2013年11月03日

『貴族探偵対女探偵』(麻耶雄嵩著、集英社刊)

『貴族探偵対女探偵』(麻耶雄嵩著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

「貴族探偵」を名乗る謎の男が活躍する、本格ミステリーシリーズ第2弾! 今回は新米女探偵・高徳愛香が、すべてにおいて型破りな「貴族探偵」と対決! 期待を裏切らない傑作トリックの5編収録。
(集英社公式HPより)


<感想>

麻耶雄嵩先生「貴族探偵シリーズ」の短編集第2弾。
収録作は『白きを見れば』『色に出でにけり』『むべ山風を』『幣もとりあへず』『なほあまりある』の5編。
ちなみに、第1弾は過去にネタバレ書評(レビュー)してますね。

『貴族探偵』(集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)

この第2弾では、女性探偵・高徳愛香が登場。
高徳愛香は今は亡き高名な探偵を師に持つ駆け出し探偵。
とはいえ、師からも実力は充分と認められている才媛……そんなポジション。
この彼女の視点から物語が描かれます。
ところが、高徳愛香はある人物にいつも苦杯を舐めさせられることに。
そう、この人物こそが貴族探偵。
貴族探偵に敵意を抱く愛香。
果たして、彼女のリベンジは成るか!?

各短編の内容となりますが……。

『白きを見れば』=1つの事象に複数の意味がないとは限らない。
『色に出でにけり』=本格ミステリとは異なり、事件は単独犯だけとは限らない。
『むべ山風を』=現場に工作するのは犯人だけとは限らない。
『幣もとりあへず』=解決の為に与えられた情報に虚偽が無いとは限らない。
『なほあまりある』=貴族探偵が常雇の使用人を使うとは限らない。

特に『色に出でにけり』『むべ山風を』『幣もとりあへず』の3篇は本格ミステリ自体についての謎かけであり、なかなかに興味深かった。
でもって、最後の『なほあまりある』での意外なラストがまた良かった。
かなり野心的な作品だと思うので、要チェック!!

それにしても高徳愛香、名前が四国に由来(「高知、徳島、愛媛、香川」それぞれの頭文字)していると思われることに意味はあるのか。
麻耶先生は地名から登場人物名を拝借することが多いのでその流れなのかな。
それとも、シリーズ次作で意外な展開があるのか……気になりますね。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
貴族探偵:髭の探偵
高徳愛香:新米探偵

・『白きを見れば』

高徳愛香は実力派の女探偵。
高名な探偵であった師を亡くして以来、その名を弟子として汚さないよう奔走して来た。
その甲斐あって、評判も上々であったが……。

友人に招かれた高徳愛香。
其処で殺人事件に遭遇してしまう。
早速、推理を始めると犯人が片手でシャッターを開けていたことから、手を怪我していた亀井を名乗る髭面の男を犯人と告発するが……。

ところが亀井は慄くでもなく大爆笑。
使用人を呼び出すとそれに推理をさせ、真犯人を暴き出してしまう。
そう、亀井はその名の通り仮名。
正体は「貴族探偵」だったのである。

思わぬところで挫折を味わった高徳愛香。
そもそも、自身で推理せず他人任せにしながら「相手が使用人だから自分の推理だ」と主張するその態度が気に喰わない。
こうして、女探偵・高徳愛香と貴族探偵の戦いが始まったのだ―――エンド。

・『色に出でにけり』

依頼で出向いた先で貴族探偵と再会した高徳愛香。
とはいえ、彼女にとってその再会は到底望ましいものではなかった。

矢先、殺人事件が発生。
アリバイから貴族探偵を犯人と告発する愛香だが……。

此処でまたも貴族探偵の使用人が登場。
愛香が共犯の可能性を考慮していないことを指摘。
そう、複数犯だったのだ。
アリバイを相互に補完したのである。

こうして、またも一敗地に塗れた愛香であった―――エンド。

・『むべ山風を』

大学の研究室で殺人事件が発生。
この解決に乗り出した愛香だが、やはり貴族探偵と出会ってしまう。

ティーカップの置かれた位置と上座と下座の関係から、犯人を告発しようとする愛香だがあと一歩が分からない。

其処に、またしても使用人が現れ「現場の状況に犯人以外の人物の工作が含まれている可能性」について言及する。
これは愛香の思考にはないものであった。
これを前提に推理を組み立て直した愛香は、今度こそ真犯人に辿り着く。

貴族探偵はこの手柄を惜しみなく愛香に譲る。
なおさら、敗北の念を強める愛香であった―――エンド。

・『幣もとりあへず』

またも貴族探偵とバッティングした愛香。
そして案の定、殺人事件が発生することに。
今度こそと意気込む愛香は推理を展開し犯人を告発するが……。

今回も使用人が登場。
「愛香の推理の前提に誤りがある」と指摘する。
被害者は別の人物と性別・名前ともに入替っていたのだ。
その為に、状況が錯綜し犯人が異なっていたのである。

此処に愛香は4度目の敗北を喫する。
遂には自信喪失の事態にまで―――エンド。

・『なほあまりある』

何度となく貴族探偵に煮え湯を飲まされ続けた愛香。
そんな愛香に、貴族探偵へと一矢報いる千載一遇の大チャンスが訪れた。

依頼により、とある島を訪れた貴族探偵と愛香。
今回、貴族探偵ご自慢の使用人たちは皆、出払っている。
そんな中で殺人事件が発生したのだ。

使用人の居ない今ならば……貴族探偵の鼻を明かせる。
愛香は渾身の推理を以て、犯人の正体を暴くことに成功する。
こうして事件は解決したのだが……。

何故か、誰も解決した筈の愛香に感謝を捧げないのだ。
それどころか、今回も貴族探偵が貢献したような態になっている。
おかしいではないか!!

色めき立つ愛香に貴族探偵が真相を明かす。
犯人は愛香の指摘通りで正しい。
だが、この推理を行った愛香の今回の依頼人こそが貴族探偵だったのだ。
今回、愛香は貴族探偵の使用人と同じ役割を意図せず演じていたのである。

鼻を明かした筈が、またも一杯喰わされた愛香。
そんな彼女に、貴族探偵は「うむ、臨時の使用人としてはよくやった」と称賛の声を送るのであった。
愛香は悔しさのあまり、貧血状態になって倒れ込んでしまうのであった―――エンド。

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