<あらすじ>
昭和22年戦後、九州。小暮涼子(松雪泰子)は、アメリカ兵相手に大衆酒場で必死に働いていた。夢は上京して大女優になること。そんな涼子に転機が訪れる。大衆酒場で飯村恭三(坂口憲二)と出会う。紳士な飯村にひかれる涼子、二人は男女の関係に。さらに涼子の夢を話すと「有名な映画監督と知り合いだから紹介する」とのこと。しかしそれにはお金が必要だという。夢をつかむために涼子は、必死に働いてためた貯金を飯村に渡すのだった。
涼子が新しい未来が開け始めたと喜んだのもつかの間、飯村は映画監督との交友関係はなく、お金欲しさのウソであったことがわかる。自分の夢を打ち砕いた飯村に殺意を抱いた涼子は、飯村を温泉旅行へ誘い出し、包丁で刺殺してしまう。証拠をすべて処分し完全犯罪をもくろんだ涼子だったが、彼女にはひとつだけ不安が…。道中、飯村が昔から妹のようにかわいがっていた瀬川真奈美(田中麗奈)と遭遇していたのだ。
月日は流れ涼子は上京。事件の記憶も薄らいだころ、ついに涼子にチャンスが訪れる。大女優の五十嵐晶子(稲森いずみ)らと共演が決定するなど女優として初めて脚光を浴び、ついにはヒロインの話が舞い込んでくる。夢にまで見たこの瞬間。
しかし、再び涼子はたったひとつの不安が頭をよぎる。真奈美の存在だ。真奈美は涼子の顔を覚えているのだろうか。全国津々浦々顔が広く知られてしまう映画に出ていて大丈夫なのだろうか。そして涼子はある決意をするのだった…。
(公式HPより)
では、続きから(一部、あらすじと重複あり)……
昭和31年、東京。
舞台女優・小暮涼子にチャンスが巡って来た。
映画出演のオファーがあったのだ。
本来ならば、否やは無い。
だが涼子にはある事情による戸惑いがあった。
半ば周囲から押し切られるようにして映画出演することとなった涼子。
その出演作の名は「春雪」。
大女優・五十嵐晶子の主演作であった。
そして、五十嵐晶子こそは涼子の憧れの人であった。
いよいよ、憧れの人と同じ舞台に立てる―――野心と共に映画に出演した涼子。
「春雪」は大ヒットした。
涼子の役は脇役であったが、名匠・石井監督に鮮烈な印象を残した。
涼子にはその身体から醸し出される闇があったのだ……。
そして、涼子のもとに次の出演依頼が届く。
今度は主役であった。
この千載一遇の機会を逃して良いのか―――涼子は悩むことに。
こうして、涼子が悩まねばならない事情。
それは9年前にあった。
昭和22年、涼子は九州に居た。
戦後とは言えど復興も進まず、人々はその日を生きるのに必死であった。
涼子も生き抜くために大衆酒場で働いていた。
しかし、涼子は孤独であった。
涼子は同僚から孤立していたのだ。
同僚は金次第で誰とでも寝た。
だが、彼女はこれを善しとしなかった。
彼女には夢があり、それを叶える為のプライドがあったからだ。
涼子の夢は女優になること。
これは涼子の野望であり、現状から抜け出せる一縷の望みでもあった。
そんな涼子に近付く男があった。
男の名は飯村恭三。
本人曰く、企業家であった。
当初は相手にしない涼子だったが「不可能が可能になる時代がやって来る」と語る飯村に惹かれて行く。
その言葉は奇しくも涼子の望むものと合致していたからだ。
やがて、2人は男女の仲となった。
涼子は自身の夢を明かした。
飯村は笑うことなく、それもいつか叶うだろうと真剣に述べた。
涼子は飯村に心を許した。
そんなある日、飯村が石井監督に紹介したいと申し出る。
石井監督は当代随一の名匠である。
涼子は一も二も無く、飯村に依頼した。
飯村が大金が必要だと告げれば、母の形見をも金に換えた。
涼子はそれほど現状から抜け出ることを夢見ていたのだ……。
その頃、飯村は幼馴染の瀬川真奈美と再会していた。
真奈美は家族を支える為に身を売っていた。
飯村は涼子から得た金で真奈美を一晩買うことに。
飯村と別れた真奈美。
知人にまで弄ばれた真奈美は現状から抜け出す方法を模索する。
其処で叔母から勧められた見合い話に応じることとなった。
数日後、涼子の耳にある噂が飛び込んで来た。
同僚が飯村に大金を騙し取られたのだそうだ。
どうも飯村は経営に失敗し、借金取りに追われているようだ。
到底、映画監督と知り合いとも思えない。
まさか……。
信じたくないとの想いと共に飯村に詰め寄る涼子。
だが、飯村は非情であった。
これまでの好青年の仮面を脱ぎ捨てると、豹変したのだ。
涼子から奪った金はすべて好き勝手に使ったと口にするや、涼子の夢である女優についても「なれるわけがない」と罵った。
挙句、「お前は一生、俺の奴隷だ」とまで宣言する。
反発すれば、暴力が待っている。
涼子は少しずつ追い詰められて行った。
「不可能が可能になる時代が来る」―――その時代の到来を信じる涼子は飯村を排除することに。
その機嫌を窺いつつ、飯村を旅行に連れ出す涼子。
涼子の真意を知らない飯村は上機嫌である。
途中、電車内で飯村は真奈美と出会った。
真奈美は嫁に行く途中であった。
祝福する飯村と素直にこれを受け入れる真奈美。
飯村の隣では顔を逸らしつつ、煙草をくゆらせる涼子が座っていた……。
そして―――涼子は旅行先で飯村を殺害した。
「不可能が可能になるワケねぇだろ!!」怒鳴りつけた飯村は、涼子に刺された途端、顔色を変えるとそのまま絶命した。
涼子はこの日を境に生まれ変わった。
残りの金を集めて上京すると、女優の夢へ邁進した。
あの日の飯村の言葉「女優になれない」を否定し、「不可能が可能になる」時代の到来を信じたのだ。
問題は飯村殺害の件だ。
事件自体は犯人が分からず迷宮入りしている。
だが、目撃者として真奈美が存在している限り、自分が顔を曝せば犯行が露見しかねない。
これだけが不安であった。
だから、この9年の間は舞台に限って活動していたのだ。
今度は全国で目に触れる映画だ。
危険性は比ではない。
どうするべきか……涼子は思い悩む。
矢先、涼子が主演女優から降ろされた。
新たに主演女優となったのは五十嵐晶子。
主演俳優の新堂の意向らしい。
涼子はこれを覆すべく新堂を誘惑。
枕を共にすることで、主演女優の座を得る。
このとき、涼子は決意した。
自分の道を塞ぐ障害は排除すべきだ、と。
涼子は梅谷を名乗ると真奈美を呼び出す手紙を送り付ける。
犯人を知っているので首実検してくれないかとのものである。
この手紙で真奈美を京都まで呼び出し、毒殺するつもりなのだ。
そして決行日がやって来た。
涼子は忌まわしい過去を断ち切るべく、京都へ向かう。
その頃、京都では真奈美が大島刑事、鳥坂刑事と共に待ち構えていた。
明らかに怪しい手紙を疑った真奈美の夫が警察に通報したのだ。
大島刑事はこの手紙の差出人こそが犯人ではないかと疑っていた。
約束の時間に少し早く着いた真奈美たちは京都名物を食べたいとの大島の希望で「いもぼう」と食べることに。
ところが、此処に涼子も居た。
奇しくも隣席となる涼子と真奈美。
マズイ……焦る涼子だが、真奈美は全く気付かない。
それもその筈、真奈美は「相手の顔を覚えていない」と大島に語っていた。
これまでのことはなんだったのか……気負いを無くした涼子は真奈美を捨て置き京都を去るのであった。
後顧の憂いを断った涼子に怖い物はなかった。
率先して映画出演に乗り出すと、自ら演出に異議を唱えるまでになっていた。
ある日、ラストシーンについて監督に異議を唱える涼子。
これを聞いた監督は「煙草を吸ってみようか」と涼子の演技を変更する。
そして、涼子の初主演作は無事に完成した。
映画は公開初日から話題となり、長蛇の列となった。
涼子は時の人となったのだ。
一方、五十嵐晶子は引退することとなった。
一般人との間に子供が出来たのだ。
晶子は「私自身を認めてくれる人なの」と涼子に告げる。
「これで演技する必要もなくなった」と晶子は爽やかな笑顔を浮かべる。
これを羨ましそうに見つめる涼子。
同じ頃、真奈美は夫から息抜きに映画館に誘われた。
鑑賞しているのは涼子の主演作だ。
真奈美は大島刑事から、夫が自分の過去の職業を知っていることを聞かされた。
夫は素の真奈美を認めた上で、妻として迎えていたのだ。
夫との間には子供も2人居る。
2人ともとても良い子だ。
真奈美は9年前の自分が嘘のように満たされていた。
そんなことを考えながら映画を眺めていたところ、遂にラストシーンに突入した。
スクリーンの中では涼子が煙草をくゆらせている。
この瞬間、真奈美の中で9年前の女性と涼子が重なった!!
真奈美は「あっ!!」と叫ぶや立ち上がった。
涼子、崩壊の序曲が始まった。
そんなこととは露知らぬ涼子は、新作発表の記者会見を行う。
新作のタイトルは「顔」。
それこそは涼子自身の半生を描いた作品。
涼子にとって、この作品は輝かしい自身を虐げたすべてのものへの復讐であり、闇から抜け出でた自身を周囲に告げる作品だったのである。
そう、涼子は栄光の中にあった。
しかし、その期間が短く終わることを涼子は悟らざるを得なかった。
記者会見場に真奈美と大島刑事たちが現れたのだ。
どうやら、犯行が露見したらしい―――涼子の演技も此処までである。
涼子は自身が「不可能を可能にした」ことを記者たちに告げ「後悔していない」と付け加える。
それは真意だったのか、せめてもの矜持だったのか。
そして、涼子は真奈美や大勢の記者の目の前で手元の水を飲み乾した。
其処には、本来ならば真奈美に用いる筈だった毒が入っている。
涼子の顔は晴れやかに見えた―――エンド。
<感想>
原作は松本清張先生『顔』(新潮社刊『傑作短篇集5 張込み』収録)。
同じ原作をドラマ化した『顔』については過去記事にてNHK版のネタバレ批評(レビュー)がありますね。
・松本清張ドラマスペシャル「顔」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・松本清張先生原作『顔』がフジテレビ系列にて「松本清張スペシャル・顔」としてドラマ化されるとのこと!!
では、ドラマの感想を。
涼子の女優人生は「これを否定した飯村」から始まった。
そして、飯村を殺害しその言葉を否定することに躍起になった。
このとき、涼子の夢……すなわち、女優になることが夢ではなく現実的な手段に変化した。
その後、方法を選ばず実際に女優として成功したことで「不可能を可能にすると語っていた飯村の嘘を涼子が真実に変え」た。
しかし、それゆえに映画出演に繋がり、これが基で犯行が露見し終わりを告げた。
飯村により、何時の間にか涼子の夢は変質していたのかもしれません。
すなわち、涼子の女優人生は「飯村に始まり飯村に終わった」と言えるでしょう。
そして、涼子が女優として成功したのは「その身に闇を抱え人としての深みを増した」から。
涼子が女優として「闇を抱え人としての深みを増した」のは飯村を殺害したから。
だとすれば、飯村を殺害しなければ「不可能を可能にする」ことはそもそも出来なかったワケで、奇しくも飯村の言葉通り涼子は女優として大成出来なかったのかもしれない……。
だが、それゆえに涼子は捕まる。
此の点でも、涼子の女優人生は常に飯村の影が共に在るモノだったと言えますね。
こう考えると、なんとも皮肉な結末です。
また、本作では3人の女性を通じて、素の自分を認めてくれる相手の重要性も訴えていたように思います。
涼子、真奈美、晶子。
涼子は飯村から素の自分を否定され、仮面を被り続けることとなった。
真奈美は夫に素の自分を隠していたが、夫がすべてを納得していたことで仮面を被る必要が無くなった。
晶子は女優として仮面を被り続けていたが、1人の男性に素の自身を受け入れられたことでこれまた仮面を被る必要が無くなった。
作中では「仮面=顔」としていましたが、つまりは「素直な自分」を認めてくれる相手に出会えるかどうかが彼女たちの運命を分けたのかもしれません。
出会いって大切だなぁ……。
それにしても、飯村が凄かった。
飯村役の坂口さん、インパクトありましたね。
「どうせ駄目だから」を連発し、やりたい放題。
「だからといって人を食い物にしてよいわけがない」とテレビの前の視聴者が何度義憤に駆られたことでしょうか。
此の点で、あの役は大成功でしたね。
NHK版と本作では男女が逆転しており、また幾つか異なる点がありました。
主人公の性別が異なる通り、NHK版は男性視点、フジテレビ版は女性視点での作品と考えた方が良さそうです。
NHK版にはNHK版の、フジテレビ版にはフジテレビ版の良さがあって楽しめました。
個人的には両方ともに好きです!!
2時間、真剣に視聴出来ました!!
<キャスト>
小暮涼子:松雪泰子
瀬川真奈美:田中麗奈
飯村恭三:坂口憲二
新堂哲彦:武田真治
五十嵐晶子:稲森いずみ ほか
(公式HPより、順不同、敬称略)
◆松本清張先生関連過去記事
【小説】
・「霧の旗」(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「書道教授」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「球形の荒野」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『寒流』(松本清張著、新潮社刊『黒い画集』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『市長死す』(松本清張著、光文社刊『青春の彷徨』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『熱い空気』(松本清張著、文芸春秋社刊『事故―別冊黒い画集1』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『波の塔 上下』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『危険な斜面』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『疑惑』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ批評(レビュー)
・『十万分の一の偶然』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『事故』(松本清張著、文芸春秋社刊『事故―別冊黒い画集1』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『留守宅の事件』(松本清張著、文藝春秋社刊『証明』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『黒い福音』(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『密宗律仙教』(松本清張著、文藝春秋社刊『証明』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・松本清張先生原作「砂の器」が5回目のテレビドラマ化決定。テレビ朝日制作、主演は玉木宏さん!!&「砂の器」ネタバレあらすじ
【ドラマ】
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・月曜ゴールデン特別企画 松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ『火と汐』(12月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・松本清張ドラマスペシャル「顔」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・金曜プレステージ「松本清張ドラマスペシャル 山峡の章」(1月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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