年以上。
長く長く、我々ファンが待ち続けて来た梓崎優先生『リバーサイド・チルドレン』が遂に発売されました。

梓崎優先生、最新作は「リバーサイド・チルドレン(仮)」!!舞台はカンボジアとのこと

遂に梓崎優先生『リバーサイド・チルドレン』発売月が判明!!2013年9月頃発売予定とのこと!!

当然「読まねば!!」ですよ。
早速、読んでみたところ2年半待ちに待った甲斐がありました。
管理人的に今年読んだ本の中で5本の指に入る出来!!

ミサキの前に現れた名もなき旅人……あれは『叫びと祈り』の主人公・斉木ですよね。
旅人により謎解明のポイントが論理的に示されて行くシーンにはゾクリとしました。

しかも、それまでは「フーダニット」だった物語が旅人により「ホワイダニット」へと変化して行く。
この「ホワイダニット」が「フーダニット」に直結しており、「ホワイダニット」こそが社会問題を根底としている点も秀逸。
意外な視点から意外な結末を浮上させる作者の特徴がフルに活かされていましたね。
言うなれば、『叫びと祈り』で用いられた「気づきの手法」を長編にも活かした印象。

個人の問題から社会の問題、社会の問題から個人の問題へと振り幅も見事。
本格好きにも、社会派好きにも評価出来る作品と思われます。
これは年末のランキングでも上位に位置する筈。
いや、すべき作品でしょう。

<ネタバレあらすじ>

僕(ミサキ):カンボジアに住む13歳の少年。ある秘密が……。
ヴェニィ:僕の仲間。グループのリーダー。
ティアネン:僕の仲間。副リーダー。
ハヌル:仲間の1人。泣き虫。名は空を意味する。
ソム:ヴェニイの兄。
ザナコッタ:ヴェニィたちと対立するグループ“墓守”のリーダー。
ナクリー:“墓守”の1人。医者のもとに居た少女。
ヨシコ:ホームでボランティアに励む日本人女性。
旅人:僕が出会った日本人。その正体は……。
医者:黒と繋がっている。実は……。
雨乞い:ヴェニィたちから憎まれている老人。
黒:警官。ヴェニィたちを敵視している。


ミサキ少年はカンボジアに生活するストリートチルドレンである。
しかし、名前からも分かる通りミサキは日本人であった。
父とカンボジアに旅行にやって来たその日、ミサキは父に捨てられたのだ。

失意の中、街中を彷徨い歩いたミサキ。
そんな彼を救ったのが、地元でストリートチルドレンのグループを治めていたヴェニィであった。
こうして、ヴェニィに救われたミサキはその一員として生活を送ることとなった。

リーダーであるヴェニィは行動力に溢れるカリスマ。
副リーダーはティアネン。割と直情径行なところがある。
そして、ハヌル。ヴェニィに憧れ彼を慕う涙もろい人情家だ。
ちなみに、ミサキはハヌルを“空”と呼んでいた。
他にも数人がグループの仲間であった。

ミサキたちは日々を必死に生き抜いた。
ゴミ捨て場から使えそうな物を拾っては仲買に売却する。
そうして得た金銭で日々を凌ぐ。

そして、この国では彼らは人として扱われない。
常に迫害を受け続ける。
生活して行く彼らの周囲は敵ばかりであった。

同様のストリートチルドレンのグループ“墓守”との対立。
リーダー・ザナコッタはヴェニィたちを目の敵にしていた。

警官の黒。
黒ずくめの服を着込んでいるからつけられた仇名だが、黒は彼らを見るや虫けらのように射殺した。
ヴェニィたちにとって、黒に捕まることは死を意味していた。

ヴェニィは言う。
無駄に争うのは獣の所業だ、と。
そして、人を殺すのはまた人なのだ。
また、ある日には「人間は考える葦である」と語るヴェニィ。
ヴェニィは格言が大好きなのだ。

そして、敵とは違うがヴェニィたちが逃げ回らなければならない相手がもう1人。
ホームでボランティアに従事する日本人女性のヨシコである。
ヨシコはヴェニィたちを保護し、ホームで管理しようと追い回しているのだ。

ヴェニィたちはこれを余計な世話だと言う。
だが、そんなヴェニィもヨシコのこの言葉だけは事実だと認めていた。
「人間は赤面するなど感情を露にする動物だ」と。
感情を表に出すからこそ人間は人間なのだ。
やはり、ヴェニィは格言が好きなのだ。

そんなヴェニィには兄・ソムが居る。
ソムはグループには加わっていない。
ソムはソムで自活していた。
ヴェニィはソムを尊重し、ソムもまたヴェニィを尊重していた。

そして、もう1人……グループでもなく敵でも無い人物がいた。
その名は雨乞い。
何故か、ヴェニイからも忌み嫌われるその正体は―――。

ある日、黒に見つかったミサキは必死に逃げ出すことになった。
そんなミサキを匿ったのは、医者のもとに居たナクリーという少女。
ミサキはナクリーのおかげで九死に一生を得た。
ナクリーもまた必死に生きていたのだが、それをミサキが知ることになるのはもう少し先の話である。

その数日後、今度はヴェニィが黒の毒牙に曝された。
哀れ、霧の中で相手を見定められなかったヴェニィは黒と知らずに挨拶を交わし射殺されてしまった。

グループのリーダーであり、精神的支柱であったヴェニィの死はミサキたちに大きな影を落とした。
グループは副リーダーであるティアネンが引き継ぐこととなった。

矢先、“墓守”と本格的な闘争が始まった。
墓守の縄張りが政府の管理下に置かれた為に、新たな縄張りを求めて来たのだ。

平和主義者であったヴェニィのもとに集まっていたミサキたちのグループ。
当然、抗するべくもなく逃げ惑うことに。

その最中、ザナコッタが何者かに殺害されてしまう。
しかも、死体は新聞紙でデコレーションされていた……。

不安が増す中、今度はティアネンが顔に血を塗られた状態で殺害される。
まるで、悪魔の所業である。
到底、人間のモノとは思えない。

そして、さらに第3の犯行が―――なんとソルまでもが殺害されたのだ。

恐慌状態に陥るミサキたち。
そんな中、恩人であるナクリーの危機を知ったミサキは彼女を救うべく医者宅を訪れる。
医者宅は売春宿だったのだ。
しかも、医者は黒とも繋がっていた。
ところが、ミサキは医者たちに捕まってしまうことに。

閉じ込められた部屋の中には、旅人を名乗る日本人が居た。
何故か心許せてしまうその雰囲気に、ミサキはついつい自身の出自とこれまでの出来事を明かしてしまう。
ミサキの話を聞いた旅人は、犯人の行動に意味があることを教える。

まず、ザナコッタは新聞紙に包まれる必要があった。
そして、ティアネンの顔は赤く塗られる必要があった。
さらに、ソルの場合にはそれらの必要が無かったのだ。
これを聞いたミサキは犯人の正体と動機に気付く。
だが、此処から抜け出せなければ意味がない。

其処へヨシコたちが駆け付ける。
こうして、医者の売春宿は摘発された。
ミサキたちは救い出されることに。

すべては旅人の策だったらしい。
以前から、ヨシコたちは医者の売春宿を廃止させようと動いていた。
だが、なかなか当局が動かない。
そこで、日本人である旅人を監禁させることで外交問題として当局を動かしたのだ。

自由になったミサキは犯人の次なる凶行を止めるべく駆け出す。
雨乞いは雨を祈願していた。
だが、ミサキは雨を止め晴れにしなければならないのだ。
他ならぬ“空”の為に。

そう、連続殺人の犯人はハヌルであった。
そして、彼はその目的の為に黒を狙っていた。

だが、拳銃を所持する黒に敵う筈がない。
駆け付けたミサキの目の前で、ハヌルは撃たれてしまう。

ハヌルの動機は「人間として周囲に認められる」ことであった。
ハヌルはヴェニィに依存していた。
ハヌルにとって、ヴェニィの言葉は天啓であった。
ハヌルにとって、ヴェニィは偉大な人間であった。
だが、そんなヴェニィでさえ虫けらのように殺害されてしまった。
自分は人として生きたい―――ハヌルは心の底からそれを望んだ。

ヴェニイは「無駄に争うのは獣だけだ」と言った。
つまり、「人は意味があれば争う」のだ。

ヴェニィは「人を殺すのは人だ」とも言った。
つまり、「人を殺した者もまた人」なのだ。
ハヌルはヴェニィの言葉を彼なりに理解し、人になる為に人を殺そうとしたのだ。

ザナコッタ殺害は正当防衛だったのだろう。
だが、ザナコッタを殺害した時、ハヌルは人になることが出来ると思った。
殺した相手が人ならば、殺した者もまた人なのだから。

まずはザナコッタを人にしなければならない。
ヴェニィは言った「人間は考える葦である」と。
だから、新聞紙でザナコッタを覆い葦のようにデザインした。

だが、誰もハヌルを人としては認めてくれなかった。
ハヌルはやり方がマズかったのだろうと思った。
そこで次の犯行に踏み出した。

こうしてティアネンを殺害した。
ティアネンを人にしなければならない。
ヴェニィは言った「人間は赤面する生き物だ」と。
だから、ティアネンの顔を赤く染めた。

だが、この行為は悪魔の所業とされた。
やはり、人間とは認められなかった。

次にソルを殺害した。
偉大な人間であるヴェニィの兄ならば当然、人間だからだ。
だが、それでもハヌルの境遇は改善されなかった。

ならば、ヴェニィを殺害した黒を殺せば……今度こそ人間になれる。
其処で黒を襲い、返り討ちに遭ったのだ。

ハヌルは間違っていたのだろうか……命の灯が消え行くハヌルを抱くミサキは思う。
確かにハヌルは間違っていた。
だが、それに何の意味があろうか。
こうして、ハヌルもまた死に向かっているのだ。

ミサキはハヌルに告げる。
ヴェニィの言葉が間違っているワケが無いじゃないか、と。
そして、すべてを洗い流す再生の雨を祈った―――。

雨乞いがあれほど祈っても降らなかった雨が……降った。
再生の雨はすべてを覆い流し、ミサキとハヌルが居た橋が沈んだ。
間一髪、ミサキは逃げだしたがハヌルは流れに呑まれて行った。
そのとき、ハヌルは心底から笑っていたようにミサキには見えた。

数日後、ミサキたちはそれぞれの道を行く必要に迫られた。
生活の綱であったゴミ捨て場も政府の管理下に置かれたのだ。
ヨシコに保護された仲間も居る。

雨乞いは元活動家であった。
相変わらず雨を祈っている。

だが、ミサキとナクリーは観光客相手の案内ビジネスに活路を見出すことにした。
もはや、ミサキに帰国の意志はない。
何故なら、ミサキにとって仲間の居るこの国こそがホームだったから―――エンド。

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