ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
舞台は江戸深川。主人公は上総国搗根藩で小納戸役を仰せつかる古橋家の次男坊・笙之介。大好きだった父が賄賂を受け取ったと疑いをかけられて自刃。兄が蟄居の身となったため、江戸へやってきた笙之介は、父の汚名をそそぎたい、という思いを胸に、深川の長屋に住み、事件の真相究明にあたる。父の自刃には、搗根藩の御家騒動がからんでいた。野心を抱く者たちに押しつぶされそうになる笙之介は、思いを遂げることができるのか。人生の切なさ、ほろ苦さ、人々の温かさが心に沁みる物語。
(PHP研究所公式HPより)
<感想>
宮部みゆき先生による連作短編集です。
第1話「富勘長屋」から第4話「桜ほうさら」までの全4話で構成。
ちなみに表題でもある「桜ほうさら」の意味とは、公式HPにある通り南信州や甲州で「酷いめにあいましたねえ」を意味する言葉「ささらほうさらだねえ」に本作をイメージした「桜」を加えた造語とのこと。
かなり印象的な言葉であり、また本作を象徴する言葉として使われています。
個人的には笙之介、和香の恋愛模様が見所かな。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
古橋笙之介:主人公。父の無実を証明するべく動いている。
和香:仕立屋・和田屋の娘。笙之介に好意を抱く。
坂崎重秀:東谷と呼ばれる江戸留守居役。切れ者。
村田屋治兵衛:貸本屋。笙之介を支える。
古橋宗左右衛門:笙之介の父。御家騒動に巻き込まれ、あらぬ疑いをかけられて自刃。
古橋里江:笙之介の母だが父に似た笙之介を嫌い、自身に似た勝之介のみを可愛がる。
古橋勝之介:笙之介の兄。剣の腕が立つ野心家。父が自害したことで蟄居することに。
太一:富勘長屋の住人。おきんの弟。
おきん:富勘長屋の住人。太一の姉。
お秀:富勘長屋の住人。
時は江戸時代、場所は深川。
富勘長屋に住む浪人で古橋笙之介なる者がいた。
笙之介は貸本屋である村田屋治兵衛から仕事を貰い、写本で生計を立てていた。
とはいえ、笙之介は初めから浪人だったワケではない。
笙之介は上総国搗根藩で小納戸役を勤める古橋家の次男であった。
だが、父・宗左右衛門が収賄の疑いをかけられて自刃してしまう。
これにより古橋家は窮地に追いやられた。
野心家で剣の腕が立つと評判の兄・勝之介は蟄居。
夫の死にも涙一つ流さなかった母・里江も勝之介の蟄居には涙した。
この宗左右衛門の収賄疑惑には御家騒動が絡んでいた。
どうも江戸の代書屋が宗左右衛門の筆を真似たことが原因らしい。
真相を究明すべく笙之介は手掛かりを求め江戸へと出ることに。
其処で、藩の江戸留守居役で切れ者と称される坂崎重秀の支援を得て富勘長屋に居を構えたのだ。
さらに、無欲な人柄によるものか笙之介の性格を慕い様々な人が彼に協力を申し出た。
同じ富勘長屋の住人たち……太一やおきん、お秀らである。
そんな中、笙之介は幾つかの事件を通じ仕立屋・和田屋の娘・和香と親しくなって行く。
矢先、押込を名乗っていた代書屋と接触に成功。
彼から意外な人物が黒幕として存在していることを知らされる。
数日後、笙之介は坂崎に呼び出され、彼の懇意の料亭へ招かれる。
其処に現れたのは、蟄居中の筈の兄・勝之介であった。
実は、代書屋を操り父・宗左右衛門を罠に嵌めたのは勝之介だったのだ。
勝之介は自身の才に絶対の自信を抱いていた。
一方で小納戸役という軽い役目に絶望していた。
このままでは一生飼い殺しだ。
其処で御家騒動に乗じ、坂崎たちの追い落としを謀る一派と結び父を殺害したのだ。
そう―――宗左右衛門は切腹ではあったが、それは勝之介に強要されての事であり殺害されたようなものだったのだ。
しかも、国許で蟄居中の筈の勝之介が此処に居るのも気に喰わぬ弟・笙之介を抹殺するつもりだったからであった。
事実を知り、衝撃を受ける笙之介。
勝之介に嫌われているとは思っていたが、まさか殺されようとしていたとは。
そんな笙之介に更なる衝撃が。
笙之介が江戸に現れ、こうして勝之介と対決していること―――そのすべては坂崎の狙い通りであった。
坂崎は自身を追い落とそうとする勝之介とその黒幕たちの陰謀を早期に察知し、これを止めるべく笙之介を利用していたのだ。
察知していたのならばもっと強硬手段も取れた筈だ……と詰め寄る勝之介に坂崎は「里江の為だ」と告げる。
勝之介の気質のすべては里江から受け継がれた物。
里江もまた小納戸役の妻の座に不満を抱いていたのである。
そして、其処からの解放を熱望した。
だからこそ、里江は自身に似た勝之介を可愛がり、宗左右衛門に似た笙之介を疎んじた。
坂崎はそんな里江の人柄を買っており、その息子たちを2人とも助けたかったのだと言う。
勝之介に逐電するよう勧める坂崎。
既に国許では勝之介の黒幕は取り押さえられることだろう。
そして、古橋家は勝之介の陰謀が露見したことでお家取り潰しになる。
だが、勝之介が命を落とす必要はない。
勝之介は黒幕からすれば走狗に過ぎないのだから此処は逃げれば良いとの論法だ。
屈辱に震える勝之介だが、これに応じるかに見えた……。
一方、坂崎は笙之介にも国許に戻れば責任を問われかねず江戸に残るようにと勧める。
だが、笙之介は古橋家の次男として帰国を期する。
和香に内密に江戸を去ろうとするのだが……。
その目の前に勝之介が現れる。
勝之介は殺意を全身に込め獣のように笙之介に斬りかかる。
笙之介では到底、対抗出来よう筈もない。
あっさりと斬り伏せられてしまうのであった……。
それはほぼ致命傷であった。
数日後、和香の声で笙之介は意識を取り戻した。
勝之介により致命傷を負った笙之介。
だが、3つの奇跡により命を取り留めた。
1つ、勝之介は止めを刺そうとしたのだが、その寸前で事態に気付いた太一が騒いだ為に失敗したこと。
2つ、長屋の住人全員が笙之介の回復を祈ったこと。
3つ、何より献身的な和香の看病の成果であった。
医者も認める奇跡により、笙之介は命を取り留めたのだ。
後日、判明することなのだが、勝之介は坂崎の意向に沿い逐電するように見せかけ付き添い兼監視役の人間2人を斬った。
この2人、腕に自信のある者たちだったのだが、勝之介の不意討ちに敗れたらしい。
この際、勝之介も手傷を負ったらしいのだが、執念で笙之介を殺そうとしたのだ。
其処まで笙之介が憎かったのだろうか。
結局、止めを刺し損ねた勝之介は今度こそ本当に逐電したようだ。
その行方は誰も知らない……。
一方、生き残った笙之介だが、公的には死亡したことにされた。
これにより戻るべき藩を失った笙之介。
だが、代わりに掛け替えのない長屋の人々と愛する和香を手に入れたのであった―――エンド。
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